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DAY2:Long Distance Runaround(2)

 ――夢を、見ていた。

 草原を駆け抜け、ただひたすらに走る夢。長い地面の草に何度も転ぶ。その度に体の傷は増えて、身体の節々はまた動かしにくくなる。

 けれど、それでも諦めない。心は焦燥に駆られていて、前のめりになりながらも、顎を前に出してでも必死に走る。ただ走る。足を前に。足を前に。急がなければ。急がなければ。そんなことを延々と繰り返す。

 果てはあるのか。道はあるのか。自分が辿り着くべき場所はあるのか。そんな不安に駆られながらも、ただひたすらに走り続ける。

 既に喉は乾き切っている。酸素は既に足りなくなっている。それでも倒れてはいけない。それでも前に進まなくてはならない。

 いつになったら終わるのか分からない走りをひたすらに、ただひたすらに。

 辿り着けるのかという不安。この思いが届いてくれるのかという恐怖。その感情に心臓が収縮した途端――。


「――ッ。――何だ、今の」


 ――広がる草原から、見慣れた俺の部屋へと視界は変わった。目を開け、周りを見渡しても見えるのは当然俺の部屋。草原などないし、自分の怪我も昨日の顎の部分だけだ。

 心臓に手を当てると、まるで全力疾走したかのように速い鼓動を刻んでいる。

 額に手を当てると、驚くほど汗を流している。まるで夏場に走り込みをしたような脂汗。冬に書く寝汗にしては随分と異質で気持ち悪い。

 ……仕方ない。まだ時間は五時だけれど、もう起きてシャワーを浴びることにしよう。散策から帰って約三時間しか寝ていないが……まあ、何とかなるだろ――。

 濡れた頭をタオルで拭くものの、寝不足であることには変わりない。夜中に遅くまで起きていたということも、おかしな夢を視たということもあり、まあ……何はともあれ寝不足だ。

 頭からタオルを垂らしつつ、皿に牛乳と一緒にぶちまけたシリアルをスプーンで掬う。そのまま無意識的に顎を動かす。もはや味も理解出来ないし、更に言えば何を食べているのかすら分からなくなってしまいそうなほど、俺の思考というものは何処かここではないところへぶっ飛んでいた。眠い、というのはまあ確かにあるが……それよりももっと、そんな眠気も、朝食なんていうものでさえも吹き飛ばすような、俺の興味を引いている事柄がある。


“乖離した星々は交わることはありません。……それらはただ、彷徨うだけ”


 その言葉がいつまでも俺の頭で連呼されている。

 一体その言葉の持つ意味は何だというのか。乖離した星々……それに、交わらない。俺が何かを見逃している――そういうことだろうか。例えば、俺があの大剣を持ったスーツの男と対峙した際に、何かを見落とした。故に、あの開催宣言が行われた繁華街を中心に探しても無意味だと。そういうことか。そうすれば彷徨うだけというのも納得がいく。

 けれど何か、何かがしっくり来ない。というより、重要なピースが欠けている。――何故俺が死ななくてはならない。


「……分からん」


『何がですか?』


 テーブルに置いた銀時計から声がする。クレインクライン――通称クレイ。戦いを拒否する戯け者の【ブリスゲーデ】だというのに、のうのうと俺の前に居やがる。何故俺の【ブリスゲーデ】がこんな奴なんだ。意味が分からない。……敢えてもう一度言おう。意味が分からない。


「何でお前なんだ?」


『何がですか?』


「……」


『え!? ちょっと!』


 敢えて思考から追いやる。とりあえずあの少女の言葉は置いておく。考えても埒が明かない。まず第一、この【ディヴィナ・マズルカ】自体の謎が多すぎる。

 あんな宣言だけで殺し合いをおっ始めようというのだ。傍から見れば、まさに正気の沙汰だろう。けれど、当事者である俺達に於いては一切そんなことは感じない。誰もが現実として、嘘の様な出来事が起こっているのだから。

 ……【ディヴィナ・マズルカ】、【ブリスゲーデ】、その他にも不可解なことはとても多い。例えばこの時計。


『ひゃっ……』


 蓋を開けば、既に針は一昨日見た時より動いている。あの時は日付の部分が十であったものが今では八――いや、既にそれが半分ほど上に行っているから、それ以下か。どうもこれは、時間が立つほどに日付欄を模した数字で俺の寿命をカウントダウンしていくらしい。そして、針は現在の時刻より八時間早く刻まれている。これは即ち、期限の九日よりも俺は早く八時間寿命が尽きることを意味している。……ああ、これも何処かの阿呆が余計なことをしてくれたせいだ。何を考えているんだ。寿命を削って看病など……。


「頭が空っぽなのか?」


『……だから、何がですか?』


 一度溜息を吐く。まあ、考えたって無駄なものは無駄なのだろう。一先ずは学園へと通う事にする。俺はまだ、優等生の仮面を脱ぐわけにはいかないのだから――。




 ……退屈な教師の話は片手間で聞き取る。きっと――否必ず、俺は普通に講義を受けているように見える筈だ。板書はしっかりと手元のルーズリーフに、それも丁寧に写しているし、教師の話は耳に届き記憶している。教師の目だって見えている。……けれど、俺の思考は又、講義に関わる思考とは別に、【ディヴィナ・マズルカ】に関しての思考を並列して行っている。……とはいっても、両方ともあまり考える事項がないため、そんな大それたことではないのだが。

 まずは真っ先に考えたのは、今後の方針。それは無論、積極的に動き続けることは変わりない。これは譲れない。だからクレイは引きずってでも連れていくことにする。

 次に索敵方法。……これが難題だ。昨夜二時間近く探し回って、何も見つからなかったんだ。……いや、確かに一人見つけたが、あいつは例外だ。戦う意思が見られない。そんな奴はとっとと他の奴に殺されてしまえばいい。だから当面、俺が狙うのはあの大剣の男。そしてそれを追うには、何か明確な目印がなくてはならない。


「……」


 悔しいが、考えても埒が明かなかった。俺は【ディヴィナ・マズルカ】全般に於いて無知にも程がある。……まあ、当然、金で雇って大量の人員に探させるという手はあるにはある。だが当然、そんな方法は論外であることは言うまでもない。だからやはり、地道に俺一人で探さなければならない。……俺、一人?

 そこで初めて気づく。自分の中で勝手に戦力外通達を下していた一人の馬鹿野郎の存在を。クレイだ。【ブリスゲーデ】である奴自身なら、俺の数倍は理解できている筈だ。

 シャーペンでノートの端に“敵を探す方法はないのか。真面目に考えろ”、と書き記す。その後に銀時計を腰から外してそこら付近へ持っていく。すると何やら暇してたクレイは即座に気づいてくれた。


『あるブリスゲーデはありますけど……私にはそう言う能力はないですね……』


 ――能力? 待て、お前らはただの剣じゃないのか。神出鬼没の、ただ現れるか消えるかするだけの。能力――それはゲームや漫画で見るような、オタク達が見るような、あれか。……そうか。確かに既にこのゲーム自体が漫画の世界だものな。そのくらいに突き抜けていてもおかしくない。そんな設定が有り得るなどという事は、完全に思考から消え失せていた。

 ……ならば、こいつ自身にも、こいつ特有の能力があるはずだろう。

 それをまた、ノートの端へ書きなぐろうとした直後、


「――そう言えば夕べの夜、強盗があったらしいなあ。コンビニと……マク、だかモッスだかで」


 と、教師の雑談の声が聞こえた。

 講義の内容とは全く関係のない話。思わずそれに対し敏感に反応してしまう。


「しかも凶器は刃物の……刃渡りが大体、150センチ? なんてまるで刀みたいな大きさだって言う検死が出たらしいじゃないか」


 皆気をつけろよ、なんて教師は言っている。そして更に、刀と言えば……などと余計な会話へと広げている。その会話を聞かなくてはならないのは苦痛この上ないが、仮面の為に成長することにする。

 しかし、思考は並列に。

 刃渡り150……そんな馬鹿デカイもの、俺は一つしか知らない。これは偶然か、否か。――そんなもの、決まっている。それにあの時のあの男の様子はおかしかった。あの脅え方は異常じゃないのか? 声を聞いた限りでは、あの男のゲーデは強気な性格をしていたし。強気な性格と臆病な性格では、主従関係が逆転する可能性すら大いにあり得る。


「……ふむ」


『レイヤ、今のお話は……』


 どうやら、クレイも同じ結論に至ったらしい。そうと決まればやる事は一つだ。

 とりあえずは、屋上へと向かう事にする。幸い先程の講義は四時限目であった為、昼食の時間が直ぐに訪れてくれた。流石に人目がある所で、クレイと二人で傍から見れば独り言のように会話をする気は当然ない。変人になど見られてたまるものか。

 だから、急ぐ足は屋上へ。明蔡学園は数ある高校校舎のうち珍しく屋上が解放されているところだった。いくつかのベンチが置かれ、昼食を食べに来る者も少なくない。……ただそれは当然、春や秋等の気温の丁度良い過ごしやすい季節だけである。ただでさえ風が強いだけでそこに出向きたい気分など壊滅的に失せるのだ。ましてやこのクリスマスを目前に控えた寒空にやってくる人間は相当物好きだろう。

 ――と、思っていたが物好きがいた。

 奈雲なくも遼太。幼い風貌の背の低い少年は、手摺りに両の肘を掛けて、高所から見える景色を前に何やら心ここにあらずと言った雰囲気だった。


「……どうした、遼太」


 とりあえず、声を掛ける。ただそれは当然、遼太のことが心配であったからではなく、どうにかしてこの屋上から出て行かせたいという気持ちの表れ。


「……先輩」


 風が僅かにそよぐ中、遼太は俺へ茶色の瞳を向けてくる。……何だか、普段の元気というものが見られない。いつもなら俺の顔見た途端に先輩先輩と尻尾振って纏わりつく癖に、今日は酷く憂いを帯びている。


「ちょっと……考え事を」


 そう言って直ぐに視線を戻してしまう。まるでその姿が俺に「邪魔だ」と言っているような気がしてならず、少し苛立つ。


「先輩は」


「あん?」


「先輩は、もし病気の子が元気になったら喜びますか?」


 背を向けながら、遼太は俺に意味の分からない問いかけを投げてきた。いや、言っていることの意味は分かる。だが、質問の意図が全く理解できない。何を当り前のことを聞いているのか。そう思うだけだった。


「そりゃ……喜ぶもんだろ」


「そう、ですよね……」


「まあ、嫌いな奴の具合が良くなったっていうんじゃ、喜ばねえけどよ……」


「そんなことありませんっ!」


 背中のまま、遼太は声を荒げた。思わずその初めて見る出来事に、吃驚する。

 今までで涼太がこんな声を上げた事などあっただろうか。不良に囲まれた時でさえ、恐怖で声を出せなかったというのに。幼い頃にその容姿のせいで女だ女だと苛められていた時だって、決して怒鳴り声など上げなかった。

 ……そう、客観的に見て、遼太はとても心優しい少年なんだろう。幼い容姿に宿った心は純粋で、何処までも真っ直ぐな。だから遼太は周りから好かれる対象であり、周りから構われる対象なのだ。

 嘗ては、遼太は孤児院にいたと、聞かされたことがあったことを思い出した。俺と遼太が知り合ったのは小学校の頃だから、良くは知らない。けれど何か事情があって、そんな施設に入れられたんだろう。懐の裕福な俺には、到底理解出来ない状況だ。路頭に迷うなんてことは姫桜家に居れば頭に過ることすらなく、俺が捨てられるなどという事も有り得ない。父より優秀な俺を、周りが手放す筈がない。

 ……孤児院という環境を得て、遼太は心優しい少年になったのかもしれない。きっと色々な人間がいたのだろう。それは良くも悪くも、色々。

 人の心が成長するにはあらゆることに対する経験が必要だ。中でも、人との触れ合いは効果的。人と人との触れ合いは、心というものを肉付けしていく。

 だからだろう。遼太の背中が、俺の目にでさえも真っ直ぐに映るのは。


「ごめんなさい。その……」


「まあ、良いから。さっさと――」


 肩を強引に掴み方向転換させ、鉄の扉の外へと放りこもうとぐいぐい押していく。たたらを踏みながらも、遼太は苦笑いを浮かべながら歩いて行く。

 ――唐突に、電話が鳴った。

 電子音により奏でられている一曲。それは、童謡だろうか。となれば当然俺の電話ではない。俺はメロディを設定しない主義だから。ということは――


「あ、僕ですね」


 そう言って慌てて遼太はポケットを漁り始めた。携帯を掴んだはいいが、拳を握っているせいで中々出せないらしく、もたもたしていた。相変わらず鈍臭い奴だ。これでは周りから同年代の男として扱われず、弟の感覚で扱われるのも納得がいく。

 十数秒経ってようやく取り出せたようだ。しかし何故か、オレンジの携帯のサブディスプレイを見て一瞬遼太の身体が凍りついた。その画面を見る表情は、遼太に似つかわしくなかった。


「……深邑ちゃん」


 呟いた遼太の顔は、あまり似つかわしくないものだった。遼太が電話に出ることに戸惑うような相手など誰なのか……と、深邑という名前を頭の中で探すが、思い当たる節は無かった。遼太の友達なのだろうか。……いや、それにしては遼太の表情に違和感を感じる。何故そう、思いつめた様な顔で見つめている。

 それの理由を考えるが、結局答えは浮かばなかった。

 遼太は一息置いてから、折りたたみ式の携帯を開いて、通話ボタンを押した。


「もしもし」


 少し沈んだ声で、遼太は電話に出た。正直興味のないことなのでこの場から離れようかとも思ったが、それは元も子もないと思い中断する。とにかく、遼太がこの屋上から出て行かなくて話にならない。


「……うん……うん……え? そうなの? あ、うん」


 何やら頻りに頷いている。という事は、相手は中々に活発な子だということだ。少し男らしさに欠ける遼太には、ある意味相性がいいのかも知れない。


「……うん、うん。……勿論行くよ――あ、そうだ」


 遼太は突然耳から携帯を外してこちらに振り向き、


「麗夜先輩もどうですか?」


「あ? 何が」


「深邑ちゃんの様子身に今日家に行くんですけど……どうですか? きっと喜ぶと思うんですけど……」


「いや……俺は忙しいからパス」


 というのは当然建前だ。そんな名前も知らないような奴の所で


昼飯でも食って来いよ」


 そう言って俺は遼太の腰を掴んで持ち上げる。ちょっと、なんて言いながら抵抗する涼太にお構いなしでぐんぐん扉へと運んでいく。


「あ、じゃあ麗夜先輩。一緒に食べましょうよ」


「莫迦。たまにはクラスの連中とでも食ってろよ。どうせ周りの女子に可愛がられてんだろ? 弟感覚で」


 な、と驚く涼太を強引に開けた扉の奥へと押し込み、重い鉄の扉を締めつけた。

 そのまま数秒、遼太が来ないように見張る。……よし、来ないだろう。

 そう判断すると俺は奥のベンチへと足を運ぶ。


『……意外と、優しいんですねぇ』


「あ? ちげえよ。あいつがいると邪魔だろ。お前と話すのに」


 そう言いながら、腰につけた銀時計を外して手に持つ。


『またまたぁ……』


 ……何だか、こいつの性格を大分掴んできた気がする。……明言しよう。多分、俺の嫌いな性格だ。


「良い。もう、めんどくせえ。……俺が話そうと思ったのは二つある。まずは、あの大剣を持った男のことだ」


『はい……』


「多分、先生が言っていた強盗があいつに間違いないと思う。刃渡り150センチなんてそうそう無いからな」


『そう、ですね……』


 こちらは幾らでも調べられるだろう。家に帰りインターネットにでも繋げれば、情報は簡単に手に入る筈。だからあいつのことは一先ずは置いておく。今ここでは何も出来ないから、考えていても仕方がない。

 それより、クレイの歯切れの悪さが俺は気になった。


「それで、もう一つ。……お前、【ブリスゲーデ】には、能力があるって言ってたよな?」


『……』


「答えろ。クレイ、お前の能力は何だ?」


『……嫌です』


「――ッ。……そうかよ」


 深い溜息を吐きながら、俺は懐中時計クレイを再び腰につける。クレイが頑なに戦いを拒否しているのはこれで再確認された。自分の能力を離さないのも、戦いたくないからだろう。

 きっとクレイはあの初めて会った時から、既に俺の趣向をおおよそ分かっているのだろう。俺の性格を理解しているのなら、その能力を知ったら使うに決まっている。だから教えない。戦いたくないから。――【ブリスゲーデ】の癖に。

 けれど、俺はそれでも構わないと思った。例えクレイが嫌がっていても、強制的に【実体化イディアライズ】してしまえば良いからだ――。




「――ザリチュは【実体化イディアライズ】出来ないの?」


 畳の床の上に置いたカップラーメンを箸で啜りながら、竜次は唐突に問いかけた。当のザリチュ――革のベルトの腕時計は腰掛けた竜次の隣に丁寧に置かれている。

 別に何か話に脈絡があったわけではない。というより、二人は竜次が問いかけるまで特に言葉を交わしてはいなかった。ただ何となく、ラーメンのスープから立ち昇る煙を見ていたら、竜次はそういう質問をしたくなっていたのだ。


『……? してるじゃねえか、【実体化イディアライズ】』


「あー、えっと、剣の方じゃなくてさ……人間の方の」


『あ、それか。……あー、それはな。俺は出来ないんだよ』


 ザリチュは歯切れ悪く言う。その言葉の声色には嫌気だったり諦めだったり、あまり前向きではない感情が籠められていたが、


「? どうして?」


 竜次は気にせず、更に質問を重ねていた。

 ……既に、竜次の中でザリチュという存在は大きいものとなっていた。たった二日。そんな極値的に短い期間だが、【ディヴィナ・マズルカ】という殺し合いのゲームを共に過ごすという異常な状況、そして竜次に降りかかっていた様々な不幸、それらが大きく竜次の心に影響を与えていて、一種の信頼にも似た感情を抱いていた。初めは、ザリチュからは脅しにも似た要求を迫られていた関係とは言え、ザリチュがいなければ竜次はこの狭い部屋の中一人なのだ。給料日前だから金がない。遠くにいる親族とも絶縁状態。頼る相手が、ろくに話す相手がいない中、例え異質な“友人”でも竜次にとっては大きな心の支えとなっていた。


『んー……そういうもんなんだよ』


「ふーん……残念だね」


『どうして?』


「だって、ザリチュも食べれば良かったのに。こんなにあるんだから」


 そう言って竜次は箸で後ろに広がる食料を鞄に詰め込み持ち帰った食糧の山。その構成内容はコンビニエンスストアに立ち並ぶ即席麺類やレトルト、ファーストフードの食品ばかりだが、いつも腹を空かせていた竜次にとっては御馳走の山であり、興奮するような状況なのだ。


『そうだな……』


 ザリチュは内心竜次のことを【安い男】と捉えていたが、せっかく築かれたこの有益な関係を崩そうなどとは思わず、それを口にすることはなかった。


「次はもっと高い所に襲いたいなぁ……寿司屋とか行けば高級な刺身が沢山手に入るのかなぁ〜」


 立ち昇る湯気を見ながら、竜次は下に広がる海産物の味を想像する。

 ……たった一日で、竜次はここまで変わっていた。死を恐れるという本質は変わらないものの、確実に殺すことが出来る一般人相手には、何処までも強気だった。空腹が続いた生活から、好きなだけ腹に物を入れられる状況になったからだろう。施設に襲撃することを初めは拒んでいた竜次だが、無傷でかつ確実に事を済ますことが出来ると分かってからは、酒に酔う人間のように、楽をして物を手に入れる快感に酔っていた。

 それはザリチュにとって良い傾向であると言える。要は参加者とかち合いさえしなければ、安全に確実に【魂】を喰う事が出来る。これはその実、最も確実に勝利の可能性を高める方法であった。【ディヴィナ・マズルカ】は【寿命】に強く依存する。【ブリスゲーデ】を実体化させるにも【寿命】が必要だ。他の参加者を責めるにも、自分の身を守るにも、寿命が必要不可欠となっている。

 だからザリチュは言う。


「……そうだな、竜次。次はもっと――派手に行こうぜ?」

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