712話 やはり海は良いねぇ
「……はい、それじゃあ確かに。では私はこれで失礼します」
「配達お疲れ。田々良さんにはこの後届いたって連絡入れておくからな」
古田さんに書類を渡したりサインをもらうと個人倉庫の建物を後にする。これで完全に配達は終了だな。
「さてと……こっちからも今荷物を届け終わったって連絡入れておくとするか。明人さん電話に出るかな?」
携帯を取り出すと明人さんに終了したとの電話を掛ける。あちらとしても知るのが早いに越した事は無いだろう。
「あ、お疲れ様です。今大丈夫ですか?」
少し待った後明人さんが電話に出た。依頼について今渡し終わった事を手短に伝える。
「……しっかりと個人倉庫へ仕舞う所まで見てきました。書類も渡しましたし貰う物も貰いましたよ」
≪お疲れさん。そんじゃあ後で直接電話が来るな、こっちとしてはそれが分かって安心だぜ。
石田さんの方も後はゆっくりしてくれていいぞ。ついでにそっちの街でも軽く見て回ってくりゃ良いんじゃねぇか≫
「ええ、そうさせてもらう予定です。それでは仕事のお邪魔になりかねないのでこれで失礼します。何かありましたらまた連絡ください」
≪おう!≫
そう言って通話を切った。これで終了の連絡の方も終わり、っと!
「よっし! それじゃあここからは自由行動ってこったな。とりあえずは決めてた通り昼にするとするかね。海側は……あっちか」
これで依頼からも解放されたと背を伸ばしつつ気を楽にする。後はこの街を含め軽く観光をしてから帰るとしようかね。ダンジョンへ行くのは明日か明後日でいいな。
まずは地上を見て回ろうとテンションを上げつつ空へと上がる。自由に行動をしていいってなると気持ちが軽くなった気がするね。ダンジョンも気になるけど地上を旅とかその内やってみたいもんだな。
「こっちはこっちでいろいろと見てみたいしな。こういった自由に動けるってのはソロのメリット間違いなしだわ」
古田さんのPTみたく何かあって移動が延期するという事もないとソロでいるメリットの1つだ。PTを組んでるとその辺りはどうしても周りに合わせないといけないからな。
おまけに空の移動も公にやって大丈夫と旅にはありがたい能力も使える。まぁ、車での移動もそれはそれで旅行をしてるって雰囲気があっていいんだけどさ。
「車中泊もあれはあれで結構好きなんだよねぇ……体が痛くなる事もあるけど宿泊場所には困らないし。流石に冬は結構怖いけど」
暖房を点けっぱなしにでもしないと冬は凍えそうだ。暑さよりも寒さの方がやばいからなぁ……夏の夜ならまだ蒸し暑い程度でどうとでもなるが冬の夜に雪でも振ろうものなら最悪凍死もあり得る。
車的にも雪の降る冬よりその他の季節の方が運転しやすい。冬に車で旅とか行くもんじゃないわな。
「冬の間は飛行の方がまだ良さそうかな。空を行くのは寒いだろうから防寒対策は必至だけどさ。そもそもそんな季節に移動するのを控えろって話だけども。
寒い季節は家でぬくぬくと微睡んでるのも有りだねぇ。エアコンも良いけどコタツで横になるのとて捨てがたいし。こっちも今のうちに買っておこうかな? 街への帰りがけにまた電気屋へ寄るかね?」
あっちのダンジョン街へ戻ってしまった後だとコタツも品薄の可能性がある。こちらでなら少し早い冬の備えとして店に売ってない事も無いだろう。
帰りであればゴーレムの荷物は気にしなくてもいいしそうじゃまという事もない。まぁ、ゴーレムに持たせるなり空間魔法に入れるなりどっちでもいいけどな。
一応山の実家にも囲炉裏という暖房はあるにはあるが如何せん古いタイプの家だ。住む事を考えるのであれば現代の家の方が何かと便利だろう。夏はともかく冬はアパートか倉庫の方がましだったりしてな。
「それとトイレと風呂場を考えるならアパートの方が良いわな。狭いけどそこは仕方ないか」
離れの方なら障子を全部閉めてストーブとコタツを置けばどうにかなるかもしれない。アパートよりはそっちの方が広いし普段居るには良いかもな。
離れで問題ないのなら尚更母屋との通路が欲しく思った。一旦外に出るのは寒いからね。
ほんの隣なのに転移魔法で行き来するのもなんだかなぁと小さく溜息を吐く。食事は基本母屋で作るし通路が無いのは何とも不便だ……。
そんな事を思いながら海側の方へ空を進んでいると視界の向こうに海が見えてきた。ダンジョン街から空を行けばそれほど時間はかからなそうだ。
「海もこっちに来てからは初めて見たなぁ。
……にしても海側に逃げた人ってあんまり居なかったのかね? 被害は海側よりも陸側の方が酷いか」
高度を上げて上空から海側の街を見下ろす。海側から直しているのか陸側よりも整っているように見える。荒れた道路を作り直して通るよりかは船で海を行った方が当時は楽だったのかな?
線路や道路といった地上が使えないのであれば船で海を行くか飛行機で空しか選択肢はない。飛行機は結局その後道路を必要とするので海側から復興するというのは間違ってはいない気がする。
道が整備されて初めて車両は効果を発揮するのでそれが比較的必要ない海側から直されるのも当然だろう。船で海から避難した人なんかも居なくはなさそうだしそれで海側が破壊されたか?
「内陸に向かって今も修復中って感じだな。ともかく直ってるんなら良い事だ。廃れた街とかないに越した事は無いしな」
活気のある街の方が賑わっていると来た甲斐もある。元居たダンジョン街程賑わってなくてもいいがせっかく来たのなら見どころは欲しいね。
建物が多い街の中心辺りも気にはなるがまずは海辺だ。海側から復興していたとあれば当時は間違いなく活気があった場所だろう。
「復興当時の感じなんかもなにか見れたりしてな。それに海に近い方が新鮮な魚とかを出す店も多かったかもだし」
久しぶりに近寄って海を見たいというのもある。気の所為かもしれないが海の香りを感じた気がした。ともかくまずは適当に海沿いをぶらついてみる事にしよう。
高度を下げつつ海へと向かって進み続ける。しばらくすると確実に鼻へ海の香りが漂ってきた。海とかほんと久しぶりだ……。
「この海の香りも懐かしいねぇ……最近は木とか地面とかそっちばっかりだったしな。海の臭いがダメって人もいるけど自分は余程じゃないとそんな事ないしね。そんなのより倒したモンスターとかの方があれだから尚更慣れちゃったな」
焼けたモンスターの臭いとか正直酷いものだ。それもあって火攻めはあまり好きでなくなった感がある。効果が大きいのは理解してるんだけどねぇ……。
少しして波が打ち寄せる堤防までやって来ると地面へ降りる。そのまましばらく海を眺め潮の香りを堪能し始める。この波を打つ音も耳に心地いいな。
「ん~っ! はぁ……天気もいいし気持ちいいねぇ。昼を食べたらここでしばらくマッタリしてたいなぁ……」
自然と伸びが出て体をほぐす。日差しと海が合わさって絶好の休憩場所だ。風も程よくあって気持ちがいい。
「とはいえずっとここでこうしてるのもなぁ。歩くとすっか」
堤防沿いを歩きつつ海と街側に視線をやる。降りて来た自分を見ていた人達も今はどうでもいいとばかりに視線を戻していた。変に見られないなら助かるな。
「やっぱりこの天気だし釣りをしてる人も居るか。あっちに釣具店があるな……釣りをするにしても結構いいポイントかね?」
湾の内側と外側に堤防が伸びているようで釣りポイントに困る事は無い。辺りに車が見当たらない事から車両進入禁止の場所なのかもしれないがそこは今の所自分には関係ないな。
「釣り竿はあそこの店で買えるか。昼を食べたら釣りをするのも良いかもなぁ……マッタリするには最高だわ」
依頼の方も無事に終わったとあって気分はすっかり観光客だ。滞在中にやる事を考えるとしても釣りならいい時間つぶしになる。
街の観光は後に回すとして釣りも良いよなぁ……。
「おっ! 定食屋さん発見。やってるかな?」
しばらく歩いていると定食屋さんを見つけたので近づいて店の様子を見る。暖簾は出ているので営業中だとは思うのだが……。
「やっぱり海もすぐそこだし海鮮定食とかそういったメニューはあるな。営業時間中なのも間違いないしここにしてみようかね。1番最初に目についたのもあるし」
店の中の様子を見るとお客さんがいくらか席に座っているのも確認出来る。釣りに来た人をターゲットにしているのかは不明だが家族連れも中にはいるようだ。評判なんかも不明だけどそれはどこの店だって同じだしな。
雰囲気も悪くなさそうだしとお邪魔させてもらう事にする。家族連れという事は値段の方も相応だろう。
「いらっしゃいませ~!」
扉を潜った瞬間店員さんの元気な声が聞こえて来た。元気な声は大事だな。
「1人で。禁煙なら席はどこでも」
「お1人様ですね。ではこちらへどうぞ~」
そう言ってカウンターに案内されおしぼりを受け取る。メニューを示され注文が決まったら声を掛けてくれとの事だ。
表に出ていた海鮮定食のメニューも写真で載っている。他にもいくつか定食があったり刺身に1品料理と種類はそれなりに豊富だ。どれにするべきか……。
「やっぱりここは決めていた奴にしようかね、丁度メニューにもあるし。すみません!」
「はーい!」
手を上げて店員さんに声を掛ける。
飛行とか鳥との追いかけっこで腹も減ったしここは丼とガッツリ行くとしようか!




