582話 ダンジョン4層(PT) 再突入
「やあ、皆お待たせ」
「お帰りなさい、あなた。報告の方はしっかりと済んだの?」
しばらく食堂で時間を潰していると司さんと源田さんが戻って来た。どうやらそこまで長く引き留められる事は無かったらしい。
「攻略してきた広場の位置を伝えて逆に終わった所を確認してたってだけっすからねぇ。まだ終わった所も2カ所だけとそっちの確認もすぐに済みましたんで」
「私等よりも早かったとなると転送された位置が良かったとかそんなのだろうな」
「更にそのPTは駒持ちだったとか? 広場での戦闘も早くに終わったりしたのかもね」
依田さん姉妹が源田さんの報告内容にそう言葉を口にする。討伐班の中にゴーレムが混じっているのであれば更に戦力増強が見込めるからな。
駒が1セットでも1PT~2PTの人数に匹敵する。広場に居たPTが2PTだとしてそのどちらもが駒持ちだったとすると更に戦力は増えるわけだ。
「運搬の速さには自信があるけど広場の戦闘時間で差を付けられたってのはあり得そうだね。もしかしたら軍のゴーレムも混じっていたとか?」
「アレが居たらかなり強力だろうなぁ……。
地底湖を優先って言っても近場に未攻略広場があるんなら行かねぇわけにもいかないだろうしよ」
田茂さんと津田さんは源田さんをテーブルに誘いつつ早く終わった理由なんかを推察していた。自分が貸した駒も早速役に立ってるのかね?
「どこのPTが終わらせたかまでは聞かなかったね。攻略済みの広場があるかどうか聞いただけだから。
で、この地図の×印が攻略済み広場の位置だね。後で皆も地図に印をつけておいてくれ」
席に着いた司さんから話し合いに使ったであろう地図を見せてもらう。当然と言えば当然だが、帰還陣から比較的近い広場に×印が付いていた。自分の地図にも付けておかないとな。
「それで私達はこれからどうするのです? 休むにはいささか早い気もしますが」
星矢さんが腹ごなしにと食べていたたこ焼きを司さんの方へと寄せながら今後の行動について問いかける。この食堂こんな軽食まで置いてるんだよな……。
自分も同じくそのたこ焼きを食べながら司さんの返事を待った。まだ3時になったばかりとかそんな時間だからね。
「皆も休憩は出来たよね? 時間もまだ早いしもう1回4層に行こうかと思う。正直今回の運搬の様子だとそこまで疲れないしね。帰りもただ帰還陣まで歩いてきただけだしさ」
「司さんと話し合ってまだまだ行けんだろって思ってな。お前等だってこれぐらいでへばってはねぇだろ?」
「もちよ!」
津田さんがまだまだ行けるぜっ! とでも言うかのように元気が有り余ってるといったポーズを取る。他の皆も気持ちは同じだ。今までに比べたら帰りが楽過ぎたと休憩の間にそう言って笑ってたぐらいだからね。
「なら購買で補充したいものを買ったら出発という事で。30分後に広場集合でいいかな?」
『了解』
そう言って皆が頷く。
補充かぁ……新しいタオルとかビニール袋ぐらいだろうか? 今回使った物は個人倉庫に入れておいて購買で新品を買っておくとしよう。
30分後に転送陣がある建物前に集合という事だ。流石に朝よりは列も短くなっていたしそこまで待たなくても行けるだろう。
皆は食べていた物を食べきると食堂を出ていく。今から30分の間でやるべきことを済ませておかないとな。
一度要らないものを個人倉庫に置いてくると言って皆と別れる。皆は先に購買へ向かったりクリーニング屋に行ってくると言ってあちこちに歩いて行った。自分の場合だとクリーニングいらずなので汚れ物は帰ってきてからでもゆっくりやるとしよう。洗濯の必要が無いっていうのは生活をしていると便利なのよね。
今回使った奴は状態を元に戻したらそのまま個人倉庫へ置いておくとしよう。替えのタオルとかいくつあっても困るもんじゃないしな。
物を揃えたら早めに待っているかと個人倉庫へ向かう。鎧や武器の手入れも要らないし皆が集まるのも早そうだ。
「よし、全員集まったね」
「うちのPTはOKっす」
司さんと源田さんがお互い大丈夫と確認をしあう。荷物もゴーレムに預け済みと皆転送準備もばっちりだ。
「それじゃあ今日2回目の突入開始だ。皆気を引き締めようか」
『了解!』
そう言うと皆して転送陣の列へと並び始める。どうせなら自分が順番でも取っておけばよかったかな?
「4層攻略の方は手を上げて下さーい!」
「あっ! 運搬班でーす!」
列に並んでいるとそんなスタッフさんの声が聞こえて来た。司さんが手を上げながらそう答える。
「転送準備OKな方はこちらの方へ! 優先的に転送を行います!」
「あまりにも列が長すぎた所為ですかね?」
「そうだろうね」
「待たなくてもいいんなら有難いわな」
案内をしているスタッフさんの所へ皆して向かう。そりゃ攻略が始まったのならそっちに行く探索者を優先させるよな。
人数も揃っており転送準備はOKとスタッフさんへ伝える。タグの確認を済ませるとお先に転送陣へと入らせてもらった。
「おや? 先程帰ってこられた運搬班の方達では? 2回目の攻略ですか、お疲れ様です」
「まだ帰ってきた時間も早かったですからね」
司さんが転送の準備を整えつつスタッフさんと雑談を交わす。先程帰還した時にタグを確認してくれたスタッフさんだ。
「小耳に挟みましたけどゴーレムで大量に素材を持ち帰ってこられたんでしたっけ? 今荷物がないのもそのおかげですか」
「噂になるのが早いわねぇ」
「まだ数組しか素材を持ち帰って来てないって事だから特定は簡単よね」
「荷物を持ってないっていうのも駒持ちって丸わかりですし」
「まぁ、知られて困ることでもありませんが」
愛さん達が仕方ないと言いつつ苦笑いを浮かべる。視線を向けられるのにもなんだか慣れてきたよな……。
「次の帰還時も大量を期待しております」
「広場に居るモンスター次第だわな。小型モンスターが多くて魔石ばっかりって言うのも大量は大量だが面倒臭ぇんだよな……」
「解体が楽そうなモンスターなら嬉しいな!」
「逆に大型モンスターばっかりって言うのもちょっとあれだけどねぇ」
源田さんや田茂さんが解体するのも楽じゃないと溜息を吐く。解体が楽だと嬉しいと田間さんは言うがそれって何だろうな? 思い当たるモンスターと言えばスライムなのだが戦闘相手としては出てこないしねぇ。
似たようなので言えば各種スラグ系だが広場ではまだ見ていない。4層だしスラグ系は居ないか?
「なんにしても、なるべく面倒なモンスターは居ないと良いですね」
「全くね。よし、それじゃあ配置はこれで良さそうかな?」
司さんは転送陣の上にいる皆を見て頷く。朝に転送された時と同じ配置だし問題はないだろう。
「それでは起動させます。ご武運を!」
「ええ、行ってくるとします」
スタッフさんが4層への転送を起動させる。次第に光が満ちてくるのでライトを点けてその時を待った。今度はどの辺りに転送されるだろうか……。
朝みたいなモンスターの近くはやめて欲しいと思いつつ転送先の事を考える。移動の事も考えるならやはりまた帰還陣の近くか。
そんな事を思っていると視界が咄嗟に切り替わった。転送完了だ。
切り替わった視界の先へと注意を向ける。少なくとも戦闘中真っただ中という事は無さそうだ。
視線を辺りへと向けるが視界内にモンスターの姿は確認出来ず。一番最悪な状況は回避出来たか?
朝の事もあるので皆は無言のまま直田さんと星矢さんに視線を向ける。2人とも視界では大丈夫と確認したのか現在探知中のようだ。
「大丈夫です。近くにモンスターの反応はありません」
「探索者の反応もだけどね。念話にも応答なし」
「そうか」
とりあえず皆は一安心? と溜息を吐いた。どうやら朝と同じ状況は避けられたようだ。
「それじゃあ2人は現在地の把握を。他の皆は警戒をしつつ光石にタグが無いかざっと調べてきてほしい。確認が終わったら小休憩で」
『了解』
周囲が安全という事で皆して手分けをしつつ現在地の把握を始める。行きで受け取ったタグも後で付けないとな。
腰に引っ掛けたタグ入りの袋を手で確認しつつ目的の物を探し始める。タグが1つでも見つかれば現在地の把握も簡単なのだが……。
通路の壁に天井にと嵌め込まれた光石を確認していく。すると自分がいる反対側の通路から発見との声が聞こえて来た。
「見つかってラッキーですね」
「そうだね。さて、ここはいったいどの辺りなんだろうな?」
「直田さんと星矢さんの探知からして帰還陣の近くではなそうよね」
「帰還陣も帰還中の探索者も反応なしと言う事であればそう言う事でしょう」
一緒に探していた司さん達と共に皆がいる場所へと戻る。ともかくタグが見つかったのは幸運だ。
本日2回目の転送は果たしてどこ等辺なのだろうと思いつつ幸先が良い事に安堵する。未攻略広場までそう遠くないと良いのだけどね。




