第1話
西暦2000年 3月12日
アルマータ民国 ヴォフクス航空基地
戦没したバムラー級戦略原潜の〈ガムラー〉が配属されている第12戦略潜水群が母港としているヴォフクス港。ヴォフクス港に隣接して建設された一大航空基地ヴォフクス航空基地。
此処はヘリも攻撃機も戦闘機も輸送機も。ありとあらゆる航空機が配備されている。
今日もいつも通り仮想敵国であるバイブレータ連邦に対応した訓練を行なっている。
ゴォォォォォォッッッ
一筋の火線が後方に引かれながら、火線の主は飛び立っていった。
機種に長いカナード翼に面積の広い菱形翼、空気取り込み口は機体下に設置され、ステルス性を意識したエンジンノズル。そして、主翼より下の胴体横に設置されたジェットノズル。
アルマータ民国空軍主力マルチロール機『F−24ディバス』だった。
『F−24ディバス』で編成された第625飛行攻撃隊、通称ゴールドアドバンスはいつも通りの訓練を行う。
『ゴールドアドバンス01より各機。インド洋へ向かえ。』
隊長が無線を入れると部下達は一斉に機を散らせた。
インド洋上空
インド洋へ向かうゴールドアドバンスに続いてインド洋を既に飛行している機影が7。
漆黒の配色に包まれ、細長い後退翼と胴体。空気取り込み口は長方形で主翼上の胴体に取り付けられている。
垂直尾翼は2枚で外側に角度をつけていた。
その機の名は『F /A−84ゴバート』
基本的に攻撃機として運用され、格闘戦もある程度は可能なこの機の所属は垂直尾翼を見れば一目瞭然だ。
赤の下地にかぎ爪で引っ掻かれたような跡が3本。
紛れもなくバイブレータ連邦国旗だった。
『ビードル01より各機、憎きアルマータ民国へ鉄槌を下す。対レーダーミサイル発射。』
バシュュュ…バシュュュ…バシュュュ…
『F /A−84ゴバート』から放たれた対レーダーミサイルは一直線にヴォフクス航空基地のレーダーサイトは向かっていった。
薄白い白線を引きながら対レーダーミサイルは憎きアルマータ民国を潰さんと言う勢いで飛翔していく。
このまま、レーダーサイトが業火に包まれる…ほど甘くはなかった。
ガガガガガガガ…ガガガガガガガ…
突然、ヴォフクス航空基地から火線が放たれると対レーダーミサイルを横切った。
しかし、今度は火線が対レーダーミサイルを包み、爆発する。
ドォォォォ…ドォォォ…
その正体は地上型CIWSだった。
対レーダーミサイルとレーダーサイト付近に設置された地上型CIWSとの距離は9km。
有効射程の半径10kmに侵入していた対レーダーミサイルはレーダーサイトからの情報から迎撃をしていた。
タングステン弾がばら撒かれ、対レーダーミサイルを迎撃していった。
『CIWSか。迎撃ミサイルも出せん奴らに負ける訳がない。第2射、撃て。』
バシュュュ…バシュュュ…バシュュュ…
続けて対レーダーミサイルの第2射が発射された。
現在残存している対レーダーミサイルと第2射で発射した対レーダーミサイルを合わせれば計32発となり、地上型CIWSは計3基。
全てを迎撃出来る可能性は低い。
ガガガガガガガ…ガガガガガガガ…
しかし、可能性が低いだけで諦めるのはバカだけだ。
ドォォォ…ドォォォ…と迎撃が成功し、対レーダーミサイルが爆発していくが、全てを防げる訳はなかった。
ドォォォォォォォッッッッ!!!
ドォォォォォォォッッッッ!!!
レーダーサイトは木っ端微塵に吹き飛び、黒煙が包んだ。
もくもくと煙を上げ、付近のCIWSに引火し、爆発していく様子は空の目が消えた瞬間だった。
『レーダーサイト撃破。対地攻撃に移行する。』
『F /A−84ゴバート』の爆弾倉がゆっくりと開いた。
ウエポンベイからは悪魔がちらりと顔を覗かせた。
『ヴォフクス航空基地、飛行場上空到達。爆弾投下まで…3…2…1…投下。』
ヒュルルルルルルルルルルルル…
次々と燃料気化爆弾が投下され、爆弾が空を斬る不快音が響き渡った。
ドドドドドドォォォォォォォォォッッッッ!!!
巨大な黒煙と爆炎が織り混ざった大爆発が起こった。
ただでさえ威力の高い燃料気化爆弾を投下してしまえば飛行場のみならず周辺一帯を巻き込みながら爆発していく。
『爆撃成功。これより、帰投す…フレアッ!…』
ドォォォォ…ドォォォォォ…
ウエポンベイを閉め、機体を反転させ、帰投するその時、1機が火だるまに包まれると爆散した。
機体の残骸が黒煙を噴き出しながら落下。そこから見えた黒こげのコックピット。搭乗員の生死は言わずともわかるだろう。
『何処から来ている…!まさか、下か!』
ガガガガガガガ…ドォォォォッッ!
『F /A−84ゴバート』を爆散させ、発生した黒煙の中から現れたのは第625飛行攻撃隊だった。
『F−24ディバス』から放たれた30mm機関砲2門からの攻撃は爆撃直後の動きの重い『F /A−84ゴバート』を切り裂く。
レーダーサイトの破壊、飛行場の壊滅。
援護の要請を受けた第625飛行攻撃隊は目の前の惨状に驚愕していた。
『ヴォフクス航空基地が…なんと言うことだ…。』
既に壊滅したヴォフクス航空基地を横目に仲間の命を刈り取った悪魔に操縦桿を握る手は強くなる。
『おのれ…バイブレータ連邦め…畜生ッ!』
しかし、恨みを込めた一手は撒かれたフレアによって敵に届くことはなかった。
流石に『F /A−84ゴバート』もここでやられるわけがなかった。
すぐさま機体を倒し、小柄の『F−24ディバス』の後ろを取った。
『チェックメイトだ。』
バシュュュ…バシュュュ…
2発の空対空ミサイルは『F−24ディバス』に正確に誘導される。
チャフを撒き、ミサイルを撒こうとするが、引っかからなかった。
『…上昇スラスター起動!』
パイロットはコックピット左に設置された赤色の小さいバーを後ろに下げた。
ゴォォォォォォッッッッ
青く、太い筋が主翼下の胴体のジェットノズルから伸びると急激に上昇した。
本来命中する筈だった空対空ミサイルは『F−24ディバス』の真下に。
空対空ミサイルは上に軌道をずらそうとするが、『F−24ディバス』は出力を下げ、後ろへ後退していた。
『な!?たかがVTOL機がこのような芸当が出来るとは…ッ!』
ピーピーピーピー
ロックオンのアラートが鳴った。
『くそ!』
急いでチャフを撒くが、時既に遅し。
空対空ミサイルは既に発射されていた。
『チッ…ベイルアウト!』
撃墜されると判断したパイロットは機を捨て、脱出した。
『くくく…逃さねぇよ。』
撃墜したパイロットは気が狂っていた。
彼は初の実戦で新兵。ヴォフクス航空基地に配属され早2年。仲間も増え、上官下士官共に好かれる人間であった。
だが、今はどうだ。眼下には一瞬にして命を刈り取られ、遺体すら残らない。そんな事があってたまるか。
彼自身の拠り所を奪った敵に彼は容赦しなかった。
『し、死ねぇぇ!』
30mm機関砲が唸り、パラシュートを開いた敵パイロットに鉛玉が放たれた。
その様子に同僚は止めようと無線で説得したが、聞く耳を持たなかった。
「ま、待て…待て…うわぁぁぁぁ!」
脱出したパイロットは向かってくる『F−24ディバス』から放たれた火線に目を見開いた。
彼はパラシュートの向きを変えようと咄嗟に体をよじるが、無残に30mm機関砲の餌食になった。
30mmという大口径弾を受けた人体は原型を保たずにボロボロと肉片となって落ちていった。
『へへ…へへ…。』
敵を殺しても尚、気は治らなかった。
上空には黒い花が咲いていた。
今回の戦闘ではヴォフクス航空基地が壊滅。進攻してきたバイブレータ連邦飛行部隊は全滅。迎撃した第625飛行攻撃隊は2機墜落。
1名除隊。