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535話 ダンジョン5層(PT) 光の重要性




 「よし、じゃあ行こうか」

 「おう」

 休憩も終え、5層行きの転送陣前で最後の確認をしながら皆へとそう声を掛ける理人さん。力も回復したし準備OKだ。


 「皆転送陣の上へ。迎撃態勢もしっかりとな」

 「そっちもうちょっと詰めて」

 「ちょ! だからって押さないでよ」


 外側を近接班が囲みその内側へ入る遠距離班。自然と中央が混み合うのも致し方ない。飛行班は浮いてた方が良いかな?

 ボス部屋では回収しきれなかった素材を丁度スライム達が消化している所だった。部屋の中が片付けばその内またボスが湧くのだろう。解体と休憩で少し長居しすぎてしまったか?

 時間的にもう数時間もすれば少し早い夕飯といった頃合いになる。あまり5層の探索に時間は取れなさそうだ。

 

 少しすると皆の位置取りも終わった。やはり浮いてた方が下も楽だろう。

 あまり高くなり過ぎない程度に浮かびつつ周囲へと目を向ける。視点が高いってのは警戒にももってこいだな。

 

 「準備は良いか? それじゃあ装置を動かすぞ」

 『了解』


 太一さんは皆からの返事を聞き取ると目の前の装置を起動させた。次第に転送陣が光り輝いていく。

 新しい階層はどんな所だろうと思いつつ視界が切り替わるのを待つ。いきなり地底湖や広場なんて大部屋は来なくていいからな……。

 そして転送陣に光が充満し、そろそろかと思っていた所で唐突に視界が切り替わった。


 転送後、視界に映ったのは地底湖でも広場でもなかった。

 そこはライトの明かりだけがはっきりと見え、それ以外は壁さえろくに視認できない程の暗闇の空間だ。


 「くっら!?」

 「皆周囲を照らせっ!」

 「ちょっ!? この状態でほんと押すなっ!」

 「探知を!」

 「今やって! キャッ!?」

 「皆さん落ち着いてっ!」

 

 転送直後に辺りが真っ暗と、周りが見えないという事で皆は若干パニック状態となった。ライトの光はあるがやはりそれだけでは心もとない。

 人間、視界が定かでなければこうも取り乱すという事だ。自分も浮かびつつあちこちにライトを向けて周囲の確認に忙しいしな。

 

 「陽向! 明かりを出せっ!」

 「ちょっと待って!」


 その声と共に眩しい程の光が空中へと現れた。自分が浮かんでいる高さより更に上へと上っていく。

 光を間近で見た所為か若干目がおかしい。一度目を閉じて少しずつ明るさに慣らしていく。


 「皆! 私の能力だとモンスターの反応は無しよ! 少なくとも近くにはいないわっ!」

 「皆さん、一旦落ち着いて!」

 薄目で目を慣らしていると、そこに奏さんと澄田さんの声が聞こえてきた。どうやら近くにモンスターはいないらしい。


 「いったぁ……探知でも反応なし。とりあえずしばらくは問題ないわ……」

 「はぁぁぁ、焦った……」

 「急に真っ暗は心臓に悪いな……」


 明日香さんの報告を聞いて溜息を吐く太一さんと理人さん。よし……光も直視しなければ何とかなりそうだ。

 視界も慣れてきたことで改めて周りを見渡す。やはりというかなんというか……以前にもあった光石がまだ設置されてない新しい通路だなここ。


 「視界を奪われるのがかなり厄介だな」

 「ああ……最悪誤認をしてしまいかねん」

 「一応火出せば明かりは確保出来るが……」

 「それで近くに居る者に火傷を負わせでもしたら元も子もないぞ。火を光源にするときは注意をしてもらわなければ」

 蔵人さん達近接班が構えを解きつつそう言って溜息を吐いた。遠距離班だって視界が悪いと誤射も起こりえそうだわ。


 「皆どこか怪我とかしてない?」

 「ちょっと膝擦りむいちゃった。回復お願いできます?」

 「手首ひねったかも……暗いからってむやみに動くのはやめてよね……」

 「頭ぶつけたぁ……エアクッションも使い時がわからなかったし」

 「んー、一応氷で冷やしますか?」


 門田さんが怪我人の有無を確かめる。倒れた拍子に明日香さんと由利さんが膝と手を怪我したらしい。凜さんは驚いて上に上がったところ天井に頭を打ったらしい。

 怪我自体は回復の能力で治るのだが、痛みが引くまでは氷でも当てるかと尊さんが手のひらサイズの氷を作り出す。探索が終わるまでは貸すとしたんだけどなにげに結構使いこなしてないか?

 誠さんが氷を使うので見慣れてはいるのだろう。エネルギーの方も誠さんにしっかり回復してもらってるようだしね。


 「空は浮かんでるし転んだりとは無縁だから良いよね……」

 「足元で皆がパニックになってたから下りるに下りられなかったんだけどね。陽向ちゃんの能力のおかげで落ち着いたわ」

 「私も急だったので兄さんから使えって言われるまですっかり忘れてました……今度からは転送前に用意をしておいた方が良いですよね」


 陽向さんはパニックになって一瞬自分の能力を忘れてしまったという。

 転送前が光で照らされていただけにそれとは真逆の状態だからね。あの時点で光が必要だとは自分も頭になかったわ。


 「あー……5層への転送早々焦りましたねぇ……」

 「視界が切り替わるのは覚悟してましたけど、ライトの明かり以外が見えないというのは困りものですね。僕達の真下では皆も若干パニックになってましたし」


 空中で澄田さんとお互い溜息を吐く。竹田さん達と同じくこけたりは気にしなくてもいいのだが、むしろ暗闇で宙に浮いているというのもそれはそれで怖いものがあった。

 視界不良プラス、落ち着くために地面へ下りる事も難しいときた。凜さんが天井へ頭をぶつけたように逆に上がるという選択も取れない。

 空中で身動きが取れないとなるとどうしていいか判断に困るな……。


 「探知で状況は把握できますがそれを聞いてもらうにしても皆には落ち着いてもらう必要がありましたし」

 「視界さえまともならそもそも取り乱す事もなかったんですけどね。

 んー……光石設置の依頼は結構重要って感じですね、これ。転送直後って言うのがまたいやらしい転送先ですよ」

 「僕達がまだまだこういう事態に慣れてないっていうのも大きいですけどね。

 洞窟エリアも先に進めば進むほど光石の設置が出来てない通路は増えるみたいですし。中堅の人達はそこを通って10層を突破したんですからこういう事にもそれなりに耐性をもってそうです」

 「光石が足りないのは『新しい通路』全般ってことですか……」


 洞窟エリアも後半になればなるほど地図の埋まってない場所も増えている。道がわからないという事は光石もそこにはまだ設置出来ていないという事だ。

 もしくは、一応設置は出来ていたとしても設置したという情報を持ち帰ることが出来なかったか。地図に載ってない場所で光石が設置されていたとすればおそらくそう言う事だろう。


 「やはり洞窟エリアは明かりが必要不可欠ですね。最初に光石を設置していった先輩方には頭が上がりませんよ……」

 「全くです……。何をするにしても人間は明かりなしでは生きられませんねぇ」


 光石程度の明かりとはいえ有ると無いとでは大違いだ。

 明かりが設置されるまでは戦闘でも誤射は多かったはず。視界不良の中戦闘をするだなんて想像したくもないな……。

 

 「普通のライトは勿論ですけど、照明弾のような明かりもあっていいのかもしれませんね。明かりを確保する手段は多くあって困る事は無いでしょうし」

 「安全そうなので言えばケミカルライトとかでしょうか? 使い捨てになるかもですけどあっても損はなさそうですね。

 まぁ、僕達のPTには陽向さんが居ますのでそこまで使う機会があるかどうかはわかりませんが。力の温存目的で使用するのは有りかもしれませんね」

 自分もソロであれば明かりにそこまで苦労する事は無い。PTで潜る時の備えとして用意しておけばいいか?


 「その辺りは雑貨屋に行けば置いてそうですよね。

 ところで……」

 「ん? どうしました?」

 澄田さんにそう言うと今自分達がいる通路を見渡す。陽向さんが作った明かりがあるおかげで視界に問題はない。


 「ここって新しい通路ですよね? だとしたらアレがあったりするんじゃないかなぁ……って」

 「……それもそうですね」


 澄田さんもそれで気が付いたのか辺りを見渡す。自分達の居る所からは見えないけど更に奥へ行けばあるいは……。

 モンスターも近くに居ないと言う事だし、現在地の確認がてら行ってみるのも有りだろうと。というよりもここに居るのだから行かない手はないな。

 

 「皆さん、少し移動をしましょう! ここが光石のない新しい通路であればアレがある可能性があります!」

 「お!? 確かにっ!」

 「そう言えばそう言う通路なんだよな、光石が無いって事は」

 「5層まではほぼ地図が出来上がってたわけだしそうなるか……」

 「奥は……あっちね」


 澄田さんのその一言に皆がハッとなって通路を見渡す。治療も終わったのか明日香さんは探知で方向を調べると通路の奥へ向かって歩き始める。

 明日香さんに続き皆も移動を開始する。さっきまでここで取り乱していたなんて事もどこへやらだ。それだけ魅力的というわけだな、宝箱って奴は。

 

 地面へ下りると自分も皆の向かう方向へ向かって歩き始める。

 5層はまだゴーレムを設置していないエリアだ。どちらかと言えば無い可能性の方が高いかと思いつつも足を進めていく。

 

 果たして宝箱は有るのか無いのか……。久しぶりのダンジョン産宝箱とあって心臓がドクンドクンと大きく鼓動を鳴らしていた。






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