621話 倉庫見物
「うーん、特にHPの更新はされないか……」
資料を読む合間適宜パソコンを触る。管理部のHPを更新し目を通すもなかなか新たな情報は出てこなかった。
貸し倉庫へと戻って来てから数時間。あれからどこへ行くわけでもなくずっと山の自宅で資料の整理をしていたのだが管理部の方はこれと言って変わりはないようだ。
「通路のモンスター討伐が思うように進んでないのかねぇ? まぁ、広場みたいにちゃんとした目的地があるわけでもないし仕方ないか?」
広場みたいに大型のモンスターが集まっているとかではない分まだマシだろうけども逆に広場以上の広さがある。通路の掃討戦なれば時間がかかってもおかしくはないだろう。
「運搬班の役はもう終わったし4層のモンスター討伐に個人で向かおうかな? それに5層へゴーレムの配置もしておきたいし」
時間が出来たのであれば久しぶりにソロでダンジョンへ向かうのも悪くはないだろう。5層にはまだマジックアイテムを配置するゴーレムを置いてきていないのでそちらに用もあるしな。
暗くなってきている空を見上げつつ今日で動きが無ければそれもいいかとそんな事を考える。転移を行えば日帰りくらいは問題なく出来るしな。
「同じように暇な運搬班や護衛班の人とかもPT単位で行ってたりして。マジックアイテム探しのついでに4層へ行ってたとしてもおかしくはないか……」
攻略とは関係なくただ普通に4層へ探索に行っていたとしてもなんら不思議ではない。
1~3層のように多くの探索者が押し掛けているわけでもなく、且つ厄介なモンスターの多くが倒されているとあれば絶好の探索チャンスと言える。帰還陣付近で宝箱を探していた人達がいい例だ。
それとモンスターそのものが目当てな人達はもしかすると攻略の時から4層に居たかもしれない。まぁ、それなら攻略に参加して報酬で素材を受け取った方が良いかもだが。
「けど今回は報酬が現金になっちゃったからなぁ……そっちを目当てにしてた人達がリーダー会議で文句を言ったのかね。予想外だったろうし仕方ないんだろうけどさ」
ともかく、今日で動きが無かった場合自分としてはそのつもりで行動するかと予定を立てる。ソロでの探索なら物資も最低限で十分だろう。
そしてそんな事を考えていると突然頭にベルの音が響いた。
「ん? お客か? 誰か来たな」
貸し倉庫の呼び鈴と連動して仕掛けておいた魔法が効果を発揮した。誰かが倉庫のチャイムを押したようだ。
すぐさま貸し倉庫まで転移をするとドアに駆け寄る。
「はーい! 今開けまーす!」
そう声を掛けると鍵を外してドアを開ける。するとそこに居たのは……。
「こんばんは、石田さん。こんな時間にすみません」
「こんばんはー、いきなりごめんねー」
「澄田さんに凜さん、どうしたんです?」
ドアの前に居たのはその2人だった。なんか珍しい組み合わせだな?
「丈先輩から石田さんも帰ってきてるって聞きまして。しばらくは倉庫でゴーレムを作ってるんじゃないかという事なのでお邪魔させてもらいました」
「私達の倉庫お隣さんだからそっちで話しを聞いてね。倉庫に居るんであれば同じくお邪魔させてもらおうかなぁ……って」
「なるほど門田さんからですか」
「はい。昨日夕飯を一緒に食べたんですよね? どうですか、この後?」
「私達もまだなんだよね」
どうやら夕飯のお誘いらしい。その前にこちらの倉庫に用事があるらしいが。
こちらとしてもそろそろ夕飯時と何にしようか考えていたとあってその誘いには全然OKだ。太一さん達とか全員揃ってるのかな?
「そう言えば2人だけなんですね? 他の皆さんは?」
ドアから見える範囲には2人しかいなかった。皆で来たというわけではなさそうだ。
「今日は僕達だけですね。皆4層の事で発表があるまでは自由となっているので」
「皆したいことがあるから自由期間って感じ。私は倉庫に行ったら澄田さんと鉢合わせしてね」
「僕達もちょっとずつですがゴーレム作りを始めてますので。
大地の杖を使えば誰でも出来ると言えば出来るんですけども……まぁ、向き不向きはありますから」
「そう言えばそんなこと言ってましたね……」
相変わらず澄田さんはいろいろ苦労しているのかと苦笑いを浮かべる。凜さんはそんな作業後の澄田さんと倉庫で出会ったようだ。
「それでですね、実は石田さんがゴーレムを作ってる作業場を一度見てみたいと思いまして。僕達の所で何か参考になるかなって」
「お邪魔してもいい?」
「ええ、どうぞ。それほど参考になるかはわかりませんけどね」
そう言うと2人を倉庫内へと招き入れる。一応人に見せられる準備は整えたつもりだ。
「地面に板を敷いてあるんですね。直接触れさせないようにする為ですか?」
「ええ、それと音もこっちの方が響かないかもなぁ……って」
「私達の所だとブルーシートは1部敷いてあるけど木の板は敷いてないねぇ……澄田さんの所なら川田さんがいるし真似出来るんじゃないの?」
「そうですねぇ……今度川田さんに頼んでみます。実験してみてそっちの方が良いようなら床一面やってもらいたいですね」
2人が木の床の感触を確かめながらそんな事を口にする。理人さん達の倉庫もするんであれば川田さんに頼むといいんじゃないかな。
「まぁ、床の事は置いておくとして……そっちの作りかけのゴーレム、もしかしてもっと大きい奴を作ろうとしてるんですか?」
澄田さんは床から視線を上げると倉庫の隅に置いてある作りかけのゴーレムのパーツに目を向ける。やはり気になるのはこっちだわな。
「ええ、新しく駒も手に入りましたからそっちに入れようかなぁ……と。それと通路でも使える汎用性のあるゴーレムもですね」
「やっぱりもう1セット手に入ったんだからその分のゴーレムも要るよね」
「3mの奴ですね」
特大ゴーレムのパーツと一緒に並んでいる3mサイズのゴーレム。荷物持ちとして優秀なのは今回の運搬班ではっきりしてるしな。
「今回運搬班としてゴーレムを表立って使いましたけど解体の時も何かと活躍してくれまして。小型モンスターのざっくりとした解体とか結構助かりましたよ」
「ああ、数が多くて僕達も大変でしたね。一緒に行ってくれた人達が残りの駒のゴーレムを用意してくれたので初めて全部の駒を使いました」
「私達の方もそんな感じだったね。大物を解体する時とかも手伝ってもらったり」
2人の方もゴーレムを使って解体の手伝いをさせていたらしい。単純な作業であってもゴーレムであれば文句も言わず黙々とやるしいいよね。
「ちょっと今回は用意出来なかったので借りたんですけど、やはり自前のゴーレムの方が何かと使いやすいですしね。なので今のうちに用意しておこうかと」
「僕達の方も時間が出来ましたしね。残りの駒の分を作ってます」
「こっちも由利が時間見て作ってるよ」
お互い時間があるうちに用意をしておくつもりらしい。とりあえずは最低駒分のゴーレムを通常サイズでいいから用意しておきたいよな。
特大ゴーレムの方はそちらが終わったら手を着けるつもりだと2人にそう語る。こっちも早めに使ってみたいけど他にやる事もあるしな。
3mのゴーレムの方は現在起動待ち中だと2人にそう告げる。5層の攻略にはこいつ等も無事連れていけるだろうと。
「もう1セットの駒の方も着々と用意が整っているようでいい感じみたいですね。
そう言えば表に居た2体のゴーレムですけど……あれは?」
「ああ、あれですか。この倉庫の門番……ですかね? 一応部外者が近づかないようにとそんな感じです」
「なんか箒持ってたよね?」
「あれで部外者を撃退すると? まぁ、ゴーレムの力で叩かれでもしたら無事では済まないでしょうけど……」
「そんな全力でやったら死人が出かねませんよ……基本は威嚇用です。それと駐車場の掃除をさせてしっかり動くゴーレムとわからせればいらないちょっかいはしないかと。わざわざゴーレムに絡んでいく人とか居るんでしょうか?」
「普通はいませんね」
澄田さんは苦笑いを浮かべながらそう答える。持ってるものが箒だろうと手を出せば自分の方が返り討ちだ。まさか能力を使ってまでちょっかい出してくる人なんていないよな?
夜になったら松明でも持たせようかなんて話を口にする。別に電気式の物でも良いっちゃ良いんだけどね。電飾されたゴーレムってのもそれはそれで面白そうだし空からでも目立ちそうだ。
そして2人はゴーレムの事はこれでいいかなと奥の小部屋について聞いてきた。自分達の所にはないらしく結構羨ましいらしい。
当然だがシャワーやトイレといった物もない。スーパーの倉庫として使っていたのであればトイレなんかは店の方にあっただろうしな。
こちらは真似をするにしても下水道の処理が必要と自分達では難しい。倉庫を管理している不動産会社に頼まないとだからな。
そんな感じで倉庫の中を見物する2人。参考になりそうな所はあったかな?
その内こちらからもそちらの倉庫にお邪魔しようと話しつつ戸締りをして倉庫を後にする。門田さんとは昨日串焼きの屋台だったけど今日はどうしようかね。




