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DAY3.Outburst Of Hate(2)

 今は落ち着いた遼太の寝顔を見て思う。俺は一体遼太といつ出会ったのだろうか、と。

 少なからず、記憶は小学校の頃にまで遡っていた。正直そこが初めかは分からない。けれど、そこまでは遡れる。

 ――何となく学校の幼稚な生活というものに飽きていた俺は、内心酷く苛々しながら過ごしていたと思う。周りの会話は程度は低くかった。周りも勉強や運動などに努力なんてものもろくにしないから、全てにおいて何もせずとも出し抜けていた。……いや、少年野球に所属している奴らより、俺は野球に長けていたか。

 まあそんなことはどうでも良い。とりあえず俺は現状の生活というものに苛立っていた。無論それを、表に出すことはしなかったが。

 良い顔をしていれば、何も考えず女子というものは群がって来た。2月14日など、名前も知らない、顔も覚えていない女子から日に何度も呼び止められていたが。それが酷くウザったかった。けれどそれを跳ね退けては、俺の仮面というものは崩れてしまう。

 そうふつふつとした感情を抱きながら、教師に頼まれた仕事を内心嫌々終えた日の帰り、何を思ったか俺は裏手の墓地前の細い道を通って帰宅しようとしていた。驚くほど人が少ない道だ。虫は沸いてるし、何より墓が広がっている。寄りつかず、暗く危ない道というのが皆に与えられている印象だった。だから人はいない。筈だった。

 何故かその日は、墓の裏から声がした。何か呻き声の様な、そんな声。思わず俺は立ち止まり、その墓を凝視した。驚きはなかった。ただ、“霊”でもいないのか、と思っていただけ。

 俺は迷わず墓地へと足を踏み入れた。二つ奥の列の大きな墓石の裏。そこに誰かいるのは確かだった。もしかしたら霊かも知れない。非日常かも知れない。そんな淡い期待を胸に抱えながら除いた墓石の奥にいたのは、数名の男子と傷だらけの少年、それに一人の少女だった。俺のいた学校は私服の為、何処の学校かは分からなかった。けれどまぁ、場所的には同じ学校だったのだと思う。

 俺の足がコンクリートをする音に敏感にも気づいたのか、一人の少年を踏みつけていた男子たちは一斉にこちらを向いた。すると一人がずかずかと大股で俺に近づき、首根っこを掴み、“忘れろ”やら“大人しく帰れ”やら言っていたと思う。きっと上級生だったのだろう。まだ四年だった俺よりも少しばかり身長は高かった。

 凄みを利かせているらしい顔を無視し、俺は奥を見てみた。すると、残りの男子たちはまた倒れ込んでいる傷だらけの少年に危害を加えようとしていた。しかしそれを、耐えかねた様に少女が少年の前に両手を上げて座り込んでいた。“止めて”とか“酷い”とか言っていたと思う。正直良く覚えていない。

 そう冷静に観察していた俺がムカついたらしく、首を掴んでいた男子は俺の耳元で怒鳴り込んで来やがった。だから、どうせなら関わるまいと思っていた俺の気は180度変わったわけだ。

 怒鳴ってくれやがった男子の左頬を右の拳で思い切りぶん殴り、よろけた所を右足の回し蹴りで遠くの墓石へと勢いよく倒れこませた。俺より大きい筈の身体はとても軽かった。墓石が倒れる盛大な音が響き渡り、少年少女含め、全員がこちらへと向き直った。“お前何なんだよ”とガキ特有の甲高い声を響かせながら、立ちあがった。攻撃の対象が俺に切り替わったらしい。じりじりと寄ってくる数人の男子を見て、喧嘩はご無沙汰で合った事に気づく。丁度良い肩慣らしだ、と俺は手に持った鞄を床に落として拳を鳴らす。きっと、俺の口は少し歪んでいたと思う。

 後の展開は非常に呆れる者だった。人数で勝ってると気が大きくなっていたのだろう、威勢良く振りかぶって来た隙だらけの拳を苦もなく避け、カウンターの左ストレートを浴びせると、残りの男子たちの雰囲気は一変した。耐えかねた様に奇声を上げながら突進してくる男子の脇腹に膝蹴りを一発入れた後、彼らを包んでいた雰囲気というのは更に険悪なものとなっていた。もはや近くに落ちていた木の棒やら鉄パイプやらを持って襲いかかって来た。多分、その時のそいつらの表情は恐怖で歪んでいたように思う。まあ、それも仕方ないとは思う。何せ、俺が殴った奴の口からは血が出ていて、腹を蹴られた奴は泡を吹いていたのだから。……しかしまあ、その後は武器を手にした奴らも同じ末路を辿ったのだが。そして、今度は俺が初めに浴びせられたのと似た様な言葉を耳に吹き込む立場となった訳だ。

 多分、それからだと思う。遼太が俺にひっつくようになったのは。――ああ、あの時傍にいたのが深邑か。やっと思いだした。でも、分かるのはあの時の姿だけなのだから……まあ、知らないのと同義だろう。


「……んん」


 遼太が苦しそうに身動ぎした。そのせいで額に乗せていたタオルがポタりと俺のベッドの上に落ちる。それを溜息を吐きながら拾うが、少し温くなっていた。もう一度溜息を吐きながら、俺は水が張られている洗面器へと手を伸ばした。


『ん〜……優しいねぇ、麗夜君』


「あ?」


 じゃばじゃばとタオルを冷やして居れば、左の方――遼太の足の付近に正座していたアヤメはそんなことを言いやがった。裾の短い浴衣の為、中身が見えてしまいそうだったが、それは敢えて黙っておくことにする。


『だって、もう日も完全に昇ってるよ?』


 マジで、と窓を見れば確かにカーテンの隙間からオレンジ色の光が差し込んでいた。遼太を運んでからずっとだから……何、もう七時間かそこらはずっと看病していたのか。……信じられん。


『遼太はねぇ……本当に麗夜君の事が好きみたいだよ』


 まあそれは、学校でのあのひっつきようから分かるが。っていうかあれで俺に好意がないんだったら物凄くたちが悪いぞ。十年近くはあんな関係なのだから。もし俺へ好意がないんだったら詐欺師への就職を俺は薦めたいと思う。きっと上手くいく。容姿も相まって。

 テキトーにタオルの水を絞って、遼太の額へと置く。


『麗夜君、私が変わろうか? 眠いでしょ?』


「いやまぁ……確かに眠いが……それはどういう意味だ?」


『えっ? そのままの意味なんだけど』


「……【実体化イディアライズ】してか?」


『え? うん』


「……」


『……え?』


 こいつも同じ人種――もとい【ブリスゲーデ】種だったか……。う〜ん……ゲーデってのはどっか頭が緩んだやつしかいないのか? もっとこう、精霊っぽい聡明な奴はいないのか、聡明な。


「寿命減るだろ? それじゃあ」


『え……あぁ!』


 もう溜息が止まらない……。どうしてこう……なぁ? まあ、ある意味ではお人好しなのかも知れないが。クレイに然り、アヤメに然り。誰かが傷ついていたら放っておけないというか……。

 と、クレイの姿が頭に浮かんで深夜での苛立ちが蘇る。勝ち残るのが目的じゃなかったのか。だったら俺のした行動の何がいけない。他の参加者は殺す。力を蓄える為に一般人を殺す。正答だろう、それは。確かに俺は非日常を望んだ。この命を掛ける状況も素晴らしい。歓喜に背筋が震えるほどだ。だからこそ、そんなものがたったの後六日で終わるのは惜しまれる。もっと永く、永く――あわよくば永遠に。

 しかしその為には勝たなくてはならない。生き残れるのは一人なのだろう。生き残るためには、勝つためには、殺すしかない。


『――ねぇ』


 そんな険呑とした俺の思考は、アヤメの声で掻き消された。

 何だか、妙にきらきらした瞳を俺に向けて来ている気がする。


『ご飯作ってあげようか?』


「あ?」


『だってお腹空いてるでしょ?』


「あ〜、まぁ……確かにそうだけど」


『よし、決定! 私が作るよ!』


 そう言ってアヤメは正座の体勢からバッと立ち上がる。立ち上がった直後には、少し透けていた身体も完全に不透明になっていて、足元の絨毯はアヤメの体重で凹んでいた。つまり、アヤメは実体化したという事。


「お、おい! それじゃ遼太の寿命が……」


『大丈夫だよっ、ちょっとぐらい。それにすぐ終わるし』


 何て良いながらどたばたとキッチンへと駆けていく。呼び止めようとしたが、どうせ減っていく寿命は俺のじゃないしどうでもいいやと思い、止めた。実際、今気づいたが中々に腹も減っていた。本来ならばもう起きて朝食を食べている時間だから当然だ。だから、俺はアヤメの好意に肖ろうと決めるが……。


『あっれー? 釜戸って何処?』


 何て声がキッチンから聴こえて来た――ん?


「……釜戸?」


『うん。だってご飯炊けないじゃん。包丁とかはあるけどさぁ〜』


 えーと、何ていうか、もしかして知識は見た目の時代の通りになっているのか? そうなると、アヤメは着物を着ているのだから、まあ、近代とは言い難いな。


「なあ、電子レンジって知ってるか?」


『電子……れんじ?』


 発音がなってない。こりゃ知らないんだな。――余計にめんどくさいじゃねえかよ。

 溜息を吐きながら、俺はアヤメの居るキッチンへと向かう。


「……いいよ、自分で作るから」


『え、ダメだよ。私が作る』


「お前に一々料理道具教えてく方が面倒なんだよ。大人しく【実体化イディアライズ】解いて遼太の様子でも見てろ」


 俺の言葉に一瞬眉毛を寄せ、頬を膨らまれるが、俺が睨み返すと渋々“はぁい”という声を上げてリビングへと帰って行った。身体もちゃんと透けていた。


「さて……」


 とはいえ、やはり面倒だ。まあ、朝ご飯だしテキトーに惣菜を作ってそれで済ませよう。……一応、遼太のお粥も作ってやるか――。




『――おい、竜次。お前いつまでその調子なんだ?』


 カーテンの隙間から差し込む日光のみが灯りの暗い部屋の中、ザリチュの低い声が響いた。

 その声が向けられた先には、体を酷く震わせている竜次がいた。膝を抱え顔を埋めて、肩を震わせている。そのせいか、歯と歯が小刻みにぶつかる音がしていた。

 竜次の脳裏には、あの時の場面が幾度となく繰り返されていた。麗夜の腕の先が竜次の腰を過ぎるその瞬間、確かに竜次は死というものを克明に予測してしまった。腰が千切れ、腸が飛び出し、血が噴水のように吹き出るその末路。それは竜次が、既に“十五”回見てきた光景だ。映画なんていう画面越しじゃなく、自身の目で、最も近い所から。

 ザリチュで引き裂かれた人間はとても生き物とは思えないものへと成り下がってしまう。てらてらと光る内臓を隙間から覗かせたり、床を血で汚すだけの存在になってしまう。――それらに、竜次はあと一歩でなってしまう所だった。

 ああ、怖い。怖い。怖い。そう何度も膝を強く握るけど、一向に脅えが引く事はない。

 その様子にまたか、とザリチュは溜息を吐く。竜次は自分の命の危機になると酷く臆病になってしまう。もう人をその手に掛けることに何ら抵抗を覚えていないというのに。何とも、半端な殺人鬼だった。これでは扱い辛いな、とザリチュは思考に難色が浮かび上がる。


『なあ、お前は強いんだ。安心しろ。それにまた新しく八人喰ったじゃねえか。もう力はかなりついてる。大丈夫だ。俺達は勝てる、竜次』


「……うん」


 そのザリチュの言葉に竜次は頷く。


「……うん、そうだよね」


『そうだ、竜次。自信を持て。……日が沈んだら、もう一度――魂を喰いに行こうぜ』


 それで確実だ――そうザリチュは竜次に言い聞かせた。




「――は、またコンビニ強盗だってよ。盛況なことだな」


 味噌汁を啜りながら、ニュースを見ていれば、あまり飯時に流すべきではないようなニュースが流れた。

 流石に死体などは映っていないが、鑑識がごちゃごちゃといる現場の映像はライブで流されていた。死亡者は八人。皆、巨大な刃物で引き裂かれたような死体らしい。考えるまでもない。明らかにあのスーツ男の仕業だろう。一丁前にも、あの後も魂食いに精を出していたらしい。

 白米を咀嚼しながら思う。――やはり、それが正しい在り方だろうと。


「……ん、んん?」


 と、後ろから遼太の声が聞こえた。寝言……ではなさそうだ。振り向けば、遼太は確かに瞼を開けていた。


「気がついたか」


「先輩……? あれ……僕」


『遼太〜〜!』


「う、うわっ! アヤメ!」


 ばふっ、とわざわざご丁寧に実体化してまで遼太にアヤメはダイブしていた。

 けどそんな風に飛びついたら――。


「い、いっつつつ……」


『あ! ご、ごめん、遼太!』


 慌ててアヤメは半透明な身体に戻っていった。やっぱり何処か頭が緩んでると思う。

 俺が溜息を吐いてると、痛みのせいか目の端に涙を浮かべた遼太がこちらを見ていた。


「先輩が……助けてくれたんですか?」


「……ああ、まぁ、な」


 言いながら、俺はクッションに放り投げられている銀時計を気づかれないように一瞥する。幸い、クレイが何かを話す様子はなかった。というか、アヤメと挨拶を交わした後から一回も出てきていない。……まあ、その方が今の状況としては有難いので良いのだが。

 ありがとうございます、と純真な瞳を向けて言ってくる。


「とりあえず、お粥作っといたが……食えるか?」


「あ、はい……大丈夫だと思います」


 そういうと、怪我をしていない左の腕で身体をゆっくりと起こしていく。その動作の遅さに苛立ち、俺は遼太の背中を押した。ありがとうございます、なんて言ってくるが正直こっちの気分の問題なので礼を言われる筋合いはないように思う。

 遼太の上半身だけを起こした後は、テーブルをベッドまで引き寄せる。ベッドとテーブルの高さは大体同じくらいなので、脚を床に落とせば食べれるだろう。遼太にスプーンを渡し、飲み物を持ってくるために俺は立った。そこで、遼太の肩をついでに見たが、まあ、結構回復はしているように見える。出血もあまり酷くないようで包帯がその部位だけ染みているだけだった。まあ、それでも、朝食を食い終えたら一度変えるべきだろうな。

 そう思いながら、俺は台所へ行き、牛乳片手に戻ってくると。


「あ……これって……」


 遼太は点けているテレビを見てそう呟いていた。遼太も表示されているテロップを見て気づいたのだろう。


「……先輩は、またあの男と闘うんですか?」


「……ああ、そうなるな」


「なら、僕も……一緒に……」


 そう遼太は肩が痛そうに顔を歪めながら言う。

 一緒に、戦うっていうのか? それは無理というものだろう。今はまだまともにアヤメを握れない筈だ。確かに遼太が戦える状態ならば、共闘するのも良い手だろう。何せ、遼太はあの大剣の剣圧に対抗できるゲーデを持っているのだから。そんな奴についてこられても邪魔なだけだ。

 だから――。


「いい。お前はここで休んでろ。……あいつは」


 顔を遼太から……いや。ここにいる全員に表情が悟られない位置に向ける。仮面がきっと外れてしまうから。


「……俺一人で」


 ――殺す。

 きっと俺の口は、この上なく歪んでいるのだろう――。

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