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オルタ・エボリューション  作者: 鬼河壱
第2.5章 目指した超克
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超常、未だ至らぬ頂

吹き飛んだ壁が空気中に滞留してできた粉塵の壁が霧散する。

そうして視界が良くなると、一人の男が白目を剥いて壁に打ち付けられていた。


「………………」


「………………」


俺も趣那も動かない。

何故ならその男の背後には大きな丸時計が在るのだ。

まず間違いなく趣那の話に出てきた男の一人。


そばに落ちていた鉄筋の露出した鉄筋コンクリートをせめてもの武器として構える。


「ッ!」


だが、素手で人が持つことを想定されていない物は重いのも含めて痛い。


一度持ち方を整えるか……


そんな事を考えて視線を手元に移そうと意識した瞬間、時計を背負う男の目に色が戻る。


「ヤメ」


男が前を向いて自身が飛び出した穴を見た瞬間、白い煙が男に飛び掛かる。


勢いが凄かったのだろう。()()()()()()音が先程までの何よりも身体に響いた。


そしてそれを成した者の姿が煙の中に影として映る。


「「泰地!」」


明確な姿が見えない人物だというのに、俺たちはそれを泰地だと断言した。


シルエットだけで分かったわけではない。

正直煙に映るシルエットは曖昧な形で誰かなんてわからない。

でも直感で泰地だと分かる。それ以外には思い当たらないと思える程に。


「……?、!。?」


俺たちの呼び掛けに泰地は言葉を返してくれない。

でも、何処か困惑……だろうか? 何かしらの情動を感じ取れる。


「隙あり!」


動きを止めた泰地の頭部にモーニングスターの持ち手のない物の様な何かが当たる。しかし、泰地はそれに対して微動だにしていない。


一瞬の出来事に俺の中で警戒、不安、困惑、安堵と感情のジェットコースターが動き終えた瞬間、持ち手のないモーニングスターが爆発した。


知識の中にあるイメージが形となる。

今のは、


「機雷!?」


機雷、本来は水中版の地雷の様な用途として設置されている物。


そう、()()でだ。

ここは地上……いや、位置的には地下だが。

どちらにせよこんな場所にあって良い物じゃない。


「泰地……」


機雷による爆風で煙が霧散する。

そこには隠すべき最低限の物をスポブラとスパッツで隠した、殆ど裸状態の泰地がいた。


「ブフッ!!」


ちょい待ち。刺激が強すぎて鼻血が……


「こんな時に欲情すんなバっ……かぁ!」


目前に泰地の生の太ももがそびえ立つ。


何が起きた?!


「コレにも対処できるのかい? 化け物だねぇ〜」


俺たちの背後、先程まで何もなかった、いなかった場所に鯛の着ぐるみが折れた釣り竿の持ち手のように見える木の棒を持っていた。


もしかして今、俺たちが狙われたのか?

そしてそれを泰地が蹴りで対処した?

眼福です。

いやそうじゃなくて、


「泰t」


泰地の蹴りで上げていた脚が俺の首を挟み込む形で落ちてくる。ただし高速で……


そして勢いのまま上を見上げた俺の眼前で火花が散る。


泰地の拳によって剣が砕け散っていた



「 」


衝撃的な光景に反射的な反応をする前に、今度は布と柔らかい存在に顔を覆われる。


そして持っていた物が消えた瞬間、耳にコンクリートが砕ける音と聞き慣れない音が響く。


「」


視界に光が戻ると泰地の黒いスポブラに血が付いていた。


ごめんちょっと待ってぇ!


てかこれ趣那は大丈夫なのか!

いや、紛争地帯で銃撃戦の間を散歩できるアイツの運ならなんともないか。


「さっ、流石に死ぬかと思った」


ほら。


「あの二人を巻き込むように攻撃しな」


「「「了解」」」


クソ! これじゃ足手纏いだ。


なら……


「趣那さん!」


「へ?」


幸運は結果で示す(ラッキー・チャンサー)!!」


俺は趣那を抱えて敵の司令塔らしき白衣女に向けて突進する。


「足手纏いになるぐらいなら死んで役に立とうとでも? そんな無謀な作戦が成功するわけ」


舐めんなよ女、趣那は才能と評せる幸運だぜ?

捕まって囮になる、ましてや殺されるなんて不運はコイツには起きない!


「な!」


白衣女の身体が地に伏せる。

この上は崩壊した校舎。それの一部が女の上に落ちてきたのさ!


「後でちゃんと説明しろよ泰地!」


俺は趣那を抱えたまま、頭部とⅫを失ったソレを通り過ぎてその場から走り去った。


後ろからは勢いを増した戦闘音が響いていた。






「……さよならって言っといたんだけどな」


とにかく離れることを考え、趣那の幸運を信じて上へ下へと駆け続けた先、そこには足のないピアノ、音楽家の顔画と……元々音楽室であったであろう空間が広がっていた。


趣那の視線の先にある者は原型を残しながらも、目から輝きを失っていた。


「…………」


俺は、何も言葉にする事ができない。

趣那たちのクラスの今日の一限目の授業は音楽。つまり此処には、


「葵……」


下半身の無い弟が居た。

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