肉片と違和感
「よし、このくらいあれば個々の住人共の食事も数日は持つだろう」
俺はいま白い羽の付いた白熊の元に来ている。彼はユウコさんに紹介してもらった料理人だ。
彼の前には大量の肉片が入った巨大な袋3つ置かれている。
「しかしまあこんだけあると持ってくるのはその巨体でも大変だったろ」
そう、この肉片の入った袋は俺が運んできたものだ。
なぜ肉片を運んできたのか、その話は数時間前に遡る。
数時間前……
「よーし、鳥を狩れなかった点は残念だが起点を利かせて猪を狩って来たのはナイスだ!」
その日もまた俺はリンさんに修行を付けてもらっていた。
「じゃあ次は…「リンさん!」
リンさんが次の獲物を指定しようとしたとき、後ろからユウコさんが怖い顔をしながらリンさんを睨み近づいてくる。
「ユウコ、ちょっと待ってくれ話を聞いてくれ」
「いりません、すでにどんな言い訳を言おうとしたのか聞こえましたから」
ユウコさんには他人の心の声が聞こえるのでリンさんが何かを言う前に詰め寄る。
(リンさんどんな言い訳しようとしたんだろ)
「葵ちゃんは気にしないでいいわよ」
(あっ、はい)
ていうか怖い顔のままこっちを向かないでください(涙)
(なんか寒気が)
「大丈夫よ、葵ちゃんには何もしないから」
ユウコさんはそのまま「うふふ」と笑いながら、「リンさん、覚悟はいいですね」と宣告する。
リンさん何やらかしたんだ……
「できてるわけねーだろ」
リンさんは立ち上がって逃げ始めた。
その際巨体の体重と走りの勢いで一歩一歩が地面を抉っている。
「リンさん………………本当に怒りますよ」
ユウコさんの小さく冷たい声でそう呟いたユウコさんが動いた次の瞬間、目の前にリンさんが倒れていた。
(え?)
俺には何が起きたのかわからなかった。
「ふー、ちょっと疲れちゃった」
ユウコさんは笑顔でリンさんのあたまの上に座っている。
(ユウコさん…何をしたんですか?)
ユウコさんは笑いながら、「ちょっとお仕置きしただけよ」っと答えてきた
(いやっ、そうじゃなくて……)
「ん?」
(……なんでもないです)
ユウコさんから静かな圧力を感じた。
「そうだ! 葵ちゃん運動がてらいまので殺しちゃった動物たちの死体を料理人って呼ばれている子の所に渡しに行ってきてくれない?」
(え?)
「でも数が多すぎるだろうからこの袋の中に入れて行きなさい」
そういってユウコさんはポケットから3つの袋を取り出して俺に渡す、先程リンさんが抉った道を指差して、
「大体50匹分はあるから頑張ってね」
(・・・はい…)
俺はユウコさんは怒らせてはいけないと悟った。
……ていうかリンさんは何をしたの?
◇
これが数時間前のできごと、肉片を回収するのに時間がすごいかかった。
「大丈夫か? 顔が疲れてるぞ」
まじか、顔に出るぐらい疲れてんのか俺……
「さっきの衝撃はここにいても感じたから大体なにがあったかはわかってる、お疲れ様」
正直あまり思い出したくない光景だったからこれ以上触れないでくれるのはありがたい。
「とりあえず匂いがやばいからさっさと処理しちまうか、アネモネのやつを連れてきてくれ」
?
「もしかしてお前、忘れてんのか」
首を縦に振って肯定する。
「黒いスライムだよ、お前さんが今寝床にしている場所で寝ているはずだろ」
(あのテカテカの黒饅頭か!)
思い出して直ぐにアネモネがいる寝床に戻り、テカテカの黒饅頭、じゃなくてアネモネを持ち上げて料理人さんの場所に戻った。
「おお! ありがとよ。使えない肉はいつもコイツに食わせてるから食わせないと後が手に負えなくてな、あはははは……」
その時、俺は何故か、本当に何の脈絡もなく違和感を感じた、
(そういえば自分の見た目が変わったのに何で俺は何とも思わないんだろう? それにこの料理人さん、前に見た事があるような……)
そこまで考えたところで俺は考えるのを止めた。
そうして俺は料理人さんに賄いの肉を貰い、寝床に帰った。
さっき感じた違和感、なんだか無視してはいけない気がする。