9話 やり残したことを片付けよう
「はぁぁぁぁ……こりゃすごいわ。あんなボロ家が一瞬にしてこうなっちまうなんて、そりゃイメージ出来んて。
それにしても…ずいぶんとまぁ立派な家だったんだなぁ。前に見た古民家ってもうちょっと新しいタイプだったけど…これほんと築何年なんだろうか? 今時茅葺屋根の家とか国の重要文化財指定物なんじゃないの?
この家の存在知ってた人ももちろんいるんだろうけど、ああも腐り落ちてたんじゃ撤去するにも大変だろうしほっとかれたんだろうな。
それと今日からは自分の家だし、何とか手出されないようにしたいんだけどこればっかりは魔法じゃどうしようもないしなぁ。人と交渉しなきゃいけない案件になるんだろうか…」
直したはいいがあまりにも立派すぎる古民家に今後どうしてけばいいか悩む。
神様のおかげでこの土地と建物は爺さん父さんから譲り受け、自分の物っていう扱いだから国がどうこうはできないはずだけど…流石に重要文化財になりそうな建物は交渉があるかもと思うと今から気が滅入ってしまった。
それにそんなことがなくてもあまりに立派すぎて、日本人的な思考の自分としては使うのに恐縮してしまうのも考え物だ。自分の家なのだし、堂々と胸を張って住めるはずなのだが傷つけるのが怖い…。
「まてよ? そういや神様の手紙は雨風にさらされてもびくともしない保全の力があるとかって書いてたな。魔法でも同じこといけるんじゃないか?
物体の時間を巻き戻せたんだ、時間を固定しとけば今の状態が保持されるはずだよな? 物は試し…今日何回これやってるんだか。とにかくやってみよう」
なんかの拍子に物が飛んできて家が傷つく前に(傷ついても元に戻せはするが)対処しておく方がいいと、早速時間に関する魔法を家にかける。
「家の中のものと家そのものに対し、永遠の守護を与えよ!」
イメージとしてはバリアーみたいなもので守られた家を想像し、言葉を言い終える。
見た目は変わらないがこれで魔法はしっかりかかっているはずだ。試そうにもそもそも傷つけるのに躊躇うから魔法をかけたのであって確認のしようがない…。こればかりはかかってくれていることを願う。
こうして、現状における最大の案件は無事片が付いた。
召喚魔法による衣食の調達。時間魔法で住むことが可能になり住居の心配も消えた。
住に関しては多少不便はあるだろうが、どちらかと言えば本拠点をこの世界で得たような感覚だ。
ここから町まで毎回行くには時間がかかりすぎるので、仮の生活空間のアパートなりなんなりを確保できれば、そこを拠点として使えるから今はこれで特に問題はないだろう。いざとなれば魔法で生活環境は整えられるはずだと。
「これでとりあえずの問題は片付いたからな。後は庭の周りの草を撤去して、土地の広さを確認。それが終わったら森を抜けて町まで下りなきゃな。どうせ森の中の使ってた道も草ぼうぼうなんだろうからそっちの撤去もか。
それでやっと調べものに取り掛かれるな。まずはここがどこなのかだけど…町に下りて地名見ればわかるだろ。
神様が言うには異世界の要素が入った世界だっていうし、文明がどうなってるかも調べなきゃだな。この家の様子を見るに荒廃まではしてないだろうけど、元居た世界より遅れてそうな気はするなぁ。まあ調べればわかるか」
とりあえずはこんなもんだろうと、何かほかに忘れてないか周りを見渡す
「あ…どうせならポンプのある所と石畳も何とかしておかなきゃだな。水は出せるとはいえあの手押しポンプはやってみたいし、石畳はこれから歩くところだからな、壊れたままでは不便だ」
思い出してよかったと早速直すことにする。
どちらも家をどうにかしたときよりはるかに楽なので先ほどの感覚でどちらも終わらせる。
「これで大丈夫かな? 石畳の先は後で草を何とかするときに一緒にやるか。
で、ポンプなんだが…後はこの部分を上げたり下げたりすれば水が出てくるのか? 一応導管の中まで新品に戻るよう直したはずだけど、底の部分に錆溜まってたりしたら吸い上げて取り除かないとな」
初めて使う手押しポンプを楽しみにしつつ、水が出るかの確認をする。
ぎっこんぎっこんと持ち手を動かしていると、吐き出し口から水が出てきた。思ってたより時間はかからなかった。元から使ってた状態に戻してあるのだからこうなるのは当然だが、意外と簡単に出たことに驚く。錆も交じってなかったし予想外に良い方向に裏切られている所為か、どうも達成感が薄い。
「とはいえポンプって意外と水出てくるもんなんだなぁ。やっぱ山だし水量は豊富なんかな? 昔はここから水運んでたんだよなぁ。蛇口ひねれば飲める水が出る水道のありがたみが分かるな」
ポンプを動かしても錆が出ないことを確認すると、転送でお茶が入っていたコップを出して出てきている水を入れ口元に運ぶ。飲めるはずだと意を決し口に含んでみる。
「ごくごく……ぷはぁー! やっぱ地下水だから冷たくてうまいな! 水魔法で出したやつは特に温度意識してなかったから常温だったけど、飲み水にするならポンプからのが断然いいな。
空きのペットボトル召喚して、この水を時間魔法で維持して転送魔法で保管しとけばいつでもこれ呑めるな。それともイメージはできるだろうから、水魔法でこの地下水のような水出して飲むのでも行けるか?」
地下水に満足した将一は、この水を飲用としてどうしようか考える。ついでに後で水魔法もう1回練習するかと心の中で決めておく。
ポンプも玄関前の石畳も直し終わった将一は、残った前庭以外の草むらをさっさと撤去するかと気張る。前庭はこんなもんだったが、そこ以外はどうなっているのか。少なくとも前庭から見える草むらはずっと続いているように見えるのだ…。
「……この作業体力は使わないけど流石にしばらくはやりたくはないな…。まあ収穫はあったからよかったんだけども…」
草むらの撤去作業をやっていた将一は、日が傾き結構暗くなる辺りで玄関前まで戻ってきた。
家の明かりはついておらず、周りには外灯すらないので日が暮れてからの作業はやめることにした。
一応魔法で辺りを照らす懐中電灯やランタンのような魔法も出来たのだが、石に躓いてこけてもあれだと今日は中断を決意。
玄関前まで来ると、召喚魔法でタオルを呼び出しそれで汗をぬぐう。使った後は水魔法でお湯を空中に出し、それを輪っか状に変形させると空中で固定。中に召喚魔法で呼んだ洗剤と今使ったタオルを入れて右へ左へと回転させる。
中に入っているタオルはさながら洗濯機の中でグルグルと回っている様を見せた。
「本当ならこの輪っか状に起伏があればそこでこすれて汚れが出やすいんだろうけど…土魔法と組み合わせれば行けるか? まあいいや、後は適当にすすいで干しとけば明日には乾くな。あー…どうせなら風魔法で温風あてればすぐに乾くか。後でやっとこう」
玄関先でタオルを洗濯しつつストレッチして歩き回った足の筋肉をほぐす。
タオルのお湯を数回変えて、洗剤の泡がタオルから出なくなったらそこでやめにした。
洗濯も終わり、いよいよ家の中に入ろうと玄関のドアに手をかける。最初開けたときはかなり力を使ったというのに、今ではそんな力をかけずとも簡単に開いた。
今日こちらに転生してからやっと落ち着くことができるかと、いろいろ終わらせた今、再び自宅に足を踏み入れた。