67話 街案内の報酬は夕飯奢りで
外が暗くなってくる時間まで買い物を続けて2人は、やっと車まで戻ってきた。手には預けていた荷物をぶら下げて。
「まぁ、ないもんは仕方ねぇさ。管理部の購買の方なら有ると思うぜ」
「そうなんですかねぇ…まぁ、そっちに期待するしかないんですけど…。入荷と同時に無くなるってどんだけ人気商品なんですか」
薬屋に寄った後、ホームセンターでライトを見たりロープを見たりと、洞窟内で使いそうなものを物色していた。(ポーションは結局無かった…)
その後に、車でも話していたゴーレムの核が置いてある店に向かう。そこには、一般に降ろしても問題ないとされたダンジョン産の素材が置いてあり、意外と楽しめた店だった。
購買にはこれ以上に置いてあるというし、買い物をするならそちらを見た後でもいいかと思いゴーレムの核だけを探した。
しかし探しても見当たらず、店員に聞いたところ入荷してはすぐに売り切れたのだという。どうやら予約もいっぱい来ているらしい。これは買えないなと、諦めるしかなかった。
「一般にゴーレムの核ってそんなに需要あるんですかねぇ?」
「まぁ、1回それなりに金額出せば警備員が雇えるようなもんだからな。需要はあんだろうよ。じゃなきゃ予約が溜まるほどならねぇわな」
「そこまで治安が悪いようには思いませんでしたけど、やっぱりモンスターが現れた時用の保険なんですかねぇ? 一般のゴーレムですからそこまで戦力としては微妙でしょうけど、いざという時は頼りにはなるでしょうし」
「それはもちろんあるだろうなぁ…。やっぱあの戦争時の被害が忘れらんないから、保険として持っておきたいってのはわからんでもないな…」
やはりこの世界の人達にはあの戦争の悲惨さが身に沁みついているのだろう。被害が収まっている今でもその時の恐怖が忘れられないみたいだ。
「探索者の私たちが結果出してればそれも無くなってきますかねぇ?」
「どうだろうなぁ…。一般の需要を追い越すぐらい核を持ち帰ったら収まるんじゃねぇか?」
「どれだけかかるんですかねぇ…それ」
「さてなぁ。ダンジョンの脅威が完全に消えたとしても警備ゴーレムは居てくれたほうが嬉しいだろうし、やっぱ需要はいつまでも無くなんねぇんじゃねーか?」
ダンジョンからモンスターの脅威が無くなったとしても警備ゴーレムが必要という事実にやるせなさを感じる。結局人の脅威は人でしかないというのは世界が変わっても同じなんだな…と。
「はぁ…そうなるとやっぱり核は管理部の購買で買うしかなさそうですね」
「そうなるな。まぁ、あそこなら置いてるからそう心配すんな。それにPT見つけりゃいいんだよ。
ゴーレムは確かに疲れもしねぇし、人の何倍も力が出やがる。防御力だってあるから壁にもできるし、囮としても使えると確かに便利だ。
それでもやっぱPTに比べると応用性が低いぜ。能力持ちのPT見つけたほうが探索もはかどるってもんよ。何より1人じゃつまんねぇしな」
確かにダンジョンでずっと1人というのもなんだかなぁ…とは思う。自分の能力的に考えるとゴーレムとかの方がいいのだろうが、それはそれで寂しいものがありそうだ。
とりあえずはゴーレムで進み、たまに誰かと潜るぐらいが自分にはちょうどよさそうに感じた。
「まぁ、まずは試しですからね。ソロで潜ってそこからいろいろ考えますよ。それに私も他の人達と同じくゴーレムの核は確保しておきたいですし」
「探索者なんだからなんかあっても自分の身は自分で守りゃあいいじゃねぇか…」
お前は一般人枠じゃねぇだろと軽く小突かれてしまった。そういう意味ではなく実験的な意味だったのだが…特に訂正しなおす必要もないし、そう思っていてもらっていいか。
「まぁ…収集やらなんやらで魔石集めてたり素材集めてんのがいるから別にいいけどな。
さってと…とりあえずこれで武器防具屋と雑貨屋と見終えたわけだがどうするよ? これでだいたいのオススメ場所は案内し終わったと思うぜ?」
「そうですか…では今日はこれで終わりにしましょうか。
槍一さん、今日は案内していただきありがとうございました。おかげでいろんな場所を知ることが出来ましたよ」
そう言って頭を下げる。間違いなく自分だけで回っていたら今日中にこれだけ見て回ることはできなかっただろうし。
「なーに。最初にも言ったが、俺はしばらく休養日だからな。今日1日の街案内ぐらいならどうってこたぁねぇよ。中田の姉さんが言ってたように、先輩が後輩の面倒見てるってだけだ。特に気にするようなもんじゃねぇぞ」
「そう思ってくださるのはありがたいんですが…私からすれば、本当に知らないことをたくさん知ることができたわけですからね。感謝してもし足りませんよ」
ダンジョンについての知識を、今日一日でだいぶ聞けたのは確かだ。
本来なら自分で時間をかけていろいろ知るはずだったのに、それがこうも早く知れたのはこの世界を生きていくうえでかなり大きいはずだ。
後は管理部にある資料室で、ダンジョンの地図や出てくるモンスターについて知ることが出来たら潜る準備は完了だ。購買で今日教えてもらった物資を購入すればすぐにでも潜れるだろう。
「いろいろ知識が足りませんでしたからね、私は。これでダンジョンに潜ることもできるでしょうし、やはり感謝せずにはいられませんよ」
「お、おう…なんかそこまで言われると照れくせぇじゃねぇか。じゃああれだ…今日の夕飯は将一、お前の奢りってことでどうよ?」
こちらの感謝している態度を見て照れくさそうにしているかと思えば、今日の街案内の代金として夕飯を奢れと言ってきた。それ位は吝かではないがなんともわかりやすい人だ。
「ええ、ご馳走させてもらいます。やはりあそこですか?」
「おうよ! やっぱ管理部の食堂が気楽に食えるし飲めるからな。男2人でディナーなんて行っても楽しくもねぇだろうが」
「居酒屋とかならおかしくもなさそうですけどねぇ。まぁ、私もあそこの料理は気に入ってますからね。料理の種類だって全然食べれてませんし」
「なら行く場所は決まりだ。今日の〆は管理部の食堂だな」
「ならば今日は槍一さんのオススメ料理を教えてもらってそれを食べるとしましょうか。あっ…車なのでお酒は抜きでお願いしますね」
昨日の二の舞になることは避けようと、そう言って予防線を張っておく。流石に2日連続置いていくわけにもいくまい。思い出せてよかった…。
「まぁ…しょうがねぇか。んじゃぁ俺も…」
「槍一さんは休養日なんですからどうぞお飲みください。私はお茶ですが乾杯しましょう。それに奢りなんですからお気になさらずに」
「そうか? なら悪ぃが飲ませてもらうとすっか。やっぱ地上にいるときは酒飲みたくなるからな」
「やっぱりダンジョン中は禁酒ですか?」
なんか槍一さんの性格なら飲んでそうと思ってしまう。モチベ維持のためにも~とか言って。
「そりゃ…飲んだことがないとは言わねぇな。ただ基本は飲まねぇぞ。消毒用のアルコールは持ってくがそいつは飲用じゃねぇし。
俺がダンジョンに潜ってちょっと慣れた時だったか? ソロで潜ってたし、なんかあっても自己責任だったからな。消毒用アルコールの代わりに高濃度アルコールの酒持ってったことがあってよ。野営の時にそれ飲んでたんだわ」
「ソロなら別にいいのでは? ご自分で言ってた通りですが自己責任なのでしょう」
やっぱやってたかと、内心苦笑する。アル中というほどではないが酒好きに見えたしな。
「それがそうもいかねぇんだわ…。ダンジョン潜るのに依頼の1つも受けねぇ奴はあんまいねぇからな。俺もそん時は依頼受けてたしよ。
んで、もし俺が酒飲んだ所為で依頼失敗したらどうなるよ?」
「依頼失敗ですから…生きて帰ったのなら違約金とかですか? 死んでいたら何もなしでしょうけど」
「まぁ、そんなところだ。でだな? そうなると面倒掛かるのは管理部だ。何が原因で失敗したのかという調査をしなきゃならねぇ。俺の荷物はおそらく見つからねぇし、酒の所為だっていうのはわかんねぇんじゃねぇか?」
「モンスターにやられたか、それとも別の何かが原因で失敗したと判断されるわけですか。それはそれで仕方ないようにも思えますが?」
「それはそうなんだが…それ調べんのも手間かかんだろ。簡単な依頼だったし、当時の俺でも失敗する要素なんて無いようなもんだったからな。
まぁ、何が言いてぇかって言うとだ。ダンジョンで酒はやめとけってこった。高濃度アルコールの酒なんてダンジョンで飲むもんじゃねぇわ」
「低濃度なら?」
「……1杯か2杯ぐらいなら…」
「…うん。ダンジョンでのアルコールは私はやめときますね」
懲りてないなぁ…と、口に出すことなく心の中で思うに止めておく。自分も酒は好きだがダンジョンで飲むほどではないはずだ。
「と、とにかくダンジョンで酒はやめときな。飲むんならダンジョン出て食堂で飲みゃいいんだからよ!」
「わかりました。では出しますね」
話を無理やり切り上げた槍一さんに苦笑しつつ、車を管理部に向ける。酒なら今からじっくり飲んでもらおう。
「着きましたね。それじゃあ降りましょうか」
「おう。と…その前に購買行くぞ」
「何か買うんですか? 持ち込みは流石にダメでは?」
「俺じゃなくてだな…お前が欲しがってたゴーレムの核だよ。あるとは思うが…食事してる間に売れ切れたなんてことになったら嫌だろう?」
槍一さんにそう言われて思い出した。管理部に来たんだから早い所購買行けばいいのか。
「しかし…食事遅れないです? 私の用ですから後でも…」
「今日は将一の街案内ついでに買い物してたんだ。少しぐれぇ遅れても文句はねぇよ」
その言葉を聞いた瞬間、槍一さんって良い人だなぁ…と改めて思った。どこかチャラッとした印象はあるが、今日いろいろ話をしてみるとずいぶん律儀で面倒見がいいというのがわかった。今も案内は終わったというのに、買い物があるのなら待つと言ってくれてるし。
これは後輩の初心者教育で中田さんが頼むわけだ。いい兄貴分してくれている。
「そういう事でしたら…すいませんがちょっとだけ行ってきます」
「おう。店員に聞いてさっさと確保しちまえ」
「わかりました」
それだけ言うと、車の鍵を槍一さんに渡して自分は購買めがけて走る。待たせるにしても少しでも短くするのがこちらの礼儀だろう。
とりあえず購買にゴーレムの核があるという事を信じて走る。追い抜いていく人たちから不思議な視線を向けられるが、気にせず走り抜けた。
購買に着くと店員スタッフさんを捕まえゴーレムの核があるか急いで聞き出す。自分のその急ぎ様に一瞬驚く店員スタッフさんだったが、すぐさま物の場所を案内してくれた。どうやら無事あったようだ。
案内してもらったところで、ゴーレムの核を手に入れたという感傷に浸る間もなくカウンターに持っていって清算してもらう。
これで食堂に行けば、それほど待たせることもないだろうと一安心だ。
なんか最後の最後でとてつもなくせわしない街案内になったなぁ…と思ってしまった。




