731話 小部屋の利用法
「倉庫ですか?」
「ええ、もし倉庫を借りた場合どうするかなぁと思いまして。あ、アオサのお味噌汁ください」
「まいど! アオサのお味噌汁1つカウンターにお願いしまーす」
新しく注文をしつつ店員さんにそんな質問を投げかける。参考になるかな?
「そいつはあれですか? 例の駒に入れるゴーレムを作りたいから~って」
「ええ、はい。よく知ってますね?」
「知り合いの探索者からそんな話を聞いた覚えがありますもんで。というより……そうでもないと個人で倉庫なんてあんまり借りないですしね。お客さんもそういった口で?」
「ですね」
「普段は別の街で活動をしてるっていうのによく借りようと思いましたね。活動拠点って奴ですか?」
「その予定です。家具も今日買ってきましたしね」
「探索者の方が増えるのは喜ばしいってもんですかね。うちでもいくつかダンジョン産のネタは仕入れてますし」
そう言うと店員さんはメニューはあちらですと手を向ける。
「感知蟹に森林鮭、野菜各種の天麩羅だったりそいつの寿司だったりとこちらもよろしければご注文下さい」
「天麩羅のお寿司って結構好きなんですよね。それじゃあカボチャ天とエリンギ天の握り1つずつください」
「まいどどうも! ご注文ダンジョン産のカボチャ天とエリンギ天入りまーす!」
揚場の人にそう伝える。カボチャは結構大きいのでこれ1つでかなり食べ応えがありそうだ。
「それでまぁ、素材が有る時はいいんですけどね。最近はそれを持ち帰って来る探索者の方も減っちゃって困るのなんのって……」
「結構移動しちゃってるそうですしねぇ」
「なので探索者の方が増える分にはこちらも大助かりです。
最初は1層からの探索になるんでしたっけ? でしたら地底湖に行って感知蟹メインでお願いしますよ」
「一応今日持ち帰ってきましたけど全然でしょうね。私も明日か明後日には1度戻る予定ですし」
「そいつは残念ですねぇ。まぁ、今度いらした時にでもまたお願いします」
潜れるのが洞窟エリアとなると必要な素材は限られるのかそこまで押して頼んでくることはなかった。
ダンジョンの変化もあるし探索者の数については気にしなくても勝手に増えていくだろう。その内地底湖の攻略もされるはずなので感知蟹なんかも結構な数が運ばれると思う。感知蟹を置いて別の素材が運ばれる可能性も十分あるけどな。
丁度今届いたアオサの味噌汁を頂きつつ苦笑いを浮かべる。攻略が始まったら人が増えるだろうし、このお店も今の時間はお客でいっぱいと結構忙しくなったりするんじゃなかろうか……。
「しかしダンジョン産の素材が無くても魚は地上で獲れますしお店としてはそこまで困らなさそうですね」
「どちらかと言えば地上産の魚がメインですからね。ダンジョン産は今日のオススメって感じです。
それで倉庫の話でしたか? んー、私は探索者じゃないのであれですけど……やっぱり倉庫として本来の用途である素材の置き場ですとか?」
「まぁ、それは堅実ですね」
倉庫本来の利用法はこれだろう。自分もゴーレム系の素材だったり置いといて問題なさそうな素材は倉庫の片隅にでも積み上げておくつもりだ。
「後は先程言われたゴーレムを作ったりですか? お客さん、駒って持ってらっしゃるんです?」
「ええ、中に入ってるゴーレムに家具なんかを背負わせたり荷物持ちをさせてますよ。いろいろと便利で助かってます。
先程持ち帰って来たと言った感知蟹もこいつ等に運ばせました」
「ダンジョンの中だろうと外だろうと便利なもんですねぇ……。
私等だと漁港で買った魚を車に積む手間がいらなさそうですね。業者さんに持ってきてもらうにしろ駒だけでいいとかすっごい重宝されそうですよ」
「トラックじゃなくて自家用車みたいな車でも十分ですからね。運送業者の人にとっては喉から出るほど欲しいマジックアイテムな気がします。ゴーレムに仕舞っておく分には荷物の破損なんかも気にしなくていいですし」
「ゴーレムを出す場所も店の駐車場だったりとそこまで困りませんしね。それなりに大きいゴーレムでも大丈夫そうです。お客さんのゴーレムってどのぐらいの大きさですか?」
「だいたい2m、3m、5m、10mって感じですね。5mの奴が運搬だと使いやすいですか」
「ほう! そりゃ凄いっ!
探索でゴーレムとか使い勝手悪いって聞かされてたのに変われば変わるもんですね。10mのゴーレムとか転送陣にそもそも入りませんもんね」
ゴーレムの大きさを聞き驚きの声を上げる店員さん。工事現場等で見たことあるようなあのゴーレムを持ち歩けるのかとそう続けて聞いてきた。
「大きさが大きさなので出せる場所もそれだけ限られますけどね。普段使いをする分には10mは大きすぎるかもって作ってからそう思いましたよ」
「まぁ、地上だとそうでしょうねぇ。けど逆を言えばスペースさえあればそんな大きいゴーレムも荷物運びとして使えるわけですか。
やっぱりそれ等を作れる場所の確保が一番大きいですかね」
「実はちょっと大きすぎる気もする倉庫を借りてしまいましてね。それでなんか上手い使い方は無いかって考えている所なんですよ」
「なるほど……あ、それでしたらトレーニング場なんていかがです?」
「トレーニング場ですか?」
「ええ」
他のお客さんの寿司を作りながらそう言葉を口にする店員さん。
「探索者の方でしたらそういった施設は結構使われるんじゃないですかね。街中にも結構スポーツジムだったりがあったりしますし」
「そう言えばあっちのダンジョン街にもそんな施設ありましたね。ゲームセンターとかボウリング場とかいろいろと複合されたような建物ですけど」
「こっちのダンジョン街にも似たような建物がありますよ。
倉庫内にスペースが空いてるんであればそういった器具を置いたりなんかどうです? わざわざ出かける必要も無くなりますし」
「トレーニング場……スポーツジムかぁ……」
大きさ的には普通に有りだ。地面もしっかりしてるし周りを気にする必要も無い。硬すぎるようであればマットを敷けばいいだけだ。
「管理部にある地下訓練室ですか? 知り合いの探索者はそっちで戦闘面を鍛えた後帰りにジムへ寄ったりするそうですよ」
「近接系の方ですかねぇ? まぁ、遠距離主体だろうと体を鍛えておいた方が良いのは確かですが」
自分についても同じことが言える。ここ最近飛行を使い始めたしソロだと通路を歩く機会も結構減ってしまったのが少し悩みの種だ。転移も結構使ってるしな。運動量はそう多くない。
それを考えると安全な地上で少しでも体を動かした方が良いのは確かだ。ランニングだと倉庫前の無駄に広いスペースが利用できるか……。
「寒くなるにつれ雪も降ってきますしねぇ。室内で運動出来るものがあると何かと良いんじゃないですか?
知り合いは寒さを嫌って逆にダンジョンへ行くとかよくわかんない事してますけども……」
「森林エリアならずっと日中らしいですし寒さはほぼ感じないでしょうね。洞窟エリアでも冬の寒い時期よりはマシですか。帰ってきたら逆に寒くてダンジョン内が恋しくなったり?」
「帰還陣付近でキャンプをしたりする人もいるとか居ないとか……そこまで大規模じゃなければダンジョン側も大丈夫なんでしたか?」
「程度はわかりませんけどね。そこはダンジョンの気分次第でしょうし」
「まぁ、そうですよねぇ……」
探索者でもない自分では詳しくわからないと知ってるのはこれぐらいだと口にする店員さん。けど参考になりましたよ。
室内で運動出来る器具はあった方が良いかとトレーニングマシーンを思い浮かべる。基本的なのは歩いたり走ったりするルームランナーとかペダルを漕ぐエアロバイクだろうか。昔家にも足を固定して腹筋を鍛える奴があったっけか。
「ダンベル上げとかあの胸の前で引っ張る奴……エキスパンダーでしたっけ? 結構いろんな種類有りますよね」
「簡単なのは場所さえあれば出来る腕立てとか腹筋ですかね。マットを敷けばいいだけだったりしますし」
「本格的にやるんであれば器具はあった方が良いって感じですか。明日一応見に行こうかな……」
毎日使うわけではないだろうけど効率的なのは間違いあるまい。買っておいて損はない気もする。
この街で倉庫を拠点にするのであれば置いといてもいいだろう。向こうの倉庫で使うにしろ空間魔法へ仕舞えば持ち運びだって楽だしな。
トレーニングマシーンの種類はよくわからないがあの部屋をトレーニングルームにするのは良さそうに思った。それ以外に良い案が浮かんでないというのもあるが……。
海側のダンジョン街とこちらを利用する事もこれから結構あるだろう。倉庫内に管理部の訓練室とは違ったトレーニングルームを設置するのは十分に有りだ。
「おまちどう! こちらカボチャの天麩羅とエリンギの握りになります。揚げ立てですのでお気を付けください」
「お、来た来た」
しばらくすると先程注文した品が届いた。やはりカボチャは1皿が結構大きい。これにどんぶりを用意しカボチャの天丼だって出来そうだ。
塩にするか天つゆにするか迷いつつ小部屋の案について考える。
明日エアコンの取り付けが終わるまでまた買い物になるが今度はそちらを見て来るとしよう。それと飯切なんかも一緒に見てこないとだしな。




