716話 大は小を兼ねる?
「いやー、結構釣りましたねぇ」
「リリースした分も含めばかなりの釣果だな。これだけ釣れれば釣りも楽しいだろうよ」
バケツと発泡スチロールの箱いっぱいに入った魚を見ながら2人してウンウンと頷く。釣りの中でも1番面白い引き上げがこれだけ出来るなら大満足だろう。
「少なくともボウズで1日を終える事は無いから安心だな。こっちも良い土産が出来た事だし」
おじさんはそう言いつつ自分の釣果が入った箱をポンポンと叩く。見ていると自分もやりたくなってくるよな。
竿を貸して実際に自分でも体験してもらう事にした。針を投げ入れてから食いつくまでが随分早いと短い時間でも満足出来るのが良いとの事だ。
「仕掛けを変えなくてもいろいろと狙えるのは楽でいいな。タコご馳走さん」
「結構な大きさでしたね。あれは良い引きだったなぁ」
おじさんに竿を貸している時結構いい大きさのタコが引っかかったのでそいつは上げる事にした。今度は自分がタモ役となかなかの大物だったね。
「滑りを取るのがちょっと手間だけどやっぱり美味いからな。
しかしそれだけ釣れたってなると運ぶのも一苦労だな?」
譲ってもらった箱にプラスしておじさんから一時的に借りているバケツと自分の分も合わせ大漁と言っていい。堤防の先から戻ってくると一度地面へ下ろした。
「まぁ、荷物の方はどうとでもなりますから」
他の人が居ない所までやって来ると駒を取り出しゴーレムを出す。突然現れたゴーレムにおじさんは目を丸くして驚いていた。
「こいつは……まさか例のゴーレムを仕舞っておけるっていうあのマジックアイテムか? ほぉ~! 本当にどこでも出せるんだなぁ」
「街中とかだと厳しいですけどね。周りに人がいなければそう問題はないでしょう」
ゴーレムの背中に釣れた魚を入れる箱を取り付けると駒の中へ仕舞う。
一瞬にして手荷物がほとんどなくなった。竿なんかも箱の横へ取り付ける場所を作れば一緒に仕舞えるらしい。リュックの外側にいろいろ吊るしたりするしそう言った判定でOKという事だろう。
「これで良し……っと。それじゃあ私はこの辺りで」
「結局ダンジョン街へ行ってやる事をするって話だしな。また釣りがしたくなったら戻ってくるといいぞ!」
「しばらくはお預けでしょうけどね。まぁ、その分楽しむことは出来ましたが」
「あれだけ釣れれば数回分の釣りに匹敵するわな。俺も1つ欲しくなってくるよ……」
駒のマジックアイテムを見た後にしては興味が薄く感じる。釣り人としては針と糸のマジックアイテムの方が興味があるって事か……。
人によっては興味の対象も様々だと苦笑を浮かべる。駒の方は一般に出回るとしてもとても手が出ないと最初から諦めてるってのもありそうだ。まだ針と糸の方が入手もしやすいか。
おじさんと漁港で別れるとやって来たダンジョン街に向かって飛び始める。やはり面倒は終わらせておいた方が安心だからな。
少しして街の外へやって来た所、早速惜しい気を感じ始めたが釣った魚があるだろうとその念を振り払った。
「魚だったら自分で釣った奴があるしな。夕飯はそれを食べる事で満足するとしますかね。結構釣れたしとりあえずはOKだろうよ」
今回の大物だとチヌやハマチといった魚が掛かった。他の魚とは違い引きが強かったとかなり釣り応えもあった。
そして釣りたて新鮮となるとやはり刺身といった食べ方が無難だろう。量も十分だしな。
他だと鯵や鱚、カマスといった魚も釣れたし釣果は上々と言っていい。これも紅白丼といった縁起を担いだおかげかと今回の釣りに満足している。まさしく入れ食いという奴だ。
「こっちにも食材持ち込み可能な店はあるだろうしそこで調理してもらおうかね、夕飯は魚づくしって事で」
今から何が出てくるかと楽しみにしつつダンジョン街へと向かう。地図を書くついでにそう言った店の場所も調べるとしよう。
ひとまずは時間がかかりそうな貸し倉庫から行こうと飛ぶスピードを上げる。良い場所があればいいんだけどねぇ……?
「お待たせいたしました。貸し倉庫の事でとお伺いしましたが?」
「ええ、そうなんですよ」
ダンジョン街へ戻ってくると早速行動を開始した。幸いな事に不動産屋の位置は古田さんに聞いていたので助かった。初めての街だし地上でもやっぱり地図は必須だわ。
店へ来て貸し倉庫の空きはあるかと問いかけた所、リストを出し説明を始める不動産屋さん。少なくとも空きが無くなりましたという事は無さそうだ。
「例の駒のマジックアイテムが発見されてからこちらでもそう聞かれる事が増えましてね。やはりお客様も用途はゴーレムの製造とかですか?」
「その予定ですね。なるべく壊さないよう気をつけたいですけども」
「素材や探索用の資材を置いておかれるぐらいですとあまり心配をしなくともよいんですけどね。まぁ、壊れてしまったとかがあればすぐさまお知らせくださいませ。
えー……それでどういった貸し倉庫をお望みでしょうか?」
店員さんがこちらの要望を聞いてくる。良い所残ってるかな……。
そして店員さんに借りたい倉庫の特徴を伝える。条件を満たす所を探し始める店員さん。
「……ここなんてどうでしょうか? 個人が借りる倉庫として見ると少し大きい部類なのですけども」
「ふむ……」
条件に適した倉庫はどうやらあったらしい。ただちょっとでかいそうだが。
「外に置く資材置き場と併設して建てられた倉庫でして。工場で働く人達の休憩室としてお部屋やお手洗いはこちらに……シャワールームも数人用の物があります。
倉庫の外がそれなりに広いとそこはちょっと条件とは食い違うのですけども……」
「借りるとなったらその資材置き場も当然一緒ですよね。トラックなんかを多く止めるとかもしないですし外にそれだけのスペースは必要ないんですよねぇ……」
ゴーレムを試運転するにしても流石に広すぎて無駄が多いとしか言えん。特大ゴーレムが模擬戦出来そうな程の広さだ。それはそれでいいのかもしれないけども……。
特大ゴーレム同士の模擬戦とかそうそうする事も無い。他の条件は十分と言える程の規模だがこの部分はかなり無駄だよなぁ。
倉庫は今借りている所をでかくしたような感じだ。写真を見る限り似たような作りに見える。倉庫の違いとかよくわからんからそう見えるだけかもしれないが。
上階のシャッター部分だったり入り口の作りはそっくりだ。こっちは倉庫として問題無いとの事なので修理が必要だったりは不要らしい。清掃済みとすぐにでも契約して使用が可能だそうだ。
「よろしければ実際に御覧に行かれますか? 車で少々走ることになりますが」
「そうですねぇ……一度見ておいた方が良いんでしょうね」
「でしたらお車の方を表に回しますのでそちらにお乗りください。どうされますか?」
「ではお願いします」
「わかりました」
店員さんはそう言うとお客様を案内してくると同僚へ告げる。資料を纏めるとこちらに店の前で待つよう促してきた。それじゃあ現場まで乗せていってもらうとしますかね。
そうして店員さんの運転で倉庫までの道を移動する。その間にこの街でのゴーレムの使用状況なんかを聞かせてもらったがどうやらまだまだだそうだ。
やはり駒を持ち帰って来たと言っても古田さんが言うようにそう多くのPTではないらしい。ゴーレムの製造は増えているとの話だが向こうのダンジョン街とは活気が違うとの事だ。
ゴーレムを作っても長距離輸送となると大変だろう。こっちだと取れた素材をそのまま運ぶ事の方が多いらしい。
「ですけどその素材を運んでくる探索者も多くが移動をしてしまいましたしねぇ……。
話を聞いてる限り管理部も扱う素材が減ってしまって難儀しているそうで」
「でしょうねぇ……」
車内でこのダンジョン街の事も聞いたりと情報を集める。探索者が減って素材の獲得量が落ちるのは結構致命的よな……。
ダンジョンから素材が上がって来なければそれだけ扱う会社や店も困るとの事。1カ所での消費はその内他のダンジョン街に悪影響を及ぼしそうだ。
そんな事を話しながら目的の貸し倉庫へと到着する。
最悪外は遊ばせるって事になりかねないかもな。模擬戦以外でいい使い道があればいいんだけど……。
借りてる土地だし勝手に建物なんかも作れないからねぇ。移動可能な小屋とかなら作るのは有りか?




