聖女って守られる存在なんですか? そんなんで世界を救うとかウケるー!
聖女が強いとどうなるか?
「この子だ、この子こそ紛れもない聖女!」
ギルドで受けた仕事を終え、パーティーのメンバーと祝杯を上げていると、突然現れた高位の神官と思しきおじさん達に神殿に連れて行かれた。で、何だかゴチャゴチャ騒いでいるようだが、一体何だってのよ?
は、私が聖女? 手の甲の痣がその証? ちょw 私が聖女とかウケるんですけどー!
あ、私? 名前はリイナ、年は17歳。ただの平民どころか、両親の顔も知らない孤児院の育ちで、ギルドに登録できる12歳から冒険者として働いてる女の子よ。
冒険者は成績によるランク制。最初は10級からスタートして、ランクが上がるにつれ数字が小さくなってゆくシステムで、6級位になると一人前、3級より上くらいから一流の冒険者という扱いになるが、今の私は7級。言っとくけど、6級になれるのは成人する18歳からだから年齢的に上がれないだけで、実力的には3級でもおかしくないと言われてるよ。
その証拠に所属するパーティー「円月」はBランクパーティーだから。
えーと、パーティーはメンバー各自のランクの平均によって上からS,A,Bとなって、一番下がFだったかな? Sランクは伝説級の存在だから実質Bランクは上から二番目の実力なのよ。しかもホントはAランクのメンバー達なんだけど、私のランクが足を引っ張って平均したらBランクってだけ。でも私はクビにならず、むしろ必要不可欠と丁重に扱ってくれる。可愛いは正義! 違う、ホントに実力があるからなのよ。
私のジョブは軽戦士なんだけど、ちょっとだけ魔法も使える。聖魔法ってやつらしくて、メンバーの魔導師のお姉さんにちょっと教わっただけなんだけど、私が使うとアンデッドに効果チョーてきめん。そんなんだから、リーダーのクリストフが除霊とかアンデッド討伐の仕事をよく取ってくるんだよね。それらの仕事は達成率100%、おかげで冒険者の中では「浄化の円月」って呼ばれるほど。
もちろん報酬はきちんとみんなで等分してピンハネとかはされていない。むしろ私に出て行かれないように、そこはキチンとしている。
あー、それで何で私が聖女認定されたかだよね。この前、西の山でアンデッド討伐の仕事をしていたとき、なーんか気持ち悪い黒いモヤモヤが山を覆っていたんだけど、聖魔法でアンデッドを浄化していたら、そのモヤモヤも一緒に消えて無くなったんだよね。それがどうやら神官のオッサンが言っている聖女とやらの力に関係しているらしい。
モヤモヤの正体は瘴気と言うんだって。数十年に一回、大陸のいたるところで瘴気が大発生することがあって、コイツは人体には悪影響だし、モンスターの活動は活発になるしでロクなことがない代物。それを浄化するのが聖女という存在。聖女はいつ、どの国に生まれ落ちるか分からず、当代の聖女を保護した国は正に宝くじに当たったようなもの。
聖女は世界各地の瘴気を祓うべく活動するが、それは保護した国が他国に大きな貸しを作るということで、当分の間その国は各国に対して大きな影響力を行使できる。他国に貸し出して借りパクされる危険性があるっちゃあるが、そのためにも保護した国は聖女を守る役目の騎士様とか勇者様ってのを用意するらしい。というわけで、私も保護されるべく王宮に招かれるというのだが……
いらねえわ。
級が足りないから今はクエストを受託できないだけで、3級相当の実力があると言われている私は、その気になれば単独でのクエスト達成だって問題ない。それに円月のみんながいれば護衛とかいらないもん。特にクリストフなんか1級冒険者だよ。1級なんて国内で片手で足りる位の人数しかいない冒険者界の超エリートよ。中途半端な護衛を付けられるくらいなら、彼に付いていた方がよっぽど安全だわ。
は? 王子様や貴族の息子達が私の護衛に付く勇者? ボンボンにそんな役目が果たせるの? はあ……それぞれが剣や魔法の才能がある将来有望な若者ねえ……どうせそのうち王様とか大臣になる奴らなんだから、おとなしく勉強でもしていれば?
で、私はマナーを学ぶために学園に編入? 聖女って瘴気を祓うのが仕事でしょ。マナーを学ぶ時間があるなら、さっさと瘴気を祓いに行かせろよ。
「それで、暫くはパーティーを抜けると?」
神官の引き留めを振り払い、一旦パーティーの元へ戻った私は、神殿での経緯をみんなに話した。
「パーティーのメンバーには私から話をするから心配するなとか言って、有無を言わさずあの神官に王宮に連れて行かれるところだったよ。せめて直接話をして筋を通させろって強引に抜け出したけど、あの調子だと戻らなかったら、今度は騎士団あたりが出張ってきて拘束まがいの事をされるかもね」
私の話に頭を抱えるパーティーメンバー。
「リイナは前衛でも後衛でも使い勝手がいいからなあ」
そう嘆くのは重戦士のクレマン。盾役の彼の背後から飛び出して急襲するのは、私達の必勝パターン。
「なんだかなあって感じだな」
こちらは弓使いのマシュー。私の聖魔法によるバフを一番感謝してくれるのは彼。
「パーティーに女一人だと寂しいわね」
魔導師のセリア。私の魔法の師匠。孤児の私を、実の妹のように可愛がってくれる優しいお姉さん。
「おいおいセリア、俺達がいるじゃないか」
そしてリーダーの魔法戦士クリストフ。実力も超一流な上、クソイケメン。
「お呼びでないわ。女同士じゃないと話せないこともあるのよ。それに、リイナが抜けて一番寂しいのはアンタでしょ」
はいその通り、クリストフからの好意はひしひしと感じております。こんなクソイケメンに好意を寄せられれば悪い気はしません。むしろ嬉しいさ。なんだけどねえ……この男、女性には総じて優しい。しかも無意識にそれが出来るから街の女性達に大人気。街の女性達だけではない、貴族のそれもかなり位の高い家のお嬢様とか、はたまた王女様も狙っているという噂がある。
そんなのと勝負したって勝てるわけがない。こっちは一介の冒険者だ。同年代ではソコソコ稼ぎもいいが、クリストフだってそれ以上に稼いでいるわけで、あとは女子力ってやつ? 無いわー無いわー。サバイバル術とか生活の知恵とかなら負けないけど、女子力? なにそれ美味しいの? ですよ。
「保護されるのは百歩譲って仕方ないとして、なんで私が学園で学ばないといけないのよ」
「王子様とくっ付けるためじゃないか?」
マシューが言うには、聖女とは力の象徴。扱いに不満を持たれて出奔でもされれば一大事。保護した国は相応の処遇をするのが通例だとのこと。
「相応の処遇が王子妃ってこと?」
「一介の冒険者には身に余る光栄とでも思っているんだろ」
やだよそんなの。私がお妃様とか、悪い冗談でしかない。挨拶でごきげんようとか、扇子で口元隠して笑うとか、自分がそんなことすると考えただけで鳥肌が立つわ。
「とはいえ王命とあればギルドも止めようがない。さっさと瘴気を祓ってきて、早いとこ帰ってきてくれ。席は開けておくよ」
「でも王子妃にされちゃうんでしょ?」
「いくら聖女でも、マナーがなってないなら妃にはならんだろ」
「つまりマナー教育ブッチして、ちゃっちゃと瘴気を祓いに行けばいいと?」
「そういうこと」
仕方ない。行くか……
こうして私の聖女様生活が始まった。
◆
「聖女殿、よく来た」
翌日王宮に招かれた私は、早速王様に引き合わされ、護衛役の男達を紹介された。
えーと、第二王子と騎士団長の息子と宮廷魔導師の息子と、私の世話役になる大臣の娘エリザベートさん。男どもの名前は覚える必要なさそう。だって見るからに私より弱そうなんだもん。ガタイは悪くないけど、実力はまだまだってところね。
そして顔合わせもそこそこに済ませると、エリザベートさんの案内で私は学園の寄宿舎とやらに入った。
「こちらが聖女様のお部屋です」
なんだこれ? なんでベッドに屋根が付いてんの? しかも一人用の部屋にしてはデカすぎないか? 置いている調度品がキラキラしすぎて眩しいぞ!
「あの……エリザベートさん」
「聖女様、私はお仕えする身。さん付けは不要です」
「ではエリザベート、あーなんかやだな。ねぇ、リズと呼んでもいいかな?」
「聖女様の良いように」
ここまでリズは笑うことも怒ることも、一切顔色を変える気配も感じない。貴族のお嬢様の処世術で、相手に感情を悟らせないというのは聞いたことがあるが、年中こんな感じで対応されても平民の私には気持ち悪くて仕方ないので、本音で意見をぶつけてほしいと伝えます。
「リズ、あなたの本音を聞かせてほしいの」
「本音とは?」
「私の存在についてよ。平民の小娘が聖女様なんて御大層な名前で貴族の皆さんをかしずかせることについてね」
「何を仰せになるかと思えば……聖女様は国の宝。そのお世話を仰せつかるなど身に余る光栄」
一瞬だけ眉がピクッとしただけで、リズの表情は変わらない。
「じゃあ別の質問。私が学園に通う必要性は?」
「それは……聖女様ともなれば各国の要人ともお会いになりますので、一定の教養は身に付けて頂きたいと……」
「違うわよね。私をこの国で囲い込む算段をしているからよね。元々私は冒険者だったんだから、聖女の役目が瘴気を祓うというのなら、ギルドに依頼すればいいだけ。なぜ王宮で保護されるの? なぜ学園に通わなければいけないの?」
私は冒険者だ。依頼に見合う報酬額さえ出してくれれば、瘴気でもなんでも解決するように動くよ。
「私は貴族とかお妃の地位を望んではいない。望んでいないものを、さも私が求めているように思われているなら、リズにだけでもその誤解は解いておきたいの」
貴族が平民と同じ暮らしが出来ないように、平民が貴族の真似をする事も出来ない。慣れればなんてことないのかもしれないが、私はそれを望んでいない。
「貴族もそうかもしれないけれど、冒険者の世界も生き馬の目を抜く世界なの。学は無いけれど、貴女達が何を考えているかくらい察しは付くわ」
そう言うとリズは、平民の割に中々察しがいいのねと薄ら笑いを浮かべます。なるほど、これが彼女の本性か。
「貴女の想像通りよ。殿下やご令息達、って言っても難しいか。さっき会ったあの男達が、貴女の護衛に付いて瘴気を祓いに行く。その間に仲が深まって恋仲にでもなればという目論見よ」
そうなれば、私はその男と結婚して、一生この国に仕える身になってしまう。
「私が王子様とくっ付いたら、みなさん面白くないですよね」
「すでに不平不満が出ているわ」
聖女認定されたとはいえ、今の私は聖女としての実績ゼロ。小汚い平民の女が調子に乗ってくらいに見られているのは間違いないね。
「悪いけどアイツら連れて行くのはパス」
「どうして?」
「役に立たない」
瘴気を祓うのが最優先なら、元のパーティーメンバーと行った方がよっぽど効率的だ。リズは私が学園で学ぶ理由は、旅立つまでに彼らがレベルアップするための時間稼ぎでもあると言います。
「そんな悠長な。すでにあちこちで瘴気が発生してるんだよ」
「瘴気を祓うのが大事なのはよく分かっているわ。でも、貴族や国家には体面ってものがあるのよ。ギルドに任せきりというわけにはいかないのよ」
「めんどくせー」
とりあえず事情は分かった。暫くはおとなしく言われたとおりに生活しますよ。
「ただし、モタモタしているようなら勝手に祓いに行っちゃうから、お父さんによろしく言っておいてね」
貴女、監視役も務めているんでしょ?
「お見通しなのね。分かったわ、貴女の悪いようにはしないわ」
それから2ヶ月……何にもない。最初はただ寄宿舎と学園を往復するだけの生活を送る毎日。授業マジつらたん。勉強なんて孤児院にいた頃、手習い程度しかしてないもん。
まあ算術とか政治的な勉強は役に立つ。冒険者稼業でもそういう知識や技能は必要だから、いい機会なんでありがたく学ばせてもらってるが、マナーとかお茶の作法とか、あとダンスとか私にいる?
そんなヒマあるならさっさと旅に出せよと何度か申し出たが、もう少し待っての繰り返し。
護衛役達がまだ成長してないんだろうな。その証拠にアイツらときたら、毎日のように取っ替え引っ替えで遊びに行こうだの、お茶でもどうだと誘いに来る。
まあ私が美少女だから誘いたくなる気持ちは分かる。だけどお呼びじゃないんだよ。遊びに行く時間があるなら訓練してろよ。まったく……
お誘いは全て、マナー教育がまだ足りないし、他にも色々と学ばなくてはいけないことが多いからと、リズが窓口になって断っている。私が矢面に立たないので、これは非常にありがたい。彼女にはそのほかにも周りのお嬢様達が誤解しないように、私が彼らに何の興味も持っていないという話を広めてくれている。
おかげで最近はお嬢様達からお話ししたいとお誘いが来るようになり、マナーの足りないところはリズにフォローしてもらってる。彼女が言うには私の仕事は瘴気を祓うことにあり、余計な気遣いはさせたくないということだ。生まれた身分が違わなければ、彼女とはズッ友になれたかもしれない。
「ねえ、リズ」
「何? リイナ」
ある日の放課後、部屋に戻った私は瘴気の発生状況をリズに確認した。
「リイナには言うなと言われているけど……貴女のことだからこう言えば察するわよね」
「つまり状況が悪化しているということね」
教えないということは、私がその事を聞いたら今すぐにでも飛び出して行くと思っているからだ。
「さすがね。貴女の読み通り、国内のあちこちで瘴気の発生報告が上がってるわ。さらに言うと、国内のみならず他国でも発生報告が上がっているわ」
「アイツら何してんのよ、いい加減待てないわよ」
これにはリズも渋い顔だ。父の命とはいえ、処置出来るものを放置して民が苦しんでいるのを見て見ぬ振りをするのは辛いだろう。彼女はとても優秀で、この状況による損失や民衆の不満が高まっていることをよく理解している。
「アイツらはまだ旅に出られるほどのレベルにないわけ?」
「残念ながら」
「だったらさ、一つ提案があるんだけど」
王子達はあてにならない、でも瘴気は早く祓いたいと逡巡する彼女にお願いをしてみた。最初に会った頃の彼女なら絶対に聞かなかっただろうが、今では「リズ」「リイナ」と呼び合うほど仲良くなった。民衆の苦境を憂う彼女なら聞いてくれるはずだ。
◆
「リイナ、聖女を騙る不届き者め! 貴様が聖女でないことは明らか、大人しく罪に服するがいい!」
王宮に保護されてから半年ほど経った頃、この国を覆っていた瘴気は霧散し前と変わらぬ平穏な日々が戻っていた。そんな折、王子の誕生日パーティーとやらに招待されたんだが、その席で私が偽聖女だと断罪された。
「瘴気を祓う聖女との触れ込みで保護されておきながら、己の責務も果たさず無為の毎日を送っていたことが偽聖女の動かぬ証拠。我々を騙した罪は許し難い、よって死罪を申し渡す!」
おやおや、何を仰るうさぎさん。もといバカ王子。国内から瘴気が晴れたから私はお役御免ですか?
「瘴気が勝手に晴れるわけ無いじゃん。つーか、聖女として出動命令された覚えも無いんだけど? あたおか?」
「殿下に対して何という口の利き方!」
「死罪とか言われて大人しく出来るほどいい子ちゃんじゃないんでね。で、こっちの質問には答えてくれないわけ?」
「ふざけおって……」
「構わん。事情も分からず死罪となるのも不憫ゆえ、特別に教えてやろう。そなた学園をサボって、聖女としての務めも果たさず、どこか知らぬが遊び歩いていたであろう」
「は? 誰がサボっていたって? 国中あっちこっちを回って瘴気を祓いに行ってたんだわ。アンタ達が言う聖女様のお仕事としてね」
あの時リズにお願いしたのは私一人で瘴気を祓いに行くことを認めさせること。とりあえず近場の危険性の少ない場所から攻めて瘴気の拡大を抑えつつ、王子達の成長する時間を稼ぐ作戦だった。もとろんリズには反対された。いくら何でも一人では危険だと言う彼女の言葉は、野獣の跋扈する外の世界を伝聞でしか知らぬお嬢様なら当然の懸念だろう。だから実力を見せるため、ある人に協力をお願いしたわけよね。
「聖女様の申されること、私が同行しておりましたので、間違いありません」
申し出たのは騎士団長の娘テレーズ様。護衛役になるはずだった騎士団長の息子のお姉さんで、剣技には定評のあるこの方に協力をお願いした。
方法は簡単なもので、リズの前で彼女と手合わせをするだけ。最後は私が聖魔法のバフを使って押し切ったけど、剣の腕だけなら私と互角。この方を倒したことでリズに私の実力を認めさせ、テレーズ様に証人として同行してもらうことで、瘴気を祓いに行くことを大臣に認めさせた。
「アンタ達が強くなるの待ってたんだけどね。いつまで経ってもムリそうだから、国内の瘴気、全部祓いに行っちゃったよ」
待てど暮らせど王子達が強くなったという声は聞こえず、そのうちに私とテレーズ様だけで回れる範囲は網羅してしまった。残るはさすがにパーティーを組んで行かないとマズい危険地帯しか残っていない。
「そういうわけで、こちらの方々にお願いしましたー!」
私の案内でパーティー会場に入ってきた冒険者の一団。みなさんお分かりですね!
「ご存知の方も多いと思いますが、改めて紹介します。『浄化の円月』として有名なAランクパーティー、円月の皆さんです」
さすがに有名人。貴族の皆さんでもご存知の方が多いようで、会場がザワザワしています。時折、「あれ? 円月ってBランクじゃね?」という疑問の声が聞こえますが、それは後で説明するわ。
「な! 貴様、勝手なマネを!」
「アンタ達がいつまで経っても強くならないからいけないんでしょ! こんなんだったら最初から円月のみんなで行った方が早かったわ!」
役立たず呼ばわりされた王子達は口をパクパクさせております。
「せ、聖女は守られながら浄化をするものではないか! 何故一人で浄化に行けるのだ!」
「聖女が弱いって……御伽噺の読みすぎだ。瘴気の発生する所は大なり小なり危険が伴う。リイナみたいな単独行動はさすがに跳ねっ返り過ぎるとしても、いざという時に自分の身も守れないような弱っちい人間が浄化なんて出来るわけないだろうが」
王子の勝手な思い込みをぶった斬ったのはクリストフ。誰が跳ねっ返りじゃコラ。
「私、テレーズ様と一緒だから単独行動じゃねーし」
「似たようなもんだろ。言ってくれりゃ一緒に行ったのに」
「アンタと2人きりなんて聞かれたら、野獣じゃなくてそのへんのお嬢様に殺されそうだわ」
「つれないなあ」
そう言いながらもクリストフが私の肩を組もうとするので、「調子に乗んな」と伸びてきた腕をピシャッと払い除けます。
「なんだよ、折角仲良しアピールしようとしてんのに」
「この状況でそれ必要?」
「ま、ともかくだ、この国がリイナをいらないってんなら俺の祖国で引き取るわ。まだまだ他国では瘴気の発生が収まらない所も多い。勝手に処刑されては困るからな」
クリストフはそう言うと、私の腰に手を当て自分の方へ抱き寄せます。めげないな、このクソイケメン。お嬢様たちに睨まれるから払い除けたってのに……周囲の視線が痛いわ。
「勝手なことを!」
私達のやりとりをあっけにとられたように見ていた王子達ですが、クリストフの連れて行く発言で我に返ると、そうはさせじと命令を下し、宮廷魔導師の息子がこちらに火魔法で攻撃してきますが、クリストフが放つ障壁魔法であっさり打ち消されます。
「小癪な!」
次は騎士団長の息子です。抜剣して私に切りかかって来ますが、余裕でかわしてカウンター攻撃。
「マジで弱い。この半年間何をしていたのよ」
「なんで……7級冒険者のはずなのに……」
「ああ、この前まではね。今は3級よ」
そう言いながら新しくなった冒険者証をヒラヒラと見せつけます。私は先日18歳になったことで6級以上への昇格が出来るようになったので、早速ギルドへ申請に行ったら飛び級で3級になったのよ。それに伴ってパーティーもAランクに格上げ、というか元々Aランクだったから、元に戻ったと言うべきか。
「自分より弱い奴に護衛されるとか何の冗談よ。とりま修業し直せば?」
「なんだよこのインチキ聖女……」
「人のこと勝手に保護しておいて、インチキ聖女とはどう言うことだゴルァ!」
「皆の者、静まれ!」
王子達のおバカ行為に会場がザワつく中、王様が現れて騒ぎを鎮めます。王様にはリズ経由で私の行動を了承してもらってるんだよね。
「聖女よ、息子の不出来をお詫びする」
「あ、全然構いませんよ。ケガ一つしてないんで」
「国王陛下。この不始末、他国に知れれば一大事ですぞ。いかがなさるおつもりですか」
クリストフが王様に話しかけますが、そんなに気軽に声かけていいのか? 1級冒険者はその実力から、王侯貴族にも一目置かれる存在ではあるけど、王様を直接責めるとかマズいんじゃない?
「クリストフ王子、貴殿にも世話をかけた。聖女殿の身柄、貴国にお任せしてもよろしいか」
「こちらとしては願ったりです」
え? クリストフ……王子……?
「王子?」
「うん、王子だよ」
「聞いてなーい!」
「今聞いたじゃん」
「それは聞いたうちに入りませーん!」
クリストフ、ここから2つほど国境を越えた国の第三王子だってさ。聞いてねーし。
「なんで王子が冒険者してんのよ」
「修業と」
「と?」
「嫁探し」
なんで王子が旅に出て嫁探しする必要があるのさ? アンタの顔なら女なんか選び放題遊び放題でしょうに。
「修業はそろそろ切り上げようかなと思ってたんだけど、嫁探しが難航してね」
「王子の嫁なんかすぐに見つかるでしょ」
「俺が連れて行きたいと思った子がね、中々この国から出られそうになかったんだけどさ、ようやく連れて帰れそうなんだ」
「へぇ~」
「お前のことだからね」
へぇ~……はにゃ?
「私?」
「うん」
「嫁?」
「そう」
ムリムリムリムリムリ、無理ゲー。
「孤児院育ちの平民の冒険者を嫁にするとか、アンタもあたおかかよ」
「俺と結婚するの嫌か?」
「うーん、なしよりのあり」
「脈はあるんだ」
そりゃ、あれだけ一緒に旅すれば、多少は情もわくよ。だけど王子妃だけは勘弁。
「王子妃になれとは言わねえよ。向こうに行っても瘴気を祓うという今の生活は暫く変わんないよ」
「あ、そうっすか。じゃあもう暫くはお世話になるわ」
そんなんでクリストフの母国に引き取られた私と、円月のメンバーで各国の瘴気を祓う旅に出ました。
クリストフの手配で、あの不祥事は大事にはしないよう処理された。王子達はムカついたけど、リズやテレーズ様などお世話になった人がたくさんいるから、あの国が困ったことになるような事だけは避けるようにお願いしたんです。
王子達は責任取らされたみたい。はいちゃく? はっちゃく? なんかそんな言い方だったよ。
それから二年ほど世界各地を回り、瘴気は完全に消え去ったことで、ようやく私の聖女の役目も終わりました。
が……
「クリストフ、私言ったよね?」
「王子妃ではないだろ」
役目を終えクリストフの母国に戻りますと、彼は侯爵という位の貴族になりまして、結婚した私は侯爵夫人になっちまった。
結婚するのは旅をしているうちに決めました。クソイケメンにあれだけ好き好きアピールされては我慢できないよ。私も年頃の女だもん。たしかにさあ、王子妃は勘弁って言ったけど貴族の奥さんだって似たようなもんでしょ。無理ゲー。
でもさ、これ言われちゃったら断れないよね。
「聖女は守られる存在だって言うなら、お前より強い俺には守る権利があるよな!」
お読みいただきありがとうございました。
よろしかったら評価ポイント、感想是非お願いします。ただ、豆腐メンタルゆえ厳しいコメントはマジつらたんなのでお手柔らかに(笑)
よろしくお願いします!