守護者
未完成
それは、何によって定義づけられるのか
不完全という物の状態か、または不満と思う者の心象か……
◇
「泳いでの突進? 確かにこれだけ術を封じていれば下手なスキルを使って利用されることを考えれば良いかもしれないわね。けれど、想定が甘くないかしら」
喪服鬼面女の言う事は私だって理解している。
私たちの周囲にはまだテラーと喪服鬼面女による戦闘の際に創造された武具が漂っている。実際、泳いで突進している間にいくつか衝突している。
移動の邪魔になっている上に、物によっては触れるだけで身体に傷や毒を付けてくるものが在るせいで直線で向かっていけない。
安全の為に喪服鬼面女の周りを旋回しながら向かう事になる。
「それに、こうすればこんな対策なんて意味が無いんだよ」
喪服鬼面女は手を合掌し、その指先を私に向ける
「“捌創”!」
声と共に、彼女の両手の指の間から私に向かって計八つの線状の何かが伸びて来る
そう来たか!
喪服鬼面女がしたことは単純。
両手を合わせて隙間の無い空間を作る。その中で物質の創造を行い、自分自身は創造による押し退けに抵抗しない。ただそれだけの事。
私の【開闢】では隙間の無い空間には干渉できない。
喪服鬼面女はそれを瞬時に理解したのだろう。
私の大きい体では避ける事ができないので片翼を身体を隠すマントとして犠牲にする為切り離し、その中で人間の身体に変化して伸びて来た何かの射線上を避ける。
貫かれた翼を見ると貫かれている箇所から透明な物質に変化してしまっている。
『気を付けろ、あの管に触れると肉体に癒着して中に入ってる液体で肉体がプラ化されちまうみたいだ。触れちまった場合は直ぐに触れた所を切り落とせよ』
『鑑定』を使える荒地が「何か」だった管の危険性を確認してくれた。
荒地とは別行動中だが、私の中にある泰地の魂を通して私の感覚を一部だけ共有している。
『透明な物質になる条件が貫くことだったら足場にできて楽できたのに』
『確かにな。まぁ、籠手とか身に着けるタイプの物にはそこまで危険な効果が無いみたいだからそれを足場にしてさっさと近づくぞ、じゃないと……ほらまた来た!!』
「“捌創”」
荒地のセリフとタイミングを合わせるように先程と同種の管が高速で伸びて来る
まだ喪服鬼面女と距離がある事によって人間体の小柄な身体でなら何とか避ける事ができたが、これ以上残留する一触即死の管を射出されると避けることも、近づくことも難しくなるだろう。
ならば!
「? 武具伝いに近づいて来た。おバカさんなのかしら? そんな体勢じゃ移動するだけでも大変でしょうに」
全部聞こえてるよ! 蝙蝠の遺伝子なめないでよね!
まぁ、それはともかくとして私がとった行動は単純。
『再生』させた片翼を含む両翼を刀剣として腰に構えて走る。
これだけ。
ふざけている様に見える?
けど、あの伸びて来る管の対策としてはこれが一番手っ取り早い。
「“捌創”」
また管が私へと伸びて来る
すかさず私は管全体の中心に対して正面を向き、腰に構えた二振りの翼剣を抜刀の勢いで無数の管を弾いて逸らす。
触れてしまった翼剣は透明な物質に変化するので、変化が握りに届く前に手から放して捨てる、そのまま『再生』させた両翼を新たな翼剣として『変質』させ再び腰に構える。
これなら管を創造する溜めよりも早く対処の体勢を取ることができる。
移動も、基本的には脚だけど私は髪を扱える。
だけど、相手は創造による多彩な攻撃手段を持つ存在。私が対処しなくちゃならないのは管だけじゃない。
「“殻素”」
喪服鬼面女が新たに、今度は時間を掛けて私の周りに覆うように球体が構成されていく。
『炭酸カルシウム……卵の殻だな。気を付けろよ、その殻も管によるプラ化の対象だ。囲まれた状態で殻全体がプラ化しちまうと出る事の出来ない牢獄になる。そうなると範囲から移動できなくなって攻撃の的になる! 管を撃たれる前に殻を割ってでも脱出しろよ!』
……!!
「“捌創”」
荒地の警告を理解するのと、喪服鬼面女の技名が聞こえたのは同時だった。
「ぐっ!」
殻を貫いて来た最初の六本の管は対処できたが、視界を卵の殻で遮られている状態では管がどのように伸びてきているのかがわからず、残りの二本に右腕と左足を貫かれた。
『斬れ!!』
私は即座に左足を切り落とす。
体勢的に左腕では、透明な物質への変化が胴体に届く前に右腕を斬り落とす事ができない。
苦肉の策で右腕はブレスで炭化させ、透明な物質に変化するのを止めた。
この殻の中に居たら攻撃の的になる。
そう考えた私は炭化した右腕を砕いて切り離し、移動に必要な左足を先に『再生』させながら、まだ残っている殻の部分を破って外に出た。
「“捌創”」
外に出た瞬間、
まるで私が何処から、何時出るのかを知っていたかのように、正確に真っ直ぐ私の頭部へと管が伸びて来た。
管はもう眼前に迫っている。
左足はまだ『再生』が終わっていない。
片足では泳いで逃げられない。
右腕はまだ『再生』を始められてすらいない。
髪を伸ばす時間は無い。
片手では勢いに押し負ける。
「死n……」
私は死への恐怖で目を閉じてしまった。
破裂の音が耳に届く
その瞬間に、私は目を閉じてしまったことを後悔した。
『大丈夫か!?』
私を守ってくれる、守護者が到着する瞬間を見逃してしまったのだから。
エナドリの魔力で書いたので、その内書き直すかも。




