627話 頼まれ事を済ませに行こう
「それじゃあ頼んだぜ、イシダさん」
「ええ……そちらは承りましたけど……」
通路から出ていこうとするリーさん達にそう声をかける。うーん、しかし……。
「駒の発見が国からの依頼とはいえ人数が減った状態で大丈夫ですか?」
「その分見返りは大きいからな。なんとしても早めに見つけたいんだわ」
今後の自分達の生活にも大きく影響するからと引くに引けないらしい。それで命を落としたら元も子もない気がするのだが……。
「お2人の遺体は確かにお届けしますけども……」
「頼むな。今回の件で死亡した場合の保険は十分に出してもらえる事になってるんだ。確実に受け取る為にはやっぱり遺体そのものがあった方が良いからよ。
それに遺体だってあいつらの家族の元に返せるなら返してやりてぇんだわ……」
そう言うとリーさんはシートに包まれ木の箱へ入った2人の遺体に目を向ける。男性と女性それぞれ1人が今回の犠牲者だ。
後はゴーレムが担げばそれで完了だ。最後の見送りという事でリーさん達が出ていくまで残してあった。自分達にしても見納めになる可能性は考えているらしい。
管理部に死亡届として遺体を渡せば本国まで移送してもらえるとの事。やはりダンジョンで死ぬよりはマシと思う人は多いらしい。遺体の運搬はかなり大変だけどな。
「地上に戻ったらその時再びお礼するよ。ゴーレムが居るとはいえソロなんだし気を付けて帰ってくれよ」
「勿論そこは十分に気を付けます。大事な荷物も預かった事ですしね」
「頼むな」
リーさん達はそう言うと最後に2人の遺体に手を合わせて通路の奥へと歩いて行った。人数が減ったっていうのにマジックアイテム探しを続けるってのもかなり危ないと思うんだけどなぁ……。
どんな条件で国から依頼を受けたのかはわからないがかなりやる気に満ちている様子だ。PTメンバーが欠けても捜索を続けるって相当な気がする。
「やる気もそうだけどなんか切羽詰まってるとかそんな感じがするな……背水の陣で挑んでるとかそんな気もするし」
リーさんに聞いたところ1層から3層までも探したが目的の駒のマジックアイテムは見つからなかったそうだ。やはり競合相手も多くなかなか見つけられないのだとか。
「それで人がまだ少ないこっちまで索敵範囲を伸ばしたか……同じことを考える人ってまだ他にも居そうだよなぁ」
消えていったリーさん達の方を見つめながらそう呟く。なんにせよ無事に帰還してくれればいんだけど……。
ゴーレムに遺体の入った箱を担がせると駒へと仕舞う。死体となればそれはもう既に物扱いと、駒持ちはダンジョンでそう言った役割も頼まれることになるだろう。勿論、いざ戦闘となれば生きている人間が優先されるのは変わらないと思うが。
「とはいえそうそう運良く? そんな遺体と出会う事もないだろうけどな。まぁ、だからこそ自分達でそんな運搬用のゴーレムを確保しておきたいって思うんだろうけど。ふぅ……」
遺体を運ぶと思うとなんとなく気が重くなってしまった。遺品を運ぶと言うのとはまた違い余計責任を感じてしまう。ゴーレムより空間魔法に仕舞っておいた方が良いかな? その方が安心だし。
しかし後で乗せ換えなんかを考えるとこのままでいい気がした。
5層の帰還陣にも軍の人達っているんだろうか? 帰還陣の部屋で荷物の調整が出来ないのはちょっと痛いな……。後はもう帰還陣まで転移をしながら宝箱探す事にするか。
遺体も受け取った事だしと楽な方法を取る事にする。探索についてはまた今度に回そう。
「何の気負いもない状態の方が探索もしやすいしな。余計な気を回しての5層探索はやめにしよう」
そう思うとリーさん達から譲られたモンスターの回収へと向かう。ラット系が複数と魔石の予備確保は有難いね。
大型ゴーレムには千刃ムカデの刃を引き抜かせているのでそれが終わるまでにはこっちも仕舞っておくとしよう。しかしまたいろいろ素材も溜まって来たなぁ……。
帰還陣の所で調整が難しいならとここで済ませていくことにした。あっちだとモンスターも気にしなくていいんだけどねぇ。
「……やっぱりこっちでやればよかったな」
あれからしばらくして帰還陣の所へ到着するとそう呟いた。
「向こうで見た反応は帰還中の探索者だったってことか……今更だけど遠見で確認すればよかったな」
軍の人がいるかと思い帰還陣の部屋を索敵したのだがその時は反応があった。そこですぐ索敵をやめず遠見も使えば良かったと反省する。
ここへ来る途中から反応が消えていたのでもしやとは思っていたのだがどうやらそう言う事のようだ。
「軍の人は4層までを管理していると……まだ攻略も始まっていない5層はこれからって事か」
軽く溜息を吐きつつ帰還陣を操作する。今は誰も待ちが居ないのかすぐ使えるようだ。
光が集まり視界が切り替わるのを待つ。ともかく素材の整理自体はしてあるので問題がないと言えばない。後は倉庫裏で降ろすだけだ。
「お帰りなさい、探索お疲れ様でした」
「ええ、ただいま戻りました」
そして視界が切り替わり待機していたスタッフさんから帰還を労う言葉が掛けられた。
「素材はゴーレム持ちですか? どうです、大量で?」
「それなりです。素材は……ですけどね」
こちらが『ゴーレムさん』だという事を理解しているからか手ぶらだろうとあまり気にする様子は見受けられなった。苦笑いを浮かべながらタグを渡して帰還の手続きを済ませる。
そう……素材はそれなりだ。元から仕舞っていた分も合わせるとソロで運ぶ分には十分とも言える。
今回の目玉は千刃ムカデの刃だろう。そこに倉庫で解体をした他の素材なんかを合わせてゴーレムに担がせている。
問題は素材の方ではない。マジックアイテムだ……。
「結構宝箱が出る通路にも寄ったんですけどねぇ……こっちは今回全然ですよ……」
「うーん、今は挙ってマジックアイテム探しをしてますからねぇ……そう言う人達も多いみたいですよ。
ダンジョン内部で泊まり込みをする人も増えてきてるようです。こればかりは運も関係してるでしょうし」
「4層と5層で探してたんですけどねぇ……なるべく近くに他の人が居ない所を狙ったんですが」
転移でどうせ向かうならと帰還陣までの通路だけでなく、あのあと少し足を延ばして他の場所も探してみたのだがあいにくそちらでも成果は0だった。なんだか今回は本当に宝箱が見つからない探索だったな。
スタッフさんから今度頑張ってくださいとエールを貰いつつタグを返して貰う。今回は運がなかったね……。
転送陣の建物から出るとトラックを広場に回している人達を横目に倉庫へと足を向ける。毎回思うけど乗せ換えの必要がないってほんと楽だね。
そこまで距離があるわけではないがその分事故が起こる確率も減る。疲れた所車を運転するってかなり危険だしな。そう言った点も駒が普及する利点だろう。
そんな事を思いつつ倉庫へと到着する。後は手続きを済ませて素材を降ろすだけだ。
「こっちでいろいろ待ってる間に例の荷物を渡してしまうか。また野田さんの所でいいのかな?」
遺体そのものも遺品管理の部署で良いのかと手続きを済ませつつ考える。まぁ、違ったら違ったでそっちへ行けばいいだけだ。
素材買い取り受付のスタッフさんから今は4層攻略の素材で個人が持ってきた素材の査定には少し時間がかかるとそんな話を聞く。了解と頷きながら書類を受け取る。まぁ、予想してたしそれは問題ない。
倉庫裏へ向かうと列に並び指示された所へ素材の入った籠を出していく。なんか見られるのも慣れてきたな……。
「最初の時よりは注目も減ったからか?」
周りへと逆に視線を向けながらそんな事を思う。いないわけではないが明らかにこちらを見る視線は減ってるように感じた。
「それでは査定が済み次第連絡を入れさせていただきますので」
「よろしくお願いします」
素材を預けるとそう言って倉庫を出ていく。さて……次の荷物を渡しに行きますか。




