663話 ダンジョン2層(ソロ) 湧き待ちは不安定だ
「ヂュウウウウッ!?」
「良し、これでラストだな」
最後のラットにボウガンを撃ち込み辺りを見回す。現在動いているラットが居ない事を確認するとこれで一段落と頷いた。
≪おう、イシダ。動きが止まったようだけど片が付いたのか?≫
「マックさん。もしかしてそろそろ出発ですか?」
トランシーバーから休憩中であるはずのマックさんの声が聞こえて来た。おそらく探知を使ってこちらの様子を確認していたのだろう。休憩中なのに能力を使ってたら意味ないんじゃないかね?
≪腰を落ちつけて茶の1杯も無事に飲み終わったんでな。いざとなったら3層でも休憩は出来るからとりあえずはこんなもんで十分よ。今は転送陣の上で最後の準備中って所だ≫
「そうですか……それじゃあ間に合いませんでしたね。こっちはバットとラットを片付け終わった所です。後はロックゴーレムが残ってます」
≪ロックゴーレムよりも上位のゴーレムを引き連れているのだから後の始末は容易でしょう。私達はこれで転送されるのでこちらの事は気にせずゆっくり倒せばいい。今言っておこう、お疲れ様≫
マックさんとの話の後にミーナさんの声がトランシーバーから聞こえて来た。これは労いって事でいいのかな?
「ミーナさん達もボス部屋突破お疲れ様でした。3層の方もそんな調子で頑張ってきてください」
≪そっちもボス討伐頑張れよ。地上で会ったらどこかで飲みにでも行こうや≫
≪その時はぜひおすすめのお店を紹介してください。海外から来た私達よりかはこのダンジョン街にも詳しいと思いますしね≫
≪酒飲み放題な所を頼むぜ!≫
続けてベルさん、ジャックさん、コニーさんからそう返事が返って来た。確かにこのダンジョン街にしばらく居座るつもりなら再び地上で出会う事もあるだろう。
おすすめのお店か……口に合う料理の店を考えておかないとな。
≪出来れば和食のお店を教えて頂戴。あまり格式が高くない所の方が良いかしらね≫
≪こっちには騒ぐのも居るからね。そう言う所をあまり気にしないお店を希望するわ≫
アンナさんとロディさんから和食のお店を希望された。岡田さんの天麩羅屋とか? あそこ酒の飲み放題はどうだろうな……。
≪おいおい、イシダさんの方はまだ戦闘中なんだぜ? 残りが心配ないからってあんまりあれこれ言うなよ≫
≪すまんな、こっちの事は適当に時間が出来た時にでも考えておいてくれ≫
≪ほら、ベルはもうちょっとそっちに詰めろよ≫
「あはは……あまりお気になさらず。ロックゴーレムもがっしりと押さえ込んであるので大丈夫でしょうし」
こちらの事を気遣ってかカーンさんとドグさん、それとジェスさんがお店紹介の話題を逸らしてくれた。お言葉通り次の湧き待ちの時にでも考えておくとしようか。
≪確かに今あれこれ話すのもなんだな。この話の続きは地上で再会した時にでもするとしよう≫
「わかりました。それではまた今度地上でと言う事で」
≪おう! 今回はありがとよ、お疲れさんだ。よし……それじゃあ転送準備は良いな? 起動させるぞ≫
そう言うとマックさんが締めの言葉を口にする。あちらの転送準備は整ったようだ。
転送待ちの間に全員から無事の探索と労いの言葉を受ける。こちらも改めて3層突破のエールを言っておいた。
少しするとトランシーバーからの声も聞こえなくなり探知からも反応が消えていった。3層へと転送されていったわけだ。
「ふぅ……マックさん達の見送りは結局トランシーバー越しになっちゃったか。ラットの始末にちょっと時間をかけすぎたかね」
後の始末は楽なものとどこか気が抜けていたのだろうか。なるべく丁寧にと気を回しすぎたのも関係している気がした。
通路の道を塞いでいた大型ゴーレム達に戻ってくるよう指示を出しロックゴーレムの始末を手伝わせる。作戦も終わったし残りはサクッと片付ける事にした。
ロックゴーレムを倒すと他のモンスターの回収をゴーレム達に指示する。とりあえずこれで3戦目はなんだかんだで終了だ。
入り口近くに死体を持って来させ解体でもしつつ先ほどの事を考える事にした。自分もまだどこがおすすめって言えるほど詳しくは知らないからねぇ……。
そんな事を考えながら15分程解体をしていると部屋の中に動きがあった。
「今回はスライムの湧き早いじゃん」
まだ解体を始めてそんな経っていないにもかかわらずスライム達が防壁や攻撃跡の吸収を始めていた。死体を置いているこちらにも数体のスライムが寄って来る。
部屋の中での解体はここまでかと未解体の死体を空間魔法に仕舞い部屋の外へと出ていくことにした。毎回こうだと助かるんだけどねぇ。
ボス部屋前の通路へ戻ってくるとこちらもいつの間にかスライムが湧いていたらしく戦闘前に使っていた焚火が綺麗に無くなっていた。新しく焚火を起こすと解体を再開する。
「次の3層突破のPTは……こいつだとしばらくは余裕あるか?」
探知で他PTの反応を調べると少し遠くに反応があった。宝箱が出る通路に向かっているとあってか3層突破のPTかどうか確証がなくまだ何とも言えない。
一番近いPTがこれなのでそうでなかった場合次にここで鉢合わせするのは少し余裕が有りそうだった。
「地底湖に行って海老を確保する時間なんかは一応ありそうだな。
んーっと……どこか丁度よさそうな地底湖は……っと」
ボスが新たに湧くまで解体をするのでもいいが地底湖に行けそうならそちらでも可だ。お店の事を考えるのは地底湖でも十分出来るだろう。
探知で人が近くに居ない地底湖を探す。地底湖そのものには居なくても案外近場を移動してるPTはそれなりに居るのだ。出来るだけ他のPTの横やりが入らない所が良いね。
そんな感じで解体をしつつ地底湖の状況を探っているといきなりボス部屋に新たな反応が出現した。
「はぁ!? 今回湧くの早すぎだろうっ!?」
スライムが先程現れ吸収を終えたのは確認した。そしてそこから10分もしない内に部屋の中で反応が現れたのだ。効率が良いのは嬉しいけど3戦目までとの差がありすぎるだろう!
ともかくボスが湧いたのであればこちらを優先と解体している物を仕舞い準備を行う。ボルトの補充とかまだやらなくていいだろうと思っていたけど急いで用意を整えた。
「3戦目がさっき終わったばかりだっていうのに4戦目早いな。毎回こうなら準備を整えて待機してるんだけどね……」
次からはボルトの補充を真っ先に終わらせ用意を整えておくことに決めた。今までの感じからしてこんなに早く湧くのは流石に予想外だ。
「準備完了! それじゃあ4戦目といきますかっ!」
飛行ゴーレムを伴い部屋の中へと入っていく。
3戦目は少し予定と違ったのでこれが実質3戦目だ。考えていた通りに動こうと飛行ゴーレムを操縦する。モンスターに近づいてゴーレムを出す所までは毎回同じだ。
「攻撃は控え目にな。牽制するつもりで撃てよ。それでも落ちるのが数体は居るからそこは仕方ないんだけどな」
地上のゴーレムに指示を出して空へと上がる。防御力が低いと掠っただけでもバットなら地面に落ちかねんから意外と注意が必要だ。
事前に決めていた通り今回は自前の能力も加えて戦闘をしてみる事にする。とはいえこれは使える能力の数だけ対応が変わるので試すにしてもキリがない。考えていた通りまずは水と土から行くかね。
「今回みたいなスパンでボスが湧いてくれるんであれば別に試しまくっても良いんだけどな。これだけ早いのは今後どれだけあるんだか……」
湧く時間に関してはこちらではどうしようもない。今回とは逆で無茶苦茶時間がかかる場合なんかもあるだろう。そうなった時はどこか人気のない別の場所へ行った方が時間の無駄にもならなくていいな。
ここでボス待ちをしてる以上なるべく他の探索者とは顔を合わさない方が良い。それもあって人気がない地底湖が今の所1番の時間つぶし候補なわけだ。人が増えた所為でその地底湖すら転移をするにしても様子を見ないといけないけどな。
「午前中みたいな地底湖がまたあると嬉しいんだけどね。まぁ、その辺りは後で考えるか。今はこっちに集中……っと」
バットへ近づくついでにモンスターの確認を行う。どうやら今回もゴーレムはロックゴーレムだけのようだ。地上からの攻撃はまたラットだけ気にすることになるな。
湧き時間がやけに短いのは実はそういった事も関係してるのだろうか? 1体も居ないのは素材的にも美味しくないんだよね。
「湧かせるにしてもそれ相応のコストが必要だったり? なんかダンジョンを育成するゲームでそんな要素見た覚えがあるな……」
ダンジョンの最奥にあるというダンジョンの核がその辺りの調整をしているのだろう。ゲームで言うといわゆるダンジョンマスターって奴だな。流石にそんなゲーム的な考えは無いだろうが2回連続でロックゴーレムだけとなるとなんとなくそんな考えが頭に過った。
これも湧きが正常に戻ったという事に関係しているのだろうかと頭を悩ます。
よくよく考えるとアイアンゴーレムが混ざる確率の方が低いだろうしどちらかと言えば今のこの状態の方が普通と言える。アイアンゴーレムが出るのを期待するのは難しいかもしれないな……。
「そうなるとこのパターンがほとんどって事か。他のモンスターを期待するなら地底湖とか別の場所行かないとやっぱダメよな。やっぱり明日はすぐ3層行ってそっちで試すとするか……」
飛行ゴーレムを動かすのにも慣れてきたとあってか違うモンスターとの戦闘を望む気持ちが出て来た。同じ相手ばかりだとテストをするにしてもやはりちょっとあれだしな。
空いた時間でまたどこか別の地底湖へ行けないかとそんな事を考える。まだ4戦目だが早くも飽きが出てきたようだ。戦闘方法がある程度決まってるので仕方ない部分もあるのだけどね。
自身の能力を使用してそれがどれほど変わるかとそう思いつつバットと対峙する。
危険はあるがどこか倒し甲斐のある相手を心では求め始めていた。順調に探索者病を患いだしたのかもしれないなぁこれは……。




