763話 ダンジョン4層(PT) 一緒に夕飯はどうですか?
「石田さーん、ただいま戻りましたー」
「お疲れ様でーす」
休憩所に戻って来た浜田さん達の声に答える。こちらもやることはほぼ終わっているので後は浜田さん達待ちだった。
「あれ? 石田さん?」
「んん? 太一さんじゃないですか、それに皆さんも。浜田さん、これはいったい……?」
浜田さん達の後ろに続き見覚えのある人達が休憩所へ顔を見せる。門田さんや澄田さんもこちら気づきぺこりとお辞儀をしてきた。
「道中でお会いしまして。石田さんのお知り合いでしたか?」
「ええ。一緒に探索をしに行った事もあります」
「なるほど……。
宝箱巡りの最中近くの通路で鉢会わせてな。どうやら彼等も目的は自分達と同じらしい。丁度俺達もここへ戻る時に出会ったのもあってそれから一緒になったという感じだ」
「夕食もまだと言うからついでに休憩所へ行くかと誘ってな。こっちの準備も丁度いい感じか。戻って来てすぐ食べられる用意が出来てるというのはやはり助かるな」
「装備を外して椅子にでも腰かけててください。昼と似たような物になっちゃいますけど夕食の方はいつでも始められるので」
「それではまず装備だけ外させてもらいます。そうしたら私達もてつだいますので」
「了解です。あっちに手洗い場とかも作ったので使ってください」
そう言って浜田さん達に手洗い場を指差しまずはそこへと伝える。隣には湯船も作ってあり後で入る準備も整っている。太一さん達も居るとなると少し拡張した方が良いかな?
移動をして来て疲れたであろう浜田さん達の後姿を眺めつつ早速夕食の準備に取り掛かろうと火の前にやって来た。そしてこちらの話がひとまず終わったといった所で太一さん達が話しかけて来た。
「久しぶり。いやー、まさかダンジョン内でこうして会う事になるなんてな」
「全くです。太一さん達の方は順調ですか?」
「まぁ、ぼちぼちってところかな」
笑いながら可もなく不可もなくといった感じで答える太一さん。集まって来た他の皆も似たりよったりといった顔だ。
「浜田さんが言ってましたけど皆さん夕食まだなんですよね? どうせなら一緒します? 人手の多い方が助かりますしね」
「こっちとしては逆に願ったり叶ったりって所だ。やる事があるんなら俺達も手伝うぞ」
「火の用意なんかは終わってるんだね。串に材料も刺さってるし後は調理するだけって所か。フライヤーもあるんだ……こっちも後は粉を付けるだけかな」
誠さんと門田さんは準備の終わっている焼台や材料を見ながらバーベキューに揚げ物かと頬を緩ませる。ダンジョン内での食事として見れば十分すぎる内容だ。
「私達も装備とかを置いたら調理するの手伝いに来るわね。食べながら聞きたい事とかもあるし……」
「自分もそうですねぇ。ひとまず食べて落ち着いた頃にでも話をするとしましょうか」
そう言って口を開いた竹田さんの視線は休憩所の中央にある作りかけのゴーレムへと向いた。まぁ、入って来た時から皆チラチラとあれ見てたもんな。上に乗ってる物も含めそりゃ気になるよね。
先に始めておくので気にせず身だしなみを整えてきてくれと太一さん達を送り出す。とりあえず肉に粉付けるか。
揚げる準備をしながら全員が来る前の事を思い返す。太一さん達が居る事に不思議がっていたはいたが実は遠見で見て既に知っていたのだ。その時は本当にびっくりしてたけどな。まさか居るとは思わなかった。
途中から浜田さん達と行動を一緒にしていたのもわかっていたしその後こうなるかもと人数が増えることを前提に準備も進めていた。明日の分も考え多めに準備をしていたと言えば不思議がられる事も無いだろう。
実際ゴーレムが起動するまではここに居る事になるし朝昼と休憩所に止まる事が確定している。時間が空いているのであれば準備しておいて損をするという事はあるまい。
人数が増えた分調理する食材も増えはしたが肉に関してはむしろそれでも余るほどあるので食材不足という事にはならないだろう。どちらかといえば野菜がやはり不足している。明日の昼は肉のみかもしれない。
串を焼台にセットしつつ食材に衣を付け油の温度の確認を済ませる。もう揚げ始めても大丈夫だろう。
「そう言えば太一さん達の方はなんか使える食材を持ってるかな? あればちょっと分けてもらうのも有りか」
太一さん達も駒持ちとゴーレムを所持しているPTの1つだ。物資に関しては他の駒を持っていないPTよりも期待出来るはず。
「お待たせしました。私達もお手伝いします」
「あ、それじゃあ焼き具合の確認をお願いします。それと皿や箸はそこにありますから好きに使ってください」
先に戻って来た浜田さん達が了解したと焼台の前に腰を下ろす。塩胡椒等の味付けも任せるとしよう。
一緒に火にかけているポットからお湯を注ぎ飲み物を用意しつつ焼き加減を確認する浜田さん達。やはり移動して来たのもあってかお腹もいい具合に減っているようだ。
「お待たせ、僕達も手伝うよ」
「よろしくお願いします。あ、門田さん。門田さん達ってなんか野菜持ってないですか? 有れば頂けると助かるんですけど……」
「ああ、食材の提供ね。光一、食材を持ってるゴーレム出してもらっていい?」
「わかりました」
戻って来た門田さんに食材の確認を行う。澄田さんが物資用のゴーレムを管理しているらしくゴーレムを出し食材を取り出す。これで明日の昼も肉のみは回避されたかな?
切ったりはされてないようなので調理をしている横で追加分を用意し始める門田さん達。続けてやって来た太一さん達もそちらの手伝いに加わり始めた。
「串焼きの方が焼けてきましたよ。一旦手を止めて食べ始めませんか」
「揚げ物の方もそろそろOKですかね。それじゃあそうしましょうか」
『さんせ~い!』
しばらくして食事の方も準備が整い、それぞれ箸や器を手にテーブル代わりの台の周りへと集まる。何はともあれ夕食開始だ。
1日お疲れ様とそれぞれが用意した飲み物を片手に乾杯を口にする。お酒でない事が若干惜しまれるが、そこはダンジョン故仕方なしと受け入れ料理を口へ運ぶ。昼に続いて同じメニューではあるがやはり美味しい事には変わりなかった。
「んっ!? これってもしかしてタイラントスネークの肉かっ!?」
「たぶんそうだ。いや、間違いなく……」
「これどうしたの?」
肉を食べた太一さん達が肉の正体に気づきそう口にする。特に何の肉とは聞かれなかったからこっちも別に言わなかったが。
「お昼頃に広場で遭遇しまして。それでその肉を解体したのがそいつです」
「広場に出たの? 目撃情報はなかったと思うんだけど……」
「今でも広場に湧くんだ……ちょっとルートの変更をしないといけないかな?」
「少数だからと勘違いし行ってみたらそんな大型モンスターだと困りますもんね。階層相応外のモンスターが通路に湧く事があるって言うのは聞いてましたけど」
川田さん達女性陣が今の話を聞き顔を向き合わせる。やはりこの情報はそれ程知られてないって事なんだろうか?
「地上へ戻った際に報告をしようかと思っていまして。もしこれから広場へ行くのであれば気をつけてください」
浜田さんが太一さん達に広場へ行く際の忠告をする。合流後に話をしていなかったと、浜田さん達3人は若干申し訳なさそうな表情をしていた。
「今こうして聞けましたし問題ないですよ。
しかし、そうなるとタイラントスネークを4人で倒したって事になりますよね? いやはや、なんと言うか……」
「まぁ、自分達にはゴーレムも居ますから戦力は十分揃ってると言えるかと。それに今回は今までのに加えて新しい戦力も増えましたから」
「新しい戦力ですか?」
門田さんの呆れと驚きに倒した時の状況を答える。その際口にした新しい戦力という言葉に尊さんが首を傾げた。
「石田さん、教えても良いのか? だったら……えーっと……こいつだな」
そう言うと深田さんは携帯を取り出し操作すると尊さんに見せた。どうやら写真を撮っていたらしい、いつの間に……。
「……ゴーレムの大きさ的にこれ3種類いますね。これが普通の奴だとしてこっちが大型のゴーレムですよね。その隣に居るの大型ゴーレムの倍はありませんか?」
「どれどれ?」
携帯の画像を皆で回し見し確認をする太一さん達。確かに……と頷いている。
「ここだと出せませんけど更に大きいゴーレムです。まぁ、そいつも出してタイラントスネークを倒したってわけですね」
「はぁ~……更に大きいゴーレムか。俺達は大型ゴーレムクラスがまだやっとだわ」
「太一はゴーレム作製ほとんどやってないけどね。しかしこれなら納得かな。石田さん駒も2セット持ってるし確かに戦力は十分か」
「今こうして休憩所内の警戒もしてくれてますしね」
画面に映っているであろう特大ゴーレムと休憩所内のゴーレムを交互に見て頷く太一さん達。門田さん達も倉庫でゴーレムを作り始めたそうだが大型ゴーレムが今の所最大戦力らしいね。
「とまぁ、そんなわけでタイラントスネーク1体分の肉があるわけです。お肉に関しては気にせずどんどん食べてもらって構いませんので」
「それを聞いて安心したぜ。それじゃあ遠慮なく」
「消費に協力するとするかな」
太一さんと誠さんは次の肉と別の串へ手を伸ばす。他の皆もそれを見て苦笑しつつおかわりと手と口を動かした。
残りの量を知っている自分達4人としてはこの人数で食べてもまだまだ余裕で余るだろうなと別の意味で苦笑いを浮かべる。管理部へ卸す時までにいったいどのぐらい減ってるんだろうか?




