龍のプレゼント
洞窟を抜けると筋肉質な上裸で黒髪金眼という厳つめな男が立っていた。
「貴様ならここまでやって来れると思っていたぞ! タイチ!」
男性は「アッハッハ!」と笑いながら「こっちに来なさい」と俺を手招きする。
「一応確認するけどテラーだよな?」
「そうだぞ、と言ってもこの身体を使うのが久しぶり過ぎなのでな、すまんが人らしい動きには違和感があるだろうが気にするでない!」
何故テラーがこの場に居るのか疑問は有るけど、とりあえず信用できる人(?)がいるだけで心の中にあった一抹の不安も解消された。
「さて、じゃあもう一つ質問させてくれ、お前は以前にオロチに何かしたのか? さっきからずっとガタガタ震えてるんだが」
そう、オロチが怯えたように震えて動かない、それもちょうどテラーが声をかけて来てからだ。
「あぁ……だがこの姿では会ったことすらないはずなんだがな」
そう言えばオロチは俺が鑑定を使ったことにも気が付いてたな。
もしかしてオロチには何かそういう勘や本質を認識する的な能力、あるいはスキルがあったりするのか?
『なぁなぁオロチ、なんで怯えてんだ?』
『だ……だって私は任務でそいつの……***の卵を……』
あぁ、オロチが初めの頃に言ってた任務の内容にあった卵の親的存在のノイズ部分ってもしかしてテラーのことか。
『荒地、そういう心の問題にズカズカ相手の内側に踏み込んでいくのは今後はお前に任せる事にするわ』
『? 分かった』
「とりあえずオロチがお前に怯えてる理由は分かった。とりあえず、オロチ! そんな風にいつまでも怯えて無いでしっかり説明して謝りなさい」
「はい!」
「素直でよろしい! さあこっちにおいで」
少しゆっくり過ぎる気もするがオロチはしっかりとこっちに向かって歩いて来る。
「なぁ……少し気になっていたのだが……貴様、我と別れた時となんだか性格が違くないか? 何というか……こう…………高慢(?)になった様な気がする、その上先程もあの娘に対して優しく導きを与えて道を示す姿は母親の様であったぞ、一体我の《呑壕森羅》の中で何があったのだ?」
「あぁ……今後生きていく上で前のままだとダメだと思ったから……まぁ性格を入れ替えたんだ。まぁ、それを抜きにしても俺の性格はよく変わるがな」
「なんだその思わせぶりな発言は?」
「まぁまぁ、そんな事より謝罪人が来たぞ」
オロチはテラーの前へと進み、俺はその様子を少し離れた場所で観察する。
一応すれ違い様にオロチに謝罪するならもうちょっと気をしっかりと持った方が良いと助言をしておいたが、あの様子ではそれもあまり意味が無い気がするな。
「私は、以前……あなたの卵を利用しようとしました、決して許してもらえないでしょうが私は――」
「待った!」
オロチが意を決して頭の中の謝罪文を読んでいる途中にテラーが待ったをかける
「そのことならお前が気にする必要は無い、どうやら貴様も利用されていただけの様だったしな」
「え……」
「おい! それは一体どういうことなんだ!」
それが本当ならオロチはなんの為にあそこに居たんだ?
「娘、貴様の謝罪しようと行動したことに免じて事の顛末を伝えてやろうとも思ったが……恐らくノイズでまともに内容を理解できないからな、我からはどうしようもない」
またノイズか……ノイズが原因で話が進まない。
一体なんでノイズなんてものがあるんだ?
世界規模で言葉に縛りを付けるなんて何を考えて……
……待てよ? 世界そのものに考える意識があるのか? だってこの世界は……
いやそれ以前に俺が生まれ変わった直後に聞こえてきたあのセリフや荒地が百足阿羅地の所有権を渡した時に聞こえたセリフはまるで定型文の様で情のようなものは感じられなかった、やっぱりこのどこか世界はおかしい。
「ふむ…話がそれてしまったな、それじゃあ泰地が外に出れた記念に用意したプレゼントを用意したんだ、受け取ってくれ」
オロチからの謝罪を受け入れたテラーがそう言うと俺達が出てきた洞窟が動き出しそれは本来の姿に戻っていく、
その様相はまさに漫画に出てくる厳つい龍であり、
地面から抜き出てくる蟻の様に伸びた双牙はゴツク鋭くそして力強い、
四肢は見えずどこまでも続く長大な身体は地面へと伸びておりその全容は分からない、
しかしこれだけは分かる、
これには敵わない。
「そう怯えなくてもいい、これは我の本体だ。貴様らに攻撃することは無い」
恐いのもある、だがそれ以上に俺達が居たのがアレの腹の中だった事が自分的にはショックだ。
「だとしても恐ろしいんだよ」
「アハハハッそりゃあ我は世界から《最恐》として認められているからな!」
「世界から認められている? それってどういう――」
「ままっ、そんなことよりプレゼントを受け取ってくれ……割と本気で悩んだからな、色々と……受け取ってもらわなくては我の悩んだ時間が無駄になるではないか」
「いや……知らんがな」
「オッホン! とりあえず受け取ってくれ」
そう言うとテラーは本体の口から何か人型の者を降ろす、
俺はそれの顔を見て『疑似五感』をフル稼働してその存在を視た。
何故俺がそこまでして注視しているのか、
その者が赤髪という珍しい髪の色をしていたから?
否、
その者が美麗だったから?
否、この顔にそういう感情を入れ込みたくない、
その者が知り合いに似ていたから?
少しだけ違う、
俺がその者をそこまでして注視した理由、それは……
その者の顔が前世の俺と姉、つまり姉弟の顔と瓜二つだったからだ。




