5話 初めての魔法発動! リフォームに向けての一歩
将一は読んだ手紙を神特製の封筒に戻す。何か抜けがないか確認をしてからだが。
そして目の前の家に改めて目を向け、さてどうしよう…と考える。
「家を用意してくれたり、戸籍やこの世界での経歴は素直にありがたいんだけど…。流石に家はこのままじゃ使えないわなぁ。
かといって手直しして使うってレベルでもないぞこれ? 大工さんをここまで呼んでくるのも手間だし、金いくらかかんだよ? 自分でなんて無理に決まってる、途中で諦めるわ。
しかし何とか活用したいんだよなぁ。せっかく用意してくれたんだし、一応父さんから貰った形見って扱いなわけだし…」
なんとかできる案はないかと家の前で腕を組んで考え始めるが、どうにもリフォームできる想像が思い浮かばない。匠が必要だろう。
将一はとりあえず玄関でこうしてても仕方ないと思い、ちょっと家の中を確認するつもりで玄関の扉に手をかける。
「クッ! 想像はしてたけど…動かないっ! 扉固った…!」
両手でスライド式のドアを開けようと無茶しない程度に力をかける。既に板が割れているが、これ以上割れて掃除するのも手間だと壊れないよう慎重に。しかし力は込めて。
「よっし! ちょっと動いた。とりあえず体が入り込むぐらいまで…!」
少しだけ開くとそこに手を入れる。さらに力がかけられるためここからはまだ容易だろうと、相変わらず固いドアを引く。
しばらく扉と格闘すると、どうにか人1人分は通れる隙間ができた。
なんか無駄に汗をかいたような気がするが、確認しなければいけなかったのだと納得し額の汗をぬぐう。扉の板も割れることなく済んでホッとした。
「さてと、中はどうなっているんだ? まあ外がこれだと中も相当酷いんだろうが…。いきなり床が抜け落ちるとかは勘弁してほしいわなぁ」
意を決して玄関の扉をくぐる将一。
目に入ってきたのは、屋根から雨漏りが原因か床の色が変色していて腐り落ちていたり、ところどころ苔が生えている光景だった。
いつ掛けられたのかもわからないカレンダーは、湿気を吸って黄ばみ歪んでいた。
彫り物の飾りは虫食いがあったのかボロボロの状態で、触れば今にも崩れていきそうだ。
靴箱も足が腐って倒れたのか、その上に置いてあった小物が玄関に散乱している。色が変色し、元がなんだったのかわからない。
傘立ての壺には雨水が落ちてきてたのか、傘が数本入った状態で水が満杯まで溜まっている。
壁掛け時計はガラス面に罅がはいって割れており、長針は床に落ちたのか見当たらず、短針は12時を指している時刻でその動きを止めていた。
家に穴が開いているためか、風が吹き込み埃が積もっている感じは少なかった。
「……こりゃ相当ひどいな。本当何十年前に出てったきり戻ってこなかったんだか。物を見るに戻ってくるつもりはあったんだろうが必要なものだけ運び出したのか?
引っ越しする際いらないものは置いといたんだろうけど、逆に物が残ってるぶん時間の経過が悲惨なものに思えるなぁ。これどうにかするの無理だろ? 完全に壊して一から立て直しが必要じゃないか」
玄関の惨状に、将一は手直しするのを早々に諦めた。これは立て直しすしかないと。
とりあえず玄関の中の様子はわかったので外に出る。
埃は溜まってなかったが、水気を帯びすぎたのかかび臭く、長い間そこに居たくなかった。
それにしても、どうせ壊れるなら屋根が完全に崩れ落ちて太陽の光を取り込んでくれていた状態のが良かった。雨や雪が溜まっても蒸発しやすかったはずだからと。
「やっぱこの家どうにかするの無理なんじゃないですか神様…。せっかく用意してくれましたけど、土地だけ活用していつか建て替えすることで今は放置するしかないと思いますよこれでは」
家の前でため息をつく将一。
とりあえず家の事は諦めて、周りの草だらけの庭に目を向ける
こちらも正直どうやればいいかと迷う。自分の背丈と同じぐらいの草むらなんてどうやって刈ればいいのだろうかと。それに見える範囲ほぼすべてが草ばっかりなのだ。
人の手が数十年はいらなければこうもなるのかと、自然の力強さに脅威を覚える。
「さて…どうしよう? 刈り取ったにしてもこれだけの草の量をどこに置いとけばいいんだ? いや…草自体はその辺放置してカラカラになるまで乾かしてればいいけど、やっぱ問題はどうやって刈り取るかだよな。人の手で刈ってたら終わるの何時になるんだか」
その辺の草をひとつかみ分手に取ると引っ張ってみる。ここまで育っているからだろう、根もそれなりに深いのかびくともしない。
しょうがないので草1本だけ力を入れて引っ張ってみる。やはり根が相当深いのか、それなりに力を入れても1本すらすぐには抜けない。
しばらく草と格闘してようやく1本が抜けた。想像通り細い根が網のように広がりくっついていた。
「はぁ…はぁ…、また無駄に汗かいてしまった。1本抜くのにこれって冗談じゃないな。こっちも土掘り起こしてどうにかなるレベルじゃないか。とてもじゃないが重機いるだろうこれも」
抜いた草を持って地面に座り込む。神様が用意してくれた土地だが、こうも手直しするのに大変なんじゃすっぱり諦めたほうがいいのではないかとさえ思えてくる。
「まったく、転生してやることが生活空間を整えることだなんて、これじゃ引っ越しやってるのと変わりないじゃないか。規模が違いすぎるけども…。お隣さんに挨拶したり、市に手続きとか必要ないだけまだましなのか? そもそもお隣さんがどこにいるのかもわからなければここが地球のどこかってのも知らないけど」
どうにもやることが大きすぎて気が滅入ってきている。住居は諦めて、この森から出て町でアパートでも借りる申請したほうが手っ取り早いんだろうなと。
「ああー! たくっ、もう! こんなリフォーム計画やったことないから知るかぁー! こんなもん不可能だってぇのー」
そう言って体を地面に横たえる。どうすればいいのかと考えるが、行き詰まり頭が回らなくなってしまった。金もない、重機もない、人手もないんじゃ無理にしか思えてならないと。
こんな物件を用意した神様に文句を言いたくなるが、絶対建て直して住めというわけではない。なので自分が諦めればいいだけなのだと、割り切ればいいのだと。しかしそれはそれで踏ん切りがつかなかった。
仕方がないので神様から貰った封筒でも眺める。
「んん…?」
空にかざして封筒をじっと見ていると一瞬何かが頭を過った。どうにも気になり再びじっと見つめる。『魔法』の封筒を。
「あ…もしかしていけるか? いやでも、そういうことできるのか?」
将一は体を起こして手に持った封筒をよく見る。
手紙に何と書いてあったか。この封筒も特別製と、魔法の封筒だと。封ができれば何枚も入る。
それと自分がここにどうやって来たかを思い出す。女神様に飛ばされて。その時思ったのは何だったか。
「この手紙みたいに入れ物用意して、自分を飛ばしたときの転送魔法…これ使えばこの庭の草を根っこごとどっかやれないか?」
封筒の蓋を開け閉めしながらどうやるかを想像する。
将一が魔法と考えていたのは、よくRPGのゲームとかにある火やら水やらの属性が付いているものだった。
ゲームではふくろという名のいくらでも物が入る空間を『道具』として持ってたり、転送魔法とかも建物の中に陣や泉やらと『設置されている』のがなんとなく当たり前と考えていた。固定概念とは怖いものだ。
仕事で忙しかったとはいえ、テレビをつければゲームやアニメのCMは流れてたし、買い物に出かけて店に入れば2次元のそういう情報を目にする機会は意外と多い。
ゲームも仕事をするまではやってたが、RPG系よりモンスターを武器でハンティングするものだったり、ロボット操縦系だったりと、魔法に関するゲームから離れていたのも思いつかなかった原因だ。
「とりあえずやってみるしかないな。適当にこの抜いた草でいいか」
将一は横になった時に放り投げた草を目の前に置く。そして思う。魔法を使うと。
イメージしたのは女神様と会った時のようなだだっ広い空間だ。あそこなら何を入れていっても溢れかえるようなことも、入らない物もないだろうと。
「うまくいってくれよ…。草よ、転送されろッ!」
イメージをしっかり行うために、口に出して目の前にある草を跳ばす想像をする。
すると…。
「!? よしッ! 消えたっ!」
目の前から一瞬にして消え去る草。その事実に年甲斐もなく本気で喜んだ。
初めて魔法を自分で使い、それの成功を見たのだ。これで心配事の何割かはなんとかできるのではないかと、久しぶりにガッツポーズまでとっていた。