623話 ダンジョン5層(ソロ) 予定外の事ばかり……
「よし、とりあえずゴーレムの方はこれでOKっと」
5層にマジックアイテムを配置するゴーレムを作り終えひとまず用事は済ませた。今回探索に来たメインもこれで終了だ。
4層でやる事も特にないとあってかさっさと本題に入る事にした。予定とは結構違うけどまぁ、仕方ないね。
ゴーレムに後は任せたと指示を出し消えていくのを確認する。人がどれだけ来るのかはわからないけどこれで5層でもマジックアイテムがそれなりに見つかるはずだ。
お茶を飲み一息入れると地図を確認する。さてと……これからどうしようか?
「5層で用事を終えた以上後は帰るだけなんだよなぁ……早々の帰還は転送された位置が帰還陣近くだったでどうとでもなるし。こっちでもマジックアイテムを探しながら帰るかね?」
攻略がまだ始まっていないからだろうか、5層全体の状況を確認したが探索者の数はそれほどでもない。5層は4層までとは違いモンスターが厄介になっているという事も関係してそうだ。
こちらとしては転移がバレる心配もその分無くなるのである意味有難い状況ではある。マジックアイテムもその分見つかる可能性が上がるしな。
「まぁ、その分危険度は上がってるから要注意か。初見のモンスターも多そうだな」
どんなモンスターが居るのかという好奇心もあって遭遇してみたい気持ちが高まった。正直結構避けて通る事が多いからあんまりモンスターの種類って知らないんだよな。
護衛班や運搬班だとなるべく出会わないに越したことはないと攻略中に遭遇する機会そのものが少ない。ソロでの探索はモンスターを知る絶好の機会とも言えた。
「先を急いでたりマジックアイテム探しを優先してるとそっちは二の次になるんだけどな。モンスターは見たいけど別に戦闘がしたいってわけじゃないし……」
見るだけであれば遠見なんかの手段があるにはあるがそれはあくまでも姿だけでしかない。やはり見るのであればいろいろ動いてる所を見たいものだ。
「ってなると戦闘してる所を見るしかないんだよな。だけど人が戦ってる所を見れたりなんてそんな都合よく行かないわけで……そうなるとやっぱり自分で行くしかないか。まぁ、けどその為のゴーレムだわな」
戦闘は基本ゴーレムに任せ自分はモンスターを知るという目的を達成させてもらう。
能力を使って直接戦ってみたいという気持ちがないわけではないが今はまずどういったものか知りたいという気持ちの方が強い。自分でも戦ってみたいってのはその後からでも出来るしな。
「探索者を続けてたらその内機会なんていくらでもあるだろ。まぁ、歳いって体が動かなくなる前には体験しておきたいね」
そう言うとお茶を飲んでいたコップを地面に置き地図を見ながら行き先を考える。ひとまず宝箱を目指すか。
一番近くの新しい通路を目標に移動を開始する。ともかく久しぶりのソロ探索なのだ、ゆっくり行くとするか。
「んー……このまま進んだらぶつかりそうだな……」
探知でモンスターの位置を確認するとそう呟く。そこまで数は多くないし相手をするにしても良さそうな感じだ。
進行ルート上に位置するモンスターの反応を見つつどうするかを考える。
「今の所マジックアイテムが見つからないしちょっと鬱憤が……。やっぱり見つからないってなるとテンション下がってくな」
モンスターからすれば完全に八つ当たりだろうけど元々人とは相いれないのだから許す許さないは関係ないよな。
こちらとしても5層のモンスターがどんなものか知っておきたいという事もあるし丁度ルート上に居ると都合もいい。
相手は何だろうと思いつつ遠見を使って調べてみる事にした。
「お、例の尻尾が複数ある蠍か。こっちでも居るんだな」
遠見の映像に映し出されたのは例の蠍のモンスターだった。こいつ等の尻尾が何本だろうと数を数えていく。
「3本が3体、5本が6体、7本が4体ね。全部同じ本数の群れってわけではないと……」
あちらの様子を確認するとそう呟いた。まぁ、モンスターの種類がバラバラとか今更だしな。
尻尾の数は違うが基本的には同じモンスターだしさほど気にすることはないだろうと映像から目を放す。後は戦う場所を何処にするかだが……。
地図を見て広さ的にはもう少し行った所が良さそうだと当たりを付ける。後はここに誘い込めば戦闘開始だ。
移動をし通路の状態を確認するとやはりここが良さそうかと頷く。
「通路の奥にゴーレムも伏せられそうだしそっちにも配置してっと」
モンスターを引き込めば挟み撃ちが出来そうだと大剣持ち3体とリキッドをそちらへ隠しておく。これで合図を送ればOKだ。
そうしたら後はモンスターを連れてくるだけだけど……。
「周囲にはあいつら以外いないし大丈夫そうか? そういう意味でも丁度いい相手だな」
そう言って空間魔法からモンスター寄せのお香を取り出す。わざわざ引っ張って来るよりもこっちの方が手っ取り早いだろう。
蓋を開けて効果を発動させる。するとモンスターの反応はすぐさまこちらに向けて移動を開始した。よし、効いてる効いてる。
大盾持ち3体と鉤爪持ち2体を出し姿を隠す。近づいたところで突っ込ませるとしよう。
念の為ゴーレムの後ろにバリケードを用意しておく。飛行系のモンスターでもないしゴーレムを越えてくるとかは早々出来ないと思うが。
そして準備を整えた所でモンスターがやってくるのを待った。
大剣持ちのゴーレム達が尻尾を切り落とすのをサポートしつつ隙があればこちらからも攻めるとしよう。いくら手数で勝っていようとパワーならゴーレム達の方が上だ。
そうしてしばらく待っていると通路の奥からモンスター達がやってくるのが見えた。リキッドに姿を真似させ走らせてはいたけどやはりスピードはそれなりにあるもんだな。
隠蔽を解除したら攻撃開始とそんな指示をゴーレム達には出してある。後はそのタイミングを見計らいつつ近づいてくるのを待った。
そして目の前に来た所で作戦開始と隠蔽を解く。
「突撃ッ!」
こちらが声を出すのと同時か、大盾持ちの3体が一斉に盾を前へと突き出した。
何の構えもしていなかった前列が目の前から急激に迫りくる大盾の直撃を受ける。頭の上に翳していた両腕の防御も間に合うことなく大盾は顔面へと直撃した。
その1撃は前列の進行を押しとめ後続のモンスターへとぶつかる。急激に足を止められてはなかなかに止まれるものではない。玉突き事故のように連鎖してモンスター達はその頭部をぶつけていた。
「そのまま前進ッ! 後方に押しや……」
押しやれ。そう言おうとしたところで、自分の首辺りからカンッ! といった音が聞こえた。
「は?」
突然の異音に指示も中途半端な状態でその発生した部分へと目を向ける。
そこには黒い何かがあった。それの先を辿ると自分の足元にある自身の影へと伸びている。一瞬なにがなんだかわからず呆けてしまっていた。
その自身の影から伸びたその謎の物が再び動くと今度は顔面目掛けて近づいてきた。なにがなんだかわからないままではあるが咄嗟に顔を横へと動かす。ほぼ反射でしかない。
しかしそれのおかげか、顔へと伸びてきたそれは顔の横を通り過ぎ自分の後ろへと流れていった。なんだあれっ!?
「ちょっ!? これなんっ!?」
咄嗟に腰に下げていたエアーマンティスの片手剣を手に取りその黒い物体に切りかかった。
ただ横薙ぎして切り払っただけだが黒いそれにぶつかり追撃は起こらなかった。よくわからないが実体はあるのか?
弾かれたその黒いナニカは次の瞬間には自分の影へと吸い込まれていった。吸い込まれたというよりかは自ら沈んでいったって感じ?
そしてそれの正体になんとなく思い当たる情報がパッと頭に浮かんできた。
「まさかあのモンスターっ!?」
影から攻撃してきたという1点で思い当たるのなんてそれしかなかった。冗談だろ!?
「なんでこんな所に居んだよっ!? 嘘だろおいっ!?」
自分の影に沈んだそいつを警戒して片手剣を前に出す。頭が事態に追いついておらずとにかくそんな行動をとった。
そして再び影から出てきて攻撃をしてくるのかと身構えた。しかしそれの向かう先はこちらではなかった。
そいつは自分の影からバリケードにと作った防壁の影へと入り込んだ。何処に行ったのかと辺りに目をさまよわせる。
そして別の所を向いた瞬間それは再びこちらへと襲い掛かって来た。
真横から再びカンッ! といった音が響く。音を聞きすぐさまそちらへと目を向けた。
「冗談じゃねぇぞ!?」
現在の状況にまずいと感じた瞬間、なりふりなんて構っていられないと久しぶりに問答無用の攻撃を行った。
周囲に『死ね』と、言葉と共に念を発する。
どこから攻撃して来るかもわからなければモンスターとしてもあやふやなそいつの対処法もわからない。一番これが確実だろうとこちらを攻撃してくる相手の死を願った。少なくともこれで倒せなければやばすぎるだろう……。
バリケードの影から伸びているそれが動きを止め地面へと落ちた。やったか……?
「死んだ?」
槍を土魔法で作るとそいつを突っつく。動きを止めた以上効果はあったと思いたい。
そして数回突っついているとそいつは黒い煙のような物をその身から発生させた。すぐさま後ろに下がり身構える。他のモンスターと違いすぎだろう!?
「……なんなんだよ?」
しばらく待ってみたが何も起こらない。黒い煙は天井まで上がると次第に薄まって見えなくなった。毒ガスとかではないよな?
そして影から伸びていたそちらに目を向ける。すると……。
「スライム……じゃないな? なんだっけこれ?」
そこには先ほどまでの正体不明の黒いナニカではなくちゃんとした形が存在していた。何の形か思い出せないので現状正体不明であることに変わりはないが。
「あ、思い出した。クリオネだっけ?」
正確には形が一致しているかはわからないが似たような物で言うとそれが当てはまる。
墨を取り込んだクリオネっぽい形をしたスライムのようなそんな物がバリケードの影の部分に倒れていた。おそらくはあれが例のモンスターの正体じゃないか?
未だ状況に戸惑っている頭のまま周囲へと目を向ける。死の魔法の影響だろうが、ゴーレム達が相手をしていた尻尾が複数ある蠍はその命を落とし停止していた。ゴーレム達も相手が死んだのであればと次の指示を待っているのかボーっと突っ立っている。
咄嗟の事で何が何やらといった気持のまま、壁に背を預けながら盛大に溜息を吐いた。勘弁してくれ……。




