617話 運搬班お役目終了!
「ふぅ~、帰って来た帰って来た……んんー!」
帰還陣の上で腕を大きく伸ばす。やはり日帰りで帰って来れたとはいえここへ出ると解放されたぁ! って気がするな。
「お疲れ様です。タグの確認をさせていただきます」
「お願いします」
スタッフさんに各自タグを提出する。早めに帰ってくることも出来たし素材を卸し終わったらそこから夕飯って流れかな。
夕飯をどうしようかと考えていると確認も終わったのかタグが返却される。これで手続きは終了っと。
「先に出てこられた方達でしたらすぐそこで待ってると言ってましたね。攻略お疲れ様でした、お帰りなさい」
「ありがとうございます。それでは」
そう言って転送陣の建物から出ると先に着いた皆を探す。確かにすぐそこで待ってるとスタッフさんの言葉通り建物の横で待機している第1陣の皆。探すって程じゃなかったな。
「よし、これでみんな合流したね。それじゃあ僕達3人は報告に向かうから」
司さんと源田さん、それと護衛班の田上さんが後は任せたと管理部の方へと向かった。
「また後でねー、こっちは任されたわー。
……さ、それじゃあ私達も行きましょうか」
「この時間だと結構他のPTも倉庫に居そうね。またあの視線に晒されるわけか……」
「今度はゴーレムの数も更に増えてるものね」
「早い所夕飯を食べに居なくなってる事を祈りましょう」
愛さん達はこれが今日最後の仕事とそう思ってか、仕方ないと口にしつつ倉庫へ行きましょうと皆へ促す。恭子さんの言う通り人が少ない事を祈るか……。
「それじゃあ私達はここで解散するわね。素材の事は後よろしく」
「食堂で凛香を待つか。全員用が済めば食堂へ来るのだろう? どうせなら一緒に食事でもするか?」
鹿田さん達護衛班の皆はそう言って後で合流するかと持ち掛けてきた。
「終わる時間がちょっと分からないからこちらの事は気にしなくても大丈夫よ。田上さんによろしくと言っておいてもらえるかしら」
そう答える愛さん。司さんが戻ってきたら改めてどうするかを決めるか。
了解とそう言って一足先に別れる田島さん達。飛行班の増員助かりましたと別れ際に挨拶を交わした。
「それじゃ改めて私達も。早く終わらせてゆっくりしたいわねぇ……」
皆を引き連れ倉庫へと歩いて行く愛さん。しっかし素材が駒の中と倉庫までの移動が楽なのはやっぱり便利よな。
そうして倉庫裏まで移動を済ませる。
ここまで早くやって来たのは良いものの、予想していた人混みの方に関してはどちらかと言うと悪いと言えた。
「やっぱりこの時間だと倉庫裏も混んでるなぁ……」
「帰還陣で待たされなかっただけまだマシ?」
「前も後ろも人待ちだぜ……」
津田さん達が倉庫裏の現状を確認するとそう呟いた。この時間はやっぱり仕方ないか……。
「ともかく場所が空くまでは待つしかないですね。順番だけ取ってきますので愛さん達は休憩していてください」
「お願いします」
そう言うと星矢さんは近くのスタッフを探しそこへと歩いて行った。帰って来たのに順番待ちってのもなんか疲れるよな。
「順番待ちであろうその多くが運搬班でないだけまだ助かりますね」
「荷物の流れ自体は早いものね。これで運搬班の持ってきた荷物が大半だったらもっと時間がかる所だったわ」
倉庫に居る順番待ちと思しきPTの人達を見ながらそう口にする。多くは軽トラック1台分でどうにかなりそうなそんな量ばかりだ。素材が入っている台車を受け渡せばそれで済む。細かな査定は奥の集積所で行えば良いしな。
「俺達と同じで駒に素材を入れてるってのが多くなければいいんだけどよ」
「あー……その可能性もありますねぇ」
「なんにせよ順番が来るまで待つしかねぇな、飲み物でも飲みながら待つとすっか。おーい津田ー、適当にコップ作ってくれ」
田間さんが待っている間に何か飲むかと皆にリクエストを聞いて回る。ついでに時間もあるのならリュックなんかを個人倉庫へ置いてくるとしようかね。
自分達の番が来るまでの暇つぶしと各自近くで待機する事になった。駒からゴーレムを出せるのは自分だけな事もあり、素早く用事を終わらせると倉庫裏で待機する。まぁ、少なくともダンジョン内で待機をするよりかはこちらの方が気持ち的にだいぶ楽だよな。
「ゆっくりと腰を降ろせー。そのまま、そのまま……よし、尻を着けていいぞー」
背中の籠が地面へ着いたのを見届けるとそうして指示を出してゴーレムを座らせる。後は鎖なんかの固定具を外してやれば完了だ。
あれからしばらくし、自分達の順番が来ると駒からゴーレムを出して次々に素材を降ろしていく。やはり30体も居るとそれなりに時間がかかるな。
「石田さん、こっちのゴーレムは荷物も降ろし終わったから仕舞っていってもらえるかな?」
「わかりましたー」
荷物を降ろし終わったゴーレムを再び駒へと戻していく。回収出来るのは自分1人だけだしそっちを人に任せる事は出来ないからな。
司さんから指示があったゴーレム仕舞うと他のゴーレムへ目を向ける。さっさと仕舞えばその分場所も空くし後ろで待機している人達にとってもその方が良いだろう。
「うーん、やっぱりというか……今回は僕の方が先に用事が終わってこっちまで来ることになっちゃったね」
「それだけこっちが混んでましたからね」
手が空いたのかそう言いながらこちらへ声を掛けてくる司さん。報告をするにしても今回はそこまで言う事もなかったって事かな。
「愛に電話をしたらまだ順番待ち中って事だったしね。もう少し報告の時間を伸ばしておけばよかったかな?」
「いえいえ、司さんには指示を出してもらいませんと。手が居ているのであれば自分達と一緒にゴーレムの荷降ろしをお願いしますよ」
逃がしはしませんとばかりにそう返事を口にする。一緒に後ろからの視線を浴びましょう。
「とはいえなんだかいつもよりもそう視線が向かってこないような……」
「やはり他の駒持ちPTがゴーレムから荷を出し始めたのが原因だろうね。夕方前辺りにもゴーレムで素材を運んできた運搬班が居るってさっき報告をした時耳にしたし」
「なるほど……」
少なくとも倉庫裏で働いているスタッフさん達はそれなりにゴーレムから素材を卸す場面を見ているわけだ。なんとなくこの前よりも荷降ろし後の移動がスムーズな気がする。
「その内この運搬方法も珍しくなくなるだろうね」
「更に視線が減るのであればいう事なしですよ」
ゴーレムを駒へと仕舞いつつそんな話を司さんと口にする。こちらとしても願ったり叶ったりだ。
自分からすれば早くその状態になって欲しいと思う。ゴーレムを使う人間が増えれば増える程こちらも目立たなくなってくだろうしね。ゴーレムさんなんてあだ名もその内消えていくだろう。
「そう言えば攻略終了の広場の数ってどうなりましたか? 自分達が知っている所以外の情報って降りてきてます?」
「その辺は後で食事をする時皆にも言うつもりだよ。まぁ、教えておいても損はないから言うけど、未攻略の広場は後3つだね。そこ以外から運搬班が素材と共に帰ってきてるらしいし」
「お、残り3広場ですか!」
「今日中には終わってそうな気もするなぁ……。運搬班も最後の解体をしてるかそれとも帰還陣に向かって移動中か?」
同じく今の話を聞いていたのか桃子さんはそう言ってダンジョン内の状態を想像する。
運搬車で運んでいるとすれば深夜辺りに帰ってくるか1日ダンジョンで夜を明かしてから帰ってくるか。そっちも駒持ちであれば日を越す前に帰ってくるという事も考えられる。
「そうなると後は通路のモンスター討伐ですか?」
「だろうね。僕達みたいに宝箱を探しながら通路を移動してるんじゃないかな? やっぱり宝箱が残ってるとすれば帰還陣付近じゃなくてマップ端だろうねぇ……」
「モンスター探しはその分大変だろうけど宝箱が残ってる確率は大きいね。石田さん、こっちも仕舞ってくれてOKだ」
「了解です」
智貴さんからこいつも頼むと声が掛かる。ゴーレムの方もだいたいOKかな?
「で、司さん? この後どうします? 夕食はやっぱ食堂でっすか?」
「どうしましょうねぇ……やっぱりこの時間だと食堂も混んでいるでしょうし」
「田上さん達は今頃打ち上げをしてるでしょうね」
集まって来た皆から今後の予定をどうするかと話し合いが始まった。今から食堂に行ったら席が空くまでまた待つ事になるんだろうな。
ゴーレムを仕舞いながら話し合いをしている司さん達の方へ耳を傾ける。会議室でも借りて食事をそっちにでも運ぶか?
「よしっ、これでゴーレムは全部……っと」
「僕達も司さん達の所へ行きましょうか」
卸した荷物をスタッフさんへ任せると田茂さんと一緒に皆の所へ向かう。ともかくこれで運搬班の役目も終了っと!
「運搬お疲れ様でした。後はこちらでやりますので確認のサインをお願いします」
「わかりました。それとこれ一応目録です」
星矢さんはそう言って書類にサインをする。これで本当に運搬も終了だ。肩の荷が下りたね。
「とりあえずやるべきことも終わったし一度食堂の様子なんかを見てから考えようか。ダメそうなら外へ行くとしよう」
『りょうかーい』
皆もこれで肩の荷が下りたと、笑顔を見せながら倉庫裏を後にする。
流石に明日も潜る必要は無いだろうし4層については今潜っている人達に任せたと吉報を待たんといった所だ。
後は管理部から4層攻略終了の発表が出るのを待つ事になる。自分達はそれまで休ませてもらおうと、まずは今日の夕飯を決める為全員で食堂へと向かった。




