486話 ダンジョン3層(PT) 初遭遇だ
目の前で最後のモンスターが動きを止め命を失った。出発そうそうだったけどこれにて戦闘終了だ。
「手早く解体して先へと行くぞ。白田達は水の用意を頼む」
「了解した」
自分達水の能力者は解体をサポートすることになった。解体だと水は必要不可欠だよな。
「石田さん、昨日使ってたエアナイフを借りてもいいか? 後で玄田にでも補充させよう」
「こっちはOKとも何とも言ってないんだけどなぁ……まぁ、ナイフの処理を考えたら使える物は使った方がいいか。
石田さん、補充して返すから借りてもいいかな?」
「ええ、どうぞ」
織田さんと玄田さんの2人からそう聞かれたのでエアナイフを手渡しながらそう答える。砥ぐ必要も無いから楽だよなぁ……。
3層攻略3日目。マジックアイテムの獲得をかけて勝負をした次の日の朝。休憩所を出発してそこまで時間も経ってない内にモンスターの群れを発見した。
今回発見したのはダブルスコーピオンという尻尾が2本生えている人間サイズの大きさをした蠍のモンスターだった。それが15匹。まぁ、皆からすればそう大した相手でもなかったみたいだが。
とくに何事も無く殲滅して今解体中だ。自分も参加したけど確かにこれと言って問題の無かった戦闘だった。
「成りこそ人間と同じ大きさだが基本は尻尾が増えた蠍だ。遠距離攻撃も持っていないしそう苦戦する相手ではないな」
体液を洗い流しながら特に問題もなく終わりましたねと白田さんに声掛けした所そんな回答が返ってきた。確かに終始遠距離で片が付いたな。
「防壁を張って遠距離で倒すのが手っ取り早いわね。攻撃手段は両手のハサミと2本の尻尾だけだし」
他の解体をサポートしている松田さんからダブルスコーピオンの倒し方を教えてもらう。近寄りさえしなければどうとでもなるモンスターの1種という事か。
先ほどの戦闘も今言った通りに事が進みダブルスコーピオンを倒し終わった。
そして遠距離ならこいつの出番と、昨日手に入れた属性付きボウガンを早速試し打ちさせてもらった。
「ボウガンもしっかりと当たっていたな。どうだ、使い心地は?」
「結構いいですね。今まで武器と言えばナイフとか片手剣とかマジックブレードのような近接主体の物ばかりだったので新鮮です。能力を使用しての遠距離攻撃とはなにか違うと言いますか……」
田野倉さんの問いに対しそう使用感を口にした。
「手で持って直接狙うからだろうな。能力の方はイメージを思い描いて相手に飛ばす分こちらの方が狙いは正確だろうが」
「……武器を手にすると狙いがより定まります」
大地の杖の先端をダブルスコーピオンの死体に向けながらそう口にする理香さん。確かに狙いがよりはっきりするな。
「イメージを思い浮かべてここに当たれというのと目で見て狙った所に当てるのはまた感覚が別だろうからな。認識のしやすさという点では武器で狙いをつける方がしっくりくるんだと思うぞ」
「能力を使用際も基本相手に放つ系は腕なり指を向けてから撃つことが多いな。やっぱりそうした方が狙うっていうイメージがしやすいんだよね」
「武器はその腕や指を向けるっていう代わりね。それに引き金を引けば発射されるっていうのもわかりやすいし。能力だと撃ったっていう実感が弱いのよ」
「……トリガーのある武器はそれが脳にしっかりと伝わるんです」
「そう言う事ですか」
白田さん達の言葉を聞いて頷く。確かに引き金を引くことで攻撃したといつもより強く実感出来ていた気がする。
能力を使用する時は「行けっ!」とか「はぁっ!」って声を出すことで発射のタイミングを計ってたから指1本がそれ等の代わりだ。
指を曲げるというたったそれだけの行為だがその行動自体が脳から直に出された命令だ。発した声を聞いて撃ったと認識するよりもよりダイレクトに伝わっている分受け取る感覚も大きいって事か。
武器を持つことで攻撃をしたという実感が増す……。今までと違ったのはそういう事だったか。
「これは良い物を入手しましたね」
「喜んでいるのであれば何より。私も昨日石田さんにそいつを譲れてよかったという物だ」
「譲れたっていうのかあれは……?」
「手に入れる気満々だったと思うけどね。それに結果で見ると福田さん共々下の順位だったじゃない」
「……石田さんが勝ち取ったが正しいです」
そう言って白田さんに3人からの視線が向けられた。確かに譲ったというには思いっきり勝ちに来てた感じだったしな……。
うっ……っと、それ等の視線を受けて白田さんが口ごもる。周りで解体をしているメンバーからも、あれを譲ったというのは違うだろうとつっこみが入った。
「やれやれ……潔く負けを認める物だぞ。まぁ、そういう俺もあれは結構予想外な展開だったがな。最高値が2回連続で出るなんて普通思わんだろう……」
「私としては武田さんの11も似たようなものだがな……」
「2桁の数字での競い合いだったしなぁ……」
武田さん達敗者組3人がそう言って軽く溜息を吐いた。あの数字であればほぼ勝つと思っていたわけだ。
「有難く有効活用せていただきますよ」
「あたしの防壁もなかなか様になってたでしょ」
そう言って武田さん達に苦笑しつつ貰った礼を述べる。それと大地の杖は宮田さんが持つことになったらしい。役割分担を考えれば妥当だろうか。
そんな事を話しながらダブルスコーピオンの解体を終わらせていく。こちらも魔石のみを取り出せばそれで終了だ。素材は毒液が結構使えるらしいけど丁寧な解体は今回やらないからね。
取り出した魔石を洗ってすぐさま荷物へと入れる。解体が終われば移動再開だ。
今日中には帰還陣へと辿り着き地上へ帰る事になっている。皆で攻略済みの広場を確認して残りがあるかどうかを調べるわけだ。
しかしこれだけ未攻略広場に辿り着かないんだからもしかするともうなくなってたりして……2回目の探索で全ての広場を攻略したことになるわけだ。
帰還陣へ戻りながら今こうして歩いているわけだけど、未だにも攻略広場が残っているかはなんとも言えない状況だった。帰還陣へ近づくにつれ攻略済みである確率は高いのだから。武田さん達も言葉にはしないがおそらく同じことを考えているんじゃなかろうか?
せめて後1カ所……。皆はそんな気持ちを抱きながら帰還陣への通路を歩いて行った。
「リーダー、念話が通じた」
「どこだっ!?」
通路を歩いていると松田さんがそう声を発した。念話持ちの人達が続けて自分達も受信したと頷く。探知が使える人達は索敵の範囲を広げてどこからかを調べ始めた。
武田さんはやっと他の探索者と合流出来そうだと思ったのか声にも力が入っていた
「あー……期待してる所あれだけど、もう手遅れっぽいわよ?」
「手遅れ?」
「戦闘しゅーりょー、攻略済みだってさ。運搬班と護衛班が素材解体中らしいよ」
「ああ……手遅れってそういう……」
PTが壊滅したとか、今にも壊滅しそうとかそういう意味でなかったのは喜ばしい事だ。しかしまたもや未攻略広場が消えたという事になるが。
「場所はこの先の地底湖みたい。軍の人達が今こっちに事情を説明中よ」
「地底湖か……」
地図を広げて場所を確認する。もう少し歩けば確かに地底湖だ。
「軍も攻略に参加していたか。まぁ、上官が混じってないだけで参加自体は1日目から出来たと言えば出来てたが」
「現場指揮官は室田二尉だって。佐官クラスじゃないって事は駒は持たせられて無さそうね」
「本当についさっき戦闘終了したみたいだよ。今自分達は休憩中だってさ」
松田さんと田山さんが皆にも聞こえるよう念話の内容を口に出す。終わったばっかりって……。
「タイミングとしては最悪だなぁ……」
「ねー。終わってから来たんじゃ討伐班の仕事は無いわ」
近くに居た宮田さんがこちらの呟きに反応しそう答える。討伐班としては行ってもやるが事ないな。
「だけど情報交換は出来るからねぇ。1日目からいるんであれば情報は持ってそうじゃん?」
「まぁ、今更な感じがしなくもないがなぁ……」
田淵さんと塚田さんがそう言って声を掛けて来た。確かに情報交換は出来そうだ。
それとあまり意味はないかもしれないが軍の人達が討伐班として加わることになる。攻略すべき広場や地底湖がねぇ……。
武田さんが情報交換も兼ねて今からそちらへ向かうとあちらに伝える。行き先が攻略済みの地底湖へと変更された。
現場指揮官が二尉という事は駒は所持していない事になる。出来ればあれからどうなったのか興味があったのだが今回の合流ではわからないらしいね。そもそも本当に参加してるのだろうか? 確実ではないからなぁ。
もしかしたら実戦の投入は少し見送られていたりするかもしれない。実戦テストは軍も望んでいる事だろうから参加してるとは思うのだけど。
それと今から行く先でのゴーレムの扱いもどうしようかと少し悩む事になった。駒の事って軍全体に通達されているんだろうか? 浜田さん達准尉は知っているっぽいけどあれは自分に聞くためだからまた別かなぁ?
そんなことを悩みながら通路を歩いて行く。武田さん達にも聞いてみたがそれはわからんなぁ……との事。そもそも聞いていたら自分が話した時に既に知っていた事になるか。
駒についてどうするかと話し合いながら地底湖へ向かう。佐官の人達が居れば特に悩むことも無いんだろうけども……果たして軍内部ではいったいどういう風に伝わっている事やら。




