561話 いろいろ決定しました
「うーん……やっぱり1体だと今の話なら後者の方だろうな。前者だと大盾3枚分には足りないわ」
「そうですか……」
話を始めて数時間。サンダーゴーレムを使った大盾の話を明人さんに話すとそんな答えが返って来た。1枚物の方が頑丈そうではあるんだけどねぇ……。
ゴーレムが使う以上やはり頑丈さは重要だ。それに大盾は一番よく使うタイプのゴーレムでもあった。
「ゴーレムの持っている大盾を実際に見せてもらったがあのサイズだと1体じゃ3つは無理だな。大盾のサイズを小さくすれば作れない事も無いがよ」
「んー……やはり大盾って言うぐらいですからあんな感じの大きさが良いですね。前衛の守りの要でもありますし」
「大きさはあれを基準……っと。
防御性能に関しては複合板の方も悪くはねぇぞ? 間に挟むゴム板は盾への衝撃吸収にも一役買ってくれるしな。盾の裏側へのダメージも1枚の物よりは抑えられるぜ?」
「それはいいんですけどねぇ……自分の場合だと大盾そのもので攻撃する事も良くありますから。やはり頑丈な物をゴーレムに持たせる方が良いのかもなぁ……と」
「まぁ、攻撃にも使うんであれば1枚物の方が安心だわな。電気対策は持ち手の方で何とでもなるしよ」
「しかしそれだと数的に足りないんですよね?」
「そうなるな」
1体で足りないとなれば仕方ない。足は出るが、足りない分は素材の追加をお願いする事で補う事は可能だ。サンダーゴーレムの素材の備蓄なんかはあるだろうか?
「足りない分の素材は追加でお願いをすれば集まりますかね? 今のこの探索者が大勢の状況だと厳しいですか?」
「ダメって事はねぇんじゃねぇか? こっちに素材がなくとも他のダンジョン街の所から取り寄せればいいだけだからよ。その分時間はかかっちまうが集まんねぇって事はねぇだろうよ」
どうやら時間は少しかかるかもしれないが無理という事は無いようだ。それなら少しでも早めにお願いした方が良いだろうな。
「では足りない分は追加で発注をお願いします」
「おう。えーっと……素材の追加注文……っと」
明人さんが用紙に追加発注の文字を書く。こっちのダンジョン街で集まるんであればそう時間もかからないんだろうけどな。
手に入れたサンダーゴーレムの使い道もこれで用途が決まった。複合板の盾にしておけば鉤爪装備のゴーレムの分も賄えたかもしれないが……仕方ないね。
そっちはまた別の機会にでも装備の更新をしようと頭に留めておく。何か良さそうな素材ってあるかな?
「大盾の写真も撮らせてもらったしサイズもOKっと。素材さえあれば作っておくとするわ」
「よろしくお願いします」
これで明人さんへのこちらの用事も一段落だ。後は加工に必要な魔石を渡して出来上がった報告を待てばいいな。サンダーゴーレム自体は先程工房の人達に受け渡し済みだし。
「後で魔石を持ってきます。車にあるのでちょっと待っていてください」
「んじゃあこっちはその間に書類を用意しとくからよ」
一度席を離れると断りを入れ事務所を出ていく。後ろでは事務員さんの人に書類を貰いに行く明人さんの姿があった。
駐車場に止めてある車の中で空間魔法から魔石の入ったケースを取り出す。必要なのは強化に使う土の魔石と能力発動用の雷の魔石だ。在庫の雷の魔石はこれで無くなったか……。
「3層の報酬で希少魔石を希望してたけど上手く入手出来てるかね? 基本属性の魔石よりも競争率高いからなぁ……」
明日辺りにでも受け取りに行ってみようと考えておく。ボウガン用に確保している分を除けば探索で手に入れた奴はこれで全部だ。
「攻略が落ち着いたら私的の探索再開だな。まぁ、その前に他にも何とかしておきたい事もあるけど……」
今のダンジョン街の混み様は早めに何とかしておきたい。他のダンジョンにもマジックアイテムを配るゴーレムを置いてこなければ。
こればかりは自分の為にもやらなければいけない事だ。階層に探索者を分散させただけではなくダンジョンそのものに分散をさせなければ。
「こればっかりは代わりの人も居ないしねぇ……ダンジョンの数を考えると気が重いな」
溜息を吐きながら車から降りる。まぁ、その辺の事は実際に他のダンジョンに行ってみなければ何とも言えないか……。
魔石を持って明人さんのいる事務所へと戻っていく。ともかく1歩1歩着実に進んでいきますかね。
事務所へ戻ってくると明人さんが用紙の準備をしつつお茶を飲んでこちらを待っていた。まぁ、用紙を貰ってくるだけだからすぐ終わるわな。
「お待たせしました。これ魔石です」
「確認しとくわ。書く所は前も書いたような奴だからよ、何かあったら聞いてくれな」
「わかりました」
そして魔石と引き換えに用紙を受け取る。書く所と言っても住所や支払いの同意とかそんなものだ。作る大盾の概要は先程別の用紙に書いたしな。
用紙の自分の記入する欄を埋めていく。数分もあれば必要な所は全部書くことが出来た。
「書き終わりました」
「じゃあ確認させてもらうわ」
魔石の確認も終わり次は書類の番だ。抜けは無いと思うけどな。
しばらく書類に目を通す明人さん。終わるまで用意してもらったお茶でも飲みながら待つことにする。
「……うしっ! 大丈夫だろ。後は出来上がったらこっちから連絡すっからよ」
「ではこれで終了ですね」
「おう、なんかあれば電話してきてくれ。手直しが間に合いそうな所なら請け負うからよ」
「そこまで複雑な形も今回はしていませんしね。持ち手の電気対策ぐらいですか? 普通の盾と違っているとすれば」
「そんな所だな。後は今使ってる盾の形を真似するっと」
「では私はこれで」
「ご利用ありがとうございますだ。今度また飲みでもしようや」
「その時はお互い落ち着いてると良いですね」
まぁ、明人さんの仕事の方はしばらく落ち着く目途は立ってないのだろうが。こっちもいろいろとやる事が山積みだしな。
(自分の所為って言えば自分の所為なんだけどねぇ……)
駒の事が無ければここまでにはなっていなかっただろう。まぁ、自分の探索に大きく関わっている事なので回避は出来ないのだが。
ゴーレムを使っていなければどうなっていたかと考える事はあるが、その場合はソロ探索の前提が消え去る。これからの事を考えるとソロでの探索は絶対に必要な要素だ。
PTで潜るのは精神的に和らぐので洞窟エリアなんかの気分が下がる場所だと有難い。その場合は自由に動けないのがデメリットだが。ソロ探索はその逆だ。
探索という行為自体を楽しむのであれば制限がない方がやり易いのは言うまでもない。洞窟エリアはその点適してるとも言えるが。
「こうも人が多いと大変ですよねぇ……」
「まあなぁ……駒やその他のマジックアイテムが欲しいのはわかるんだが少しは落ち着けってんだ」
話しは噛み合っていないが気持ち的には同意と頷いておく。その為にも早い所行動しないとだな。
明人さんに新しい盾の事をお願いして工房を出ていく。4層の攻略途中に間に合えば御の字か?
「ん? 電話か……」
車に乗って出発をしようという所で電話がかかって来た。
「司さんか。なんかあったのかな? はい、もしもし?」
≪やあ、今大丈夫かい?≫
「ええ、問題ありません」
出発前で良かったと内心息を吐いた。
≪一緒に潜ってくれるPTが見つかってね。石田さんが参加をしてるって言ったら向こうも石田さんの事を知ってたから丁度いいかなって≫
「私の事を知ってるですか?」
誰だろうと首をひねり考えてみる。そもそも知ってるってのは知り合いって意味じゃないかもしれないが。
≪朝集まった個人倉庫のロビーに来られるかい? また顔合わせをしておきたくてね≫
「今から行きます。丁度用事も終わったので」
≪じゃあ誰が来たかは現地でって事で。あっちは僕達の事を知ってるからこっちのPTからは僕1人なんだけどね≫
「まぁ、顔見知りに声を掛けてらしたようですからそうなってもおかしくありませんよね。
愛さん達はゴーレム作りを継続中ですか?」
顔合わせは自分とその新たに呼んだ人達って事だな。
≪石田さんがゴーレムのレンタルをしてくれたおかげで休憩しつつのんびりと作ってるよ。星矢さん達は一応初心者探索者で行きたい人が居ないか継続して探してもらってるし≫
「もし見つかって人数が多ければそこから2つのPTに分けるって感じですか?」
≪そんな所かな≫
まぁ、人数が多いに越した事は無いだろう。自分としては気まずい感じにならなければそれでOKだ。
「そう言えば倉庫の方ってどうなりましたか?」
≪ああ、工場区の方に空き倉庫があったらしいね。恭子さんと葵さんが今現地に行って見物中かな≫
「空きがありましたか。良さそうな物件だと良いですね」
≪全くね。愛達もレンタルが出来次第そっちに移動したいって≫
「ゴーレムを移動させたいという事であればお引き受けしますよ。その時に手が空いていればですけども」
今回の件もあるしそれぐらいのサービスはさせてもらおう。
≪お? それは助かるね。ゴーレムを運ぶってなるとやっぱりトラックが必要不可欠だからさ。駒でそれが出来るんであればかなり楽が出来るよ≫
「近場だとそれ程でもないんでしょうけどね。広場から倉庫までとか」
≪工場区までトラックを運転するとかだとちょっとね……そういった意味でもやっぱり駒を持ってるって羨ましいなぁ……≫
「地上でも運搬の依頼とかがありそうだってこの前言われましたね」
トラックで運ぶよりも普通車で運ぶ方が絶対楽だろう。その差は大きいよな。
そんな雑談を交わし合うと司さんに出発すると伝える。あちらも現地で待ってると言って通話を切った。
それにしても自分を知ってる人達か……一緒に行く人達っていったい誰なんだろうな?




