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651話 深夜行列




 「……こりゃ出遅れたかな?」


 管理部の建物に入るドアを開けながらそう呟いた。この時間でここまでとはちょっと予想外だ。

 時間はだいたい0時を過ぎた頃。タグの申請をさっさと終わらせようと日付が変わる今管理部へとやってきていた。


 ついでに探索の準備の方も既に済ませてある。この時間に出かけ朝方まではボス部屋の前で過ごそうと考えた。それなら朝のあの行列に並ばなくて済むだろうしな。

 体は多少痛いかもしれないがその辺りはどうとでもなる。時間を無駄にする事無く探索時間を多く取れる方を今回は選択した。まぁ、一番の理由はやはり朝の行列が面倒という事だけどな。


 「そう思って早朝から深夜に予定を早めたんだけどなぁ……同じ事を考える人多すぎか?」


 この時間のロビーにしては人が多すぎる。ついでに人も少ないと思って来たのだがどうやらその予想は全くもって外れたらしい。

 ぱっと見昼間のロビーを彷彿させられる人の数だ。それだけタグを新しくしたいと思ってる人達も多かったって事か?


 「最後尾はここか? 結局なんだかんだで随分と並ばさせられる事になったな」

 朝は何とか回避も出来たが手続きをしなくてはいけない以上今回は避けられない。大人しく自分の番が来るまで待つかと列へと並んだ。


 (こんな時間なのに意外と人も来てるもんなんだな……身分証明書みたいなもんだし、それが使いやすくなるかもってなったらそりゃ深夜でも手続きに来るか)


 それが思いのほか皆同じ考えをしていたという事だろう。

 申請順という事であれば早ければ早い程良い。予定通り明日の朝にした場合だとかなり出遅れたことになっていたかもしれない。


 「これ皆同じ目的かな? ちょっとの間に更に人入って来てるし」


 自分の後ろを見ると少しずつ増えていく人の列がそこにはあった。こんな時間にロビーへ来てるとなればやはり同じ目的と思った方が自然だろう。

 列を見て呆れ顔でそのまま帰っていく人もいる。この時間なら空いてるだろうとすぐに終わると思った人は予想を裏切られたな。

 

 「時間的に厳しい人は朝に回さざるを得ないだろうし仕方ないか。いつ自分の番が回って来るかなんとも言えんしな」


 申請だけであれば1人当たりの時間はそれ程でもないだろうけど中には別の用事で並んでいる人だっているかもしれない。列の長さだけ見て諦めるのもしょうがないか。

 自分でもこちらの番はいつになるかとそう思いつつゴーレムの事でも考える事にした。今倉庫にある作りかけの特大ゴーレム搭乗型にでも手直ししようか……?


 そうしてそんな事を考えていると1時間が過ぎた。考える事はあっても列に1時間はなかなかに疲れるな……。


 「お次の方どうぞ!」

 「ようやくか……」


 こちらの受付が空いたとそう言って声がかけられる。1時間はまだ短い方と見るべきかそれとも待たされたと捉えるべきか……ずっと待ってただけの身としては眠気も出て来たな。

 とはいえ受付に居るスタッフさん達なんかはこれが朝までずっとだろう。それを思うと夜勤組の大変さは目に染みるな。

 受付にやってくると早速用件を言おうとスタッフさんを見る。すると……。

 

 「あ、中田さんでしたか」

 「お久しぶりです。夜遅くまでお疲れ様です、石田様」

 受付にいたスタッフさんは中田さんだった。今日は夜勤担当なんだな。


 「中田さんも遅くまでお疲れ様です。夜勤はやっぱり大変ですか?」

 「普段はそれ程でもないのですけども……人が増えたとはいえスタッフの数もそれなりに補充されましたので。今日みたいな日は特別ですね」

 そんな忙しい日の夜勤担当になってしまったとちょっと困った顔を見せる中田さん。交代するスタッフさんはいるらしいので出ずっぱりという事はないそうだが。


 「お疲れ様です。っと、挨拶はこんなものとして要件なんですけども……」

 「はい」


 中田さんもここからは受付けの仕事だとこちらの要件を聞く姿勢をとった。

 そしてタグを新しくする申請をお願いすると既にそうだと思い用意していたのかスッと台の上へ用紙を出してきた。


 「それでは今お使いになっているタグの提出をお願いします。それとこちらの用紙に記入もお願いします」

 「はい」

 申請書と書かれたその用紙に名前を書くと各項目にチェックを付けて行く。そう時間のかかるものではない。それと手数料の支払いは……引き落としでやってもらうか。

 

 「出来ました」

 「それではお預かりします」

 そう言うと中田さんは用紙にササッと何か書き込むとタグの写しと一緒にホッチキスで止めファイルへと仕舞いこんだ。

 

 「こちらタグをお返しします。用意が整いましたらご連絡をいたしますのでそれまでお待ちくださいませ。夜遅くまでお疲れ様でした」

 「これでOKか……それじゃあ後はお願いします」

 「はい。御用がお有りでしたらまたいつでもお越しくださいませ」


 これで申請の方は終わったらしい。手数料を今支払わない分スムーズに終わった感じだ。何であれば時間が空いた時に支払ってしまうのも有りか。

 用もほんの2,3分で済んだと終わってしまえばそんなものだ。受付に呼ばれるまでが長くて退屈なんだよなぁ……。

 早速次の人を受付に呼ぶ中田さん。自分もこちらでの要は終わったとロビーを出ていく。

 

 「さてと……お次はこっちか」


 建物から出るとライトアップされた広場が目に入った。予定では列に並ぶとしたらこっちだったんだけどなぁ。

 駐車場に止めた車から装備を引っ張ってくると先程も見た広場へ足を運ぶ。そして朝ほどではないとはいえそれなりに長い列の最後尾へと並んだ。

 

 「意外と時間食っちまったな。予定なら今頃はもうダンジョンの中かもうそろそろ入れるかって所だと思ってたんだけど……」


 まさか今現在広場の列の最後尾に並んでいるとは思わなかった。この調子だとダンジョンに入れるのは2時とかその辺りになりそうだ。流石に眠気も出てくる。

 コーヒーでも飲みながら列が進むのを待とうと周りに目を向ける。この人達もおそらく行き先は1層とか2層とかその辺りなんだろうな。


 (とりあえず間を取って今回は3層に行ってみるつもりだけど混み具合ってどんなもんだろうな? 解放された4層の方が人も居ないと皆そっちに行ってるのを見越して3層にしたけども……。

 同じ考えで人が減った3層をそのまま狙ってくる人が多くない事を祈るばかりだな)


 1層は来たばかりの人が大量にそこを通ると考慮して今回はやめにした。4層は攻略されたばかりだがだからこそ3層まで居た人達が挙って進んだのではないかと思いこっちも選択肢から外す。そうなると選択肢としては2層か3層のどちらかなのだが……。

 

 (こればかりは行ってみるまでわからんしな。

 いっそのこと最初は2層に行って様子を見た後で人が多かったらボス部屋を通って3層に行くか? 一度2層の様子を見ておくってのも有りだな……)


 どのみち今夜から朝方に掛けてはボス部屋前のセーフゾーンで過ごす事にしている。

 なんだったら朝方その2層のボスで飛行ゴーレムのテストをしてもいいわけだ。考えてみればボスは固定で湧くし一番確実に戦える相手だわな。

 わざわざ湧いたモンスターの所に転移をしなくてもそうすれば確実に戦闘が出来る。


 (4層みたいに人気があるボスってわけでもないしな。確実に戦闘をするならボス狙いの方が良さげか。相手がほぼ固定されてるってのを除けばいい気はするな)

 それにこちらはバットやゴーレムといったお目当ての風魔石や素材が揃っている。これを見逃す手は無いだろう。

  

 (あー……でもそうなるとゴーレムの素材目当てでボスに張り付いてるPTが居ないとも限らないか。けどその場合居るとすれば素材を運べる駒持ちPTに限られるよな。

 流石にボス周回で素材を集めるPTは限られるしそこまで気にする程じゃないか? むしろそんな駒持ちの人は4層のボスの所へ行ってたり? ゴーレムが出るっていうならあっちの方が素材的にも美味しいだろうし。

 同じく4層のボスを狙ってるPTも居るだろうけどそれはつまり人手は十分と……やっぱり2層や3層よりもそっちへ行ってる確率の方が高いんじゃないのか?)

 

 行き先をどうするか考えながら少しづつ進む列を詰めていく。

 今回の依頼的にもなるべくいろんな種類のモンスターと戦闘をした方が良い報告も出来るとあってそこも少し悩ましい。確実に戦闘は出来るだろうけど決まったボスばかりというのもテストとしては微妙だ。

 やはり2層で一度様子を見てボスと戦ってから3層へ行くべきかと頭を悩ませる。それに岡田さんと話していた地底湖の調査もなるべくならしておきたい。飛行ゴーレムは水上の移動にも役に立つとお金はかかるが地底湖の移動にもこれからは一役買うだろう。

 出来れば地底湖での戦闘も経験しておきたいと更に頭を悩ませる。いろいろ試したいことでいっぱいだな。

 




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