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737話 強行軍




 「流田(ながた)だ。このPTのリーダーをしている」

 「石田と言います。それとPTメンバーはこいつ等です」

 あちらからの自己紹介にそう言って駒を見せながら返答する。先にソロでPTメンバーはゴーレムと紹介した方が早いし楽だ。


 「駒持ちなのか? そりゃすげぇな。

 ところで今更聞くのもなんなんだが……ここは大丈夫か?」

 「まぁ、ダメならこんな風に話はしてないですかね……」

 「もっともだな。全員、一時休憩だ」

 流田さんのPTメンバーの1人がそう言って小休止を口にする。数人はすぐ後ろにある真っ暗な通路を見ながら唸っている。そこまで驚いてないって事はやっぱりそう言う事か?


 「石田さんだったか? 先にここにいるわけだし現在地を聞いても大丈夫か?」

 「ええ、はい、大丈夫です。地図で言うとここですかね」

 そう言って地図を見せながら現在地を教える。


 「帰還陣からは少し距離があるな……まぁ、そこまで気にすることでもないか」

 「遠い方が俺達としては有難いな。ああ、それと俺は菅田(かんだ)だ。

 ちなみにだが石田さん……あんたはもうとっくに気づいてる方か?」

 「気づいてるといいますと?」

 先程小休止を口にした菅田さんがこちらの目を見つめながらそう聞いてきた。やっぱりその手の人達だったな。


 「ダンジョンの中に居れば気づかない方がどうかしてるというものだな。勿論ダンジョンの変異についてだ」

 「やっぱりそれですか……。菅田さん達って調査班の人達です?」

 「そうなるな。管理部から調べてきてくれって言われてんだわ」

 流田さんがその通りと頷いた。今入ってくる人達ってなると調査班か自分みたいに現状を知ってる人ぐらいだろうしな。なんとなく察するわ。


 「調査お疲れ様です。

 実は私、既に1層へ潜って異変が起きてる事は知ってたんです。流田さん達はいつからお知りに?」

 「一昨日だな。管理部から調査班として声がけされそっから調べてる。移動したPTも多いから管理部が人員確保で苦労するって愚痴ってたぜ」

 「それで残ってた中堅以上のPTを対象に調査班の声がけをして当たったのが俺達ってわけだ。石田さんはいつから知ったんだ?」

 「私も一昨日ですかね。

 ちなみにですけど……どの程度の範囲を聞かされてるんですか?」

 「そりゃあれか? このダンジョンの他にも変化してるかって話か?」

 「……どうせ報告の際に言われると思うから答えるが、別のダンジョンも変化してるっていうのは俺達も聞いている。まぁ、事情を知らない連中には今の所秘密だがな」

 「やっぱり流田さん達も聞いてたんですね」

 どうやら自分が先程まで居た居た所のダンジョン街の話も聞いているらしい。これなら話しても問題は無いか……。

 

 「私はそのもう1つのダンジョン街で潜った際に知りまして。その時こちらのダンジョンも変化したと聞いたんです。まぁ、向こうと同じですね」

 「あっちのダンジョン街から来たのか……。向こうもこっちと同じく調査班の人手で困ってるとか言ってたか?」

 「んー……どうでしょう? その後の対応までは見てないものでして」

 蓑田支部長も調査班の調達には苦労したのだろうか? こっちと似た状況って事ならおそらくそうなんだと思うが。


 「たぶん同じだろう。

 調査班の動向を知らないって言う事は石田さんは初期の報告者という事か?」

 「同じ部屋にもう1PTが居たので順番で言うと2番目でしょうか? 早く対応を決めないといけないかと思い必要最低限の事を報告をして出ていったので調査班の動向は知らないんです。管理部にはその後寄っていませんので」

 「なるほどな。誰か知り合いが担当をしてたら聞こうと思ったが知らないんじゃ聞きようがないか。

 んー……現在地も聞いたし現状の確認も終わったと聞きたい事は聞けたな」

 「地図の写真も撮らせてもらったからな。修正する箇所はこれを見てこっちで勝手にやらせてもらうさ」

 「間違ってないといいんですけどね……」

 マッピングはやはり苦手と言わざるを得ない。そこまで大きな間違いは無いと思うがやはり不安は不安だ……。


 「通路がずれているとかそういった間違いが無ければとりあえずは問題ない。後は調査班(俺達)で引き受けるとしよう」


 菅田さんが近場の通路の修正をしつつ後は任せろとそう口にする。ひとまず参考程度にはなるだろうさ。

 そうして聞きたいこともこれで終わったと、流田さん達は自分がやって来た方向に向かって歩き出した。自分が居た所も含めて調査の補完をしてくるそうだ。


 小休止を終えたPTメンバーを引き連れ次第にこちらから離れていく。そして少し距離も空いたところでふぅ……と溜息を吐いた。


 「あー……目の前にいきなり出てきた時は焦ったぁ……。転送の所為とは言えやっぱり急に出て来られると心臓に悪いな」

 人なのかモンスターなのか咄嗟だと判別がつかない。せめて目の前に急に湧く、居る所に転送されるということが無ければだいぶ気も休まるのだが。


 「そうすると最初の転送時も身構えなくて済むんだけどな。現在地特定ぐらいゆっくりさせてくれたっていいだろうによ」


 流田さん達と離れるようにこちらも移動を開始する。ともかくこちらはさっさと帰還陣に向かわなければ……。

 それとこの鉢合わせは自分にとって結構面倒な事態だ。これで自分とはここで遭遇したという情報が流田さん達に知られる事となった。転移で帰還陣まで一気に距離を詰めるという手段が取れなくなった。


 「ここから早すぎる帰還って流田さん達が知っている以上安易に出来ないのよな。通常の移動方法で帰還陣まで向かわないと……。地図の修正もやらないわけにはいかないし」


 最悪誰にも出会わなければもっと帰還陣に近い所からやってきましたとそう報告しても疑われることはない。ダンジョン内には探索者がほとんどいないので転移も結構自由に行えたのだが……。

 地図の修正も帰還陣まで最短ルートを通るにしても1カ所も無いっていう事は無いだろう。通常の移動(飛行状態)で進んだとしてもここからずっと修正をしていくとなればどうしたって帰りが遅れるのは避けられない。予定だと遅くても夕方までには帰還しようと思ってたんだけどなぁ……。


 「モンスターを全部避けて飛行で進むとして帰還陣に到着するのは何時だ? 報告だってあるし、地上に出てからも時間は多少取られるだろうしな……。こりゃもたもたしてられんぞ」


 現在も飛行のスピードを多少上げつつ地図通りの通路を進む。もう少し行くとまたもや地図とは違う探知結果が頭に伝わって来た。

 一応まだ通路が消えた方で助かったというべきか。新しい通路だと調べないわけにもいかないしな。これなら入り口を消すだけで済む。

 

 「こういう事もあるから目の前に転送とかちょっとなぁ……。まぁ、これは転移を使ってる自分限定なんだけどさ」

 他の探索者との遭遇で予定がおかしくなってしまったと飛行をしつつ溜息を吐く。ともかく帰還陣まではなるべくノンストップで進める事を祈るばかりだ……。





 「……ようやく着いた。はぁ……疲れた……」


 目の前にある帰還陣の装置を見ながらそう言って溜息を吐く。体から力がドッと抜ける気がした。

 流田さん達と別れてからかなりの時間が過ぎた。お昼前に合ったはずなのでもう少しすれば丁度半日だ。逆を言えば半日であそこから帰還陣まで来れた方が凄いというべきか……。

 昼食も夕食も携帯食で済まし途中のトイレ休憩等も最低限で進ん出来たのでそれをしなければ今日が終わっていたかもしれない。流石に深夜の帰還は避けたかった。


 「今もほとんど変わらないっちゃ変わらないけどな……報告が早く終わってくれる事に期待だわ」


 手早く帰還陣を操作し地上へ帰る事にする。先に持ち帰ってきた素材を卸してきた方が時間を無駄にしなくて済みそうか?

 休憩の間にそれ等の準備はしておいたので後は倉庫裏で卸せばそれで問題は無いだろう。この時間であれば列を作っているという事もあるまい。

 列がほとんど出来てない事も今はなお有難いとそう思いつつ光に包まれる。次の瞬間にはもう地上だ。


 「夜遅くまでお疲れ様です。タグの確認をさせていただきます」

 「そちらもお疲れ様です」


 地上へ戻ってくるとスタッフさんと帰還のやり取りを済ませる。この時間に帰ってくる探索者は少ないからかちょっと驚いていた。夜の時間帯とか昼間に比べれば暇だろうしな。これからはそうも言ってられないだろうけど……。

 タグの確認も済ませると足早に倉庫へと向かう。こっちは預けるだけして確認は後にするか。

 それと夜には雨が上がっていたのは幸いした。相変わらず雨だとうっとおしいからな。

 

 そう思いつつ倉庫で手続きを済ませると人が少ない倉庫裏でゴーレム達を出しスタッフさんに素材を渡していく。

 今はさっさと渡したいとゴーレムに刺さる視線も無視だ。元からそんなに人の数もいないが。

 

 「では以上でお願いします」

 「わかりました。遅くまで動いていただきありがとうございます」

 スタッフさんと素材のやり取りをすると次はロビーの受付だ。後は報告さえ終わらしてしまえばそれで終了だ。


 「この時間だし明日にしてくれとか言われたりして……それは嫌だよなぁ……」


 そんな嫌な想像をしつつロビーにいる受付スタッフさんに要件を告げる。やはり人は昼間に比べてもかなり少なかった。


 受付スタッフさんに1層から帰還したことを告げると対応は決まっていたのかすぐさま待つように言われた。後は報告を受ける人がしっかりいてくれるといいんだけども……。

 

 「お待たせしました。ただ今ご案内いたしますのでこちらへどうぞ」

 「ありがとうございます」


 それを聞き内心喜びの声を上げる。明日また来てくれと言われることが無くて何よりだ。

 そうしてスタッフさんの案内で別室へ連れていかれる。優先度の高い報告だから常に誰か担当の人がいるとかそんなのだろうか?


 「こちらで少々お待ちください。ただ今係の者が来ますので」

 「わかりました」

 「それでは私はこれで失礼します。夜分遅くまで探索お疲れ様でした」


 そう言ってスタッフさんは案内するな否や部屋に入ることなく離れていった。にしてもこの感じからすると支部長ではないよな。

 支部長との応接もなんだかんだ回数も熟したからか今回は違うと分かるようになった。おそらくこの管理部でも支部長と応接する部屋はあんな感じだろう。

 

 コンコンコンッ

 

 「お待たせいたしました。夜遅くまで探索お疲れ様です」

 そう言って1人の男性がノックと共にドアを開ける。


 「いえ。管理部の方こそ夜遅くまでお仕事お疲れ様です」

 「基本はパソコンの前で連絡のやり取りですからね。探索者の方と比べると余裕はありますよ」

 「そうなのですか? 今はなにかといろいろ忙しいでしょうに」

 「まぁ、この時間まで仕事をしないといけない程には忙しいですかな。どうぞお席にお掛け下さい」

 男性も部屋へ入ってくると席の前に立ちながら手で椅子を促してきた。一言断りを入れてから着席をする。


 「ご紹介が遅れました。現在ダンジョンの調査を受け持っている鷹田と申します」

 「石田です」

 鷹田さんが机に名刺を置いたのでこちらはタグを机に出し見せる。

 

 「それでは早速報告をお聞きしましょうか」

 「はい。とりあえずこちらが今回修正した地図になります」


 そう言って鷹田さんに通路の修正を加えた地図を見せるモンスターの写真は今回は無しだ。もう変化をしていると分かっているのに今更写真はいらないだろう。

 そして結局今回は最後まで運が悪い事に宝箱にも遭遇しなかった。帰りがあんなに急でなければ探してくることも出来たのだが……それが残念で仕方ない。


 「そこまでしっかりと見てきたわけではないので報告出来る事はこれぐらいです。持ち帰ってきた素材は既に卸してあります」

 「いえいえ、これだけの距離を修正してきていただけたのであれば十分です。こちらは写真を撮らせていただきますね。後で資料係の者に情報の更新をしてもらいますので」

 「おそらくあっているとは思うのですけども……」

 「帰還陣付近でしたら他の調査班の者も修正しておりますのでそちらで確認をいたします。遠くの方も調査班の者が向かったのですよね?」

 「はい、流田さんという方のPTと道中すれ違いました。すれ違ったというよりその場に転送してきたわけですけども」

 「なかなかに起きない現象と聞いておりますけどもそう言う事もあるのでしょうな。帰還してきた際はそちらからも話を聞いてみます」

 「調査班の人数確保も大変だそうで……。やっぱりいろいろとお疲れ様です」

 「ははは……。いや、この状態を知った探索者の方も戻ってきてくれることになっておりますのでこれも今だけですよ。

 1層の調査はもう数日もあれば出来上がると思いますのでその苦労はもうおしまいですね」

 「そうなんですか」

 「ええ」

 鷹田さんが言うに人手集めは目途がついたそうだ。今までその手の依頼をしていた中堅や上位の探索者を呼び戻したらしい。


 「さてと……それでは報告はこんなものでしょうかね?」

 「だと思います。あ……それとここの休憩所のトイレットペーパーがもう少なくなってきているので補充をしておいた方がいいかと」

 「紙の補充ですね。そちらも了解しました」

 「ならこんなものですかね?」

 「わかりました、それでは以上という事で。ご報告ありがとうございました」


 そう言ってお互い席を立ち部屋の外へと出ていく。向こうもやる事はなんだかんだあるだろうし報告は手早く済ませたいだろう。 

 

 そうして管理部への報告は終わった。これで自由になったと体を伸ばしつつ建物から出る。予定とは違い外はもう真っ暗だ。こんな遅くなるつもりじゃなかったんだけどなぁ……。


 「なんにせよ終わった終わった……っと。今日中にあっちのダンジョン街までは帰りたかったんだけどこれ行けるか? 飛ばせば行けない事も無いか……?」


 もう地上まで帰ってきた事だし急ぐ必要も無いのだがどうせならと最後の気合いを入れる。

 駒からゴーレムを出し荷物を取り出すとナビをセットする。ダンジョンで使っていたライトも点け一応空中でぶつからないよう準備を行う。この時間に飛んでる人というのもどちらかと言えば珍しいだろうな。

 

 「あっちに帰っちゃえば本当に落ち着けるしな。もうひと頑張りと行きますか……」


 余っていた携帯食を咥えると空へと上がる。雨も上がっておりそれを考えると遅くに帰って来た甲斐はあったのかもしれない。

 帰ったら夜食にラーメンでも食べたい気分と夜の空を駆けていく。にしても今日はずっと移動してばっかりだな。 





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