クリスマスイブ 麻友へのプレゼント
12月24日金曜日……経理部も何となくソワソワしている。キーボードの音も、楽しげに聞こえる。
「智君、これ今日帰りに買ってきて」
目の前の五月が立ち上がって智也にメモを渡している。
「はい……って、多いな」
智也はちらっと麻友を見て
「麻友、一緒に買い出し行きません? 」
と、持ちかけてくる。
「そう言われるだろうと思ったよ」
苦笑しながら頷く。五月はそんなやり取りをニヤニヤ見つめた。
定時を待ちわびた社員が、一斉に帰り支度を始める。あちこちで楽しそうな笑い声が聞こえる。カップルにとって、きっと一年で一番輝く日なのだろう。麻友も荷物を片付ける。
「麻友は一度アパート帰るでしょ? 俺迎えに行くから、先に帰ってて良いよ」
「うーん……分かった、じゃあ後で」
麻友は言葉通り、アパートへと帰っていった。
「智君と麻友って、付き合ってるの? 」
五月が何気なく聞く。智也は少し間を置いて
「付き合っては、無いです」
「え、そうなの? 良い感じなのに。いつの間にか麻友って呼び捨てしてるからてっきり」
意外と言うように。五月は目を丸くした。
「告白はしたんだけど……答えを聞く前に」
「聞く前に? 」
「我慢出来なくて、先に手を出しちゃった」
真っ赤になりながら笑って、目を反らす。
「……っ! もう……」
五月も少し赤くなって、ため息をついた。最近の若い子はっ!
智也は麻友のアパートへ行く途中、前から目を付けていたジュエリーショップへ立ち寄った。何度も下見に来ているので、店員とも顔馴染みになってしまった。
「いらっしゃい」
「こんばんは」
にこにこして近付いてくる。
「やっぱり、これ下さい」
「ついに? 」
「はい、ついに」
店員の含んだ物言いが可笑しくて、苦笑いする。
「彼女さん、喜ばれますよ」
店員は白い手袋をはめながら、智也が選んだ商品をトレーに乗せる。数ヵ月前から悩んでいた。他の物も見て回ったが、やっぱり最終的にはこれが一番麻友に似合うと確信する。いきなりのプレゼント、喜んでくれるだろうか……
「お待たせしました」
細長い箱をクリーム色の上品な包装紙で包み、ゴールドのリボンがかけられている。嫌でも彼女の嬉しそうな顔を想像して、顔がにやけてしまう。
「ありがとうございます」
「素敵なイブをお過ごし下さい」
店員からそう言われ、店を出た。心なしか、アパートへの足取りも早くなる。
麻友が髪を緩めにアップし終えたタイミングで、玄関の呼び出しが鳴る。
「どうぞ」
智也を招き入れる。
「ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって。もうすぐ終わるから」
麻友はオレンジ色のワンピースを着ていた。緩く整えられた髪型も、とても似合っている。
「可愛い……」
思っていた言葉が思わず口から出てしまった。麻友は奥の部屋からコートを手に戻ってきた。智也を見てニコッと笑う。
「行こうか」
「あっ、ちょっと待って! 」
玄関に向かう麻友の肩を掴んで引き留める。そして持っていた紙袋を渡す。
「これ、クリスマスプレゼント」
「えっ、私に? 」
麻友は思いがけないプレゼントに戸惑いが隠せない。驚いたまま強引に押し付けられるプレゼントを受けとる。
「開けてみて? 」
「う、うん」
麻友はコートを一旦ソファーに置いて、プレゼントのリボンをほどいた。箱を開けると、すぐに笑顔がこぼれた。
「うわっ、可愛い! 」
ピンクゴールドのブレスウォッチだった。文字盤には色とりどりのスワロフスキーが施されている。色白の麻友の華奢な手首に、とても似合いそうだった。
「気に入った? 」
智也が聞くと、麻友は少し困った顔をした。
「うん、でも、こんな高価なもの貰うわけにはいかないよ。このお店、結構有名だよね? 」
「何回も通ってやっと今日買ったんだ。麻友に似合うと思って。だから遠慮しないで受け取って? 」
「うん、でもね……」
「着けさせて」
智也は麻友の左手を取り、ブレスウォッチを着けた。
「思った通りだ、麻友に良く似合ってる」
そして、そのまま智也はゆっくりとキスをする。
「んっ……」
智也は息を乱しながら唇を離し、改めて麻友を抱き締める。
「好きだよ、麻友」
愛しそうに囁く。智也は麻友をソフアに座らせ、キスをしながらゆっくりと自分の体重をかけ、麻友を押し倒す。
「髪がぐちゃぐちゃになっちゃうから……」
麻友が体を起こそうとすると、その手を握って囁く。
「もう、このまま二人きりで過ごそっか……」
智也の思い詰めた口調に、切なくなる。
「もう行かなくちゃ。プレゼント、ありがとう! とっても嬉しい! 」
と、明るく智也から離れる。名残惜しそうな表情をしていたが、麻友の後を追った。