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プロローグ(3)

「――しかし日が変わる前に終わるとは思わなかったな」


「そうだね〜。皆、用事あるって言ってたしねぇ……」


 もたもたと財布を仕舞いながら、汐織は俺の呟きを拾った。黒い空に覆われた静かな街に、微風そよかぜの様な汐織の声が耳に届く。……正直、汐織がこの時間まで付き合っているのことがまず本気で驚いたのだが、まあ何も言わないことにする。

 ……音に関して、とても静かな夜だ。先程自分たちがいた空間のざわめきとはまるで別世界。

 結局最後まで残ったメンバーは俺と汐織。当然この二人で歌うなどする気は毛頭なかったので俺と汐織以外の最後の一人が帰ると言い出した時点で俺も切り上げることにした。皆が皆、トイレに立った後に帰宅を口にするということは、まあ、男の所に行くんだろうな。今日集まった女達は全てが彼氏持ちだったのか、或いはただのセフレからの呼び出しか。……まあどちらにせよ、今日は外したことに変わりはない。

 ポケットから取り出し、携帯を開けばメールが三通。宛先を見れば、今日いた女の名前。何となく、それを開いて読む気も起きず、ポケットに仕舞い直す。

 一度、溜息を吐いた。マフラーに沈めた口から、白い水蒸気が立ち昇る。

 ……何だろう。この気持ちは。……そう、空しい。俺は、飽きているんだ。この日常に。学園では優等生を気取り、外見を磨き、夜は女を引っ掛けるために街へと興じる。何をするにも順風満帆に物事は進んでいく。淡々と、淡々と、俺が殆どが思い描いた通りに。

 この世界は一体何なんだろう。何故俺は苦労というものをろくにしない。文武両道、容姿端麗、財産は腐るほどある。世界は、俺を中心に回っているとでも言うのか。

 一時期は、確かに女というものにはまった時期もあった。餓鬼だった俺は、性交の昂りに虜になっていたということ。……けれど、今となってはそんなことをしようなんていう気は起こらなかった。所詮そんな衝動は、遥か数年前の過去。

 結局、初めて得られた時の俺にとって、興奮それは“非”日常であっただけ。単調な形状だった日常という波に、イレギュラーな高波が発生した。俺はそれに身震いした。……けれど今はその高波すら“日常”になってしまったということだ。俗な表現をすれば、早くも俺は飽きてしまったのだろう。自分の容姿にも、自分の才能にも、自分の人生にすら。


「あ〜……枯れたのかねぇ……」


「え? あ、うん、そうだね。もう殆ど枯れちゃったよねぇ……」


「……」


「……え、何? 私変なこと言った?」


「……いや」


 多分、汐織は木についていったのだろう。季節は冬だ。もう殆どの木は枯れている。……それと同じように俺は枯れたのだろうか。性欲だけでなく、生きる源も。

 閑静な空気に包まれた神貴アクアポリスという街を、俺と汐織でとぼとぼ歩く。

 静かなのは音だけ。ビルに囲まれた道。俺達を囲む高層ビルたちは、その壁にランプや作り物の木のロープを巻きたくっている。ちかちかと光る赤や緑や黄色で、視界は溢れんばかりの光に包まれていた。まるで、カーニバルのようだ。

 もう直ぐ日を跨ごうとしている今では、昼間には休みなくあざとい宣伝が流れている電光版も、ただ闇を映しているだけ。その変わりに、昼間に出張れなかったネオンたちが息を吹き返している。

 命がないのに色鮮やか。なんとも奇妙な空間に、俺達は包まれている。


「……そうか、もう少しでクリスマスだもんな」


「うん……」


 クリスマスといえば、恋人と過ごすというのが定番だろう。夜に待ち合わせ、少し高いレストランで優雅に食事を済ませた後は、ホテルへと行くわけだ。……ああ、確かに俺も去年まではそうしていたさ。

 今、俺には特定の女を作ってはいない。当然、作ろうと思えば幾らでも作れるのだが……何故か作ろうとは思わなかった。きっと、俺は自分を試していたんだと思う。その日、一体何人の女から誘われるのかということを。――過去形。

 そうだ。今、煌びやかなネオンの間を歩いている俺にはもはやそんな気はない。正直、クリスマスなんてどうでもいい。もはや、全てがどうでもいい。だから、誰か俺の世界を壊してくれ――。

 ふと、腰の重みに意識が集中する。携帯でも、財布でもなく――あの正体不明の懐中の銀時計。何故か、捨てるという選択肢すら浮かばなかった奇妙な時計。取り出せば、夜の街でもイルミネーションを反射させ、怪しく光り、存在感を訴えかけてくる。覗きこめば映る自分の姿。蓋を開けば、文字盤のない奇妙なアナログ盤。何も変わらない、おかしなままこの銀時計は――――否。


「日付が……変わりかけてる?」


 今朝見た時は10の数字が顔を覗かせていた筈なのに、それは既に上へと移動していた。既に半分以上は見えない。変わりに、下からは9の数字がやって来ている。

 何を意味しているのか。そんなことを考えていると――不意に気配を感じて空を見上げる。雲覆う空の下、電光掲示板が視界に横切った。ただ真っ黒な画面を映しているそれは――何故か一斉に白さが灯った。視界に埋まる全ての電光掲示板に光が灯る。

 思わずその不気味な、壮観な出来事に一歩後ずさる。冷汗が背筋に垂れるのを感じた。何かが起きている。そんな予感が背筋から離れない。

 俺の心臓はドクドクと、高鳴る鼓動を刻んでいる。胸が苦しい。何かに、俺の心は期待している――。


「一体、これは……」


「……どうしたの? 麗ちゃん」


 俺の様子を、視界の外では汐織が怪訝そうに俺を見つめていた。




「……んあ」


 口元から涎が垂れている事に気付いてゆっくりと顔を上げた。

 既に部屋の中は真っ暗闇に包まれている。勿論帰って来た時には既に暗かったわけだけど、今は更になんというか……闇って感じだ。

 ディスプレイ上ではベッドの上に横たわった女の子が僕を見ている。その画面の右下に、時計に視線を向ける。一応時間は合っているはず。ということは――ああ。もう今日が終わるって事だ。

 日付変更の瞬間を目前に僕は小さく欠伸を浮かべた。記憶がどうにも曖昧だ。確か牛丼マンと牛丼を食べに行って、買い物をして――帰って来てどうしたっけ。

 なんでエロシーン目前でこのエロゲーは停止しているんだろうか。ぼんやりと女の子を見詰める。下着姿のままベッドの上で僕を待っている。でもなんというか……ああ、まあいいや。なんでも。

 現実世界じゃ在り得ない話。もし在り得たとしても絶対にお断りだ。どこの誰とも判らない、自分自身とは何の関係も無いどっかの他人と一緒に寝るとか――。


「……気持ち悪い」


 ディスプレイの中の女の子には実体が無い。温もりも無ければ優しさもない。でもそこには何も無いからこそ見つける事が出来るものがある。

 彼女達は絶対に裏切らない。ゲームの中、決められたシナリオを何度も繰り返すだけだ。それは僕をとても安心させる。フラグとゲームスイッチにだけ左右され、イベントをこなすだけの人生――。最初から勝利が決まっている戦いほど恐ろしくない物も無い。

 だから毎日が決められた通りに動くのならどれだけいいだろう。毎日毎日ありもしない幻想に怯える必要もない。思った事が思い通りに成るなんて在り得ない。だって僕は――どうしようもないくらい、駄目な人間だから――。

 ゆっくりと立ち上がる。闇の中、ディスプレイの他にもう一つ僕を照らし出している物があった。首から提げたネックレス――。夕方に見た時よりそこから放たれる光は強くなっているように思う。

 まるでゆらゆらと揺れる炎のような輝き……。でも別に熱くないし、害も無い。首からゆっくりと外して手に取り、パソコンデスクの片隅に転がす。


「不安定だ――」


 自分の顔に片手を当てながら呟く言葉。ゆらゆらと動く炎の形を見ているとまるで自分を見ているみたいで気分が悪くなる。ああ、なんで僕はこんなに駄目なんだろう。

 もっと落ち着きたい。安定したい。でも無理なんだ。世界が安定してないんだ。この世の全てが僕を裏切っている。この世界の全てが僕の思う事を覗き込み、そうなるまいと一生懸命に理想から遠ざける。

 僕はそれを信じて一生懸命に走るんだ。泣きじゃくりながら走るんだ。でも決して追いつけないんだ。判っているんだ。そんな幻想ばかり夢見るんだ。でもそんなの、どうしようもないじゃないか。

 歯軋りする。もう嫌だ。うんざりなんだ。なんで世界はこんなにも不安定なんだよ。決まった事だけ起これよ。誰か人生にルートを定めてよ。そしたら僕は傷つかない道を選べるのに。


「……アイリ」


 画面の中、金髪の女の子がこっちを見ている。金髪の外国人の癖に日本語ペラッペラの現実的には在り得ない美少女が僕を潤んだ瞳で見ている。

 熱に浮かされたような表情。汗ばんだ白い素肌。前髪の合間から覗く視線――。どうしてエロゲーのヒロインはこう安定して可愛いんだろう。安定してエロいんだろう。判ってる。それは王道を押さえているからだ。このアイリも無口っ子、金髪ロリ等のツボを抑えているからこそこんなにも可愛いんだ。

 全ての人間がこうで全ての世界がこうだったらいい。僕はただ選ぶだけでいい。そうしたら僕は最強で最高でありとあらゆる現実を踏破出来るのに。


「…………」


 立ち上がる。なんだかもう何も考えたくなくなった。真っ暗な闇の中、明日はどうしようか考える。ああ、面倒くさい。明日も学校をさぼってしまいたい。

 学校は怖い。すごく安定しない。どうしたって人が多いと不確定要素が発生する。それが怖い。恐ろしい。ああ、怖いさ。それの何が悪いって言うんだ。

 闇の中、ベッドに歩み寄り手探りでティッシュの箱を手に取る。それを片手にパソコンデスクの前に戻る。

 マウスを操作してゲームをオートモードに切り替える。もうクリックするのも面倒くさい。ティッシュを片手に僕は目を瞑り、深々と溜息を漏らした――。




 二つの街を見下ろす場所に、一つの黒い影があった。

 神貴アクアポリスと伊薙町……。この二つを結ぶ【ユピアブリッジ】と呼ばれる橋がある。その二つの街の中間地点、二つの境界線でもある場所にその時計搭はあった。

 二つの町に同じ時を告げる時計搭――。その頂点に立つ男は二つの街を見下ろしながら口元にゆっくりと笑みを浮かべる。

 片や海上の楽園。片や変革の都市。その二つの街を見下ろす場所で黒衣をはためかせ、男は手元に一つの時計を輝かせる。

 それは美しく、そして一つだけではない。男は全身から様々な種類の時計を提げ、そして両手を広げて目を瞑る。

 彼が自身に役目を負わせる為の刹那。彼が彼らに、彼女らに役目を負わせる為の刹那。男はゆっくりと、両目を開いて口を開いた。


「――この声が聞こえますか?」


 それは、この物語の始まりを告げる声。


「我が呼び声を受ける者よ。そして我が姿をその目に映す者よ――。おめでとうございます。貴方達【十二人】は、【神の試練】に選ばれたのです」


 街中の至る所で異変が起きようとしていた。神貴と伊薙、二つの町……それぞれの選ばれし者は自らの手にした“それ”を見詰める。

 “それ”は彼らの手の中に既にあった。気付かぬ内にあった。“それ”を“それ”と気付くよりも早く、思うよりも早く、体も心もそれを受け入れていた。

 だから手放す事も無くこの時この瞬間、一日が終わりまた始まる生と死との狭間の時、誰もが目覚め、そしてそれを握り締めていた。


「恐れる事は何もありません。むしろ誇りなさい。貴方達は神の手により選ばれた――。貴方達はとんでもない幸運の上に居る。貴方達は契約を済ませた。最早降りる事は出来ないゲームの上、貴方達は我らが神の掌の上に置かれたのです」


 ネオンの光の下、頭上を見上げる麗夜が目を見開く。その視線の先、街中に溢れた街頭モニターには黒装束の一人の男の姿が映し出されている。

 視線を反らす事は出来なかった。麗夜の視線は完全にその男に釘付けになっていた。絶対に在り得ない、正真正銘掛け値なしの“非日常”が、目の前に広がっている――。


「麗ちゃん?」


 傍らに立つ少女に視線を向ける。彼女には何の異常もない。この街中に響き渡っている男の声も。この街中に伝わっている男の姿も。まるでそう、全てが――。


「――――見えて、ないのか?」


 薄暗い部屋の中、ディスプレイに映し出された男の姿を黒斗はじっと見詰めていた。空いた口が塞がらず、そのまま呆けたような表情で画面を覗き込む。

 つい先ほどまでそこで裸になろうとしていた美少女の姿は影も形も無い。その代わりに現れた目の前の男は、どうみても余りにも胡散臭く、馬鹿げた事を言っているようにしか思えなかった。

 だというのに何故だろうか。胸の奥から熱い物が込み上げてくる。まるで何かが始まるような――止まっていた時が動き出すかのような――そんな錯覚を覚える。


「これ、って……?」


 握り締めたのは炎を宿したネックレス。

 じっと見詰めるその視線の先には銀色の懐中時計。

 二人の少年の見詰める先、手放す事の出来ない、どうしても視線を反らす事が出来ない、たった一つ掛け替えの無い物が光を放っている――。


「――己の罪を証明する為に」


 炎のネックレスから熱い輝きが溢れてくる。


「――己の業を救う為に」


 銀色の懐中時計から、眩い光が溢れてくる。


「さあ、舞踊るのです! 賽は投げられた――! 私はここに、【ディヴィナ・マズルカ】の開催を宣言する――!」


 黒衣の男が両手を広げ、声高らかに叫ぶ。二つの街の二人の少年、その目前に輝きが収束する。

 それは、真紅の獄光。それは、白銀の極光。


 “僕の目の前には――。”


 “俺の目の前には――。”



 “眩い光を纏った、一人の少女が立っていた――。”




罪断のセクレイジュ




 それは、咎人達の舞う喜劇――。



粕亜「それはともかく、三話終わったから後書き対談コーナーしようか」


御岬「あ〜、いいね」


粕亜「今から開始」


御岬「まった」


粕亜「またない」


御岬「記録するのは「」の中ということで……待てwwwwwww」


粕亜「またない!!!!」


御岬「そうかよwwwwwww」


粕亜「うん!!!!」


御岬「何このノリ」


粕亜「僕はわりといつもこうだよ。結構ワガママだよ」


御岬「まあこれの始まりからもう急だったしな〜。いきなり言ってきて、やんないの? だし」


粕亜「え〜そんなわけで罪断のセクレイジュ後書き対談コーナーです。粕亜です。あ、カギカッコつけるか。あとで編集する時めんどくさいし」


御岬「御岬です。この名前打つのがめんどくさいし……ちょっとまてwwwやり直そう、さすがにwwww」


粕亜「やだ!!!!」


御岬「…………もうやだこの人」


粕亜「えー本日は罪断のセクレイジュをお読みいただきまことにありがとうございました」


御岬「ありがとうございました〜」


粕亜「ではまた次回」


御岬「はええええよwww」


粕亜「他にいう事ないと思うんだ」


御岬「……キモオタを執筆した感想を一言。粕亜っち」


粕亜「キモオタじゃないよ。自宅警備員だよ」


御岬「いや、学生でしょ? 辛うじて」


粕亜「じゃあ地域警備員」


御岬「それは仕事になってるじゃねえかwwwww」


粕亜「なお、プロローグの(1)が御岬、(2)が粕亜、(3)は合作になっております!!」


御岬「ですね。でも(3)の最後の開催宣言は粕亜殿ですよ」


粕亜「そして次からは麗夜編=御岬、黒斗編=粕亜になります」


御岬「はい。僕はあのウザイケメンを書かなきゃならんわけですよ、ええ」


粕亜「リア充乙(笑)」


御岬「オタクとか引くわ〜笑い」


粕亜「その誤字はそのまま使うからね」


御岬「………………ドSです、奴は」


粕亜「それではまた来週! さようならー! さようならー!! さようならー……!!(フェードアウト)」


御岬「次もよろしく〜!」

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