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496話 やっぱり話があったよ




 「んんーっ! あー、よく寝た~。っと……今日の天気はどんなもんだ?」

 ダンジョンから帰ってきた翌日。目が覚めると布団から起き上がって外の様子の確認に向かった。雨だとあんまり出かけたくないからねぇ……。


 「大丈夫そう……かな? 少なくともどんよりとした空模様ではないか」


 相変わらずまた寝過ごしたのか、空はすっかり明るくなっており太陽の光が山の空に青空を映し出していた。太陽の位置的にお昼近くというわけではないようだが。

 天気を確認すると携帯で時間の確認をする。現在は9時半という事だ。活動をするには早いのか遅いのかどっちとも言えない時間だな。探索者感覚で言うのであれば遅いのだが。

 とはいえ、そこまで寝すぎたというわけでもないとホッと溜息を吐く。ダンジョンから帰ってきた翌日と考えれば多少遅くとも問題はないだろう。


 洗顔やら歯磨きを簡単に済ませると朝食を取る事なく出かける準備を行う。これから個人倉庫の近くにあるシャワー室へと寄ってさも泊まりましたという姿を演技する必要があった。朝食は食堂で食べればいいしな。

 最低限の準備を終わらせると出かける用意をして個人倉庫へと飛ぶ。結構この瞬間はドキドキするんだよなぁ。


 個人倉庫の部屋から適当に着替えの入った荷物を持って外へと向かう。

 朝からここを利用している人達とすれ違ったのだが誰も自分の姿に疑問を感じている人はいないようだ。むしろ自分と同じく手荷物を片手にあくびをしてる人達も見かけた。あの人達も個人倉庫に泊まり組みかねぇ?

 個人倉庫での1泊は多少演技が必要だがこの程度であればどうという事は無い。自宅に帰ってゆっくりしていられることを考えればそう惜しむ手間でもないだろう。


 そしてやはり自分と同じ目的の人達だったらしく、個人倉庫を出てシャワーのある建物へ入ると目的を済ませる。持ってきた新しい服に着替えると準備完了だ。


 「さてと、それじゃあ食堂で朝食でも食べますかね」


 朝シャンも浴びてさっぱりしたところで食堂へと向かう。個人倉庫に泊まるとこの流れが当たり前になりそうだな。

 食堂を見回すとそこそこの混み様といった所だ。自分と同じように個人倉庫へ泊まった人って意外と多いのかね?


 簡単にオニギリと味噌汁のセットを頼むとカウンター席に座って呼ばれるのを待つ。そして暇つぶしも兼ねて周囲の話に耳を傾けていると気になる言葉が聞こえて来た。


 「3層攻略終了宣言がもう出たのか? って事は、帰って来たPTはやっぱり残っていた2つの広場の状況を知っていたって事か。寝てる間に終了宣言出されてたんだなぁ……」

 携帯を弄って管理部のHPを検索する。すると、お知らせの覧が更新されており、3層攻略終了! と赤字で表記されていた。間違いないらしいな。


 「後で受付に行って聞いてみるかな。というより、攻略状況のお知らせはロビーに張り出されてるんだっけか。そっち見た方が早いか」


 今日の用事を済ませる前にそちらを見ておこうと、先にロビーへ寄る事にする。しかしこれで本当に3回目の攻略は無くなっちゃったんだな……。

 1日目から参加してない分ずいぶんとあっさり終わってしまったように感じた。4層や5層もこんな感じで2回の探索で片が付いてしまうんだろうかね? 

 

 「まぁ、早く終わるに越した事は無いよな。他のダンジョン街からそれだけ探索者が来たってのが予想外だったって事か……」

 探索する人手がこうも増えるとは管理部も思っていなかったのだろう。中堅クラスから上位の探索者が増えたとなれば早く終わるのも当然と言えば当然だな。


 「今どれぐらいの探索者がこのダンジョン街に来てるんだろうな? どんどん増えてるんだとしたら攻略速度だってもっと上がるか? 1回目の攻略を終えて戻って来た段階で後もうちょいで終了とかになってても驚かんわ」


 そんな可能性も人が増えているのであればなくはないはずだ。

 外から来た探索者の人達は1層からだとしても攻略済みの所はマジックアイテムを求める探索者達がモンスターも処理している。障害がほとんどなく、戦闘もボス部屋のみとなれば上がってくるのだってそう時間はかからんだろう。 

 

 4層の攻略はどうなるんだろうなぁ……と、そんな事を考える。またもや未攻略広場を求めて移動ばっかりなんじゃないのか?

 

 「人手が増えればそれもあり得るよな。1日目は広場を巡る間隔も2日目程じゃないから運搬班と護衛班は残ってたりしそうだけども」

 まだ情報が貰えるだけマシだろうか? 少なくとも広場に着いたらスライムがすべて消化済みでしたよりはいいな。 


 「お待たせしましたー。オニギリと味噌汁のセットになります」

 「あ、どうも。これ番号札です」


 そんな事を考えていると厨房から自分の頼んだ料理が渡された。呼び札を渡して皿を受け取る。

 料理も届いた事だし考えるのをやめて朝食を頂くことにする。中身は森林鮭の身とイクラだ。パリッとした海苔も一度炙られているのか良い磯の香りを放っていた。


 「まぁ、なるようになれとしか言えんな。自分としては早い所終息してくれればそれでいいし」

 そう思いながらオニギリへとかぶりつく。なんにせよ落ち着いてくれるのが一番だろうしね。


 「攻略が終わったら今度はその人達がマジックアイテム探しをするとどのみち人は残ったままなんだろうけど。少なくとも今みたいな攻略班とか運搬班といった大規模な探索は終わるか」


 管理部からすると忙しさは少し落ち着くがその分素材の搬出量も減るわけだ。一概に今の状況が悪いとは言えないか?

 初心者探索者(ルーキー)が活動をする半分、3層までは攻略を終えたわけだ。例の考えまで残り1層となったが果たしてどうなるのやら。


 オニギリを食べながら残りの2層について考える。まぁ、この辺りは自分が気にしても仕方ないが。

 一探索者の自分としては残りの攻略に備えるだけだ。とりあえずは今日の用事をしっかりと終わらせるとしようかね。





 「石田さん、こっちです」

 管理部の入り口で待っているとそう声がかかった。手をあげながらこちらに近づいてくる相手に自分も手を上げて答える。


 「おはようございます、浜田さん。お仕事中に済みません」

 「いえいえ、最初から約束はしていましたので」

 管理部の入り口前で待ち合わせという事で、連絡を取っていた浜田さんと無事合流をする。これから駒を返しに貰いに行くわけだけども……。

 

 「広場の向かいの建物なのでそう遠くはありません。それでは行きましょうか」

 「広場の向かいって言うと……あれですか?」


 軍のエンブレムが飾られたビルを見ながらそう答える。向かう場所はどうやらあそこのようだ。

 結構目立つしあっちで待ち合わせでも良かった気がするな……。


 「電話を貰って準備はしてありますのでそうお時間はかからないはずです」

 「無事に戻ってくるようでホッとしてますよ……」


 目的のビルに向かいながら浜田さんとそんな雑談を交わす。駒は浜田さん達の上官が預かっているとの事だ。

 浜田さんと合流する前にロビーで3層攻略に関して確認は終えていた。その事についてなどを話しながら広場を横断していく。


 「昨日はダンジョンから帰ってきたら打ち上げでして。お酒を飲んでいたのもあってか発表を聞く前に寝てしまいまして」

 「広田から聞きましたよ、焼肉屋で偶然鉢合わせをされたそうで。二日酔いとかは大丈夫ですか?」

 「ええ、一応加減して飲んでいましたからね。その後2次会3次会に行った人達は今頃ダウンしているんでしょうねぇ……」

 「遅くに発表があった所為か、そこで知った人達が夜通し飲んでいたそうですから。石田さんのお知り合いの方々もそんな感じかもしれませんね」

 「塚田さん達なら朝までコースなんだろうなぁ……後で電話して確認でもしてみようかな?」

 「寝かせておいてあげた方が良いかもしれませんけどね。さて、着きましたよ」

 

 そう言われてビルを見上げる。意外と大きい建物だな……。

 入り口には守衛代わりに軍の人が立っていた。その人達に浜田さんが近づき敬礼をする。


 「浜田准尉であります。探索者の方をお連れしてまいりました」

 「お疲れ様です。お連れの方はそちらですね。タグの確認をさせていただいてよろしいでしょうか?」

 「あ、はい」

 タグの提出を求められたのですぐさま腰に付けていたタグを渡した。


 「確認出来ました。こちらお返しいたします」

 「どうも」

 タグの写真を撮るとそれで返却された。今のでいいのか。


 「それでは石田さん、自分の後に付いてきてください」

 「わかりました」


 これで入っても大丈夫との事で、浜田さんの後に続いてビルの中へと入っていく。

 ぱっと見た所、役所の受付みたいな感じで特にこれと言って物珍しさは見当たらなかった。タグの提出をすれば結構普通に入って来ることが出来るらしい。

 既に要件は伝えられているからか、浜田さんが名前を告げるとそのまま奥へすんなり通ることが出来た。受付に居る探索者の人達からの視線が背に刺さっているような気が……。


 しばらく進むと1つの部屋に案内された。部屋に名前は無し。接客用の部屋だろうか?


 「徳田二佐、石田さんをお連れいたしました」

 「入れ」

 「失礼します」

 浜田さんがノックをした後、要件を告げて入室が許可された。浜田さんは扉を開けると一度敬礼をして部屋の中へ入っていく。続けて入っていいんだよな?


 「失礼します……」

 そう口にしながら自分も部屋の中へと入った。机と椅子が置いてあるぐらいで小会議室といった雰囲気の部屋だ。


 「初めまして、徳田と言います。石田さんですな?」

 「はい。初めまして、石田と言います」

 「お話は浜田准尉から聞いております。まぁ……今回の駒の事に限った話ではありませんが」

 「浜田さんには初探索の際サポートをして頂きましたのでそちらの報告とかでしょうか?」

 「そうなりますな」

 どうやら例の腕輪の事なんかも徳田さんは聞いているらしい。その事を言ってこないのはもう決まった事だからかな?


 「今回は私共に預けて下さった駒の返却という事でしたな。

 浜田准尉、これを石田さんに渡してくれ」

 「はっ、失礼します」

 そう言って徳田さんは浜田さんに小袋を渡すとこちらまで運ぶよう指示をした。しっかりと受け取った浜田さんが自分の隣にやってくると小袋を手渡してきた。


 「ご確認ください」

 「はい」

 袋の口空けて中の物を取り出す。すると駒が1つ手の中へと落ちて来た。


 「確かに駒が1つ入ってます」

 「そちらカーペットの所に実際に出してご確認なさっていただいて結構です」


 そう言うと自分が座っている椅子の隣の床に敷いてあるカーペットの部分を指差した。床を強化してあるのかね?

 確かに確認をするには出してみた方が分かりやすい。徳田さんに一言断るとカーペットが敷いてあるところに駒を当ててゴーレムに出るよう念じた。

 すると見た事のあるゴーレムが1体部屋の中へと出現した。


 「確かに私のゴーレムとこまで間違いないかと」

 「ですな……一応私共も出せないかどうか試してみたのですがうんともすんとも行きませんで。やはり登録制かぁ……」

 

 徳田さんは難しい顔をしながら小さく唸り始めた。出せるかどうかのテストもそりゃしてただろうな。

 確認も済んだので再びゴーレムを駒へと仕舞う。そして席へと着いた。


 「ご用件は以上でよろしかったですな?」

 「はい」

 「ではこちらの用紙にサインをお願いします」


 そう言って以前貸し出した時の用紙をこちらの目の前に差し出す浜田さん。名前を書けばそれでいいらしい。

 そしてササッと名前を書いていると徳田さんから声がかかった。


 「実は昨夜、室田二尉という者から簡易報告を受けましてな。ダンジョンの内部で石田さんと会ったようで。お心当たりはございますかな?」


 それ来たっ! と、このままどうぞお帰り下さいとはならない気がしてサインをしていた手が止まってしまった。

 報告書を読めばそれでいいはずの事なのに自分に話を振って来た。これはこれからダンジョン内で会ったことも話す事になるんだろうなぁ……と、あまり長くならない事を祈りながら口を開いた。 





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