7話 魔法をいろいろ試してみよう(2)
「えーっと、次は飲み水ができるかどうかだよな? これは意外と簡単だと思うんだよな。水なんて毎日のように見てたし、飲み水が気軽に飲める日本で暮らしてたんだから。
さっきまでの事を考えるとやっぱ口に出したほうが補正してくれるか? とりあえずやってみよう」
これは簡単だろうと、特に気負うこともなく飲み水を出す魔法をイメージする。やはり一番わかりやすいのは蛇口から出る水道水だろうか。
それと聞いただけで実際に見たことはないが、蛇口からポンジュースが出るところがあるらしい。
蛇口から水を出すというイメージから、なぜかその話を思い出した将一。ポンジュースが蛇口から出るところは一度は見ておきたかったなぁと前世の後悔の念が出た。この世界でもやってるかもしれないから探してみるかなぁと。
まあそんな話はさておき、今の魔法とは関係ない想像を頭から追い出す。
「よし、やるか。水水水…水道水よ、出てこい!」
手を前に出し、掌の真ん中あたりが水の出るところとイメージする。水量は出しすぎや絞りすぎに注意して、ごくごく普通の量を。
言葉も言い終え、掌の先から水が出てくるイメージも終える。
そしてそれらの終わりと同時に、掌の先から水が流れる音が聞こえ始めた。
「よし! ちゃんと出てきてるな。これで飲み水の確保はできただろう」
自分の手を動かし水が出てきているところを目で確認するとウンウンと頷く。
そしてせっかく出したんだから飲んで確認しようとして気づいた。
「しまった…水を入れる容器がない。手も使えんし…しょうがないから直接口付けるか…」
手の先からと出ろと固定してしまった所為で、手で水を掬うことができない。仕方がないと、水が出ているところを顔の近くに持ってきて地面に落ちる水を横から飲むことになった。今度出すときは空中で固定しようと考える。
それと、飲んだ水は間違いなく日本で飲んでいた水道水であり、魔法が最後までうまくいったことを内心喜んだ。
そのあとは出していた水を1回消すと、いろいろ試してみた。
まずは掌からではなく指先から出してみたり、先ほど思っていた空中に固定して、手を離してもその場から動かないことを確認したり、少し離れた場所に出してみたり、イメージを省略して言葉だけで出せるかの確認。辺りが水で濡れるのを気にすることなく試し続けた。
「こんなもんでいいか。いやー魔法って便利だなぁ。水がこんな自由に出せるとか曲芸師になれそうだ、なる気はないけど」
一通り水を出して満足したのか、水魔法の実験を終了する。
そして水魔法を出したことで魔法の利便性を再認識する将一。水がこんなふうに出せるなら火だって風だって自由に出せるだろうと。これで火おこしも楽だし、エアコンみたいに寒い時も暑い時も快適になるはずだ。
だけどそうなると、魔法とはいったいどこまでできるんだろうと疑問が出てくる。
ゲームでだと基本は攻撃に使ってたが、今みたいに生活に利用するのにも十分可能だ。更に時間を表示させたり、転送魔法といった分類だって出来てしまう。RPGのゲームを最近は全く触ってなかった所為か、どんな種類の魔法があるのかよく知らないことを後悔した。
「んー…魔法でできることかぁ…アニメとかだとどんな風に使ってたっけか。たしか空飛んだり、なんか砲撃撃ってたりしてたのもあったっけか? 敵を拘束してたり、防御魔法? 結界? みたいな相手阻んだり閉じ込めたりもしてたよなぁ。そういや若返りも魔法でしてたっけ? あれは魔法のアイテムだっけか? よくわからんけど昔見たアニメではそんな感じだったよなぁ…」
魔法でしていたことをいろいろ思い出しながら出来ることの選択肢を上げていく。最近のは知らないが、昔の情報でも様々な魔法があるなぁと。
「そういえば召喚だっけ、あれも魔法の分類でいいんだよな? ゲームじゃ魔法使い、サモナーって感じで職業として分けられてたけど要はあれも魔法の類だろ? 時代が進むにつれてゲームの職業キャラも細分化したけど元をたどれば魔法使いに当てはまるのいっぱいいるよなぁ…。
あと昔どっかで見たな。魔法とは奇跡の御業であり不可能を可能にするとかなんとか…。
要するにできない事はないって認識の力でいいのか? 神様にもらった力なわけだし信憑性はあるんだよなぁ」
魔法で出来る事と出来ない事を考えていた将一にとって、ふと思い出した言葉が考えをすべて追いやる。
「とにかく試そう! 神様の手紙にもいろいろ試してみるといいとあったし。せっかくもらった力だ、おかしなことに使用しなければ神様たちも授けた甲斐もあるだろう。とはいえ何から試すか…」
魔法をいろいろ試すと決めた将一。不可能を可能に変える力というが、何から始めるかと迷う。
その時、先ほど腹が鳴っていたことを思い出した。
「そういや昼時なんだよな今って。水出しててちょっと時間経ってるだろうけど。
うーん…転送魔法で食料取り寄せる? いやあれは元がないと持ってこれないか。なら召喚魔法はどうなんだ? これなら自分が持ってなくても出せるよな。でもこれってどこから出てくるんだ? この世界のどっかからか? でも異世界召喚とか聞くし、別世界からでもOKっぽいよな…。しかし食料を召還するってなんだ? 自分で言っててよくわからんくなったぞ」
基本召喚と聞けば何らかの生き物を呼び出すものと思っている将一にとって、食べ物である物体を呼ぶということができるのか疑問が浮かぶ。
しかしあんまり深く考え込んでないで試してみればいいかとその考えを放棄した。腹が減っていることもあって深く考えるのはまた今度と先送りする。
「んー…とりあえず食べれるなら何でもいいか。とはいえイメージとそれを思わせる言葉は必要だよな。
まあ無難におにぎりとかでいいか。よし、やろう!」
呼び出すものも決まったからか、難しいことは後々と魔法を使う前段階に入る。
手を前に出し、出す場所を決める。空中に出ても困るので、地面に出るように意識する。
先ほどの水の時のように器がないと困るということもあってか、皿に乗った状態をイメージ。
イメージもだいたい整ったのか、いざ召還を始める。
「皿に乗った海苔に包まれたおにぎりよ…来いッ!」
イメージを思い浮かべながら、間違わないよう言葉を口にしておにぎりを召還する。
そしてその言葉の終わりとともに、目の前の地面に白い皿に乗ったおにぎりが海苔に包まれた状態でその姿を現した。
「おおー! いけたいけた! 召喚魔法っておにぎりも呼べるんだなぁ。よくあるのだと使い魔だとか精霊だとかばっかだと思ってたわ。食べ物はいけるっと。いいこと知れたな」
目の前に現れたおにぎりを見て、召喚魔法を無事使えたことに満足する。
そして残すは実食するのみ。
「これで食べれないとかだと酷いが…流石にそんなのは現れないよな? わざと腐ったものを指定するとかなら別だろうけど…見た感じ普通のおにぎりだしな。
まあ食べればわかるか、いただきます」
そう言って手を合わせてからおにぎりを持つ。(手は水魔法を試している時に手で水をすくった際洗った)
「…うん。まあ、普通のおにぎりだな。自分で作ってたやつに似てるが、無意識に昔食べた奴をイメージしてたのかな? でも普通に食べれるから問題ないだろう」
おにぎりの状態を確かめながら、無事食べれるものを呼べたことに満足する。これで召喚魔法はちゃんと使えると証明できたのだ。
呼んだのは1個という事もあり、時間もかからず食べ終える。流石に1個じゃ足りないので、他の物もいけるかの確認がてら適当に召喚し実食してみる。
「チャーハンOK、スープOK、漬物OK、お茶もOK。
うん、全部問題なかったな。やはりどこか自分で作った事があるような味だったが…これは店の指定をすればそこの奴もいけるんだろうか? とりあえず今はこれでいいか」
全部綺麗に食べ終わり、水魔法でざっと洗った器は転送魔法で送っておいた。
昼食を終え、腹が満たされたことや召喚魔法がいけるということもあって気分は快調だった。
これからまだまだ魔法を試すことにしているが、今は食休みと足を投げ出しマッタリする。
「とりあえず食料も水分も確保できたのは大きいな。召喚魔法が使えるってことは他にもいろいろ出せるってことだろうし、これは面白いな。
それに買い物に行く必要が減るのはありがたい。何しろ死因が買い物に行った為だからな…。なんか知らんうちにトラウマになってる気がするぞ…まあそんなこと言ったら出歩けんし、魔法も頂いたんだ。何とかなるだろ」
そうつぶやくと、隣にあった温かいペットボトルのお茶を一口飲む。早速有効活用し始めてみた。
正直召喚魔法で呼び出せることが分かったとたん、その前までやっていた飲み水確保の時間は何だったんだと思うが…あれは水魔法を使う練習だったのだと思い込むことにした。あれのおかげで火や風の魔法もいけるはずと知ることができたのだから。
そんな風に今までやってきたことを振り返りながら、これから何の魔法を試すかなぁ…と呑気に考えて休憩をとるのだった。