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オルタ・エボリューション  作者: 鬼河壱
第2章 吐露した万象
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恐龍の姿

荒地たちを呑み込み、《呑壕森羅(ウゴウシンラ)》の中に避難させたテラーは砕けた自身の別れ身から感覚を離し、本来の身体に自分という存在を戻す。


そして龍は目を開き、空間に空いた穴から現れてかけている女を見た。


喪服の様な雰囲気を(かも)し出すドレスを纏い、死神を連想させる大鎌を持ち、黒いベールと近未来(サイバー)感のある鬼面を被っている女。

本来ならその違和感の残る組み合わせだが黒一色(色合い)によって全体の違和感を誤魔化されている


『……問おう、貴様は何者だ。何の為にその身体を使っている』


女が穴からこっちに足を踏み入れる前にテラーは問いを投げる


彼には分かるのだ、目の前にいる存在が自分の最愛の者の身体を使っているのだと。

たとえ最後に見た時と纏う雰囲気が変わっていたとしても、自身が愛した相手の身体を見間違えるわけが無いのだから。


だが……だからこそ分からない、その身体は泰地に契約で貸し出している物だ

なら、目の前にいるコイツは誰なのか……


()の名前は武野泰地」


完全に穴から抜け出した女は地に足を付けてから丁寧なお辞儀をし、そのまま名前を告げると姿勢を正して宣言する。


「神命を受けた神の眷属です」


女はそう宣言すると同時に赤髪が伸ばし、テラーの頭部に巻き付け収縮する勢いを利用してテラーの牙へと大鎌を大きく振るう。


それをテラーの牙は(はじ)いた


『ほう、神の眷属とやらの攻撃はその程度なのか?』

「まさか、ここから加算していきますよ」


そういうと泰地の名前を騙る女は牙に乗り、再び大鎌を振り下ろす、


牙は再び大鎌を弾く、


その勢いを殺さないよう巧みに大鎌を牙へと振り落とす、


牙は変わらず大鎌を弾く



こうして女は何度も何度も大鎌を振るう。

それと同時に大鎌が振り落とされる速度を加速させていく。


テラーは何もしない

いくら斬撃を繰り返そうとも、どれだけ勢いを加速させようとも、そんな単純な方法(・・・・・)でこの身を傷つける事ができないと理解している



時間が経つにつれて『衝撃緩和』によって軽くなっていた衝撃は徐々に大きくなり徐々にその牙を震わせ始め戦況は女に傾き始めたようにも見えた。


(かゆ)いな』


だがあくまで傾き始めただけだ、この程度ではテラーにとって何の脅威にもならない。

むしろ痒く感じ、顔を振るった事により女が体勢を崩すとこれまで溜めた勢いが消えてしまう。

女は考える「こんな方法ではテラーには届かない」


「……どうやら今の私は貴方に有効打を持っていないようですね」

『ようやく理解したか』


手を止めた女は大鎌を捨て、祈るような体勢になる


「いいえ、“私は神に助けを願います”」


決定打が無いと分かった、ならばと女は自身の魂の中に刻まれている記憶から己の神へと呼びかける。


「…………ありがとうございます」

『貴様……』


少しの間を開け感謝の言葉を口にする女に変化は表面上には現れていない。

だがテラーにはそれが起動するのを感じ取った、自身に宿る大罪(スキル)と系譜で繋がる力を、


「主神から権能の使用許可が下りました、お覚悟を」


その言葉と共に再び攻めの勢いを心に宿した女は手刀をテラーの牙に落とす


牙は弾かれず切断され、大地に墜ちる


「アハッ! 本当に斬れた! 教えてくれてありがとう《強欲》」


女は牙を斬り落とした事よりもその方法を教えたスキルに対して恋する女子(おなご)のような甘ったるい声を漏らす。




『……一度ならず二度までも、我が妻を害すか』


牙を切断されたテラーは自分の身体よりも最愛の者の身体にその力が侵入させた事に怒り、金色の瞳で女を睨む


これがあの(・・)泰地ならば良い、自分と自分以外の区切りを持っているアイツならその身体でその力を持っていても許せた。


だが、コイツ(・・・)はダメだ、

神の眷属を名乗る存在が愛する妻の身体を使っていることも、それに加えて自身の力量を曖昧にしか理解していないような者がその大罪(スキル)を持ってその身体に入っている事も、

許せない理由は幾らでも思い付く。


だからこそ……。




大地が揺れる


『ならば……ならば覚悟はできているのだろう』


テラーは怒りで不順理になりそうな言葉を整えながら紡ぐ。

その(あいだ)にも大地は自身を崩し、亀裂を入れ、裂ける


『文句はあるまい、選択したのは貴様だ』

「っ!!」


女はこれから起こるであろう大地の変動を予感し、巻き込まれない為に頭部の拘束を放し、空へ、(ソラ)へと大気圏を超えて避難する


大地であったものは隆起し、蠢き、収縮し、龍の頭部が存在した一点に集まる



小さな星(巨大な大地)となっていた巨龍は人と同様のサイズへと縮まり、地として踏まれていた黄金に輝く龍鱗を全身に纏った龍人は


「ゴォアアアアアアアア!!!!」


その身の丈に似合わぬ強大な咆哮を上げ、

それを合図に罪に縋る使徒と全身(・・)全霊の恐龍の無重力下での戦いが始まった

内容の一部変更、及び修正を行いました

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