631話 久しぶりに来店しました
「いらっしゃいませっ! お好きな席へどうぞ!」
入店と同時にそんな威勢のいい挨拶が聞こえて来た。やはりお客としては活気のある店の方が嬉しいね。
「さてと、何にしようかねぇ?」
食券機を前に何を食べようかとメニューを選ぶ。盛り合わせにするか単品で頼もうか……。
「……よし、とりあえずはこれにするか」
そうしていくつかの食券を購入するとカウンター前が空いていたのでそこへ座る。やはり揚場前が1番良い席だろう。
「これお願いします」
「はーい! オーダーいただきましたー!」
水を持ってきてくれた店員さんに食券を渡すと視線を前へ向ける。具材を揚げている良い音を聞きつつ口を開いた。
「店長、ご無沙汰です」
「ん? ……ああ、いらっしゃい。久しぶりだね」
岡田店長は自分の顔を見るとそう言って頷いた。久しぶりだけど覚えてたかな?
水で喉を潤すと邪魔にならない程度に会話を楽しむことにする。
「確かつい最近ダンジョン街に来たとか言ってたっけ。お店の開拓で忙しかった? ほんと誤無沙汰じゃないの」
「覚えていらっしゃいましたか。ええ、それなりには開拓出来てきてると思います」
「またのご来店ありがとうございます。どうです、探索者業の方は慣れましたか?」
「そっちもそれなりですねぇ」
揚場を覗き込み今日はなにがあるんだろうと追加のオーダーを考えつつしっかりこちらの事を覚えていたんだなぁと感心する。なんだかんだで全然来れてなかった気がするし。
新しく具材を揚げる準備を見て自分の分かと思いつつ出来上がりを期待する。揚げ方が良ければ大抵失敗はしないもんだ。
「そうそう、店長に言われて地底湖でエビを探してみたけど見つかんなくてさ。ダンジョンにはいないんじゃないかな?」
「そっかぁ……やっぱり海のエリアとかそんな所じゃないと見つかんない物なのかねぇ」
天麩羅屋としてはやはり海老の存在は大きい。それが見つかれば間違いなく入荷を試してみるんだけどと溜息を漏らす岡田店長。まだ森林エリアの川の方が期待出来るんじゃないかな?
とはいえダンジョンが出来てから既に数十年。新種を見つけるとなるとかなり難しい気がするな。
「なんかモンスターの湧きも変わったって言うし期待してたんだけどね。やっぱり難しいか……」
「どうなんだろう……こっちも探したとはいえ底まで浚ってってわけじゃないし。基本的にはモンスターの反応で探してたから見逃しはあったかも。今度動体探知で探してこようかな……」
森林鮭や岩魚なんかはモンスターではないだろうし探知をするにしても別扱いな気がする。地底湖の底の方に海老が居たとしたら普通に見逃しはあり得そうだ。
ただでさえ水上は探索者が近づかない範囲だし通ったとしても端側だ。普段から薄暗い事もあるし水上を飛んでいたとしてもまず気がつかない。地底湖を探知するにしてもモンスター以外探そうとは思わないだろうな。
「基本探索者は近寄っても水辺のみって事だしもしかすると中央辺りに居たりして。周りにも普通にモンスターが居るから詳しく調べるとかしないだろうしなぁ」
「今ってマジックアイテムを求めて多くの探索者が海外からも来てるんだろう? モンスターの取り合いなんかもあるっていうし地底湖のモンスターまで手を伸ばす人とか居るんじゃない? 詳しく探すんであれば丁度いい時期だと思うんだよねぇ」
「ちょっと人が増えてからはそっちにほとんど行ってないんで詳しくはわからないですけどね。でも確かにタイミングとしては今ですか」
「ダンジョン内の事なんて詳しくはわかんないからいい加減だけど外野からしたらそうなんじゃないのって思うわけよ」
岡田店長は何とも諦めきれなさそうな感じでそう声に出した。
「私も気になるのでもう1回探してきますよ。幸い水中も水上も苦じゃないですから」
「よろしく。前も言ったかもしれないけどやっぱり海老は目玉素材だからね」
「他にもいろいろと美味しそうな具材揃ってそうですけどね。まぁ、手が空いた時にでも探すとします」
「依頼ってわけでもないし気が向いた時でいいからさ。よし……3番テーブルさんにこれ持っていってー」
岡田店長はそう言うと揚げていた天麩羅を店員さんに渡した。次揚げるのが自分の分かなぁ……。
出来上がる天麩羅を見つつ自分の番を待つ。揚げている所を見れるのは良いけどその分普通に待ってるよりもお腹が刺激されるよなカウンターって。
そしてふと視線を別の所へ向けるとテレビに目がいった。丁度ダンジョンの事で何か話をしているらしい。
≪管理部からの情報ですと現在4層の攻略が終わったかどうか最終調査をしてるそうですがそれについてどう思われますか?≫
≪早めに攻略終了の発表がされると良いですねぇ。参加してくれた人達が増えたおかげか2回目の攻略で終了と言えるようになりましたし。
今日中には調査班の人達も帰って来るんじゃないかなぁって期待してます≫
≪そうなると残りは1層のみとなりますね。皆さんもやはりそちらへ参加されるんですか?≫
≪その予定ですねぇ。ただ、それまでには報酬の方についてもっとしっかりしてほしいとは思いますけども≫
≪悪い事ではないんですけど軍の人達の活躍が大きすぎてですね……。どうせなら素材で欲しいんですけどその辺りが今回の攻略だとなんだか変わっちゃいまして。
広場でマジックアイテム持ちのモンスターを倒したんですけど報酬を金銭にされた所為でそれの獲得権すら無くなったり……あれはかなり残念でしたね……≫
≪私達の所はエメラルドゴーレムが居たんですけどねぇ……結構いい状態で持ち帰ったにも関わらずそんな調子でして。手に入ったらどうしようかなんて事もPTの皆と話してたんですが……≫
≪管理部にはその辺りの調整をなるべく早めに決め直してもらえればなぁ……と≫
≪なるほど……皆さんやっぱり素材がいいんですねぇ≫
司会役のその人の言葉にウンウンと頷く現役の探索者達。てか……さっきのマジックアイテム持ちのモンスターを倒した云々って自分達が居た広場の事では?
マジックアイテムを持ったモンスターなんてそうそう居ないだろうし例のミノタウロスの話だよなと、先程話した探索者へ目を向ける。カメラがそっちを映さないので顔がわからん……。
討伐班の人達の顔を全員覚えているわけではないので見たところでわからないかもしれないがやはり気になるものだ。
「やっぱり報酬の事で残念に思ってる人ってそれなりに居るっぽいな。管理部はどうするんだろう……?」
今頃……というか、報酬の事を決めてからずっと頭が痛くなってそうだと管理部上層部の人達の気を察する。やっぱり一番頭を抱えてるのって増田支部長だろうか? ただでさえ他のダンジョン街や海外から人がたくさん来てあれだというのに報酬の事でも頭を悩まさなくてはならないわけだ。
そこに関係する事だが広場の長蛇の列や帰還陣からの順番待ち等頭を悩ます案件はさらに増えている。一応こちらは軍も対応してるようだけどさ。通訳の依頼を出したりとそちらでも頭を抱えてそうだ。
そして極めつけが駒のマジックアイテムだ。低階層でマジックアイテムそのものが出始めたりも関係しているだろうが一番はやはりこれだろう。
「で、このいろいろ忙しい時に軍が駒を使って成果を上げ過ぎたとそんな愚痴を言ってるんだろうな……。間違っても管理部の支部長とかそんな責任者の立ち位置には就きたくはないな」
自分としては一探索者で十分と増田支部長に対し内心エールを送る。よく支部長なんてやろうと思ったもんだわ。
お世話になってるし栄養ドリンクでも持っていこうかと差し入れを考える。直接顔を出したら何か依頼されそうだし受付越しに渡そうか。
「翻訳の事を知られたらそっちの依頼回されたりして……時間を決めてのバイト程度ならまぁ、いいか?」
せっかく貰った力なので使ってみたくはあった。言語薬のおかげで通訳に不都合はないしな。
こちらも暇がある時なら受けてみようかなぁ……とそんな事を思う。出来るとなったら興味もなんとなく出てくるものだ。
「お待たせしました。ダンジョン産のカボチャとサツマイモの天麩羅、それとシイタケに玉ねぎの天麩羅です」
「お、来た来た!」
テレビに視線を向けていると岡田店長からそう声がかけられた。カウンター越しに揚がった物をバットに乗せ目の前へと置かれる。やはりこのビッグサイズは迫力あるよな。
一緒に天つゆも受け取ると待ってましたとばかりにそこへ漬ける。熱いうちに頂くとしよう。
「それじゃあ頂きます」
「ごゆっくりどうぞ」
そう言って天つゆに漬けたシイタケへとかぶりつく。相変わらず汁気たっぷりでいう事なしだなこりゃ!




