/■■/が見た『狼煙』
その日はいつも通りとは言い切れないような朝だった。
まだ朝とは言えない時間帯に何度か大きな地響きで起きたし、家を出る前に見たニュースには「ゲーム依存者の集団暴動」というタイトルで映っている何人かの人が「俺は異能に目覚めた! 選ばれたものだ!」っと言った感じの内容を叫んでいた。
正直当時は「こんだけ揺れても寝ていられる弟には頭が上がらんなぁ〜(zzz)」とか「そんな事を白昼堂々大声で叫べるなら、八百屋の客引きにでもなれよ」としか考えていなかったが……
今になってみると、異能云々を叫んでた人と異能を手に入れていなかった人が同時期に存在していたのは、個々の「固定概念」が変異の影響に差を生み出してたのだと分かるが……当時は当時。
まぁ、そんな事はどうでも良い。
あぁ、いつも通りではなかったことと言えば泰地が見たことがないレベルで上機嫌だったこともだな。
朝登校中に声を掛けて振り向いた時の笑顔と言ったらもう!
あそこまで無垢な笑顔を見たのは小学生の頃が最後だったし、免疫の薄まってた俺の心臓は抵抗なく穿たれたね、うん。
いや、まぁ。俺がアイツの行動すべてにドキドキするのも事実だし、ただその日の朝は寝ぼけてそういうフィルターがかかってたんじゃないかと言われたら何の否定もできないけど……
まぁ、朝からそんな風に違和感と言えるような出来事が有りつつも、まだ俺の中ではいつも通りの日常だった。
けど、悲劇は起きた。
1限目の鐘が鳴ってからおおよそ4分、俺は突然起きた揺れによって座っていた椅子ごと宙に浮いていた。
俺が居た教室は1階で、揺れそのものの影響を大きく受けたのだ。
泰地に釣り合う為に鍛えていたおかげで俺は受け身を取り無傷だったが、同じ教室に居た奴らは少なからず傷を負っていた。
すぐさま窓側の亀裂の入った壁を砕いて逃げ道を作り、俺のクラスは外に避難できた。
ただ当時の俺は、1階でこの被害なら弟たちが居る最上階はどうなっているのか……っと心配になっていた。
そして外からその教室を見た瞬間、その教室に巨石が落ちた。
俺と弟は双子だ。眉唾な話だが双子には互いの状態を察する共感覚と呼ばれる物が有ると言われている。
何が言いたいのかって?
俺は弟が死ぬ事を感じ取った。
腹から下を失う喪失感に、行き先を阻まれた血の反流が襲ってくる感覚。
二つの感覚が弟はもう助からないのだと、確信させた。
そして感覚だけだったとしても、襲ってきた二つの感覚は不快で……絶望だった。
「おぶっ!」
口の奥から自作の朝食が一揆を起こして吐き気として襲い掛かって来る。
「おい/■■/! 大丈夫か!?」
周囲にいた奴らが俺を心配そうに善意で背を摩ってくれたが、俺の吐き気は治らなかった。
そして、事態は俺が落ち着くのを待つもりがなかった。
絶望が押し寄せる
校舎が崩れる
弟が死んだ
……理性が抑え込めなくなった俺の視界には、舞い上がる砂埃は狼煙に見えた。
ルビコンでの仕事を満了(オールS)し、帰投いたしました。




