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オルタ・エボリューション  作者: 鬼河壱
第2.5章 目指した超克
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ブラフ

肌に触れる

 ー熱がない


瞳を覗く

 ー光がない


首に触れる

 ー脈がない


「葵……」


呟きに言葉が返ってくることもない


弟の腹から下には……何も無い


感覚的には分かっていたことだが……自分の眼で直視すると、そこまで抑えられていたものが噴き出してしまう。


「クソッ! クソ!!!  クソがアァぁぁぁああ!!!!」


手ごろな位置にあったピアノを蹴り砕く。

物に当たる事が無駄で無意味な事だと……頭では分かってる。

だが、この全身を駆け巡りながらも湧き上がって来るものを抑えることができない!!


「止めて」


そんな俺に対して静かで冷淡に響いた声が制止する。

振り向いて声の主……趣那の目を視ると、そこにはまるで限界を訴えようとする子供の様な、あるいは復讐に侵された怨獨が孕まれている様な、独特に潤んだ瞳があった。


「……すまん」


そうだ……そうだよな、

不思議現象で感じ取っただけの俺と違い、趣那は現実で……その目で悲劇を観たんだよな……

人が死ぬ瞬間を、友人たちの最期を……


俺には……趣那を泰地の様に身内ネタで笑いを誘ったり、女子連中の様に慰める事はできない。

今俺に出来る事は、周囲の亡骸に意味なく手を合わせる事だけ……


いいや、

嘆いているだけじゃ現実は変わらない。

外に出て助けを呼ばなければ。


いやいや、だから外に出るにはさっきの穴の位置が有る場所に戻る必要があって……

でも戻ると泰地の邪魔になるだけだし、無駄に負担を増やしてしまうだけだ……


……どうすれば良いのか。

そう悩む俺の後ろに、突如として人の気配を感じた。


「ッ!!」


即座に振り返ろうとする俺の背中に、拳が打ち付けられた。

ただそれだけの事、たったそれだけの事で……

俺の身体は壁にめり込んでいた(・・・・・・・・・)


「こっちの奴は軽いし脆いな。いや、さっきのアイツが異常なのか」


壁に埋まった衝撃で、五感が暴走してアラートが脳を刺激する。

それでも、残った知覚が寄越した情報は信じられない物だった。


「まあ、わざわざ追ってきたかいがある。おかげで楽に人質にできる」


そいつの声には聞き覚えは無い。

だがそのあまりにも現実離れした、特徴的な姿を見間違えるはずが無かった。


「さて、時間ならたっぷりある。抵抗できないように四肢は切り落としておこう」


ローマ数字で刻まれた丸時計を背負う男。

ついさっき、死んだ姿を見たはずの存在がそこに居た。


「何故……? さっき頭が無くなって……」


「それを説明してやる義理は無い」


まずい、奴が趣那の方に歩いていく。

いくら趣那の運が凄いからと言って、それが常識外の存在にどこまで通用するのかは分からない。


趣那が死んだら……泰地(アイツ)の心が…………


「……随分と、強気だな。さっき見た時は血の気を引いて絶望に染まっていたくせに」


「アン?」


「背負っている物はデカいのに、それを支える奴が小さいなんて。どっちが本体か見ただけじゃ分からないもんだな?」


俺の口から自然と、まるで事前に用意していたセリフの様に言葉が連なる。


「貴様、どうやら勘は鋭いようだな」


「?」


勘が鋭い?

何の話だ?

俺はただ、頭の中に自然と出て来たセリフを口で出力しただけだ。

どうしてそんな、隠れ蓑が(・・・・)見破られたような(・・・・・・・・)反応を?


「まあいい。勘が良かろうとその身の状態で何かを成すことなどできはしない」


それはそうだ。っと相手の言葉に納得しながらも、俺の心の中には確信めいた希望があった。


「じゃあ、こんな俺以外には何かを成すことができるかもな」


俺の呟きに、丸時計の男は趣那へと視線を移す。


あぁ……その反応は(・・・・・)ハズレだぜ。

俺の口からそんな忠告が洩れかけた瞬間、


――背にある丸時計を砕きながら、泰地の右腕が男の胸を貫いていた。


俺たちを追って来ていたなら、見逃されている訳ないだろう?

泰地(そいつ)趣那(社長)の護衛なんだから。

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