不完な私たち
ようやくこの作品の根幹に触れられます
作者が納得できなかったので描写を少しだけ増やしました!
黒い塊からテラーの妻と似通った、泰地の形を成したその者は衣類のない身体を軽く確認した後、自身の右腕を見る
「この感覚、この痛み、あぁ……俺の腕だ! 99回もの死と、2000年程の時間は掛かったが、ついに、ついに! 取り戻した!」
一瞬、その者自身を指す言葉が女声と男声で重なったが……歓喜し盲没する者とそれを当然と認識する二人が触れる事はない
「あぁ、でも。昔と痛み方が違う。結論を見つけたのかい?」
「……申し訳ありません。右腕は回収できたのですが」
「分かっている。他の部位はあの場に居たヤツらに持っていかれたのだろう? お前に非はないさ」
「ですが! 自分はあの日、あなたに与えられた使命を……」
「それを含めてだ。お前は良くやった。それに、今回挽回できたじゃないか」
そう言い、泰地(?)はその胸に相手の頭を抱く
「ありがとう、戴天」
「ありがたき……御言葉」
泰地(?)に感謝され、戴天と名前を呼ばれた男の瞳から涙が零れる
「ハハっ! 俺が感謝しているのに、感謝と涙で返されるのは変な感じだな」
「申し訳ありません」
「面白いというだけだ、謝る必要は無い」
泰地(?)はそう言うと戴天の頭を放し、もう一度自身の身体を観察するように見る
「と言うか、胸のサイズが少しだけ大きくなってるし……下半身にアレが無いし…………これって完全に女の体になってるよね? 地味に髪も長髪に内側ピンクっぽい赤の入ったツートンカラーに変わってるし……
そうだな、だが当然だろう。髪色は別として……これが本来のお前の姿なんだからな」
一つの口が、二つの声色を使い分けて会話する。
そんな不思議な状況だが、その場にいる存在は何も反応しない。
それが、彼らにとって当たり前だから。
「分からないのなら全て教えてやる」
その瞬間、泰■の中にこの世界の情報が濁流のように流れ込む
『黒い箱の様な出入口の無い部屋』『スキルが発現したと暴れる民衆の映像』『堕ちて来る他称《神》の人型』『心の支えが突き崩れてしまう』『消える世界』『片面が色の無いコイン』『殺される私』『黒塗りされた世界』『白化した世界』『二つの面が異質に黒く、一面が白い正四面体』『■■に殺された私』『巨大な蜘蛛型のナニカによって潰される大国』『■■に殺された私』『■■に殺された私』『■■に殺された私』……『次に託して死んだ私』…………『■■に殺された私』『対峙する巨大ロボットと魔術師の群れ』……………………『■■に殺された私』『一匹の龍に絞め上げられる水の惑星』『動かない世界で対峙する《怒龍》と《墓護》』
処理しきれない情報の濁流が静まる……
「あぁ…………なるほどね……色々と合点がいった。やっぱりここは異世界なんかじゃなくて、私が生きてきた世界……その変わり果てた姿なんだね」
予想はしていた……それらしき物は各所で違和感として在った。
それでも、間違いであってほしかった。
それでも体感型の記録は、実感として襲って来る
「その……お邪魔して申し訳ないのですが。大事な場所が謎の光などで隠れているのだとしても、服を着ていただけませんか?」
◇
戴天は闇の中に腕を沈めると、中から機械的な腕輪をひとつだけ取り出した
「これは?」
「スタイルチェンジャーという、登録した服装に即座に着替えることのできる、神造技術のひとつだそうです」
『だそうです』?
「君が用意したんじゃないの?」
「その……お父様の依頼を聞き受けた際に、墓参りとして自分の縄張りいらしていた趣那様が……ってどういう顔ですかそれ!」
その名前を聞き、私はその人物への信頼できるセンスからの期待と過去の所業からの不信が組み合わさったとても複雑な表情をしてしまった
「あぁ……うん。なんとなく理解した。生き残ってたのか、私と同じで転生したのか、どちらにせよ嫌な予感がする」
「まぁ、その……はい。登録されている服装は女性物だけのようです」
やっぱりか、と泰地は想像していた嫌な予感が当たったことで、気分が沈む
「あのバカは……従姉弟に対して仕入れる物がそれかよ」
とはいえ、今は女物だろうと服を着ることの方が大切だと、泰地は戴天からスタイルチェンジャーを受け取り、右手首に装着する
「っで、どうやって動かすの?」
「腕輪のデザイン線に触れると服装のパネル出てくるので、それを横にスライドして放置していると選択したとして勝手に着替えられるそうです」
「なるほど。取り敢えずまともそうなものを……はぁ~」
泰地は操作を始めると、すぐにため息を吐いた
「レースクイーンにチャイナドレス、なんかのキャラのコスプレ……メイドバニー? 私服として着るにはマイナーやニッチなのばっか……」
「それがあの方の趣味ですので……」
「知ってる。だとしてももっとマシなのは無いの?」
私にとって、従姉が趣味に走った衣類を着ることに抵抗があるわけではない、それには慣れている。けど私生活で着る物は普通で良いの!
そうして勢い良くスライドしていると突然、私の意思とは関係なく表示されている画面が固まった。
「あれ? 急に動かなくなった?」
「? そんなはずは無い筈ですよ。内容の表示は一周できるようになっていたので、端で固まるわけもありませんし……」
反対方向にスライドできるかを試すが、動かない
「まぁ、他に見てた服より癖が強くないからマシかな……」
一旦バグの原因や内容の確認を諦めて取り敢えずこの服を着ることにし、画面を放置する。すると、私を囲むように空間に長方形の立体線が浮かび上がり、一瞬光ると同時に私は服を着ていた。
良かった、アイツの事だから着替える過程を日(曜)朝の三作品から変身シーンを採用しているかもと考えたけど無かった……
本当に良かった……
「戦闘用に折り合わせたみたいな服装だな……太股と腹が目立つけど。
……てか、女体化したことで体格が少なからず変わってるのになんでサイズがピッタリなんだよ!」
全体は基調に黒。所々に補色として紅色と金色が扱われている。
上は身体にぴっちりな薄着と、お腹までの長さの無い軍服柄のタイトな長袖の上着
下は意匠がロックなハーフパンツと、前方が開いた長めのカバースカート、そしてハイソックスとブーツ
「まぁアイツの趣味だし、どういう意図の組み合わせかは深く考えてもしょうがないな」
というか……これ以外を選ばせる気がなかったのか?
「まあいい。それよりも、今後の事について戴天に伝えておこうか」
真剣な表情で戴天に目を合わせる。戴天の目は真っ直ぐとこちらを覗いており、言葉を一言たりとも聞き逃しまいとしているのが伝わって来る。
「必要な工程を終えた後、私は取り戻した記憶のほとんどを捨てる」
「!? 何故ですか!!!」
私の言葉に、戴天は驚く
記憶を消すということは、戴天にとって今回の一連の出来事が無駄になってしまうからだろう
「単純な理由だ。本来、私を構成しているはずの要素が足りない。そんな不完全であり、容量が足らない状態では、私はまともに活動できない」
その言葉を聞き、思い当たることがあるのか戴天は納得して静まる
「だからと言って不完全なままではいけない。私の権能は、システムには【萌芽】と名付けられた、大罪系統スキルが発生する素となっている。『強欲』と『憤怒』は先ほど回収した。今後、俺は残りの【萌芽】を探す」
「了解しました」
それと……。と戴天は言葉を続ける
「『暴食』の【萌芽】ならば、既に自分のペットから預かっております……どうぞ」
「ハハッ! 手が速いな!」
戴天の手から目には見えないナニカが移ろい、『暴食』の【萌芽】が確かに私へと返還された。
嬉しい誤算だ! 残りの『萌芽』は…………
あん? この気配…………
「…………戴天、今から言う物を【開闢】の対象から除け」
私からの脈絡もない命令に、戴天は即座に聞く体勢を取る。
ありがたい
「■■■の奴の力、そしてお前に宿る力の片割れだ」
「……了解しました」
最初に出したものの名前は、戴天が理解すると同時に塗りつぶされるだろう。それでも、それが何かを知っている戴天は瞳の輝きをほんの少しだけ弱める。
私の言った2つの力を【開闢】の対象から外したのだろう。
すると数秒もしないうちに、私たちの目の前に空間の穴が現れ、中から一人の人物が現れた
「自分を殺そうとしてる相手を招くなんて……どういうつもりだい?」
そこから出てきたのは、私と荒地を狩ゲーの世界に転移させた白衣を着た黒髪の女性だった。
勘の良い読者様からすれば、この作品のジャンル部分で世界観はなんとなく予想できたでしょう。
作品内で明言するのに57話もかかりました(^_^;)
服装を考えるの疲れるし面倒、しかも作者のファッションセンスは皆無なんで細かい事は気にしないでほしい。
大罪系統スキルを発現させるのに【萌芽】必要なだけで、【萌芽】を失ったとしても能力そのものは既に芽吹いたものなので所有者に定着します。




