544話 見物に来たぞ
「ん? なんだ、もう終わったのか?」
「あれ? 増田支部長じゃありませんか。お疲れ様です」
後ろからそんな声が聞こえてきたので振り返るとそこにはなぜか増田支部長が。何で倉庫の方に?
「ああ、お疲れ様だ石田さん。なんでも駒に入れたゴーレムを使って素材を運んで来たと聞いたが?」
「増田支部長の耳にも入ったんですか? まだ途中ですよ。とはいえ後もう少しで出し終えますが」
出し終えるというよりは下ろし終えるといった方が正しいかな。素材を背負っているゴーレム自体は既に全部出し終えてあるのだし。
目の前では通常サイズのゴーレムが地面に鉄籠を下ろしている最中だった。他のゴーレムも使い鎖を外す役、鉄籠を支えている役など各自分担して素材を指示された場所に纏めていた。
「話ではゴーレムを出す許可を求められたと聞いたが? あのサイズであればそう許可もいらんだろう。倉庫でゴーレムを出したとしても何ら問題はないぞ?」
管理部が使っているゴーレムを指差して普通にそこ等を歩いているだろうと口にする支部長。
「てっきり許可がいるようなゴーレムを出してるとばかり思ってたのだがな」
「ああ……そちらは先に終わらせてありますね。でかい奴からやった方が邪魔にもなりませんので」
増田支部長は自分が駒を持っているのもゴーレムを使用しているのも当然知っている。大型のゴーレムについても以前の話で口にしたので存在だけは知っているわけだ。
「そっちを見る為に来たんですか?」
「そちらはまだ見せてもらってなかったからな。せっかくなので見せてもらうかと思い寄らせてもらったわけだ。一足遅かったようだが」
「つい先ほど仕舞っちゃいましたね」
「そうか……」
「増田支部長の方にまでゴーレムが出たと話が行ったのですか?」
明日香さんが若干及び腰な姿勢でそう問いかけてきた。皆からすれば駒持ちだってのを知られたわけだからちょっと戸惑っちゃうか。
「うむ、実は丁度会議をしていた所でな。素材担当の方にそういった連絡が来たわけだ。倉庫に駒からゴーレムを出しても構わないかと連絡を受けて私の方でも許可を出した。先程も言ったように私も少し見てみたいと思ったからな」
「……もしかして会議の邪魔をしてしまいましたか?」
そうだとしたらちょっと気まずいタイミングで許可を求めてしまった事になるな……。
「いや、ほとんど終わってもう解散する所でな。その帰り際に丁度連絡が来た感じだ」
「それならよかった……ですかね?」
皆もその言葉を聞いてホッと溜息を吐いた。自分もそうだ。
「今からまた出して見せてくれというのもなんだな」
「出そうと思えば出せますが……」
「いや、少し見てみたいと思った程度だ。別に構わんよ」
「そうですか」
駒に伸ばしている手を元に戻す。ちょっと出すだけだから本当にすぐ終わるんだけどね。
「それでアレが石田さん達の運んできた素材か?」
増田支部長はそう言ってゴーレム達が纏めている素材の方へ眼を向ける。
「はい、先程5層から帰って来た所でして。ここにいる皆で行ってきました」
そう言って後ろを振り返る。どうせだから皆にも注目を分散させてもらおうかね。
「ふむ……駒持ちのPTで組んだわけか?」
増田支部長はそう言って皆にも視線を向けた。その視線を受けて姿勢を正す明日香さん達。どことなく緊張した表情だ。
「えっと……駒の事、黙っていてすみませんでした……」
「ふむ……まぁ、教えてくれた方が私としても有難かったのは確かだな。結局石田さんから実物を見るまで何も知らなかったわけだ」
増田支部長の目が再びこちらへと向く。以前の話し合いの時にも言われたが知っているのであれば早くに聞かせてほしいと。
「まぁ、君達探索者の気持ちもわからなくはないがな……それを言えば、誰が最初に見つけて隠れて使っていたかわからないのだ」
「私も早い時期に見つけた方だとは思いますがだからと言って最初とは言えませんしね」
自分はゴーレムを表立って使っていたわけだがだからと言ってそれが最初に駒を見つけた1人とは言えない。このマジックアイテムがダンジョン産という事は他の人達も見つけていた可能性は普通にあるわけで。
「なので隠れて使っていた、もしくは持っていたという事について咎める事は無いから安心していい。それを言えばキリがないのでな」
「よかったぁ……」
「ちょっと気にはしてたからねぇ……」
明日香さんと門田さんがそう言って再び溜息を吐く。今の話は駒のマジックアイテムに限らず他の強制買取のマジックアイテム全てに言える事だしね。
増田支部長から直々に何もなしと聞き皆が安心した顔を見せる。周りの探索者の中でも内心ホッとしてる人達は居るかもしれないな……。
「とは言え……出来る事ならそういう話は早めに耳へと入れておきたいのは確かだ。今度からそう言うものを見つけた場合はしっかりと報告してくれると助かるな」
「あはは……気に留めておきます」
そう言って苦笑いをしつつ答える明日香さん。出来るだけそういう報告はしたくないよなぁ……。
自分達に有用であれば是非探索活動に使いたい。これからもそう思う探索者は後を絶たないだろうしね。
「ふぅ……言ってどうなるものでもなさそうだな。
それでだ、あの素材の集まりが今回君達の成果なわけだ」
「そうなります」
改めて素材の方へと目を向ける増田支部長。明日香さんや門田さんも頷きながらそう答えた。
「5層から帰って来たといったか? 石田さんが初心者探索者というのは聞いているが君達は?」
「私達も似たようなものです」
「僕等のPTは今年からダンジョンに潜り始めたばかりですので。2名を除き他の皆1年前に探索者登録はしてありますが」
タグを見せつつ自己紹介をする明日香さんと門田さん。今は報告に行っているリーダの代理だとも口にする。ここにいない2人だがしっかりと名前は伝える。やけにリーダー代理と強調して言ってるなぁ……。
話があるのであればリーダーへどうぞといった言い分に苦笑を浮かべる。2人ともしっかりと名前を憶えられたんじゃないですかね。
「全員が最高階層を上げる為に組んで潜った初心者探索者という事か。その初心者探索者があの量かぁ……」
鉄籠の数を見て顎を擦る増田支部長。その中でも大型ゴーレムの持ってきた大きい鉄籠へと視線を向ける。
籠からあふれて見える素材を見てその内容量もしっかりしたものだと確認する。運べる分はアイアンだろうと詰められるだけ入れて来たからな。
「量の確認は?」
そう言って倉庫担当のスタッフさんへ声を掛ける増田支部長。
「纏め終わりましたのでこれから確認を始めます。予想してたよりも量が多いので追加の人数を集めております」
「どれ程の大きさのゴーレムがどれだけ運んで来たのかも報告書に書いておいてくれ。参考に出来るだろう」
「わかりました」
そう言うとスタッフさんは、近づいてきた新たな人達を連れて素材の方へと向かって行った。これから正確な鑑定が行われるわけだ。
「運んで来たのは主に何なのだ?」
「塊蟻とゴーレムです。4層のボスと5層の帰りに遭遇したゴーレムを運んできてます」
「詰められるだけ詰めてきたので正確な量はこれからになりますが」
「4層のボスか……確か属性付きのゴーレムにアイアンゴーレム、塊蟻がランダムで20体以上はいるんだったか?」
「はい」
増田支部長達は4層攻略の会議もしていたのだろう。何が居るのかも大まかに把握しているようだった。メインはボスの方ではなく広場や通路になるのだが情報としては当然聞いているというわけだ。
「だとすれば結構な報酬が期待できるな。探索ご苦労だった。
皆からすれば5層までの転送権確保の方が嬉しいといった感じか?」
「一応5層までの攻略について行けますから」
「行けたとしても運搬班となりますが……」
「いやいや、運搬班大いに結構。こうしてその運搬量もわかっているのだ。駒を使って多くを運んできてくれることを期待するぞ」
増田支部長は気をつけるようにといい含めた後で大いに期待すると口にした。駒持ちはやはり運搬班の担当を期待されるか?
「道中の戦力としてもゴーレムは大いに役立ってくれるだろうな。1人が行ったとしても16体のゴーレムが付いてくるわけだ。
全く……戦力の強化としてもっと前から欲しかったと言わずにはおれんな……」
増田支部長はそう言って小さく溜息を吐いた。自分がダンジョンの探索をしてた頃からこれがあればという事か……。
「今更言った所でどうにもならんがな……そこはこれから探索をしてくれる君達に期待させてもらうとしよう」
「出来る限り頑張る事にします」
「自分達の為でもありますので」
「借金を作っちゃった以上はしっかり返さないとだしねぇ……」
頑張れとそう口にする増田支部長に対しそれぞれ返事を返す。
明日香さんは真面目そうに答えるが自分と門田さんはかなり自分本位だ。まぁ、出来るだけ頑張るという気持ちは無くもないけどさ。
その返事に苦笑を見せる増田支部長。借金返済のために頑張るというのも真面目な理由といえば真面目だ。
「探索者だからその多くはそんな者か。間違ってはいないが何とも真っ直ぐな理由だな。若い内はやはりそういった感じなのだろうなぁ」
「いや、まぁ……」
「探索をするにしてもやはり気になってしまうと言いますか……」
「んー……私もそんな感じで言っておいた方が良かったかな?」
こちらも苦笑いでそう答える。明日香さんも自分達に引っ張られたのか自分本位な言葉を考えているらしい。別にそのままでいいと思うんだけどねぇ。
後ろに居る皆の方からなんだか溜息が聞こえてきたような気がするが聞こえないふりで苦笑いを続ける。自分にとっては完全に興味本位だからね、探索者ってさ。
「まぁ、探索者をする理由なんてのは確かに人それぞれだろうがな。初心者探索者だが気負ってない分マシと考えておく事にしよう。
それでは私もそろそろ戻るとするか。ゴーレムを見る機会は今後いくらでもありそうだしな」
「私達以外だとまだ誰も使ってる所の報告って無いんですか?」
少し気になったので聞いてみる事にした。
「今の所はな。昨日広場ではそんな事もあったと聞くが……あれは君達か?」
「たぶんそうです」
「で、あれば他の話はまだだな。まぁ、今後増えるのだろう」
「こうして実績作っちゃいましたからね」
「広場でしていないだけで荷物を背負わずに転送陣へと入るPTなんかがいれば間違いなさそうなんだけどね。事前にやっておいた方が目立ちはしないだろうし」
「水筒ぐらい提げとけば他はいらないわね」
自分達も今後はそうするかと後ろを振り返る。自分の場合は韋駄天ブーツを鞄に下げてるからそれを持っておけばいいか?
「いや……自分の場合だと普通にゴーレムと一緒に転送した方が良いのか」
「石田さんの場合だと転送陣に空きもあるしね。というより、私達も最初の転送でどのみち数体は出しちゃうか……」
「最初の警戒でもゴーレムが居た方が安全ではあるしね」
転送陣に場所がないのであれば別として最初からゴーレムを出しておいた方が良いのは間違いないわけだ。考える必要もなかったな。
それとどのみち今更感がある。普通に駒を使うのでいいか……。
「使う者が増えれば気にする必要もあるまい。安全を第一に考えて探索をするようにな。それでは私はこれで失礼するぞ」
『お疲れ様でした』
皆で歩いて行く増田支部長にそう言って声を掛ける。今度乞われたらゴーレムを出すとしようか。
増田支部長もいなくなった事で皆どこかホッとなった気持ちだった。やはり管理部で一番上の人がいると気さくだろうが緊張するわな。
「えっと……それじゃあ素材の鑑定が終わるまで自由行動にでもしましょうか」
明日香さんが皆に向かってそう口にする。少し時間もかかりそうだしな。
「しかし結局太一達は来なかったなぁ……」
「やっぱ夕飯はあいつ等の奢りだな。後ろで話してたんだけど中華って事になったわ」
「普通の中華料理店だけどな。確かモンスターの素材を使った料理は食べ放題だと別料金だったはずだぞ」
「じゃあ一応遠慮して頼んであげましょうか」
「食べ放題分は元取らなきゃだけどねぇ」
「蔵人、あの2人の名前で予約入れといて」
「んんー! それにしてもなんだかやっと終わったー! って感じね」
奏さんの言葉を聞いて皆もウンウンと頷く。予約を頼まれた蔵人さんはさっそく電話をかけ始めていた。予約取れると良いんだけど……。
優先して持ち帰りの状況を把握してくれとでも言われたのか、スタッフさんが更に増えて素材の鑑定に勤しんでいた。この分であればそう待たずに終わりそうな気もするな。
皆でゴーレムを回収しながら店に何があるか等の雑談を交わす。今も注目はされているのだが増田支部長に見られていた時の方が緊張度は高かったらしくあまり気にならないようだ。
戻って来なかった2人への愚痴をこぼしつつこちらも作業を終わらせる。果たして鑑定結果はどんなもんだろうなぁ?




