702話 ゴーレムの運用に商品を有効活用
「いやぁー、にしても凄いもんだ! まさか本当にあれ全部を一緒に仕舞えてしまうなんてなぁ」
「実際に使うとなったらちょっと調整は必要そうですけどね。とりあえず何とかなって良かったです」
「ケースの片側を切って持ち手の部分を出しておくと良いでしょうね。固定は腰回りに鎖のベルトでも巻けばどうにか出来そうですか。普通は体に固定なんてしないものですけども」
「普通は手で持ち運びますもんねぇ……」
倉庫で買った品をゴーレムに取り付けると店に戻りつつそんな会話を交わし合う。仙田さんが未だに興奮状態のままなんだけど大丈夫だよな?
駒から出てきたゴーレムに興奮を隠す事無く積極的に取り付け作業を手伝ってくれた仙田さん。物を一気に運べる手段もそうなのだが、ゴーレムをこんな簡単に運べる事の方が仙田さん的には気に入ったらしい。終始ゴーレムを見ながら凄いなぁって呟いていたしな。
どうにも結構なゴーレム好きらしい。休日にはゴーレムをいろいろカスタマイズするのが趣味との事だ。だからかはわからないが、やけに手慣れた動きをしているとこちらも助かったから有難いっちゃ有難いんだけどな。
「ゴーレムに取り付けるケースの改造も時間があればやって差し上げたいんですけどねぇ……あ、緩衝材なんかも店に売っているので良ければそちらもどうぞ見て行ってください」
「この後見回らせていただきます。
まぁ、そこまで大改造って事はしないつもりなので幸作さんがおっしゃられたように端を切り落として内部を少し変更するぐらいですかね?」
「出し入れしやすいようにするだけであれば手の込んだ改造は必要ないでしょうね。すぐに落ちないようストッパーぐらいはやはりつけないとでしょうけど……っと、電話だ。すみません……もしもし?」
ケースの改造について話していると幸作さんの携帯に着信が掛かって来た。仙田さんに後でそっちの会計も頼むかもと話し合う。帰ったら早速ケースでも弄ろうかな。
「……はい、わかりました。
すみません、仕事仲間がどうやら着いたようでして。私はこれで失礼する事になってしまいますけども……」
幸作さんがそう言いながらこちらに頭を下げる。どうやら案内はここまでのようだ。
「いえ、こちらこそ午前中付き合ってもらってありがとうございました。後は適当に店内を見て回りますので」
「何かお探しの物がありましたら私がご案内しますよ。むしろ店員としてこちらの仕事ですしね」
「その際はよろしくお願いします。と、言う訳なので私の方は大丈夫です。こちらはお気になさらず」
「でしたら後は仙田さんの方にお任せするという事で……それではこれで失礼しますね」
幸作さんはそう言うと自分達から離れ仕事仲間が居るという方向へ去っていった。案内ありがとうございましたー。
「では店内に戻りましょうか。それで石田さん、案内はどうしましょうかね?」
「とりあえず一通り見て回って来ようかなぁ……と。流石にそっちが売り切れるって事も無いでしょうし小物の買い物は最後に回します」
「では御用がお有りでしたら電話でも。これ私の名刺です」
「ご丁寧にどうも。ちなみに私の名刺もどうぞ」
お互いに名刺交換をすると仙田さんはレジの方へと歩いて行った。とりあえずこれで知人も1人出来たっと。
「さて……それじゃあ後は自由に見て回りますかね」
ホームセンターの入り口に立ちながらどこへ行こうかと考えを巡らす。かなり広いし見て回るだけでも結構時間かかりそうだ。
本格的に見て回るのはまた今度にでもするとして今回は適当に見るかと足を進める。倉庫の部分まで加えたら余計にでかいホームセンターだよなぁ……。
「ん? もしかして石田さんか? 奇遇だな、こんなところで」
「え?」
商品を見ているとふと名前を呼ばれたのでそちらに目を向ける。そこには手を上げながらこちらへと近寄って来る数人の人影があった。
「織田さんでしたか、それに武田さん達も。こんにちは」
「おう、久しぶりだな。今日は探索は休みか?」
武田さんがそう言いつつ近寄って来た。PTの男性陣のみで買い物に来たって所か。
「まぁ、見ての通りで。武田さん達もですか? ここにってよく来られるんです?」
「まぁ、それなりにかな。石田さんは……って、最近この街に来たばかりって言ってたっけ」
玄田さんが1人で納得しつつ苦笑いを浮かべる。よく来てたとしても1ヶ月程度だな。
「店が大きいから大抵欲しい物があればここで揃うしねぇ。石田さんは何を買いに来たわけ?」
「ゴーレム関係で買い物を少し。午前中は知り合いに案内をしてもらいまして」
「あー……やっぱり石田さんならそれだよねぇ」
和田さんが納得したといった風に頷く。やっぱりて……普通に家具を買いに来たとかもあると思うんだけどね。
「実は僕達もゴーレム関係で少し買い物にね。石田さんも使ってるあの大型の奴、あれを僕達の方でも作ったからそれの装備って感じ」
「頭部に照明を取り付けようと思ってな。やはり洞窟探索には欠かせん要素だ」
田草川さんと田野倉さんがカートに入っている物をこちらに見せて来る。それなりに大型で強力な投光器だ。
「あー、やっぱり明るい方が何かと便利ですもんね」
「頭に埋め込んでしまおうと思ってな。身長よりも高い所から照らす分遠くまでをカバー出来るだろうよ」
「頭部の作製に少し手間がかかるけどやっぱりあると無いとじゃ大違いだしねぇ。ヘルメットみたくカバーを付ける事で壊れにくいようにしたりこれから調整するってとこ」
ゴーレムの作製を担当している織田さんと和田さんが普通のゴーレムよりも手間だと肩を竦める。壊れないようにガードはやっぱりあった方が良いよな。
「どうしても光ってると狙われやすいですしねぇ。それと前線に出る事も多いでしょうし防御性能を上げないといけませんか」
「ガードをシャッタータイプにしてゴーレム自身で簡単に切り替えられるようにしようと思っていてな。
前線にも出す事は出すが遠距離攻撃をさせつつ視界確保を優先させるのも有りだ。俺と同じ位置に1体固定させる方向だな」
「大型のゴーレムを連れていける事で明かりも相応の物が使えるからねぇ。やっぱり明かりで照らされてる分モンスターの動きもよりはっきりわかるし洞窟エリアだと重要だろうさ。大型ゴーレムの利点の1つと言っても良いね」
「個人のライトだと範囲も限られますしね。自分も1体ライト用で頭変更しようかな?」
大きさ的にも今カートに入っている物は丁度よさそうだった。商品を写メして在庫がまだあったか等を聞く。後で仙田さんにこれも頼もうかな。
「それと大型ゴーレムなら運搬量も相当運べるしな。背中に担ぐ箱を丸々保冷庫にするのも有りだろうとそっちも選んでるってわけだ。
保冷や冷凍が利いていると長時間の探索も安心出来るってもんだ!」
武田さんは大型ゴーレムが担ぐ保冷用のブリーザーもついでに買いに来たとそう口にする。冷凍庫と冷蔵庫があれば確かに素材の痛みを気にすることも下がるだろうな。
「発電機を横にでもくっつければ何とかなるだろうしね。石田さんもうこれは試した?」
「いえ、それはまだ試した事なかったですね。発電機をくっつけてそこから電力を取れば冷蔵庫も冷凍庫も確かに動きますか……」
発電機自体は自分も使っている持ち運びの出来るあれをくっつければいいだろう。そこまで大きいと言う訳でもないし大型ゴーレムが担ぐ分にはどうとでもなるはずだ。
今までだと冷蔵庫をダンジョンへ持っていくとか言葉だけ聞いていたら何を馬鹿な事をと思われそうだけど大型ゴーレムが居るのであれば何もおかしな事は無い。大型ゴーレムが使える者の特権だなこいつも。
それと発電機を楽に持ち運べるのであれば電気製品もダンジョンへこれからは持っていくことが可能だ。オーブントースターや電子レンジなんかは通常のゴーレムでも問題なく担げるしな。
「冷凍庫に入れている冷凍食品とかもこれなら簡単に調理出来るしね。発電機+電化製品を持ち込む事が出来ればかなり探索も楽になるな。
まぁ、その分戦闘に入る前にはそれ等をしっかり降ろして壊れないよう注意する必要が出てくるわけだけども」
「手荒に扱う訳にも行きませんからそれ等のゴーレムは戦闘用にはし辛いですね」
「それもあるから後衛用のゴーレムとして使うのが良いわけだ」
最悪それならば担いだままの戦闘も出来なくは無いと。
ゴーレムを持ち運び出来る=運び入れる物資もかなり潤沢になると武田さん達も満足気な表情だ。今までも出来ない事は無かったけどそれをするってなるとデメリットの方が酷かったからねぇ……大型ゴーレムに至っては条件が厳しすぎるしな。
大型ゴーレムを作った事でこれで一気に探索も楽になると、探索者にとっては是が非でもほしくなるマジックアイテム間違いなしだそうだ。照明に関しても発電機を使えるのならかなり効果は上がるだろうしな。
「そうなると2体目の特大ゴーレムにも大型のライトを付けた方が良いかな? 頭部に着ければ早々壊される率もなさそうだし」
「……2体目?」
「ええ。実は今回買いに来た商品がそのゴーレムに持たせられるかもっていう品でして」
こちらの言葉を聞き固まる武田さん達。その顔からはまだ大きいゴーレムを作っていたのかと、呆れのようなそんな感情がこちらへと向けられていた。
大型ゴーレムで楽になるのなら更に大きいゴーレムを作ればもっと楽になると思うんだけどね。まぁ、でかすぎるってのもあれなんだけどさ……。




