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オルタ・エボリューション  作者: 鬼河壱
第2.5章 目指した超克
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/■■/から見る『人間』

近づくにつれて泰地(アイツ)の笑い声が聞こえる。


覚悟を決めろ俺。

分かっているだろう? 泰地(アイツ)の前に立ったらどうなるか。


あぁ……クソっ! こんな状況でも、泰地(アイツ)の笑い声を聞いていると昔を思い出す。





泰地(アイツ)と俺が初めて会ったのは小学校の入学式前日だった。

姉貴がお友達を連れて来たとか言って帰って来た時に、そのお友達の後ろから飛び出してきたのが泰地だった。


どうやら姉貴が連れてきたそのお友達というのが泰地の姉だったらしく。

後々聞いてみると、泰地は家の外で姉の帰りを待っていた時、家とは別方向に歩いて行く姉を見つけてその後ろを付けていたらしい。


当時の俺からすれば姉のお友達も、その弟も初対面の見知らぬ人。

小学生ながら双子の弟を守ろうと警戒していたわけだが……


「はじめまして! タイチは(ねぇ)ねの弟のタイチ。ふたりは?」


「お、俺たちは…………」


姉たちが二人で遊ぶために上に行った瞬間、アイツは初対面だというのにグイグイと俺と弟に近づいてきた。

そいつのペースに乗せられながら自己紹介をしているといつの間にか話題が広がり、最終的にはその日が初対面だったはずなのに家全体を使ったかくれんぼするほど仲が良くなった。


今だからこそ、アイツの持っていた異常な初対面にも臆することのない触れ方を俯瞰的に言語化できるのだが、当時のアイツの『人との距離感』はかなり純粋で大雑把だった。


基本的に好感度区分を「知らない人」「名前を聞いたことがある人」「話したことのある人」「遊んだ人」「親戚」の五段だけで構成されていたアイツにとっては一度言葉を交わし、共に遊んだ俺たちは「遊んだ人」であり、一般的な人の「友達」の区分と同じ接し方になっていたのだ。


……聞いた話によると、家のすぐ近くで工事の交通整理をしていた人に話しかけてその人の仕事が終わるまで話し続けたことがあったり、アイツの家を一軒挟んだ先にある消防署によく遊びに行ったりしていたらしい。


まあ、アイツとの出会いはそんな感じで。


次の日から始まった小学校では、クラスが一つしかないので同い年の俺たちはアイツと同じクラスだった。


クラスメイトは男子9人、女子3人という地方の中でも田舎よりの学校だからこその少人数クラス。

出席番号は「お」で始まる弟と俺で1番、2番と始まり。3番目に「亀井」を挟んで次の4番が泰地(アイツ)だった。


学校が始まってすぐは出席番号順で席は横並び。

おかげで俺たちとアイツと「亀井」、そして5番の「小林」は仲の良いグループになった。

さらに、何の偶然か俺たち5人全員が学校終わりに「学童保育」に行っていたので仲の良さは学校1だったと思う。

学校の休み時間や放課後、休日に遊ぶときは基本的にこの5人になっていた。

稀に同じクラスだけど基本的に女子3人に居ることの多い泰地(アイツ)の従姉も参加してきたが、大抵は5人だけだ。


当時はアイツの事を「見た目が女子っぽいけど俺たちより運動神経の良い友達」としか認識していなかった、だがその認識が変わる事件が小5になって直ぐに起こった。




・・・・・・・・・・

・・・・・・・

・・・・

・・




その日は特別なイベントが学校で起こったという訳でもなく普通に「学童保育」の施設に向かって下校していた。


「あぁ……ミトの奴が居るだろうってだけで学童に行きたくなくなる」


「………………」


「分かる……。いい加減うざったらしいんだよなだよなアイツ」


「しかも園長のババアが年下の子優先なせいで、明らかにミトが原因の出来事も俺らのせいにされるのが嫌だ」


「ていうか泰地どうしたん? ミトの名前出てきた瞬間から顔怖いよ?」


小学校から学童保育の施設までは歩いて約40~50分で、その間は5人で遊んだり上記の様に(こんな風)に話していた。

今考えてみると、「トラックや車も普通に通る道」が何か所も在るのは小学生には中々危ない道のりだった気がする。


ガンッ!!!!


まあ、そんな感じでいつも通りに歩いていると、俺は泰地に突き飛ばされた。


「……」


その時、俺は声を出せなかった。

理由は泰地(アイツ)が俺を突き飛ばしたからじゃない。


突き飛ばされた俺たち(・・・)のスレスレをワンボックスカーが走り抜けたからだ。


コンクリート壁の一部に岩が衝突したような音が響く


そして、突き飛ばされた俺たちがギリギリという事は突き飛ばした側の泰地は当然、その車に轢かれてしまっていて。コンクリート壁に沈んでいた。


ワンボックスカーは止まらずにそのまま走っていく。

轢き逃げだった。それも、命が脅かされる「悪意」が込められた悪質な物。

その時の俺たちは恐怖で動けなくて、立ち上がった(・・・・・・)泰地がその後する行動を止められなかった。


立ち上がった泰地に怪我や傷、血は見当たらなかった。

だがその顔は暗く、当人ではない見ただけの俺でも「不愉快」という言葉がそのまま連想される程、不機嫌だった。


ただでさえ、悪質な悪戯で好意の欠片も感じてこなかったミトから「謝罪(薄)×告白」の合わせ技を前日に受けて機嫌が地の底だったというのに、次の日に「悪意」を物理的にぶつけられた。

だからこそ。普段の泰地(アイツ)ならば絶対にしなかったことをしてしまった。


泰地(アイツ)は手ごろな位置に在ったカーブミラーを地面ごと引き抜き、それをワンボックスカーに投擲したのだ。


投げる瞬間に地面の沈む音と空気の破れる音が連続し、かなり遠くから急ブレーキのスキール音と車が壊れる音が聞こえる。


何をしてんだと泰地に聞こうとして口を開こうとしたが、泰地は真っ直ぐと車に向かって走り去ってしまった。


俺は、泰地(アイツ)がカーブミラーに貫かれた車を裂く瞬間を遠目から見て、いつの間にか意識を失っていた。

物語の流れがいきなり変なところから繋げられたと感じた読者様。本当に申し訳ないです。


本来なら主人公本人から過去の情報を引き出せたらよかったのですが、キャラ的にそれが難しく……

だからと言って読んでくださっている方々を「結局主人公のキャラがよく分からん」という状態のままにしてしまうのは良くないと判断して執筆する事にしました。


どうかご理解のほどよろしくお願いいたします。


こちら詫びの小ネタです。

ワンボックスカーの運転手が轢き逃げした動機は、彼女が大家族の母親で最近子供が言う事を聞いてくれず、ストレスが溜まったが子供に当たるわけにもいかないので吐き出せず、視界に入った息子たちとそれほど変わらないであろう子供を見て「自分の子供じゃないのなら」と頭によぎったから。

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