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箱船と黄金の矢

作者: 梅村 松竹

またガタンゴトンと電車が揺れる。窓からは橙の光が頬を照らしている。その綺麗な宝石を見ていられるのはあと何回なのだろう。

授業が終わるといつも友達と軽く話してから二人で同じ電車に乗る。それから一生懸命に話を考えるのが自分の楽しみになっていた。しかしいつもの事ながら大した話も思いつかずに一駅、また一駅と過ぎる頃には話すことがなくなって二人してシンと黙り込んでしまうのだ。だけれども自分はその沈黙すらも楽しんでいた。黙りこくったまま時が進む。ほうっとつくため息すらも緊張してしまう、自分にしか見えない二人だけの小さな箱の中をこれ以上なく好きだったのだ。なんとなぁく少しだけ近付いてみる。近づくったっても物差しででも測れるくらいの距離だがそれが一大決心だと言うのだから相当な臆病だと自分でも思う。こくっとひとつ飲み込みよそをむいているとまたほんの少しだけ箱が小さくなったように感じた。嬉しさと緊張で自分は後ろ手でぎゅっと自分の手を握った。次第に電車の車輪は聞こえづらくなって耳に聞こえるリズムは早まっていった。落ち着きはせずとも自分は不思議と落ち着いていた。この奇妙な感覚のまま電車はパッと開いてはパッと閉じてそそくさと道を進んでいた。

三つ四つと駅が過ぎて行くと箱は手を振って消えてしまう。自分はようやくほうっと息をついて席に座る。気持ちも鼓動もゆっくりも元に戻り、そのまま電車は十数駅も止まらずスルスルと進んで最寄り駅に止まった。なんだったら最初から一駅も止まらず止まったままでもいいのにと自分は思うのだがそれだと電車が電車たる所以なぞ一つもなくなってしまう。まぁ自分はそれでもいいのだがそれは誰も許しちゃくれないだろう。ちらっとさっきまで立っていた場所を見るとそこにはもう誰もいなくて、ただ何も無い場所を自分は電車が見えなくなるまでじぃっと見つめていた。アモルが微笑んだ。

最後まで読んでいただきありがとうございます。箱船と黄金の矢、如何でしたか。久々の作品になるので楽しんで読んでいただけていたら幸いです。また会えることを楽しみにしています。

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