576話 ダンジョン4層(PT) 運搬班仕事開始! 軍隊蟻の解体
「司さん、お待たせしました」
「洗浄の方は終わりましたよ」
「今ゴーレムが運んできたもので最後ね」
「おう、こっちの捌き具合はどんなもんよ? 良いペースで解体出来てるか?」
自分達洗浄組の4人は作業を終わらせると次に解体の方へとやって来た。なかなかに忙しかったな……。
田間さんは津田さん達に声を掛けながら作業の進み具合を確認する。洗うよりはやっぱり解体そのものの方が時間もかかるだろうね。
「お疲れ様。4人も適当に腰かけて解体を始めてもらえるかな? 進み具合は……まぁ、そっちの箱を見ての通りだね」
司さんが解体用ナイフの切っ先を向ける。そこには自分達が洗浄を終わらせた軍隊蟻の山があった。
「こっちもやっと1山を解体し終えたと思ったら次のが来たりとなかなかね。4人は途中参加だからまだマシかな?」
「それを言うなら私達はそこにある全部の洗浄を終わらせてきた所なんですけどねぇ……。
まぁ、私達の所より人数が居るとはいえ解体の方が時間がかかるのは当たり前ですか」
「早速参加しますね」
「田茂、もうちょっとそっちに詰めてくれ。隣座らせてもらうぜ」
「それじゃあ私も準備して始めますね」
自分達も水場近くの椅子へと腰かけ、軍隊蟻の入ってる箱から1体を取り出すと解体を始めた。
こんな時の為のエアナイフと、風を発生させて刀身を作り出す。汚れを1回1回洗わなくて済むとあって非常に楽だ。
取られていた首の部分から胸に向かい一直線に切れ込みを入れる。自分が処理した奴かどうかはわからないが、血もしっかりと落ちていて握りやすい。やはり足の部分も洗ってあるとその分楽だね。
「石田さん、取れた魔石はこの中へと入れて頂戴。それと欠けがある魔石はこっちね。後で仕分けも楽だから」
近くに居た愛さんから魔石を分けている場所を教えてもらった。水の張ってある箱を指差しながらここに入れてくれとの事だ。
「了解です」
魔石として機能する側とそうではない側。罅や欠けがあれば別に分けておくらしく2つの入れ物が用意されている。
頷きながら軍隊蟻を解体する手を進めた。
胸まで一直線に切れ込みを入れるとそのまま腹部の方にまでナイフを刺し込む。
そして腹の周りにナイフを1周させて胴体の部分から切り離してしまう。必要なのは胸部分にある魔石のみだからね。
下半身の部分は残っていても邪魔なだけなので一番最初に切り落とし持ちやすくするとの事。軽く小さくした方が動かしやすいしいらないなら捨てるわな。
そして胴体部分だけになったのならば胸側の甲殻をナイフで開き内部を確認する。少し胸の表面を切ると魔石が入っている袋状の物が見えてくる。必要なのはこの部分だ。
「んー……特に問題はなさそうかな?」
魔石を内袋から取り出すと水でざっと洗い状態を確認する。ここで罅や欠けが見つかったりするので目と指を使いしっかりと仕分ける。一々鑑定の虫眼鏡に持ち替えるのも手間だしな。
指の腹で違和感がないか等を確認すると問題なしの箱へと入れる。ポチャン……と音をたてながら魔石が水の底へと沈んでいった。
「解体の終わった奴はそっちの箱にどんどん入れていっていいわ。ゴーレムが捨てに行くから」
「了解です」
美空さんから解体の終わった残骸の処理法を教えてもらう。丁度自分が入れた分でいっぱいとなったのでゴーレムを呼んで持っていってもらう。広場の片隅に捨ててくるとの事だ。
戦闘の痕跡も含め全てスライムが始末してくれるので適当に捨ててくればいいのは有難い。ゴミ処理には本当うってつけだな。
そして新しい軍隊蟻の死体を1体とって同じ工程を繰り返す。頭が残っていればまずはそちらを落としてから腹を落とす。ともかくいらない部分についてはどんどん切り落として軽くしてしまわないとな。
数えるだけ気力が減りそうなので、量の事はなるべく見ないふりをしつつ作業を続ける。魔石は欲しいけれどやっぱりその分苦労するよなぁ……。
「なかなかに気が滅入りますね」
「どうしてもねぇ……。それでも今の私達は恵まれてる方よ?」
「しっかりと事前に洗浄もされてますしね」
「ふふっ、どうも」
「それに洗浄もそうですけど一番はやはり運搬の効率ですかね? ゴーレムがあちこち運んでくれますし」
『そうよねぇ~』
愛さん達はそう言いつつ死骸の山が入った箱を運んで行くゴーレムの後姿に視線をチラリと向けた。ちょっとしたことだがこれがなかなかばかにならないそうだ。
「あれを運ぶってなると怪力の能力者が必要でしょ? それに解体の終わった死骸の山とか正直言って誰も運びたがらないしね。
やらなきゃどうしようもないから運んでるけどそれをやらなくていいのであれば普通に嬉しいもの」
「あんまり見たいものでもないからねぇ……視界に入らないならそれに越した事は無いわ。
それとその分人手も減るから解体のスピードだって落ちちゃうし」
「文句も言わず重たい物を運んでくれるのは有難いわよね。私達も洗った端から運んで行ってもらってずいぶんと助かったわ」
「そちらでも移動をさせるとなると人手が必要ですからね。ゴーレムが居なければ石田さんが一度抜けて運んでたでしょうか? 怪力の手袋があるので誰でも良いと言えば良いのですが。
しかしなんにせよ、それだと1人居なくなって洗浄の効率も落ちますからね。私達の方から誰か1人取りに行ったとしても同様ですし」
「ゴーレムの良い所ですよね。私も解体の終わった奴を運ばせるのに重宝しています」
ソロだと解体をするのは自分1人しかいない。軍隊蟻のような次々解体をするモンスターだと自分1人でもどんどん溜まっていくのだ。通路で解体をした時はゴーレムにバケツリレー方式で次々運ばせていたっけか。
それとゴーレムが解体も出来れば更に文句はない。やる気が削がれるといった心配も無いしね。
いっそのこと頭と腹を切り落とすぐらいはやらせてみるか? 胸側は力加減の関係もあるからあれだがそれぐらいなら任せても大丈夫そうに思えるんだけどな?
「司さん、手の空いてるゴーレムもいますし頭と腹の切断ってゴーレムにやらせても大丈夫ですかね? その方が楽だとは思うんですけども」
「そうだなぁ……予備のナイフはあるし切断だけならいいかな? 解体そのものをゴーレムにやらせることが無いから特に考えもしなかったけど……」
「まぁ、やらせるとして真っ先に思い浮ぶのが運搬補助でしたからね。それと探索にゴーレムを連れて行ったこと自体がほぼないので試したこともありませんか……」
「頭と腹を切り落とすぐらいならやらせても良さそうか。とりあえず予備のナイフを出しておきましょう」
「私のも出しましょう」
そう言ってゴーレムを使った解体補助を提案してみた。皆ゴーレムと言えば物を運ぶぐらいと思っていたからかその事は頭から除外していたらしい。
ダンジョンにゴーレムを連れてこない事が当たり前と固定概念が邪魔をしていたって事だ。ゴーレムを使うってこと自体ダンジョン外でもそうやらないだろうしな。
解体の際も動かないよう押さえておくとかそういった事はあるそうだがナイフを持たせることはまずないという。力任せに素材を切られても困るからね。
皆から借りたナイフにゴーレム用の持ち手を作り渡してみる。ゴーレムが普段使っている得物からするとずいぶん頼りなく見えるな。
軍隊蟻の胴体を掴ませ首にナイフを押し当てさせる。下手をしたところで自分の手を傷つけたりしないのである意味安心して見ていられる。胴体を持つ手は若干心配だけどな。
そして首に押し当てられたナイフが横に滑り軍隊蟻の首を切断した。胴体の方も無事っぽい。握るというよりは押さえてるといった感じに近い、これならば握りつぶす事もないだろう。
次に腹からお尻にかけての邪魔な部分を切り落とさせる。これで残るのは魔石がある胴体部分だけとなった。
「うん……案外すんなりといけたね。これなら手すきのゴーレムに手伝ってもらっても良さそうかな?」
「それなら他のナイフも持ち手を作りますね」
司さんがOKを出したので土の能力者全員でササッとナイフの持ち手を作る。これでゴーレムにも解体の手伝いをさせる事が出来るな。
台を新たに作りゴーレムが切り分けた胴体を置く場所を作る。箱に戻すとまた洗う羽目になるしな。
ゴーレムが増産する胴体を見ると皆も作業を再開させる。これで後は胸の甲殻を切って開くだけとより作業の効率化も出来たわけだ。
「運搬だけじゃなく解体の人手も増やせるとなれば言う事なしですね。切り落としたりと簡単な作業だけではあるけどされてないよりはだいぶマシかな」
「今まではゴーレム自体を連れてくるっていう選択肢もなかったものねぇ。やっぱり単純作業はゴーレム向きね」
桐田夫妻が胴体だけになった軍隊蟻を解体しつつそう口にする。ほぼ自分達でやる事が1工程で済むようになったのは結構でかいとの事だ。
「それに加えて残骸の処理も任せられますからね。こちらの手も止まらなくて助かりますよ」
「ナイフを使うぐらいであれば石田さんが借りてきたゴーレムでも十分だものね。レンタルゴーレムの需要が増える一方かしら」
橋田夫妻も工程が楽になった事に笑みを浮かべながらそう口にした。心なしか気分が上がった事で解体をする手も動きが良くなったようだ。残骸を放り込む箱もその数を次々に増やしていった。
「運搬と戦闘だけかと思っていたが解体も手伝ってくれるんならありがてぇな。やっぱり俺達も駒を探すか……」
源田さんがゴーレムを見ながらそう呟いた。こういった単純作業を肩代わりしてもらえるのは大変ありがたいと。
運搬班としてはこういった数の多い解体もしなければならないのでそれをしてくれるのであれば非常に助かる。やはり続けているとダレてくるからね。
「ともかく1セットは欲しいな。16体もいればかなり楽が出来るぞ」
「姉さんこういった解体飽きが来るの早いもんね」
「桃子さんはすぐ大型を解体したがるから……」
「まぁ、率先してやってくれるのは助かるけどね」
「普段はすーぐ俺達に小型モンスターの解体を任せるからなぁ」
「解体のし甲斐があるのはわかるんだけどね」
「それでいて綺麗に解体をするから文句のつけようがねぇってのな」
駒を欲しいという桃子さんに対し幸さん達はそう言って欲しいであろう理由を口にする。まぁ、気持ちは分からなくはないな。やはり解体をするとなると大物は別格だからね。
桃子さんはそれで皆の負担も減るんだから文句はないだろー……と、駒が欲しい理由はそれだけじゃないと言い返していた。それ自体は間違いではないので皆も頷くしかないようだ。
「それを言ったらやはり僕達も見つけておきたいね。毎回小型モンスターの解体では苦労しているし」
「苦労してない人なんていないんじゃない?」
「ダンジョンで数を熟せって言うのは基本的にストレスにしかなりませんしね」
「解体もなるべくなら時間かけたくないしねぇ……」
司さん達も自分達用の駒を見つけておきたいようだ。今は自分の駒で代用しているがそれも今だけだからね。ゴーレム自体は作ってあるのだから後は駒さえ手に入れさえすればといった所か。
皆は次々に胴体を増産していくゴーレムを見つめながら溜息を吐いた。やはりこの便利さを知ったら欲しく思わずにはいられないよな。
先ほどまでよりも早く減っていく軍隊蟻の山を確認し喋りつつも手を動かす全員。この分であれば思っていた以上の速度終わるかと皆の表情も柔らかいものになった。
ある程度減ったら次の解体に移るという。軍隊蟻が終わってもまだそっちがあるのだと捌く手に力が入った。
ともかくこっちが終わらなければ運搬の方に移れない。護衛班の草田さん達にもうしばらく待っていてもらわなければと思いつつ次の軍隊蟻へと手を伸ばした。




