82話 人からの情報収集も大事だ
完全にダウンしてて前日なんも出来ませんでしたね。皆さんも暑さにはお気を付けて。
「ふぅ、流石にずっと資料見続けると目に来るなぁ…色々覚えなくちゃいけないし頭も痛くなってくるわ」
休憩がてらトイレに行ったり外の空気を吸ってきたりと、気分をリフレッシュしてから資料室に戻ってくる。
モンスターリストをずっと見続けある程度は情報を仕入れたが、まだまだ見てない部分は多い。流石に1体1体見ていくのは大変だった。
「石田さん、お疲れ様です。どうですか? 調べ物ははかどっていますでしょうか?」
「成田さん、お疲れ様です。
とりあえずは洞窟エリアに出てくるモンスターの情報収集してますけど大変ですねぇ…まさかこんなにも多くのモンスターがいるとは思いもしませんでした」
パソコン前に座って、また調べるかぁと思っていたところに成田さんが声をかけてきた。なんか用かな?
「1層から10層までだいぶありますから。それに地下とはいえかなり広いですからね…。いろんなところにモンスターが沸きますし、倒しても倒してもキリがありません」
「私たち人としてはその素材や魔石を利用していますから、恩恵もきちんとあるんですけどね…。とはいえ、こうも次々とモンスターが出てきては厄介ですよねぇ。中には凶悪なのもいるみたいですし」
「ええ…。もし湧いたモンスターが新種だとすれば何の情報もなしでの戦闘になってしまいますからね。今までそれで幾人もの探索者の方々が亡くなった事か…」
ここで情報の管理をしているだけにそういう話もよく聞くのだろう。成田さん達がここで情報の更新をしていてくれるからこそ、初見のモンスターが出たとしてもこうして情報が知れるのだと思うと頭が下がる思いだ。
「新種のモンスターに鉢合わせてしまうのはしょうがないですよ。ダンジョンの行動は全く読めませんからね。
こう言っては何ですが、運が悪かったとしか…」
「ですね…私たちに出来ることはこうやって情報をまとめ、ダンジョンに潜る方々のお手伝いが限度ですから。後は探索者の方々の努力に期待するしかないですね。
っと、そういえば要件を忘れていました。もしよろしければ質問に答える人員をご紹介いたしましょうか? いくら資料を見ても疑問に思う事もあるでしょう。実際にダンジョンに潜った経験がある者をご紹介できますよ?」
成田さんからの提案は正直だいぶありがたかった。実際文字でこうして知ることが出来ても疑問はどんどん出てきた。その疑問に答えてくれる人をつけてくれるというなら大変好都合だ。
「それはありがたいですね。実は調べれば調べるほど気になる事ばかりでして。疑問に答えてくれる人がいるならば今よりだいぶ調べやすくなりますよ。しかしいいんですか? 個人に1人に付けるとかこちらは大助かりではあるんですが…」
「3年コースの特典とでも考えていただければ。それに実際そういう教師役みたいなことは実地していますので。3人とか5人に対して1人の回答役といった感じに。
それと見た事あるかはわかりませんが…ダンジョンに入る者に付いて行ってダンジョンを案内するような事もしているのですよ。まぁ、そちらは有償ですが…」
「あー…ダンジョン前に軍の方が居られた場面は見た事がありますね。あれはそういう事だったんですかね?」
軍の人がダンジョンに入るというなら組織立って、それなりの人数纏まってだと思っていたから変だとは思っていた。あの時の人達はそういう役をこなしていた人たちだったのだろうか?
「私達軍がダンジョンに潜るとなればそういった事情があります。
ですので、こうした探索者の方達へ人員を提供するという事は珍しいことではありません。
それに今回のような質問に答えるだけとなれば、ダンジョンに同行するようなことと比べても楽な方ですので。
意外と声をかければ自分が! と、名乗り出る者がいるのですよ」
「へー、そういう事ならばお願いしたいですね。これで調べる効率も上がりますよ」
「それでは少し連絡をしてきますので少々お待ちください」
そう言うと成田さんは部屋を出ていった。5階に軍の人がまとまっている階があるのでそこに行ったのだろう。
(1対1で質問に答えてくれる人がいるのはありがたいよな。軍の人が1人に付いてくれるとか3年コースのメリットいいじゃん。質問攻めにならないようにはしたいがこればかりは無理だろうなぁ…)
3年コースにした恩恵をさっそく感じられてうれしく思えた。マンツーマンならば気になったところはすぐに聞くことが出来る。
問題としては質問がありすぎるという点で、調べる時間より質問する時間の方が長くなるんじゃないかという事だ。
事前に情報を仕入れておいて気になった事だけ聞いた方がいいのかもしれない…。
しばらくどういった質問をしようかと考えていると、成田さんが1人の男性を連れて戻ってきた。
「お待たせしました。こちらが石田さんの質問を聞いてくれる方になります」
「どうもどうも、3年コースを契約をしてくださったんですって? 久しぶりですねぇ…ここ最近、全くその契約してくれる人居なかったんですよ。
あ、自己紹介が先ですね。私臼田と申します、よろしくお願いしますね」
「初めまして。石田といいます。いろいろ教えてもらうことになるかと。こちらこそよろしくお願いします」
臼田さん手を差し出してきたので、こちらも手を出して握手し合う。
何か雰囲気が軍の人って感じがしないんだがこんなもんなのだろうか? 軍人さんの雰囲気とかよくわからんが、部署が人事とか広報ではないよな? 現役でダンジョン潜ってる前線組なんだよね?
軍人さんのイメージとしてはなんか違い、握手しながら戸惑ってしまった。
「さてと…それでは早速やっていきましょうか。
石田さん、質問がありましたら聞いてくださいね。私は隣のパソコンで情報でも見ながらお待ちしてますよ」
「あ、それでしたらモンスターについてご質問が…」
とりあえず調べたモンスターについて聞いていくことにする。今まで調べた中でも聞いてみたいことはいっぱいあるのだ。
「おや? もう質問するべき内容は決まってたんですね。ではお伺いするとしましょうか」
「それでは私はこれで。臼田さん、後のことはよろしくお願いします」
成田さんの言葉にはいはいと、返事を返す臼田さん。軍人さん同士でもこの感じ…臼田さんって意外と高階級の人だったり?
「さて…ではお聞きしましょうか」
「ああ…はい。まずは…これからかな。
臼田さんの体感で良いのですけど、洞窟のモンスターで要注意しなければいけないモンスターTOP10を教えてもらえませんか?」
「要注意モンスターを10体ですか、そうですねぇ…。甲乙つけがたい所ですが…まず1体目はタイラントスネーク系を模したリキッドメタルゴーレムですかね」
「スネーク…蛇ですか? それのリキッドメタルゴーレム…」
そいつは見てないなとパソコンでその名を探してみる。臼田さんに聞きながらスクロールさせていると、やっとその名前を見つけた。
「こいつですか?」
「ええ、そいつですね。発見してから討伐されたという報告は未だに聞きませんね」
臼田さんの話を聞きながら名前をクリックしてみる。
『リキッドメタルゴーレム(タイラントスネーク):ゴーレム型モンスター。体長不明。全身銀色に鈍く光るタイラントスネークを模したモンスター。
はっきり言って詳細は不明。生きて帰った目撃者の話では調べる余裕などなかったという事だ。
タイラントスネークを模している為か、非常に動きが素早い。自分が生きているのは、他の仲間が自分より後ろにいたからという事だ。やばいと思った瞬間には逃げたので、何もわからなかったそうだ。
正直書くことが何もないほどデータがない。魔法も不明。攻撃手段も不明。対処法も現在なし。見かけたら全力で逃げるのがいいだろう。』
「ほぼわかっていることがないと?」
「そうなりますね。生きて帰った1人の証言しかないんですよ。それも遠目で見たのとリキッドメタル…つまりは液体金属製って事しかわかりません」
その言葉を聞いた瞬間、将一は2重の意味でやべぇ…と感じた。
1つ目は情報のなさ。これだけダンジョンに潜っていて、見た事あるのが1人だけという事はないだろう。つまり見たものは全員生きて帰れなかったのだ。遭遇してからの生存率が絶望的なモンスターなわけだ。
2つ目は、自分のゴーレムがいわゆるリキッドメタルゴーレムって奴なんじゃね? と。人間側のゴーレムなので安全ではあるのだが、未だに情報不明のモンスターと同種の存在に知らず知らずのうちにしてしまったことだ。
これは自分のゴーレム連れてきて大丈夫なのかと、不安で仕方がなかった。
「…ちなみにリキッドゴーレムっていうのはどのぐらいいるんですかね? その…模した状態ってのは? それと討伐数とか…」
「小さいのなら討伐記録はありますねぇ。モンスターリストに模した状態の名前で載っているでしょう? その中のいくつかが討伐されているはずですよ」
「つまりそれ以外はまだだと?」
「そうなりますねぇ…。相手の性質上、倒しきるのが非常に困難な相手なわけです。他のゴーレムと違って、少しずつ削るというわけにもいきませんからねぇ。硬いモンスターよりよほど厄介な相手です…」
これはゴーレム作り直しかぁ? と、思わされる話だった。
何とはなしに液体金属で作っちまったが、そんなのを連れていけば間違いなく目を付けられかねん事態になる…。
まさかの質問1発目でとんでもないことを知るはめになってしまったと、幸先悪い質問なのか良かった質問なのか…何とも頭の痛いことだ。




