神と呼称される者たち
「それで、今回の作戦は成功なのかい?」
暗く空席の多い会議室の中、黄金の鱗を纏う龍人と喪服を着た女の戦いを巨大スクリーンに投影して観賞する者たちの中から、海を彷彿とさせる青色の鯉の着ぐるみを着ている男が優しい声でこの状況を作った白衣を着る女性に今回の作戦の成否を問いた。
「七割ほどは成功、残り三割は調整途中に《傲蝕騎士》が邪魔しに来たからあの場所で続けるのは諦めた分」
「それはお前が服を選ぶのに時間を割いたからではないか?」
白衣女性に対し若さを感じる声でそう呟くのは貴族風の礼装を着た赤髪の男である。
「いや、鬼面を被せた時点で《傲蝕騎士》はあの世界に来ていた様だったし、あの行動は時間稼ぎとして正解と言えるでしょ」
赤髪の言葉に雷神を彷彿する服装のしめ縄を背負う紫髪少女が強気な声で反論する。
「まあまあ、二人とも一旦落ち着こうよ、それに今はテラーと偽物ちゃんの戦いを観るんでしょ!」
睨み合う二人を片目以外をミイラの様に包帯で覆う白髪の少女が落ち着かせ、会議室内の視線が映像へと移る。
画面に映されている二人は宇宙空間を光速で移動しながら龍人が喪服女性に距離を詰め続けている。
「そういやワイ等の偽体を偽物ちゃんを起点に送らんでええんか?」
「偽物にソレについて教えて無いから敵と認識されて一瞬で壊されるだけよ」
「ロールプレイ楽しかったのになぁ~」
「あの中でロールプレイを維持するのは流石にツライですよ……」
画面上の二人は常に光速で移動しており、それに加えて白衣女性が貸している力によって創造された武具が嵐の様に舞っているのだ。
本体であるならいざ知らず、偽体では性能が足りないと言う白髪少女の発言に白衣女性が肯定した。
「……あの偽物はお前の力を貸りているのだろ? それにしては弱すぎないか?」
「それはあの子が私の力よりも《強欲》から貰える情報に縋って既存の物を創造することしかしないからよ。正直今回の一番の失敗は未知を知ることに固執させた事ね」
そう言いながら白衣女性は手元にタブレットを創り出し、『失敗メモ』と書かれたページに書き込み始めた。
彼女がそれを書き始めると止まらない事を知っている彼らは視線を映像に戻し、争う二人の攻防を再び見守り始める。
「あのー」
しばらくすると白髪の少女が気恥ずかしそうに口を開いた
「私、偽物ちゃんの《強欲》とテラーの《憤怒》が一体どういう権能なのか知らないんだけど教えてもらえないでしょうか……」
「そういえば君に大罪系統の事について教えてなかったね」
「それじゃあ私が教えてあげる!」
そう言うと紫髪少女は後ろにあったフリップボードに喪服女性と龍人のデフォルメイラストを描き、説明の準備を整える。
「まず《強欲》について、これは私たちの発言とかでなんとなく予想できてるだろうけど森羅万象全ての情報を手に入れる権能よ」
白髪少女は紫髪少女の説明を聞き逃すまいと自身の包帯の一部を手元に伸ばしてメモ帳の代わりに説明の内容を書いていく、そして過去にメモした内容を思い出し紫髪少女に問いかける。
「あれ? ……でもこれじゃあ《世界》の下位互換じゃないですか?」
「ふふふっ、そう言うと思った。でもね《世界》と《強欲》は成り立ちが違うから情報の内容も異なるの。情報量で言えば《世界》の方が下位互換になるしね」
そう言いながら紫髪少女はボードの喪服女性のイラスト近くに『最多の情報量!』と書く
白髪少女は紫髪少女が最後に補足した内容に驚き手元の包帯を落としてしまう。
その様子に見かねた赤髪男性が「情報戦では《世界》に分がある」と補足したが白髪少女の驚きは打ち消せなかった。
「だとしても《世界》以上の情報量なんて……」
「《強欲》でそんなに驚いているようじゃあ《憤怒》の権能を聞いたら失神するんじゃない?」
「え!?」
紫髪少女の発言に手放した包帯を拾おうとした白髪少女の手が止まる
「なにせ情報を手に入れるだけの《強欲》と違い、奴の《憤怒》は我らに届きうる権能なのだからな」




