信仰者・信望者
億を超える武具が漂っている宇宙の中に、協力者としてこの場に居る全身を黒い服装で纏った男は、【開闢】が展開されている戦場から10000㎞以上離れた場所で、戦場へと向かおうとしている黄金の鱗を纏う龍人の前に立ちふさがる。
「久しぶりだな、レオス……だったか? いや、それほど交流のない自分にはテラーと呼ばれた方が君的には良いのかな?」
「好きに呼べ……それよりもだ。何故、《最期の護り人》であるお前がここに居る?」
二種の名前で呼ばれた龍人は、目の前に立ちふさがった存在を目にした瞬間に驚愕する。
そして質問に返答しながら何故この場に彼が居るのかを考察する。
しかしすぐにそれは無駄だと判断した龍人は考察を止め、立ちふさがる男に質問を返す。
「何故って言われると……横やりが入らないようにするための抑止力として……かな?」
「なるほど……誰の采配かは知らんが、適任だな」
龍人は苦笑する、確かに適任だ。
かつて、愛妻を奪われた怒りで星を崩壊させていた龍人が目の前にいる男の守護地に襲来した際に、現在【開闢】をしているこの宇宙のほとんど果てまで追放した張本人だ。
彼が守護している以上、例え神と呼称される者たちであろうと、手を出すことを躊躇するだろう。
「それで、我も通さないのか?」
「いいや、君にはもう少しだけ待っていてもらいたい」
「なんだと!」
味方である自分ならば通されると考えていた龍人は冗談のつもりで聞いた問いに対する男の言葉に驚愕する。
「すぐにでも我が戦場に戻れば戦況は俺たちに傾くはずだ!」
龍人の言っていることは理屈で言えば『正論』だ、
しかし世界は『正論』だけでは成り立っていない。
「それではドラマが生まれないだろう? 見てみろ! たった今荒地がオロチを守護して見せたぞ!」
「ッ……!!」
龍人は男が狂悦しながら指差す方向を視ない、
視力を1000000㎞以上離れた場所を視れる程進化させていない事も有るが、それ以上に目の前の存在の異常性に目を離せなかったのだ。
それの名は『狂気』、『正論』たる常軌を超え、逸しるもの。
「あぁ! 失敬、先に自分の欲求である本音を言ってしまった。建前は大事だと、今までの経験で学んでいるはずだったのですが……どうやら自分自身、『再会』という物に心震わせているのかもしれない」
とは言え、その『狂気』は彼の信仰からくる思想に秘める物であり、他者に強要するのはそれこそ信仰に反する。
故に、彼は理由として何も矛盾していない建前を用意している。
「改めて説明させてもらうが、君にここで待機してもらう理由は、君の奥方に被さっている《創造の使徒》が自棄を起こさないようにするためだ」
「……自棄?」
「そうだ、アイツらなら君があの場に戻るまで耐えきることも可能だろう。そうなれば使徒は……いや、神々は作戦失敗と判断して次の為に自滅を命じるぞ。そしてそれは、君の奥方の肉体と魂とが消えることに直結する」
それを聞いた龍人の身体が震える。
当然だ、ソレは龍人にとって決して認められない禁忌である。
龍人が身に纏う龍鱗が軋み、身体が人型から異形へと移ろってい始める。
「それは……ダメだ! それはダメだ!」
あいつとの死別を再び感じるなんてことが在れば……我はこの身を災いに堕としてしまう。
そうだ……殺せ! 殺せ! 殺すのだ!
我らに害ある■■を殺せ!! そうすれば我らは……
龍人の怒りに、彼に宿る《憤怒》が応える
■■を殺す為には何が必要なのか、足りていないのは何か、それらを補う為には何が必要か……
《憤怒》は龍人を望む姿へと進化させる。
「落ち着け」
《最強》の称号を持つ男の拳が、異形になりかけている龍人の腹部にめり込む。
怒りに染められていた龍人の意識が苦悶に上書きされ、拳を喰らわせた張本人の表情を見たことで恐怖へと変じる。
「その系統を進むなら、俺はお前を殺すぞ」
龍人は、戻った意識を再び何処かへ行ってしまうのではないかと思ってしまう。それ程に、目の前に立つ男は強力な殺気を放っていた。
「……すまん、取り乱した」
「なら良い。自分も脅し過ぎた」
龍人は姿を戻し、男は放っていた殺気を霧散させる。
「さて、君に待機してもらう理由は説明した。これはちょっとした詫びだ」
そう言うと、男はフードの中にある闇から青、白、黄色の飴玉の様な球体を三つ程取り出し、龍人に差し出す。
「コレは?」
「自分が飼っているペットの保存食だ。一粒食べてみろ」
龍人は怪しみ、『鑑定』がまともに反応しない事に不安を持ちながらも三つの中から黄色の球体を口に入れる。
瞬間、全身を凄まじい熱量が駆け巡り、彼の黄金の鱗が更なる煌めきを放ちながら変質する。
そして、彼に何処からともなく声が届く。
《規定の条件が達成されました、称号欄に《星喰らう星》を追加しました》
「ホシ? 星!! この飴玉みたいなのが星なのか!!!」
「? よく分かったな。それは星の規模を飴玉サイズまで縮めた物だ。もちろんその星が持っていたエネルギーはそのままだ。エネルギーの補給としてはこれ以上ない代物だろう?」
「いや、だが……」
「こちらは君の願望を妨げて要求を通してもらっているんだ、これぐらいの対価は必要だろう」
「それに」と男は、他者から見て充分に理解不能な《憤怒》を持っていながら、目の前に存在する超常に情報の処理に追いつけていない龍人には聞こえない言葉を繋げる。
「この後すぐにでも必要になってくるだろうからね」
◇
オロチを守って、プラ化させる液体の通る管を受けたオレの身体には何も変化が起きない。
「なるほどな、あの管に入ってるプラ化させる液体は有機物にしか効果が無い」
考えてみれば液体を通している管がプラ化させられていないのだからその時点で気が付いておけばよかったな。
『オロチ、作戦内容を微調整。このオレが奴の攻撃を対処するだから……』
「私は移動するための脚に専念する。でしょ?」
「その通り!」
オロチが再び竜の姿に変身し、オレはその背中に乗りドラゴンライダーとなる。
「ッチ! こうなってしまったら。“私は神に願います”」
祈り? それに神だと?
いや、あり得るのか。
『オロチ!』
『分かってる!』
嫌な予感がする。
オロチも感じたのか、名前を呼んだだけでオレの指示を察して偽者に向かって直進する。
道中の武具はオレが『鑑定』で危険度を考え、無機物なら問題の無いものは『形態変化』で伸ばした腕で対処または回収し、それ以外の効果対象が無差別なものは『魔法』などのスキルか回収した武器をぶつけて進路から外すことで対処する。
「ぐっ!!」
だが、すべてを対処できているわけではなく、対処から漏れた物がオロチの身体を傷つけてしまう。
偽者との距離は縮まるがこのままじゃ……
「あぁ、あぁ! 主よ。何故私を見放すのですか! まだ、まだ私は!」
間に合わない。
そう感じていた気配が霧散する。
『何が起きたんだ?』
『分からない。けど、アイツからの視線が消えた。千載一遇のチャンスよ』
オロチの『念話』に俺も同意する、目の前の存在はリスクを増やしてでも攻撃しなければならないと感じる危険性がある。
オロチが移動する速度を上げる。
オロチの意見に同意したが、いまだに嫌な予感は消えていない。
最大限に警戒して……
「お前か! お前なのか! 我が主からの天啓を妨げているはお前なのかぁぁぁ!!」
『っ!!』
その瞬間、オレは何が起きたのか理解できなかった。
突然の視線、突然の指摘、突然の殺意に……
そして、オレだけじゃなくオロチにも分からなかっただろう。
叫び声が聞こえた瞬間、本当にその瞬間、
オレの身体が槍に串刺しにされていたのだから。
感想・評価お待ちしております。
投稿が遅れたので一つだけ考察材料になるかもしれない設定を漏らしておきます。
・テラーの■■と《最強》男の神々が指している物は同じであり、ルビが無ければ文字も同じです。
つまり?




