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オルタ・エボリューション  作者: 鬼河壱
第2章 吐露した万象
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神盤智 ~終世界の駆け引き~

蠢く纏肉(マニク)は消滅し、創られた時間も既に役目を終え止まった。

そんな明らかに異常な世界で動くのは元凶である白衣を着た黒髪の女性だけである。


「フフフ、アハハハハハ!! 契約のせいで面倒な手間が掛かったけど、私は遂にここまで来た!」

「………………」


鬼面を着けられた泰地は直立の状態のまま動かない。

そんな泰地の肌を指で撫でながら白衣を着た女はあることを思い付き、悪い顔を浮かべて泰地の腰に回していた腕を離し、泰地の着ているボロボロになった装備を脱がしていく。


「……この後の事を考えれば喪服が良いかしら?」


彼女がそう言うと周囲に様々なタイプの喪服が並べられる。


「せっかくならドレスタイプにしましょうか。貴方もその方が良いと思うでしょ?」


女性は取り出した喪服を泰地に着せ、

脱がしたボロボロの装備を、パワードスーツのような黒色の鎧を纏う騎士(・・)へと投げ渡す。


「どういうつもりだ?」


一切露出の無い、全身を龍の鱗で構成されている様な禍々しさ……あるいは装飾品としての鎧を黒一色に染め上げたようにも見える黒騎士は投げられた装備を自身が通って来た黒い穴に捨てながら女性に問い返す。


「今は私が質問してたんだけど……まあ良いか。その質問が『何故気が付いていたことを隠して攻撃しなかったのか』という意味なら答えは簡単、既に貴方が何をしようとも私の目的は貴方には止められないから。

そして『男性である自分に何故そんな質問をするのか』という意味なら純粋に貴方が好意を持っている相手を私が着飾った評価が欲しいからよ」


女性がそう言い終わると騎士は黒色の剣を女性の首へと振るい、首に当たる前で静止する


「俺の質問の意味は前者で合っている……だがどうも納得できないな、貴様らの力は理解している。だが、この世界に入る為に力を使った後とはいえ、俺がここまで近づいて思い通りに動けると思っているのか?」


「動くわ…………こんな風にね!!」


女性が声を上げると両者の間に壁が現れ両者を物理的に阻む、

しかし、騎士が一太刀で壁を穿ち、両者の距離は再び縮む


「流石にただの物質で貴方を邪魔できるとは思って無いから……」


女性が手を泰地の鬼面に近づける……


「させるか!」


が、触れる前に振られた黒騎士の剣から黒いオーラが放たれ、女性の腕を斬り、その軌道上を黒い壁が塞いだ。


「俺がそれを許すと思ったのか?」


「ははは……実はマジで行けたと思ったんだけどね」


「……どうやらお前はそこまで強い力で設定(・・)されていない様だな」


「貴方からすれば確かにそこまで強くないでしょうね、だけどこれだけの力でも私は与えられた目的の為に貴方を退ける!!」


女性が宣言すると黒騎士の周囲に『不壊』のスキルを与えられた壁の迷路が創り出された


「ふざけてるのか?」


しかし、黒騎士が振るう左腕によって、創り出された迷路は消滅してしまう


そのまま黒騎士は振るった腕を、振った勢いに乗せたまま女性に掴みかかる。


「ちょっとこれ以上は……」


女性は後ろに空間の穴を創り出し、そのまま逃げ込むように飛び込んだ


「逃がすか!」


黒騎士は徐々に小さくなっていく穴に腕を入り込ませて、女性を掴み、引きずり出した

だが、女性もそうなることは予想できていた。

引き戻された瞬間、女性は穴の中で創り出していた幾何学模様の刻まれた銃で騎士に発砲する。


銃弾は騎士の鎧に当たると同時に爆発し、その爆発で女性は黒騎士に掴まれていた脚を引き千切ることで、黒騎士との距離を離し、脚を治しはじめる。


「治す暇は与えない」

「っく!」


しかし、距離を稼がれた黒騎士は詰めるのを止め、剣に纏わせたオーラを飛ばして女性の身体を上下に断ち斬る。


このままでは治す時間が無いと女性は考えた。

機能を停止させていた世界を再起動させて権能を利用して黒騎士との物理的距離を大幅に創造し、黒騎士との距離が開けている内に身体を治し始める。


「分かってたけど……勝てそうに無いね」

「ならこのまま消えろ」


失った身体を治すことはできた

が、瞬時に創り出した距離ではそれ以上の時間を稼げず、黒騎士に近づかれまたもその剣が振るわれる。



しかし……


キィィン!!


その剣は新たにできた空間の穴から現れた小盾によって防がれた


「勝てそうに無い……だから勝てそうな状況を創り出す」

「仲間か……」


「正解でぇす!!!」


空間の穴から現れた青髪で左に盾、右に槍を持つ女性はハルバードの様な槍を振るい地面を(えぐ)りながら騎士へと飛ばし、その視界を遮る。


その後ろで黒髪女性が新たに赤髪、白髪、紫髪の女性を空間の穴から呼び出していた


「敵対者確認:任務を開始する」

「………………」

「げっ……よりにもよって《傲蝕(ごうしょく)騎士》かいな、こりゃ外れクジを引いてしもたなぁ」


任務開始と宣言しながら赤髪の女性は身体を鎧で覆い両腕に豪装なガントレットを装着して騎士の頭を狙って拳を振るう。


身軽な銃士の服装を着て二丁の拳銃を腰のホルダーに収めている白髪の女性は現れると同時に無言で下がり両腕で構えるスナイパーライフルで騎士を狙う。


そして紫を基調とした着物を着ている紫髪の女性は愚痴を漏らしながらも両腕の操糸機器で騎士の身体を締め付け二人を補助する。


「この糸が邪魔だな」

「警告:無視するな」


白髪女性が銃弾を放つ、それと同時に赤髪女性の拳が騎士に迫る


「無視した訳じゃ無い、既に対処法を決めただけだ」


赤髪女性の拳が黒騎士に当たる寸前、黒騎士の鎧から黒い水の様なものが噴き出し赤髪女性を呑み込む


「まずい!!」

「心配すれば仲間の危機が変動するとでも思ってるのか?」

「ぐっ!!」


赤髪女性が呑み込まれていく様子に、叫び手を伸ばした黒髪女性


しかし、黒騎士はそんなことをしている暇は無いと暗に告げながら、身体に巻き付く糸を引き千切り、弾丸を白髪女性へと弾き返す。


「仲間を呼んだところでお前たちじゃ俺の障害にはならんぞ」

「それはっ……どうでしょう!」


バンッ!! バンッ!!


二度の銃声が鳴ると黒い水の様なものを撃ち抜き、その穴から黒い水の様な何かに呑まれていた赤髪女性が脱出した。


赤髪女性が脱出すると同時に、

黒髪女性は空に雲を創り出し、その雲から槍が降り出す。


そして、白髪女性が放った拳銃の弾丸が槍の雨の隙間を搔い潜り黒騎士に向かう。


青髪女性はそれらを見ながら槍の雨の中で盾を傘替わりして黒騎士へ槍で突進する。


武装を壊された紫髪女性は後ろに下がり白髪女性の肉盾として待機する。



「行けええええええ!!!!」


黒髪女性は攻撃が黒騎士に通用する事を願って叫ぶ、

彼女たちは己の力を十全に使い勝利の為に詰めたのだ。




「いい加減捨て駒(お前ら)の相手をするのは終わりだ」


だが、彼女たちがどれだけ死力を尽くそうと絶対的な力の差は埋められない。


現実として、

黒騎士は「彼女たちの猛攻のすべての対処」と「黒い壁で隔てた向こう側への影響」の計算終えた一撃を放っただけで、

彼女たちの攻撃を跳ね除け、彼女たち自身を地に全身を支えてもらう必要があるほどに追い詰めた。


そして、黒騎士は地に膝をつく黒髪女性に近づく


「これで終わりだ」


黒騎士は黒髪女性の心臓部を腕で突き刺す、

その腕からは黒い液体が湧き出し、黒髪女性の身体を黒く染め上げた

同時に先程まで戦闘で動き回っていた他色の女性たちの身体が崩れ始める


「お前らがコイツを起点にして顕現して、その偽体(からだ)で動いてたことは分かってたからなこいつを見失えば(・・・・)お前らはこの場所に居られないのだろう?」


「あーあ、バレてたんかいな」

「今回何もできなかった……」

「通告:また会いましょう」

「…………」


黒騎士の言葉にそれぞれ悔しそうな顔をしながら四()の身体が崩れて消えていく






「はぁ……手間を掛け過ぎた……なっ!」


剣に付いた血を拭き取り、黒い壁を消失させながら泰地の元へと歩く黒騎士。


その消滅させた黒い壁の先……本来泰地が居た場所には白衣を椅子に掛け、優雅にお茶を楽しむ黒髪女性(・・・・)しかいなかった。


「………………なるほど、そういうことか」


黒騎士は理解したくない感情を押し殺して言葉を紡ぐ


「最初に俺がお前()を斬った時からお前たちの作戦は成功していた。そしてさっきの攻撃はそれを気取らせない為の時間稼ぎだったというわけだな」


「そう言う事、楽しかったかい?」


黒髪女性のその言葉には裏は無い、


そう、裏は無い。


この言葉は彼女が愉悦を感じ、人間的な思考(・・・・・・)騎士()に対して共感を得ようとしただけなのだから。


「さぁな? だが一言だけ言うなら……今の俺はどうしようもなく不機嫌(・・・)だっ!!!」


「アハハハハハッ!! 残念だけど貴方にあの子を追いかけてもらうわけにはいかないんでね」


黒騎士の憤りに対して、黒髪女性が叫ぶと、彼女の全身が緋色に光りだした。


「貴様ぁ!!」


黒騎士は即座に黒髪女性が実行する黒騎士(自分)への対応を理解し、止めようとするが……



「気づくのが遅かったわね」


女は笑う、笑いながら起爆する


「“原初の誕生(ビックバン)”!!」


瞬間、

彼女の身体から光が勢いよく飛び出し……


黒騎士が「面倒な……」と愚痴をこぼしたと同時に、



世界は光に呑み込まれた。

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