487話 ダンジョン3層(PT) 行先の相談
「ようこそ地底湖へ。自分はこの部隊を任されている室田二尉です」
「中堅クラスの武田という。まずはお互いこうして会えたことを喜ぶべきかな」
「ですかね。まぁ、皆さんも今到着されたばかりです。とりあえず休憩されてはいかがでしょうか?」
「そうさせてもらうか」
武田さんはそう言うと各自に休憩の指示を出した。話は武田さんに任せるとしてゆっくりさせてもらうとするか。
リュックを地面に下ろすと続けて防具を外していく。出発まで少し時間がありそうだし。
あれからしばらくして、念話のあった地底湖へ着くとそんなやり取りの後まずは休憩を取る事になった。情報交換の内容はここから聞こえる範囲で聞かせてもらえばいいか。
「単刀直入に聞きたいのだが……この付近から帰還陣までの間に未攻略広場、もしくは未攻略の地底湖の数は把握しているのか?」
「地図を見比べながらお互いの情報をすり合わせましょうか。その方が一目瞭然ですしね」
室田さんが用意していた地図を武田さんの前へと置く。土の能力者なのか即席でテーブルと椅子を作り話し合いの場を設けていた。
武田さんも荷物から地図を取り出すと、お互いの地図を寄せて見比べを始めた。果たして未攻略の広場や地底湖はまだ残っているんだろうか?
「俺達はこの端からこう通って今ここに来てるわけだ。ココとココは俺達が攻略した場所だな。それでこの通って来た所は全部攻略済みになっててな……」
「端まで行かれたましたか、お疲れ様です。
それで地図を見ていただくとわかるのですが……ココとこの広場は攻略済みです。この地底湖から帰還陣までの最短ルート付近の未攻略広場は既に攻略が終わっていますね」
「やっぱり攻略済みかぁ……」
聞こえてきた内容的にどうやら未攻略広場は今から行くっルート付近にはもうないらしい。まぁ、帰還陣の近くだし最初から望み薄だったんだけどね。どうやら広場の攻略はここで終わりのようだ。
皆も休みながらその話を聞いていたのか短く溜息を吐いた。もう少し早く移動していればせめてこの地底湖の最後辺りには間に合っていたかもしれない。
休憩所を出た後に遭遇したダブルスコーピオンが居なければ何とかなっていたって事か。
2人の話の続きだと今から遠くの未攻略広場へ行くとしたら今日中に帰るのがかなり遅れるとの事だ。室田さん達はここを出発したら帰還陣へと向かいつつ通路のモンスター探しを予定していたらしい。
この先広場へと寄らないのであれば戦う相手は通路のモンスターのみとなる。夕方くらいを目途としてそれまでは通路の索敵を行うとの事だった。
「それなら俺達もそうするとするか? そっちとは反対方向に向かって進めばより広範囲を探索出来るからな。同じように考えてるPTもこの辺りならばいるだろうし」
「そうして頂けると助かりますね。通路に後どれぐらいモンスターが残っているかはさっぱりなので」
「広場に行ってもどうしようもないのであればそうする以外選択肢は無いからな。最短距離を通って帰るのも味気ないんでな」
「帰還をした際の手土産にもなりますからね」
後は帰還をするだけとわかっているのであれば素材の持ち帰りをすることが出来る。今度からは素材の事も考えて戦闘しないとだな。
「この地底湖を抜けると丁度2手に別れているようでして。武田さん達にはその反対側を進んでいただけると助かります」
「地底湖の先かぁ……横断するのはだいぶ久しぶりな気がするな」
地図を見る限りだと、確かに室田さんが言うように出口の先が3方向へと別れているのが見て取れた。
1つは帰還陣へと近づく道、そして他の2つの通路は反対に向かって伸びているようだ。
室田さん達は右を行くそうなので自分達には左の通路を周って探索してほしいとの事。武田さんもそれには問題ないと言って頷いた。
「夕飯前に帰還するようにするか。他のPTとそこでまた合流が出来れば探索する範囲も狭まり帰還の時間は早くなるかもしれんがな」
「それはそれでいい事ですけどね。私達も3日目なので早く帰って空を拝みたいものですよ」
「土砂降りでないといいがな」
「まぁ、そうですね。しかしその雨ですら洞窟エリアだと恋しく思えますよ。
地下は閉鎖空間過ぎて気が参ります……」
そう口にしながら、洞窟エリアではまだ広いはずの地底湖の天井を見上げる室田さん。通路よりは確かにマシだけどやはり空が恋しくなるね。
早く地上に帰りたいものだとお互いに早めの帰還を望む。
たとえ雲が空を覆い土砂降りの雨が降っていようと、この岩ばかりの殺風景な景色よりは何倍も良いものに思えて仕方がなかった……。
「どうやら室田二尉達の話し合いは一区切りついたようですね」
「んん?」
そう言って横から声がかかった。PTメンバーの誰でもないと思いながらそちらへと顔を向ける。どこか聞いた事のある声な気がするのだが……。
「ええっ!? 広田さんじゃないですか!? どうしてここに!?」
「お久しぶりです、石田さん」
横からかかってきた声の主は広田さんのものだった。広田さんいつからそこに居たんだ……。
「石田さん、この軍人さんと知り合いなのか?」
そう言って福田さんが自分に向かって聞いてきた。武田さんの方の話も重要な事は聞けたとリラックスモード中だ。
「ええ。私が初探索の時にお世話になった軍のサポート係の……」
「ああ! 3人がサポートで付いてきてくれたって言うあの。って事は……石田さんの初探索仲間って事か」
そう言って頷きを見せる福田さん。この話はなんだかんだ話してるから思い出したようだ。
「そう言えば自分達が石田さんと初めて会ったのもその初探索の時でしたっけ。確かにあの時見かけたような記憶が……」
「んー……どうだったかな……。俺はあんまり覚えてないが……」
「おっさんはあの時焼いた感知蟹に夢中だったからなぁ……そりゃ覚えてないでしょうよ。俺は覚えてるぜ。って言っても、これが2回目だから結構おぼろげなんだけどね?」
「あんた達ねぇ……」
「男共がすみませーん」
初探索時に広田さん達を見たはずの米田さん達がそう口にした。確かあの時は浜田さんが米田さんとばかり話していたから仕方ないっちゃないか。
「いえ、1度ダンジョン内で情報を聞くために顔を合わせた程度ですので。覚えていらっしゃらないのも無理はないでしょう」
「浜田さんがメインで話しをしていましたからね。焼き蟹をした印象で自分達の事は薄れてしまったんでしょう。前田さんも次に会った時は自分の名前より蟹を食べた時の話が先に来てましたし」
「いやー……あの時はなかなかパッと出てこなかったのよ。ごめんごめん」
そう言って前田さんがこちらに向かって手を合わせる。まぁ、特に気にしてるとかではないけどね。
「広田准尉、知り合いか?」
武田さんと話をしていた室田さんがそう言ってこちらに声を掛けて来た。部下が自分から話しかけに行ったので気になっていたのだろうか?
「はい。探索のサポート要員として一緒に洞窟エリアの1層へと行った事がありまして」
「なるほどな。ご利用ありがとうございますといった所か?」
「ははは……初探索でさっぱりだったこともあって助かりました。広田さん、今は室田さんのこの部隊に配属されてたんですね」
「ちょっと部隊の人員変更がありまして」
広田さんが苦笑しながらそう口にする。これは駒のあの影響でかな?
これはチャンスと、丁度知り合いもいるからと思い聞いてみることにした。浜田さんが知っているのであれば広田さんももしかしたら聞いているかもしれないしな。
武田さんに目配せをし、駒のケースをチラリと見せると無言で頷いた。任せたという事らしい。
「広田さん、実は少しお聞きしたいことが……」
「なんでしょうか?」
「実はこれの事なんですが……」
そう言って、駒の入っているケースを取り出し蓋を開けた。中身の駒を見ればその反応が確認できるはずだと。
そして案の定、ケースに入っている駒を見ると目を大きく開きマジマジと見入っていた。これは知ってるの確定だな。
「浜田さんがこれの事でつい先日私の所に来られましてね。話をしていると結構な大事になったようでして」
「これが例の……室田二尉、少しよろしいでしょうか?」
「どうした?」
広田さんが少し困り顔して室田さんへと声を掛けた。上官の判断を仰ぐ案件という事か?
武田さんの所から立ち上がるとこちらへ寄ってきた。そして広田さんが見ていた物を自分も目にすると目を見開いた。
「これは……チェスの駒……。という事はこれがそうなのか?」
「浜田准尉から軍の方でもこれを発見したというのを聞いていまして。軍内部の情報は良く知らないのであれなのですが……室田さんもこれについては知っておられるのですよね? まぁ、その反応で一発ですけども」
「……話には聞いておりますね。私達尉官より上方々が忙しく予定を変更した原因らしいので。現物は今初めて目にしましたが。形がどんなものかは一応知っております」
「とんだ酔狂な人物でもなければダンジョンにそんなものは持ち込まないでしょう。これを見てすぐに見当がつきましたね」
「どんなものかっていうのは軍内部だと全体に知らされていると?」
そうであればここにいる軍人の人達全員がこの話を聞いて既に察しているような気がする。現場指揮官の室田さんがここにいるから注目しているってだけではないよな。
「目も耳も広範囲に伸ばしたほうが見つけやすいですからね。
誰が持っているのか、誰がこれの話をしていたのかといった情報は現在大変重要です。実際に物を見せていただいても構いませんか?」
「ええ、どうぞ」
「では……」
室田さんはそう言って丁寧に1つの駒を手に取った。正直どれだけ見たとしても見た目はチェスのポーンの駒そのものだからね。
鑑定して効果を見るまではなんでこれが……って意味不明だろうな。
「確かにチェスの駒そっくりだな。これ、中身が入ってるんですよね?」
「そうなりますね。広場で見掛けた人は結構いるそうですけどアレが入ってます」
「アレがこいつに……実際の効果は見たことが無いので何とも不思議な感じだな……」
室田さんと広田さんが駒を手に取ってじっくりと観察していた。
さて……そうなると本題だが……。
「武田さん、これから私達ってこの地底湖を渡らないといけないんですよね?」
「あー……そうなるな。飛行が出来る組は楽そうでいいな……」
武田さんは先程の話を思い出してそう答える。軍の人達も最初から渡る気でいたらしいしな。
「時間はちょっとかかりますけどこれ使いますか? 濡れずに渡る方が良いですよね?」
「当然だな。見せるのか?」
「ここの地底湖なら行けなくはなさそうだな……」
武田さん達はすぐに気が付いたようだ。隠していたのは駒であって中身はそれ程でもないしね。
「これを使う? 中に入ってるのってあれなんだよな?」
「確かにモンスターは既にいないから時間はあまり気にしないが……」
室田さんと広田さんの2人は駒を手に首をかしげていた。広場でも見たあのゴーレムを使うと思っているのだろうな。
「休憩が終わったら出します。まぁ、こいつの性能を見てもらうという事で」
まだ効果を実際に見たことが無いというのであればここで見てもらい、その情報を持ち帰ってもらおうと画策する。
既に登録済みの駒を探索者から取り上げるだけのメリットがあるのか、強制買取をやめるという考えの足しにしてもらえればいいと気持ちを込めて。




