572話 ダンジョン4層(PT) 討伐班(地上班)の観戦を
「落ちましたね」
「ええ」
遠見の映像から目を外して広場の方へと視線を向ける。広場からは映像にもあった通り、空中に居た女王蟻が地上へ落ちてきたと真実付けるような音が響いてきた。
映像を見てなかったらその真相の程はわからなかっただろうな。
「派手に落ちて来たなぁ……落ちた所に居たモンスターは確実に巻き込まれてるだろ。その分多少は数も減ったか」
「2次被害は地上を見ないと何ともね。それと被害に遭ったモンスターからは魔石もまともな状態では取れないかも。多分潰された時に割れてるだろうなぁ……まぁ、仕方ないね」
津田さんと田茂さんが今の女王蟻の被害についてそんな事を口にした。
女王蟻を倒したついでに地上のモンスターのいくらかが減ったのは討伐班にしてみれば嬉しい知らせだ。まぁ、その代償は出たようだが。そりゃ女王蟻が落ちてきたらねぇ……。解体をする時にでも確認に行くとしようかな?
女王蟻を落としたことでそちらに構っていた飛行班もウインドスネークの方へと向かっていくのが映像に映し出されていた。
後はウインドスネーク1体だけだ。これでほぼ制空権は確保出来たと言っても過言ではないだろうな。
「ウインドスネークの方はこれで飛行班全員で囲むことが出来たな。そうなってしまえば後は時間の問題だろう」
「風の守りがあったとしても多勢に無勢ってわけだ。空中の方はもう目途が付いたな」
「それじゃあ地上班の方を。葵さん、お願いします」
「こっちは今までの間にどうなってるんでしょうねぇ?」
草田さんと八十田さんは飛行班の勝ちを確信し顔に笑みを浮かべた。
こちらはもう良さそうだと今度は地上班の映像を出してもらうよう頼む田澤さん。駒田さんも映像が映るのをドキドキしながら待っている。
「ちょっと待ってね……」
そう言って葵さんは飛行班を映していた視点を下に向けて地上班を遠見に映し出す。多少は減ったらしいけど相変らず軍隊蟻が多いな……。
今回のモンスター側の地上戦力はタイラントスネークが2体、ハンマースコーピオンが2体、ヘビトカゲが2体、ミノタウロスが5体、軍隊蟻が多数といった感じだそうだ。そしてここにまだ合流していないゴーレムが十数体はいるらしい。相変わらず広場はモンスターが多いな……。
ここにラット系や鎧蟻系がいない事がまだ救いだろうか? あいつ等がいたら小型モンスターの数がわんさか増える事になる。流石にその物量で来られると討伐班の体力が先に持たないからな。
それだけ多いとなると討伐班の数も今以上に増やす必要がある。そんな人数が集まるまで待機をするとなると余計に時間がかかってしまう。居なくてほんと助かったね。
「これでどう?」
「さてと……こっちは今どういった状況だ?」
司さんが映った映像を覗き込む。バットなんかを倒してる間にどれだけ数を減らせただろうか?
「ふむ、上手い事ハンマースコーピオンを封じ込めてますね。振るうハンマーが動かせないのでは肝心の破壊力は出せないでしょう」
「2体とも抑えられてるのは大きいね。あれの破壊力は陣地に多大な被害を及ぼすからなぁ」
星矢さんと智貴さんはハンマースコーピオンの周りに突き出ているいくつもの柱を見てそう言葉を漏らした。葵さんがその様子を拡大して映像に映す。
ハンマースコーピオンの最大の武器である両腕と尻尾の先にあるハンマー状の塊は非常に強力な破壊力を持っている。自分も以前戦った事があるのでそれについてはよくわかっていた。
しかし、そんなハンマースコーピオン最大の武器であるハンマーも振るわられなければその威力は発揮しない。威力を発揮するには予備動作が必要だ。
「腕と腕の間にあるあの柱がしっかりと押さえこんでいますね。念入りに何本も出してありますしそう簡単には抜け出せないでしょう。強化も当然実施済みですかね」
「ハンマー部分が大きい所為であれでは引き抜けないでしょうね。そして足の部分も同じく固定済みと。万が一腕が抜けたとしてもあれでは移動ができませんね」
「そして尻尾のハンマーも同様に押さえ込んでるな。そっちも抜け出すとなればだいぶ苦労しそうだ」
「完全に縫い付けられてるわね。こうやって上から見てると標本に留められてるみたい」
礼二さん達田神夫妻と桐田夫妻がこれをした討伐班の面々を褒めながらそう口にした。
腕もそうだが尻尾の方もかなりしっかりと固定がされている。斜めに交差して生えた柱が地面に尻尾をピンと真っ直ぐに押さえつけているのが上から見るとよくわかった。愛さんが言うように標本みたいと言うのも頷けるな。
そしてそんなハンマースコーピオンの方もただじっとしているわけではないらしい。能力を使って柱を壊そうとしているらしく、自分の方目掛けて大岩が柱へと飛んできていた。下手をすると自分の上に飛んでくるが背に腹は代えられないといった所か。
しかし、その攻撃は柱にぶつかる前に探索者が使った物理結界によって防がれていた。モンスター側に向かって飛んで行く攻撃を受け止めるという普段は見ない光景だ。押さえ込んだ拘束を守るために数人がハンマースコーピオンへと配置されていた。
「破壊力のあるハンマースコーピオンを抑えてるのであれば結構優位か? 他のモンスターはどうなってる?」
「えーっと……」
斉田さんの問いに葵さんはまたもや視点を動かし映像を映し替える。他に破壊力があると言えばタイラントスネークとミノタウロスだが……。
「タイラントスネーク用の大型障害物エリアに誘い込んでるな。隠れる場所も多いから上手く障害物を利用して少しずつ攻撃を与えてるか」
「平地で仕掛けるよりはよほど楽だからな。まぁ、伸びてる身体側の方へ逃げ込まないよう注意は必要だが」
「そっちは数回ジャンプ出来る奴用に段差が作ってあるし目視での指示はそれで大丈夫だろう。探知もしてるだろうからな」
方田さんが口にした注意すべき点を映像の障害物エリアを見つつ上手くやってると感想を漏らす田端さん。
上から見てる分にはそう言われればわかりやすいけど現場だと近くにモンスターも居るだろうしかなり大変そうだ。近接班は情報量も多くて休む暇がないな。
「こっちはタイラントスネークの時間稼ぎが上手く出来てる感じですね」
「一番の大物だからな。仕留めるとなったら他に回ってる奴等も集めて一気にかかるつもりだろうよ。俺等でもそうするだろ?」
「ですねぇ」
駒田さんと八十田さんが今のところは順調と映像を見て頷いていた。自分の場合は大型ゴーレムで対処をさせるけどいないと倒すまでやっぱり大変そうだな。
「それでミノタウロスの方は?」
「えっと……こっちかな?」
草田さんに次を頼むと言われまたもや視点を動かす葵さん。遠見ってドローンの空中カメラみたいで便利だよなぁ。
「映りましたね。って!? 1体なんか凄いのもってますよ!?」
「あれって!?」
「マジックアイテムか……?」
ミノタウロスに視点が映った後、5体居る内の1体が予想外な代物を持っていることに皆は驚きの声を上げた。武器を持っているのはいつも通りなのだがそれはいつもの大斧ではなかった。
正確に言えばいつもの大斧も持っているがそれだけではないというのが正解だ。
その1体は片手にいつもの大斧をぶら下げ、もう片手では身の丈を越える大剣を軽々と振り上げていた。自分も見たことのある武器だ、というか持ってるし。
「あれティタンブレードですよね?」
「おそらくね……僕達も持ってないから見た目だけで判断するならだけど……。そう言えば石田さんはあれゴーレムに持たせてるとか言ってたっけ?」
「ええ」
リキッドの装備がまさしくあれと同じものだ。見た目が一緒で武器が違うとかなら話は別だが。
「誰かの落とし物か……それとも探索者を殺してそれを入手したか……」
「よりにもよってミノタウロスの手に渡るか……」
「相性は抜群ですからね……」
星矢さん達が難しい表情をしながらそう口にする。探索者から奪ったとなればそれはつまり犠牲者が出ている証でもある。
モンスターがマジックアイテムを持つというのは自初めて目にしたけどなんとも嫌な気持ちだな……。
「ん? 葵さん、少し引いてください」
「え? わかったわ」
そう言って葵さんにお願いをする。今一瞬映像に映ったのって……。
少し引いた映像から見えたのはそんなミノタウロスと相対している1人の探索者の姿だった。
「やっぱり……こっちも持ってるのってティタンブレードですよ」
「……これは土田さんか。土田さんも持ってたんだな……」
司さんからこの人の名前を耳にすることになった。討伐班の中にも同じ武器持ちの人がいたんだな。
「同武器対決か……周りは近づかせないようにサポートに回ってるな」
「んー、私もあの武器欲しいんだよなぁ……」
「姉さんにぴったりだねぇ」
「まぁ、怪力の能力とは相性良いしね」
「おいおい……んな呑気なこと言ってる場合かよ?」
「戦力アップになるのは確かなんだけどね」
「あれで重さも感じなくなる効果付きだろ? 空中から突撃する俺としても持ってたい武器なんだよなぁ。それにリーチも長いしよ」
「田間、ストップ。どうやら動くみたいだ」
源田さん達がそんな事を話している間に向こうでは動きがあったようだ。土田さんという人がじりじりとミノタウロスとの距離を詰め始める。
しかし音が聞こえてこないのが遠見の不便な所だ。まぁ、そのおかげでこっそりと偵察が出来るのだからメリットでもあるのだが。
隠密ロープのおかげでこうして話しながらも観戦出来ているが普通は黙って見ているものらしい。自分達が居る通路にモンスターを引っ張ってくるような真似は問題ありだからな。
音が無い所為で今一向こうの状況は掴みにくいが事態が動くというのは映像からもなんとなく伝わって来た。地上班の方もどうやら本格的に動き始めるらしい。
離れた所にいる自分達としては無事に済むことを願うしかなかった。




