表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/41

元カレとのキスの余韻と新たな恋の予感?

「この突き当たりが書庫……」

書庫までの廊下が、長く感じた。すれ違う社員の好奇の眼差しが痛い。

ドアの前に着き、鍵を開けドアノブに手を掛けた時、大介がすかさず言う。

「お前は無理に入らなくて良い。俺独りで行くから」

「え……? 」

「手、震えてる」

麻友はハッとして手を引っ込める。そして大介の方を見た。

「大丈夫だよ、一人じゃないし」

「ダメだと思ったら、言えよ? 」

「うん……」


麻友は書庫内をさらりと案内した。そして、段々と部長とやり取りした場所に近づく。ちょっと……息が……苦しいかも

説明が途切れ途切れになる。

「はぁ……はぁ……」

「麻友? 」

「……大、ちゃん……」

「おい? 」

「苦しい……かも……」

麻友の呼吸が乱れている。麻友は震えながら思わず大介にしがみつく。

「……こわい……死ん、じゃう……」

「麻友、大丈夫だから……落ち着いて」

「だ……いちゃん……はぁ……」

しがみつく手に力が入っている。ポロポロと涙がこぼれていた。かなり苦しそうだ……過呼吸? ビニールって、あるわけ無いか……どうしよう……麻友は苦しそうにしている。青ざめて来たか……息を整えてやらないと……

仕方ない。

「……麻友? ちょっとだけ、我慢しろ」

大介はいきなり麻友を壁に押し付け、両手で頬を包み込んでキスをした。

「んっ…! いやっ……こんな、時に……」

「黙れ、楽にしてやるから」

大介はそう言って、もう一度キスをした。麻友の口を塞いで、空気を吸い込みすぎるのを制御する。今はこれしか思い付かない。

(頼む、これで治まってくれ! )

「……ん……」

麻友は大介から離れようと力一杯抵抗したが、余りの苦しさに、大介に身を預けるしか無かった。抵抗するのをやめ大人しくなった時、大介は麻友を支えながら、その場に腰を下ろした。大介は言い聞かせていた、これは応急処置、恋人のキスでは無い……


麻友の呼吸が落ち着いて来る。 激しく息をしていた肩も、今は大介の呼吸とぴったりと合っている。

(もう、大丈夫か……)

大介は目を開けた。目の前で、目をつぶっている麻友の顔がある。涙で濡れたまつ毛、紅潮した頬。さっきまでの青ざめた感じでは無かった。

一度唇を離したが、大介は無意識にもう一度キスをした。それを受け入れている。麻友の小さな手が、大介の首を触る。

「ま、ゆ……」

大介が小さな声で切なそうに囁いた時、我に返った麻友は驚いて顔を背ける。

「あっ、ごめん」

「はぁ……はぁ……」

「麻友」

「あ、うん。ゴメン……あの……ありがとう」

大介を見上げ、少し笑った。ドキン……

「やっと、笑った」

再会してから、麻友は今までニコリともしていなかった。

「麻友……俺……」

大介は麻友を抱き締める。

「やっぱり、今でもお前が好きだ」


大介を見送り、事務所に戻る。少し頭がぼうっとしているのは、過呼吸のせいだけではなかった。

「お帰り」

環がパソコンから顔を上げた。

「大ちゃんは帰ったの? 」

「はい」

「顔色が悪いみたいだけど、何かあったの? 」

「いえ……あの、書庫で過呼吸になってしまって」

「え?!大丈夫だったの?!」

「あ! はい、その、坂井さんが……」

「……どうやって? 」

「えっと……その、口で……」

環は珍しく頬を赤らめて

「あ、そう言う事ねごめん、ごめん」

と、笑った。

「悪い別れ方でも無さそうね」

「……どうでしょう」

麻友は曖昧に答えた。


お昼過ぎ、智也が事務所に戻って来た。朝渡された紙袋を持って。環は休憩から戻って来ていない。

「竹内君、今朝はバタバタ射なくなってゴメンね。彼女にも悪い事しちゃったかなって」

麻友が素直に口にする。

「いや、あれは彼女じゃないですよっ! 前田千晶って言って、ただの同期です! 」

智也は全力で否定する。麻友の言葉に脱力し、ため息混じりに椅子に座りこんだ。麻友は引き出しからクッキーの包みを取り出す。

「あの、これ」

「俺は麻友さんが好きなんです! 」

2人の声が被った。


(あっぶなーい! )

ドアの前でノブから慌てて手を離す環。当然、智也の告白が聞こえていた。環は困った様な顔をした。

(竹ちゃん頑張ったんだけどねぇ……タイミングが悪い子なんだから……今日は、大ちゃんの事で、頭が一杯なのに……)


「あ、これ、金曜日のお詫びとお礼。今朝焼いたの」

麻友は淡々とクッキーを手渡す。智也は反射的にそれを受け取った。

「麻友さん、すいません、いきなり……」

勢いで告白してしまった自分にも驚いていた。

「でも、誤解されたくなくて」

「うん……私こそ勘違いしてゴメン……あの、ありがとう、でも……」

「いやいや! 即答なんてしてくれなくて良いです! 」

智也は麻友の言葉を遮る。

「これから俺頑張って、麻友さんにつり合う男になります。だから、返事はもう少し後で聞かせて下さい」

麻友はしばらく黙っていた。

「私にそんな価値は無いと思うんだけど……でも、分かった」

「良かったぁ」

智也は満面の笑みで麻友を見た。そして麻友の作ったクッキーを宝物のように開きまた、嬉しそうに笑った。


「誰も襲えなんて言ってないわよ」

恵はイライラした口調で、相田に言った。相田はタバコを燻らせ、ビールを飲む。

「そう怒るなよ。別にちょっと脅しただけ」

「警察が毎日見回りするなんて、生きた心地がしないわ」

「大丈夫だろ、生田君だって、まだ意識は戻ってない」

相田は恵の髪を撫でる。そしてタバコを消し恵にキスをする。

「そんなつまらない話、よそう。時間が勿体ない」

相田はそう言って、ベッドサイドのライトを消した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ