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511話 ゴーレム引き渡し




 「お、来た来た。理人さーん! 太一さーん! こっちでーす!」

 駐車場にやって来た2人を見つけると手を振ってこちらだとアピールをする。丁度一緒のタイミングで来てくれてなによりだ。


 「お待たせです、石田さん」

 「注文分が揃ったって聞いたけど?」

 そう言って2人が車の前へとやって来た。2人ともワクワク顔だな。


 「ちゃんとそれぞれ人数分ずつ完成しました。後は駒に仕舞ってもらうだけですね」


 その返事を聞いて更に顔を緩ませる2人。理人さんにしてみれば複数のゴーレムの使用は初めてだから余計に嬉しいといった感じかな。

 2人に車へ乗るよう指示を出す。早速倉庫の出番だ。


 「個人倉庫内じゃないの?」

 「流石に17体は厳しいですからね。別の場所に倉庫を借りてるんです」

 「へー、また別に倉庫を借りてるのか」

 車を出発させると今日契約して来たばかりの倉庫の事を話す。やっぱりあると便利だよなぁ……。


 「大型ゴーレムの注文も来そうだとは思ってましたからね、個人倉庫だとそっちは無理がありますし。ちょっと前から個人倉庫以外で大型の倉庫を借りられたらなぁ……って思ってたんですよ」

 「確かにあっちじゃ作るにしても限界があるか。

 個人倉庫は基本的に素材や装備の予備なんかを置いておく場所だからねぇ。ゴーレムの製作を想定して作ってるわけじゃないもんな」

 「2mや3mのサイズの奴はまだ大丈夫だけど5mってなるとそりゃ無理か。

 持ち帰って来た素材を取っておくにしても通常は個人倉庫で物足りるからそこ以外で倉庫を借りてる人なんてあんまりいないよなぁ……。個人でゴーレムを作ろうなんて考えしてる人も今まで居なかったわけだし。

 集会場所として借りるんであれば管理部内のあの部屋でいいからな。わざわざ別で大規模なスペースを用意してる人とか確かに聞かないな」

 「アパートの1室を借りてるとかは聞いたことあるかな? あるいはPTメンバー用のシェアハウスとか? 別で集まるスペースを借りてるって言っても用途は住居だね。俺も倉庫を借りてるって人は聞いたことが無いな?」


 そう言うと2人から珍しいものを見るような視線を向けられた。まぁ、そうなるだろうねぇ……。

 探索者個人がそんな大規模の物を作るなんて事はまずないと言っていい。田宮さんのように武器を作ってそれを保管するにしても個人倉庫で十分事は足りる。なによりダンジョンに近いしね。

 

 理人さんが言ったように個人倉庫以外でそれなりのスペースを確保すると言ってもPTメンバーで集まれる住居のような場所が精々だろう。話し合いや打ち上げで使うにしても倉庫より使いやすいしね。

 自分のように大型の物を作ろうと思うのでなければ個人倉庫以外の倉庫を借りてる人なんて早々居ないだろうな。


 「ゴーレムを作ろうと思ったのもここ最近の出来事ですからね。探索者で倉庫を別に借りるとか確かに珍しい部類なんでしょうねぇ」

 「借りてても使う事はそうないだろうしね。

 だけどその状況も今じゃだいぶ変わったからなぁ……由利や皆にも説明して自分達も倉庫借りようかな?」

 「俺達は作れるメンバーがいないからなぁ……けど今の内に押さえておいた方が良いのか? 後々だと借りられる倉庫も限られてくるだろうし」

 2人が自分達もゴーレム用の倉庫を借りておくのもいいかと考え始めた。その内由利さんも大型ゴーレムの製作に手を付け始めるかもしれないしね。まずは大型のロックゴーレムからとか?


 「借りるのであれば急いだ方が良いかもしれませんよ? 不動産会社の人が言うにはここ最近そう言う話が多いらしいですし。

 おそらく駒を手に入れた人達が目を付け始めたんだと思います。個人倉庫のような狭い場所で作るよりはだいぶマシでしょうからね」

 最初は個人倉庫で作っていたのだと思う。しかし大きなゴーレムを作ろうとしてここではだめだと思い始めたのだろう。自分もそうだったしな。


 「倉庫の数自体は駒の発表もあったしこれからたぶん増えていくんだろうな……駒を手に入れた探索者からもそう言った要求は増えるだろうし」

 「しかしそうなると……作られたとしても工場エリアとか街の郊外とか結構離れてそうだよな。今までが街の外だったことを考えると別になんてことはないけど出来るだけ近い方が有難いわな。早めに近場の倉庫を借りる契約しといた方が良いか?」

 「その方が良いと思いますよ。幸い自分は結構街の中心近くにあった所を契約することが出来ましたからね。ここからそう時間もかかりません」

 

 目的地まで後10分ちょいとカーナビには表示されている。新しく建てられる倉庫が街の郊外だと行き来にそれだけ時間がかかってしまうわけだ。

 やっぱり自分の生活圏内に近い所の方が有難いよね。

 もうしばらくで到着と聞いた2人がやはり出来るだけ早い方が良いか……と頷いていた。車を持ってないと更に行き来に時間がかかりそうだしね。


 「決めた……皆を説得して俺達も倉庫を借りることにする。由利も反対しないだろうし」

 「個人倉庫や街の外で宿泊しながらよりはマシそうだよな。俺達もどうせなら今の内から押さえておこうかな。使わなかったとしても後から探すよりはマシだろうし」

 「何なら貸し倉庫を更に貸すとかどうですか? おそらくこれからも倉庫を借りたいっていう人は増えるでしょうし……」

 これから駒を見つける人だって次第に増えていくだろう。そうなればゴーレムを作る場所は絶対必要になって来るはずだ。

 

 「借りてる倉庫を又貸しするわけか……ちょっと面倒だろうけど遊ばせておくよりは良さそうだな。近場で作れるってのはやっぱ有難いだろうし」

 「なんかあったら弁償してもらうよう書類を書いておいたら良さそうじゃないか? 起動するまで地震でもないとそうそう問題は起きないと思うけど」

 「その場合は私物とか置いとけないかもだけどな。でも使い始めるまで置くもんなんてそんなないか」


 太一さんが「そうすっかー……」と呟くと、携帯を取り出しどこかへと電話をかけ始めた。早速探し始める感じか?

 理人さんも同じく携帯を取り出してどこかへと電話をかけ始める。まずはPTメンバーに今の話を伝えるって感じだろうけどね。

 

 太一さんの相手は門田さんらしい。探索者として先に活動をしていたのでその伝手でいい物件がないか探そうという事だ。

 理人さんの相手は由利さんのようだ。ゴーレムを作る倉庫となれば一番関係するのは由利さんだし賛同を得ようという事か。

 2人とも今の内に倉庫を借りておくメリットを電話で相手に伝える。駒の事が周知された以上同じような考えをする者は多いだろうと。

 既に駒を持っている以上、これからもゴーレムを使う事は確定してるので間違いなく倉庫は有用との事。先の事を考えればあって損はないと熱弁していた。


 「もう少しで倉庫に到着しますよ」

 「了解。……だから今の間は倉庫を借りたいっていう人に間貸しをすればそこまで損もしないと思うんだ。これから絶対貸し倉庫の価値は上がるって……」

 「わかりました。……うん、うん……やっぱり由利は賛成ね。倉庫でなら伸び伸びと作れるだろうしあった方が良いよな」


 こちらに一言そう言って電話を続ける理人さんと太一さん。

 今日発表があった所為で近場の貸し倉庫は早い者勝ちとなる。少しでも早く契約を持ちかけるのが大事だとそう口にしていた。

 

 2人の電話は倉庫に着くまで人を変えながらずっと続いた。

 皆にもこの事を伝えてくれと、それと出来れば今日中にでも不動産会社で物件を探したいとの事だ。周りが既に動いている以上自分達も遅れはしまいと。物件がまだ残っている事を祈るしかないな。

 

 「そう言えば倉田さん達はどうしてるんだろう? 街の外に作りに行ってるって事は倉庫って借りてないだろうし。作製に手を出そうとは言ってたから借りるのはやっぱりこれからかな?」


 車を運転しながらそんな事を思う。これからは秘密にする必要もあんまりないので街の外での作製も楽にはなるが倉庫で自由に作れた方が良いのは言うまでもない。

 後でこの話は他の駒持ちの人達にも言っておくかともう少しで到着する倉庫へと車を走らせる。倉庫の需要とかどれだけ増えるだろうか?


 



 「おおー! 壮観だなぁ!」

 「やっぱり倉庫は手に入れておくべきだなぁ……」


 しばらくして目的地の倉庫へ着くと2人を中へ案内する。これだけ大きければゴーレムを作るのに支障はないだろうと感心していた。

 内部へ案内するとそこには直立不動の17体のゴーレムが。方列は大盾を、もう方列は自身の背より長い金属の棒を手にしていた。


 「大盾の方が太一さん達のゴーレムです。棒を持っている方は理人さん達のゴーレムですね」

 「武装は由利が作ったのがあるから後で持たせないとだな。それにしても9体もいるとなんか感動するなぁ……」

 「金属製ってなるとやっぱり雰囲気が変わるなぁ。大きさも変わったわけだしそれの所為か? ともかくこれで戦力大幅UPは間違いなしっと!」

 2人が自分達のゴーレムに触れながらそう口にした。これで2人のゴーレム作製依頼は完了だな。


 「後はそれを駒に仕舞ってください。作るのは良いんですけど仕舞うのが駒の持ち主に頼まないといけないのがちょっと面倒なんですよね……」

 「確かに登録がされてないと石田さんも仕舞えないですよね。

 駒を使える登録者が来るかゴーレムそのものを送ってもらわないといけないと……」

 「登録さえされてれば石田さんがあっちで渡してはい、お終いで済んだわけだ。まぁ、そこは仕方ないか」


 2人は取り出した駒にゴーレムを仕舞いながらそう口にした。ゴーレムが入った駒を渡してってのが出来ないからそれだけがちょっとね。

 ともかくこれで引き渡しも終了だ。ちょっとばかり肩の荷が下りたな。


 「後は倉田さんや米田さん達のゴーレムもだなぁ……。大型ゴーレムの注文もあるし、どっちにしてもここへ呼ばないと」

 「お疲れ様です。依頼料は振り込んでおくので後程確認をお願いします」

 「サンキューな、石田さん」

 「こちらこそ。ご依頼ありがとうございます……といった感じですかね」

 ガランとなった倉庫内で苦笑し合う3人。ゴーレムが居なくなると広い倉庫が更に広く感じるな。


 「なんにせよ、明日までに用意出来て万々歳ですね」

 「これで結構気が楽になるね。勿論、油断は禁物だけど」

 「だけど戦力大幅アップなのは間違いないぜ。石田さん、明日の準備は?」

 「大丈夫です。万全の状態で行けますよ」

 問題はないと口にする。気になる事も一応は終わっているので攻略に支障はない。駒の件が片付いたのは何よりの収穫だ。


 「お2人は大丈夫です?」

 「準備の方はね。さっき用事が出来たからそれを何とか終わらしてしまいたいかなぁ……」

 「明日までには何とかして見せるさ!」

 「あはは……自分が言った所為もあるでしょうけど明日に響かない事を祈りますよ」


 2人はこれから不動産会社へと突撃だ。明日の出発に影響が出ない事だけを祈るしかないね。

 3人して倉庫の外へと出る。用事も済んだのでここに長居する理由はない。

 再び車に乗って出発する。理人さん達は皆と合流するらしく途中で降ろしてほしいそうだ。知ってる不動産会社が近くなんだろうか?

 明日吉報を待っていると口にし言われた地点まで車を走らせる。はてさてどうなる事か……。


 



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