探検と急襲
「とりあえずプレゼントは受け取ったが……この後どうする?」
「そうだな……小娘」
「えーと……私?」
「貴様以外に誰がいる」
「そうなんですけど」
オロチが俺を見てきたが俺が今使っている身体はテラーの奥さんだ、少なくとも娘という目で見てない事ぐらい分かるだろうに。
『あと荒地。自分の身体を手に入れたからって後ろで騒ぐな!』
『すまん……』
「小娘、貴様と少し話をしたい」
『その話は俺達は聞かない方が良いか?』
「そうだな……そうしてもらおう。予想では話がまとまるのに二日ほどかかるだろうから我らが話している間はこのあたりを冒険でもして楽しんでくれ」
そんなにかかるのかよ……それならテラーとオロチの話し合いが終わるまでの間はこの身体の使い心地を試しておくか、荒地にでもサンドバックになってもらえば良いし。
『なんか嫌な予感が……』
「そんな事ないぞ、ただ身体の稽古を手伝ってもらおうと思っただけだ」
『ちなみに拒否権は……』
「無い!」
俺は荒地の手首を握り、身体を引っ張りながら遠くを目指して歩く
◇
おっし!このぐらい離れたら良いだろ。
そういや此処ってどこなんだろ。日本にしては気温が低いし、ここまで移動している間は渓谷みたいな土地しかなかったし。
木が生えてないどころか草や苔、動物も見当たらない。
まるで最初から動植物が存在しないような……
まっ、いま考えても分からない事だな。
「とりあえず服に傷が付かない様に動いてみるか」
『俺は何をすれば……』
「荒地は久しぶりの人型だろう、とりあえず走る所から始めとけ」
『そのくらいはどうってことn……』
意気揚々と走り出した荒地は片足を滑らせ全身で逆T字を表現する。
「ほらな」
『クソぉ……お前なら絶対こんな事ならんのになんで同じ魂なのに俺はこんな事になるんだよ』
「忘れてんのか? 俺は昔っから『やらかす』タイプだったから自分のスペックを上げて無理やり『やらかし』を見えない様にして普通を演じてただろ」
『…………そういえば……そうだったな』
「分ったならこんな辛気臭い話は終わり。お前がまともに運動できるようになるまで一人で新しく手に入れたスキルを試してるぞ」
『おう!』
さて……まずはオロチを『寄生』して手に入れた『増殖』と『変質』を試すか。両方とも鉱物の身体じゃ効果が無かったスキルだし。
オロチはこの二つのスキルを同時に使って髪をあの大蛇に変えていたらしいからな、この身体ならどうなるのかめっちゃ気になる。
「というわけで『増殖』&『変質』!」
ニュルルルル
「何故に鰻……。美味いのかな? ってよく見たら太刀魚とか他の魚類も混ざってる……これは色々な攻撃手段に使えるな。そして何故に蛇もいるし」
*
その後色々と検証した結果
『増殖』は俺自身の魂の「模倣」みたいな感じでスキルを『増殖』させていることが分かった。
オロチはこのスキルで大蛇達のスキルを補っていたのだろう。
そして『変質』はその魂の形を変えて別の物にするみたいだ。
ただなんにでも『変質』できるわけではないようで、恐らく魂の断片の様な「型」が必要みたいだ。
ちなみにだが髪をウナギや太刀魚などの魚類に『変質』できたのは、テラー妻の水竜の要素が魚類を元に造られたからだと思う。
そう言えば、
「お前らって俺の髪から離れたら死なないのか?」
『――否定――独立可能――』
おぉ! これが『異志理解』効果か。
試しに話しかけて正解だったな、思わぬところで検証ができた。
意思を単語で表現してるのはこのウナギ等の知能が低いからか?
まぁそこら辺の事は同じスキルの先方であるオロチに後で教えてもらおう。
「次は……『水竜』だな」
これはテラー妻に『寄生』したことで手に入れたスキルだ、
ただ一個だけツッコませろ。
竜って(呆れ)、まぁオロチは説明で竜を……というか存在しない生物を創るって目的の実験で産まれた失敗作だったらしいし、この身体がその実験の完成品って可能性ならまだこの身体の種族については納得ができるんだ、だがスキル名がその種族名であることについては全く納得ができん!
「そんなことを気にしていても俺にスキルの命名基準が分かるわけじゃないしな、気にせず試してみるか」
水竜ならリヴァイアサンとかのイメージがあるけど……
リヴァイアサンって言葉も本来は海の怪物って意味だから『水竜』のイメージから少し離れちまうんだよな。
思い付いても水中呼吸か?
「はぁ……しょうがない諦めよう、これ以上考えても無駄な気がするし」
こういう時は保留という手段を取るに限る。
「てかそろそろ荒地もあの身体に慣れてきた頃d……」
荒地の様子を見た俺は思わず絶句してしまった。
先程まで走る事にすらまともにできなかった荒地が百足阿羅地を使った大道芸をやっていたのだ。
「荒地、何やってるんだ?」
『なにって……大道芸?』
「何故に……」
『だって暇だったし』
暇だからって大道芸をする発想が出てきたことに驚きだわ!
『てかスキルの確認終わったのか?』
「あぁ終わったぞ、もしかして俺の事を待ってたのか」
『いんや?楽しんでただけだが?』
「あっそ……じゃあ俺が攻撃するから避け続けろよ」
俺は髪を様々な魚に『変質』させて荒地へ向かわせる。
『うおおおお!』
「魚だけにか?」
『今ふざけれる気分じゃねぇんだよ!!』
ハハッ、そら避けそら避け魚が襲って来るぞ!!
と冗談は置いといて流石に終わったのに声をかけなかった事には腹が立つからな。
これで少しは反省してもらおう。
この時の俺は楽しんでいた、それはまるでこれでもかと八つ当たりをする子供の頃に戻った気分だった。
だからだろうか……近づいてきた存在に気が付かなかったのは。
「随分と楽しそうなことをしてるんだね、武野泰地くん」
「!! 誰だ!」
まずいな……伸ばした髪が原因で急に現れた奴の姿が見えねえ。
『荒地! 髪を戻すから掴んで戻って来い!』
『なんで焦ってるか分からんが了解!』
「おろ? 遊び相手くんも戻ってくるの? なら一緒に遊んでもらおうか」
伸びていた髪の隙間から白衣を着た黒髪の女性が見える
『戻って来たぞ、っであの女がお前が焦ってる理由か?』
荒地が俺の隣に立ち百足阿羅地を構える
「フフフ、このまま私と遊ぶのも良いけどそれはまだ早いわ。って事で遊び場へご招待させていただきまーす」
支離滅裂なテンションで女性がそう言うと俺と荒地の周りに魔法陣の様なものが現れて光りだす
俺達は避けようと動いたが足が地面から離せず魔法陣の光に呑まれる
俺達が光に呑み込まれる瞬間、白衣を着た女性はテーマパークのキャストさんの様に手を振っていた。
「頑張れよ、百足阿羅地と“オリジナルくん”」




