765話 ダンジョン4層(PT) 見張り中の会話
「それではお先に休ませてもらいます。時間が来たら起こしてください」
「わかりました」
「しっかり寝ておけよ」
そう言って浜田さん達見張りが後の組が寝床へと歩いて行く。最初は自分と深田さんが担当だ。
「それじゃあ俺達も先に休ませてもらうわ。見張りよろしく」
「何かあったら寝ていても起こすからそのつもりでね」
「武器を取る時間は稼いでやるからよ」
「まぁ、何事も無いのが1番だけどね。皆時間までゆっくり休んで」
太一さん達のPTからは竹田さんと誠さんと門田さんが見張り役として残った。3人の言葉に頷くと休む組みは寝床の側に武器を置きこちらに手を振る。寝起きの戦闘はきついだろうし出来れば門田さんの言う通り何事も起きなければいいんだけどね。
全員が寝床へ入って行くのを見届けると最初の見張り役である自分達は離れた所にある焚火へ集まり暖を取る。
今が9時頃なので12時までが自分達の担当だ。明日の6時まで3時間交代で見張りをする事になっている。
「ともかく3時間だ。俺達に任された時間で何事も起きない事を祈るとしよう」
「そうですね」
「やっぱりこの時間はいつも緊張するわね」
「それでも以前よりはだいぶマシだろ。咄嗟の戦力確保にゴーレム達が使えるんだし」
「ほんとにね。正直見張りの時はだいぶ助かってるよ」
門田さんのその言葉に全員が休憩所内に配置したゴーレムへと視線を向ける。出せるゴーレムは全部出してるしなんなら数も人より多いぐらいだ。太一さん達のゴーレムも混じってるしな。
「これだけ出していれば戦力には事欠かないですよね。寝床前も盾持ちゴーレムがしっかりと守ってますし」
「わかってはいた事だがこれだけゴーレムが揃うと壮観だな。休憩所内が狭く感じる程だ」
「自分達の出番は無いかもですね」
「そいつは何よりだがな」
焚火に掛けていたポットからお湯をコップへと注ぎつつ深田さんとそう声を交わす。見張りの出番が無い事に越したことはないよな。
各自自由に飲み物を用意しつつ休憩所内を見渡す。そうなると良いわよねぇ……と竹田さんが小さく呟いた。
夕飯から数時間。あれから適当に話をしつつ朝までの予定を決めると就寝時間となった。明日も早いという事なので夕食後に用意しておいた風呂を順番に済ませる。やはりこれが有ると無いのとでは1日の疲れの取れも大きく違ってくるよな。
寝床を拡張し休む準備も整えた。見張りのゴーレムも全て出したし休憩所へと続く出入り口の壁も両方問題無し。就寝の心配はおそらく無いだろう。
見張りの順番を決めてる際に最初を選択した。やはり後で起こされ見張りをするよりも先の方が自分としてはゆっくり寝られるしすんなりと決まって助かった。12時まで起きてるのもそこまで苦じゃないしね。
そうして今に至る。
「……そう言えば聞くのを忘れてました。深田さん」
「ん? どうかしたか?」
飲み物を飲みリラックスしている深田さんへ声を掛ける。他にも話す事がいっぱいあったしわかっていた事だからと後回しにしていた話を問いかける。
「結局探索してきた成果ってどうでしたか? なんだんかで今まで聞くの忘れてました」
「ああ……成果な。まぁ、俺達もいつ聞かれるかと思っていたが聞いてこなかったし言うのを忘れてた。
石田さんの目には俺達が何か持ち帰ってきたように見えるか?」
「特にこれと言っては。出て行った時との違いと言えば門田さん達ぐらいなものですね」
「そう言う事だな。つまり成果無しだ……」
ふぅ……と溜息を口にする深田さん。遠見で見てたから知ってるけどね。渡したマジックアイテムは無事戻って来たしマイナスじゃないだけマシと思えば良いのかな。
「やはりこの辺りは厳しいな。門田さん達とは違う別のPTとも宝箱への道ですれ違ったりもした」
「帰還陣に近づいてますもんね。ここから先はやっぱり期待薄ですか」
「そうなるなぁ……」
再び溜息を口にする深田さん。この分だと明日もう1度確認に向かったとしても見つかる可能性は低いか……。
同じくこちらも溜息を吐く。やはり宝箱を探すのであれば人が少ない外周の方が期待できるだろう。その分広いし探す範囲はどうしても時間がかかってしまうが。
「ここからは運が良ければって所ですかね。そう言えば門田さん達はどうです? 何か新しいマジックアイテムって手に入りましたか?」
「そうだね。石田さんと探索に行った後で手に入れたのは2つかな?」
「おっ? 何か見つけましたか?」
「ああ、1つはこいつだな」
そう言って誠さんが自分の荷物から物を取り出す。リュックに仕舞える大きさの物らしい。
「結構なレアものだぜ。まぁ、物自体はそう珍しくないんだけどな」
「どれどれ……。あ、これって怪力の?」
「そうよ」
「このマジックアイテム自体はそこまで珍しいってわけじゃ無いね。でも効果の方はというと……」
「あっ!? 1tって書いてある!」
「そう言う事だ」
誠さんが見せてくれた怪力の手袋の甲の部分に書いてある数字は何と1tだった。確かにこれはレアものだろう。
「元々見つかってるマジックアイテムの強化版が出てるってのは聞いてたが俺達もそれを見つけられたってわけだ。この数字を見た時は驚いたっけか」
「まさかの品だったものね。見た目は普通の怪力の手袋だし」
「この数字の怪力の手袋を持ってるPTは結構限られるだろうねぇ。なんにしてもラッキーだったよ」
「俺が持っているのも400とそれなりに良い奴だと思ったが1tはなぁ……軍でも今どのぐらい手に入れてるか」
「強化版ってなるとやはり見つかってる数は少ないですよね」
「そうなるな」
軍に居た深田さんも強化版の怪力の手袋は初めて見たらしい。それぐらいレアものと言うわけだ。誠さん達の顔も良い物を見つけられたととてもいい笑顔だ。
「もう1つは光さんが使ってるんだが疾風の弓って奴だ。知ってるか?」
「あー……確か他にも誰かそれを持ってたような。ああ、緑さんだ」
小田さんの下の妹さんの緑さんが確かその疾風の弓というのを使っていたはずだ。しっかり見せてもらった事は無いがそんな話を以前聞いた気がする。
「ああ、緑さんが同じ奴を使ってたか。そいつも結構便利なんだぜ、矢の射程が抜群に伸びるからな。しかも矢の速度も上がるっていう」
「スナイパーライフルみたいに遠くから狙えるのは便利だよね。しかも矢だから銃みたいに大きな音も出ないし。
曲射が出来ないのはデメリットかもしれないけれど元からそれで当てられるかって言うとね……。元々光さんはボウガンを使ってたから曲射も苦手だったし」
「曲射を当てられるってかなり先読み出来ないと無理よ……」
「まぁな。当てやすさで言えば直射の方がかなりやり易いだろう」
「使う場所も限定されますしね。天井がある洞窟エリアだと曲射を使える方が少ないですし良いんじゃないですか」
「つーことでデメリットもあんまりデメリットってわけでもないしな。ボウガンよりも使いやすいって喜んでたっけ」
「弓自体も軽いしね。力が弱くてもしっかり弦を引けるのが疾風の弓の良い所よね」
「今じゃPTの中で一番射程があるんじゃないかな。なんにしても助かってるよ」
もう1つの疾風の弓についても3人共良い物が手に入ったとホクホク顔だ。
超長距離担当が1人居るというのは何かと便利だろう。広場ではモンスターの射程外から狙ってるらしい。射程があれば空中のモンスターにも攻撃が届くし飛行班の援護も今までより行えるだろう。飛行班の竹田さんも頷いている。まぁ、通路だとあまり長射程も活きないけどさ。
「俺達が手に入れたのはそんな感じだな。むしろ石田さんの手に入れたマジックアイテムに俺達が驚かされたほどだ。深田さん達が持ってたマジックアイテムの多くが石田さんの奴だって聞いたぜ? いくつか俺達が聞いてないのもあったしさ」
「こっちもこっちで探索してましたからね。いろいろ手に入って自分も助かってます」
「あのフライングランスとか飛びながらも使えるし結構便利そうよね。まぁ、飛ばすだけで槍を振るとかは私出来ないんだけどね」
「持たなくてもいいし実際に振らなくてもいいんじゃないかな。ともかくいろいろ持ってるんだなぁって石田さんには改めて驚かされたね」
「自分で使わないのも多いけどね。数だけはそれなりに増えたかな」
「今回の魔石車でもう1つ追加だからな。羨ましい事だ」
全員に頷かれ苦笑いを浮かべる。見せてない物も含めればまだ持っているしやはりこの量は驚かれるか。
自分で増やしたのもあるがだいたいは通路で偶然見つけた物だからなぁ。見つけやすいよう宝箱を設置するゴーレムを置いていった甲斐はあったといった事だろうか。見つかっているマジックアイテムのいくつかはゴーレムが置いた物かもな。
そんな感じで見張り中マジックアイテム談義等を皆と交わし合う。自分達の他にもいろんなPTが見つけたマジックアイテムの話をしてたりするそうなのでマジックアイテムは順調に広まっているようだ。そう言った話を聞き更に周りのマジックアイテム探しに火が付いているのだとか。
順調ではあるが今では火が付き過ぎたと人の集まり具合を見てそう思わざるを得なかった。このダンジョン1つで吸収出来る人の量じゃないからな。
皆の話を聞きつつこうなった要因の1人としては苦笑いを浮かべるしかなかった。状況としては良い方向だと思うんだけどこうまですごい事になるとは当時考えもしなかったよなぁ……。




